シリーズ「その数字、誰の話?」 ― 公的統計を47都道府県で確かめる
★① 47都道府県ランキング(本記事)
② 何年働けば「2000万円」が要らなくなるのか(近日公開)
③ 「地方は安い」は九州だけだった(近日公開)
④ このシミュレーターの作り方(近日公開)
⑤ 1人なのに2人より高い県(近日公開)
⑥ 持ち家か賃貸か、フェアに比べる(近日公開)
⑦ 倍率1位と金額1位は違う(近日公開)
⑧ 「2000万円」が当てはまるのは7.3%(近日公開)
⑨ 安い県ほど介護費の割合が高い(近日公開)
⑩ 年金の地域差(近日公開)
TL;DR
- 公的統計から、65歳から平均余命までに必要な老後資金を47都道府県ぶん計算しました
- 夫婦・持ち家だと、いちばん必要なのは群馬県の2,793万円。東京は4位(2,488万円)でした
- ところが条件を変えると、1位の群馬が37位に落ち、最下位の沖縄が2位に上がります。ランキングがそっくり裏返りました
- 県の差は3.5倍。でも同じ沖縄県の中だけで9.2倍動きます。地域差より条件差のほうが大きい、というのがこの計算のいちばんの結論です
- 47県ぶんの再計算は全部ブラウザ上のJavaScriptでやっています。 データ埋め込みの静的サイト・フレームワークなし・GitHub Pages
- この記事の数字はすべて
data.jsから機械生成しました。手打ちはゼロです
先に自分の県で見たい方はこちらからどうぞ 👉 あなたの老後資金、HOW MUCH?
この記事に出てくる条件は、すべてリンクになっています。クリックするとその条件でツールが開くので、数字が本当にそうなるかは手元で確かめてください。
何を、どういう前提で計算したか
「老後2,000万円」は、全国・全世帯を平均した1点です。でも実際に必要な額は、住む場所や世帯構成や持ち家かどうかで大きく動くはずです。それが知りたくて、47都道府県ぶん計算し直しました。
計算式そのものは単純です。
月の不足 = 月の生活費 − 月の年金
不足の累計 = max(月の不足, 0) × (老後年数 + 長生き年数) × 12
必要額 = 不足の累計 + 生活の予備費 + 健康・介護の予備費
使ったデータと前提はこうです。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 月の生活費 | 県別の10大費目(食料・住居・光熱水道・家具・被服・保健医療・交通通信・教養娯楽・その他) | 家計調査2023/全国家計構造調査2024(e-Stat) |
| 月の年金 | 県別の想定年金額(地域差反映) | 公的統計をもとに算出 |
| 老後年数 | 65歳時点の平均余命(男性19.5年/女性24.4年) | 簡易生命表2023 |
| 賃貸時の家賃 | 県別の借家家賃(家賃0円を含まない) | 住宅・土地統計調査2023 |
| 健康・介護の予備費 | 500万円(標準シナリオ)+長生き+2年 | 生命保険文化センター2021をもとに設定 |
| 生活の予備費 | 300万円(大規模リフォーム等の一時費用) | 固定値 |
この記事の表は、条件を次に固定しています。夫婦二人/持ち家/生活スタイルは県平均(実データ)/男性/年金は地域差反映/標準シナリオ。
金融商品の話はしません。「こうすべき」も書きません。条件を変えると数字がどう動くか、それだけを見ます。
結果:47都道府県ランキング
必要額が多い順です。県名をクリックすると、その県の条件でツールが開きます(記事と同じ数字が出ます)。中間の32県は折りたたんであるので、自分の県を探すときは開いてください。
上位10県
| 順位 | 都道府県 | 必要額(持ち家) | 月の生活費 | 月の年金 | 月の不足 | 賃貸なら |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 群馬県 | 2,793万円 | 294,000円 | 216,733円 | 77,267円 | 3,309万円 |
| 2 | 石川県 | 2,779万円 | 307,000円 | 230,298円 | 76,702円 | 3,527万円 |
| 3 | 高知県 | 2,602万円 | 273,000円 | 203,168円 | 69,832円 | 2,602万円 |
| 4 | 東京都 | 2,488万円 | 284,000円 | 218,583円 | 65,417円 | 4,320万円 |
| 5 | 鳥取県 | 2,483万円 | 290,000円 | 224,749円 | 65,251円 | 2,561万円 |
| 6 | 山梨県 | 2,440万円 | 279,000円 | 215,423円 | 63,577円 | 3,317万円 |
| 7 | 秋田県 | 2,397万円 | 263,000円 | 201,087円 | 61,913円 | 3,223万円 |
| 8 | 栃木県 | 2,363万円 | 277,000円 | 216,425円 | 60,575円 | 2,698万円 |
