この記事は
- AI to Learn(AI2L)実践録:ブラックボックスを残さない生成AI運用 25 Advent Calendar 2025
- オープン版 AI2L オープン実践録:だれでも参加OK 生成AIを安全に使う Advent Calendar 2025
の Day 2 記事です。
Day 1 では、AI2L の 4 つの柱と「ブラックボックスを残さない」基本ルールを紹介しました:
- ブラックボックスを残さない
- アカウンタビリティ(説明責任)
- 情報保護
- Green AI(省エネ・低コスト)
Day 2 では、2025年12月2日現在の ChatGPT(無料版) を題材に、
- 「普通の」ChatGPT の使い方
- AI2L コンセプトに沿った ちょっとだけ工夫された使い方
を並べて紹介します。
今日のゴール
- 2025/12/02 時点での ChatGPT 無料版でできること・制限 をざっくり把握する
- 「普通の使い方」と AI2L 流の使い方の違い を具体例でイメージできる
- そのままコピペして使える AI2L プロンプトのひな型 をいくつか持ち帰る
本記事は 2025 年 12 月 2 日時点の公式ドキュメントをもとに書いています。
仕様や UI は変わる可能性が高いので、最新情報は OpenAI の Help Center / Pricing ページをご確認ください。
0. この話で想定する「ChatGPT 無料版」
まず前提をそろえます。
- 対象:
- ブラウザ版 chatgpt.com / 各種アプリの 無料アカウント
- モデル:
- ログイン済みユーザーは、基本的に GPT‑5.1 系(Auto) がデフォルト
- 一定回数を超えると、自動的に「mini」モデルに切り替わる
- 機能(無料でも使える代表例):
- テキストチャット(質問、文章生成、翻訳 など)
- Web 検索(Search)
- ファイル・画像アップロードと要約・質問
- データ分析(表データなどの解析と可視化)
- 画像生成(簡易版)
- Projects(プロジェクト)によるチャット+ファイルの整理と共有
また、個人向け ChatGPT では
- 会話内容が モデル改善のために利用される場合がある
- 設定から「学習に使わない」に切り替え可能
- 個別のプロンプト単位ではなく、アカウント単位での設定
という前提があります。
AI2L の「情報保護」の柱に沿うなら、
- そもそも 機密情報や個人情報は入れない
- 入れる必要があるときも、匿名化・ダミー化 を徹底する
- 重要なデータは、ローカル(社内)環境で再現できる形 で残す
という運用をセットで考えるのがよさそうです。
1. 2025年12月時点の ChatGPT 無料版をざっくり整理
1-1. 無料版で「できること」ざっくり一覧
※ここでは代表的なものだけを挙げます。
- 日常的な相談・質問
→ 用語の説明、仕組みの解説、比較、計画を一緒に立てる など - ライティング支援
→ メール文、レポートの叩き台、要約、言い回しの調整 - コーディング支援
→ コードの雛形、バグの原因候補の説明、小さなスクリプトの作成 - Web 検索(Search)
→ 最近の情報やニュース、公式ドキュメントの場所探し - ファイル・画像アップロード
→ PDF/スライド/スプレッドシートの要約、図表の読み解き - データ分析モード
→ CSV などを渡して、簡単な可視化や前処理案の生成 - 画像生成
→ サムネイルのラフ、イメージイラストの試作 - Projects
→ 特定のテーマごとにチャット・ファイル・指示をまとめて保存
「無料版だから雑にしか使えない」というよりは、
中〜小規模のタスクなら無料だけでもそれなりに回るが、
長いセッションや重いタスクでは回数制限・速度制限が効いてくる
という感覚に近いです。
1-2. メッセージ数と制限のイメージ
2025/12/02 時点では、おおまかに次のようなイメージです(細かい数字は変わる可能性あり)。
- GPT‑5.1(Auto)での高度な推論:
- 5 時間あたり 10 メッセージ程度 が上限
- 超えると、自動的に「mini」モデルに切り替わる
- 画像生成・ファイルアップロード・データ分析などは
別枠のレート制限があり、使いすぎると一時的に止まる - 無料版は、Plus/Pro に比べて
- コンテキスト長
- 添付ファイルの数・サイズ