| 9 | 岡山県 | 2,303万円 | 279,000円 | 220,741円 | 58,259円 | 2,845万円 |
| 10 | 千葉県 | 2,269万円 | 286,000円 | 229,065円 | 56,935円 | 3,353万円 |
11位〜42位を開く(32県)― 自分の県はここにあるかもしれません
| 順位 | 都道府県 | 必要額(持ち家) | 月の生活費 | 月の年金 | 月の不足 | 賃貸なら |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 11 | 岐阜県 | 2,224万円 | 270,000円 | 214,806円 | 55,194円 | 3,179万円 |
| 12 | 福島県 | 2,195万円 | 262,000円 | 207,947円 | 54,053円 | 2,994万円 |
| 13 | 茨城県 | 2,189万円 | 285,000円 | 231,146円 | 53,854円 | 3,015万円 |
| 14 | 長野県 | 2,136万円 | 275,000円 | 223,208円 | 51,792円 | 3,091万円 |
| 15 | 奈良県 | 2,134万円 | 278,000円 | 226,291円 | 51,709円 | 3,218万円 |
| 16 | 富山県 | 2,102万円 | 281,000円 | 230,530円 | 50,470円 | 3,160万円 |
| 17 | 静岡県 | 2,090万円 | 282,000円 | 231,994円 | 50,006円 | 3,019万円 |
| 18 | 山形県 | 2,069万円 | 273,000円 | 223,824円 | 49,176円 | 2,765万円 |
| 19 | 愛知県 | 2,067万円 | 270,000円 | 220,895円 | 49,105円 | 3,151万円 |
| 20 | 兵庫県 | 2,033万円 | 271,000円 | 223,208円 | 47,792円 | 3,194万円 |
| 21 | 京都府 | 2,009万円 | 279,000円 | 232,148円 | 46,852円 | 3,015万円 |
| 22 | 新潟県 | 1,932万円 | 267,000円 | 223,131円 | 43,869円 | 3,041万円 |
| 23 | 北海道 | 1,881万円 | 252,000円 | 210,105円 | 41,895円 | 2,552万円 |
| 24 | 岩手県 | 1,862万円 | 275,000円 | 233,844円 | 41,156円 | 2,687万円 |
| 25 | 三重県 | 1,787万円 | 259,000円 | 220,741円 | 38,259円 | 2,509万円 |
| 26 | 埼玉県 | 1,785万円 | 265,000円 | 226,830円 | 38,170円 | 2,843万円 |
| 27 | 福井県 | 1,772万円 | 275,000円 | 237,312円 | 37,688円 | 2,417万円 |
| 28 | 徳島県 | 1,744万円 | 250,000円 | 213,419円 | 36,581円 | 2,750万円 |
| 29 | 神奈川県 | 1,673万円 | 265,000円 | 231,146円 | 33,854円 | 3,170万円 |
| 30 | 宮城県 | 1,618万円 | 253,000円 | 221,281円 | 31,719円 | 2,676万円 |
| 31 | 香川県 | 1,588万円 | 258,000円 | 227,447円 | 30,553円 | 2,620万円 |
| 32 | 滋賀県 | 1,553万円 | 240,000円 | 210,799円 | 29,201円 | 2,714万円 |
| 33 | 大阪府 | 1,450万円 | 236,000円 | 210,799円 | 25,201円 | 2,689万円 |
| 34 | 熊本県 | 1,381万円 | 223,000円 | 200,471円 | 22,529円 | 2,310万円 |
| 35 | 愛媛県 | 1,212万円 | 225,000円 | 209,026円 | 15,974円 | 2,038万円 |
| 36 | 青森県 | 1,180万円 | 222,000円 | 207,253円 | 14,747円 | 2,109万円 |
| 37 | 鹿児島県 | 1,160万円 | 224,000円 | 210,028円 | 13,972円 | 1,496万円 |
| 38 | 広島県 | 1,131万円 | 253,000円 | 240,164円 | 12,836円 | 2,292万円 |
| 39 | 島根県 | 1,038万円 | 246,000円 | 236,773円 | 9,227円 | 1,812万円 |
| 40 | 山口県 | 1,029万円 | 230,000円 | 221,127円 | 8,873円 | 1,829万円 |
| 41 | 佐賀県 | 1,011万円 | 229,000円 | 220,818円 | 8,182円 | 2,043万円 |
| 42 | 福岡県 | 987万円 | 231,000円 | 223,747円 | 7,253円 | 2,019万円 |
下位5県
| 順位 | 都道府県 | 必要額(持ち家) | 月の生活費 | 月の年金 | 月の不足 | 賃貸なら |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 43 | 大分県 | 876万円 | 228,000円 | 225,057円 | 2,943円 | 1,702万円 |
| 44 | 宮崎県 | 866万円 | 224,000円 | 221,435円 | 2,565円 | 1,666万円 |
| 45 | 長崎県 | 819万円 | 216,000円 | 215,269円 | 731円 | 1,644万円 |
| 46 | 和歌山県 | 800万円 | 199,000円 | 212,032円 | 0円 | 1,238万円 |
| 47 | 沖縄県 | 800万円 | 181,000円 | 187,676円 | 0円 | 1,763万円 |
最多の群馬県2,793万円と、最少の800万円で3.5倍。2,000万円を上回るのは21県、下回るのは26県でした。
ただし先に言っておくと、この順位は条件を1つ変えるだけで崩れます。 最下位の沖縄が2位まで飛びます。その話は後半でやります。
なぜ東京が4位なのか
「都会のほうが老後にお金がかかる」という直感が、ここで外れます。分解したら理由がはっきりしました。
まず、東京の月の消費支出は47県中7位です。1位は石川県の305,692円。そもそも最高ではありません。
費目別に、上位の県と並べてみます。
| 費目 | 東京都 | 群馬県 | 石川県 | 高知県 |
|---|---|---|---|---|
| 食料 | 95,000(1位) | 84,000 | 86,000 | 78,000 |
| 住居 | 17,000(17位) | 26,000 | 18,000 | 43,000(1位) |
| 交通・通信 | 28,000(41位) | 59,000 | 62,000 | 36,000 |
| 教育・教養娯楽 | 36,000(2位) | 25,000 | 22,000 | 21,000 |
| その他(交際費等) | 43,000 | 39,000 | 49,000 | 40,000 |
| 合計 | 284,000 | 294,000 | 307,000 | 273,000 |
東京が突出しているのは食料(47県で1位)と教育・教養娯楽(2位)です。ところが交通・通信が41位で、群馬・石川との差が月3万円以上あります。食料と教養娯楽で稼いだ差を、交通・通信の差が食い切ってしまう。これが東京が4位になる理由でした。
さらに持ち家前提だと、東京の住居費は17位(17,000円)にとどまります。結果、月の不足額は東京65,417円に対して群馬77,267円。順位が入れ替わります。
ただし「地方は車社会だから交通費が高い」と単純化はできません。交通・通信費の最高値は京都府の70,000円です。ツール側では交通費が高い県に「車社会」の注記を出しているのですが、この判定から大都市圏を明示的に除外しました。データから文章を生成する処理は、例外を先に潰さないと平気で嘘をつきます。
このランキング、条件を変えると壊れます
ここからが本題です。
上の表は「夫婦・持ち家・県平均の暮らし・男性」という、たった1つの条件での結果でしかありません。条件を賃貸・ゆとりのある暮らし(月36万円)・女性に変えて、同じ47県をもう一度並べ直しました。
| 都道府県 | 持ち家・県平均・男性 | 賃貸・ゆとり・女性 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 沖縄県 | 47位(最下位) | 2位 | +45 |
| 熊本県 | 34位 | 4位 | +30 |
| 滋賀県 | 32位 | 3位 | +29 |
| 青森県 | 36位 | 7位 | +29 |
| 大阪府 | 33位 | 5位 | +28 |
| … | |||
| 群馬県 | 1位 | 37位 | −36 |
| 石川県 | 2位 | 39位 | −37 |
| 高知県 | 3位 | 45位 | −42 |
| 鳥取県 | 5位 | 47位(最下位) | −42 |
1位と最下位が、ほぼそっくり入れ替わりました。
理由はデータから説明できます。3つあります。
生活費が安い県ほど「上げしろ」が大きい。 「ゆとり」を選ぶと、生活費は全国どこでも月36万円に揃います。県平均が18.1万円しかない沖縄は倍近く増えるのに対して、もともと29.4万円ある群馬はほとんど増えません。県平均が安いということは、平均から外れたときの伸びしろが大きいということでもあります。
安い県ほど、年金も薄い。 沖縄の想定年金は187,676円で47県中最低です。生活費が上がった瞬間、不足額が他県より大きく膨らみます。
住居費の置き換わり方が逆向きに効く。 高知の持ち家住居費43,000円は47県最高ですが、家賃も43,093円なのでほぼ同額です。賃貸にしても増えないどころか、「ゆとり」で膨らんだ住居費が実家賃に置き換わって下がります。東京や沖縄はその逆でした。
自分で入れ替えてみる 👉 沖縄・賃貸・ゆとりで開く / 群馬・賃貸・ゆとりで開く
地域差より、条件差のほうが大きい
計算する前、私は「地域差がどれくらいあるか」を知りたいと思っていました。結果はその想定より、もっと身も蓋もないものでした。
47県の幅は、800万円から2,793万円で3.5倍です。これでも十分大きい。
ところが、沖縄県ひとつの中だけで800万円から7,368万円まで動きます。持ち家・県平均・男性なら800万円、賃貸・ゆとり・女性なら7,368万円。同じ県で9.2倍です。
| 何を変えたか | 幅 |
|---|---|
| 住む県を変える(条件は固定) | 800万円 〜 2,793万円(3.5倍) |
| 沖縄県の中で条件を変える | 800万円 〜 7,368万円(9.2倍) |
つまり「老後資金がかかる県ランキング」という表現自体が、条件を書かないと意味を持ちません。冒頭の「東京は4位」も「群馬が1位」も、持ち家・県平均という条件の上でしか成り立たない話です。
そして裏を返せば、どこに住むかより、どう暮らすかのほうが効くということでもあります。移住は簡単ではありませんが、条件のほうはある程度こちら側で選べます。この連載では、その「どの条件がどれだけ効くのか」を1本ずつ確かめていきます。
正直な注意点
数字を出す以上、限界も書いておきます。大事なものを3つだけ。
- 和歌山県・沖縄県の800万円は「床」です。 この2県は県平均の生活費が想定年金を下回るため月の不足が0になり、残るのは予備費300万円+健康・介護500万円だけになります。「800万円で足りる」という意味ではありません。実質的な最少は長崎県の819万円からです。
- 上位数県の順位は標本誤差に敏感です。 県別の消費支出は家計調査の県別標本によるもので、調査年で並びが入れ替わり得ます。「群馬が1位」ではなく「この統計ではこうなる」として読んでください。
- 「ゆとり」は全国一律で月36万円にスケールする仕組みです。 県別の費目の構成比は保ったまま総額だけを揃えるので、県平均が安い県ほど増加幅が大きくなります。「沖縄が2位に上がる」という結果は、この設計を理解したうえで読んでください。
そのほか、消費支出ベースなので固定資産税は持ち家に入っていません(フェアに比べ直す話は第6回で)。都道府県平均なので県内の差も出ません(ツール側で10費目を1円単位で編集できるようにして補っています)。将来の年金・物価・制度変更も織り込んでいない、概算の一例です。
実装メモ
- HTML + JavaScript のみ、フレームワークなし。 47県 × 10費目をJSオブジェクトに埋め込んでいるので、fetchもCORSも不要です。ダブルクリックでも動くし、GitHub Pagesにそのまま置けます。47県ぶんの再計算は毎回クライアント側で回していますが、この規模なら十分軽量でした。
-
URLパラメータで状態を復元できるようにしました。この記事の県名リンクはその仕組みです。
?p=群馬県&pm=region&h=couple&t=ownのように条件を渡すと、その状態で開きます。記事の数字と読者が見る数字が食い違わないようにするためです。 -
この記事の数字は、すべて
data.jsから機械生成しています。 アプリと同じ計算関数を写したスクリプトの出力をそのまま貼っただけで、手打ちは1つも挟んでいません。データを更新したら記事も作り直せます。
作り方の詳細(e-Statのデータ整形からGA4の計測設計まで)は、連載の第4回で書きます。
次回
「あなたの県で、2,000万円を不要にするには何年働けばいいか」を47都道府県で逆算します。
65歳以降も働いて不足を埋めるとして、必要な年数は県ごとにまったく違いました。何年働いても届かない条件もあれば、そもそも0年でいい県が26あるというのが計算結果です。
よかったら教えてください
この記事、読んで終わりだと半分もったいないので、2つだけ聞かせてください。
- あなたの県は何位でしたか?
- 持ち家を賃貸に切り替えると、何位に動きましたか?
ツールの上でラジオボタンを1つ変えるだけです。動き方には相当な差があって、東京は1,832万円も増えるのに、高知はまったく動きません(+0万円)。理由は本文の3つ目に書いたとおりです。自分の県がどちら寄りだったか、コメントで教えてもらえると嬉しいです。
47都道府県 × 世帯 × 持ち家/賃貸 × 生活スタイルで必要額を計算して、何を変えると必要額がどれだけ変わるかを並べて表示します。無料・登録不要・金融商品の勧誘は一切ありません。個人が公的統計を使って作っているものです。
この記事は連載「その数字、誰の話?」の第1回です。全10回で、47都道府県のデータを使って老後にまつわる思い込みを1つずつ検証していきます。次回以降を読み逃したくない方は、フォローしていただけると届きます。
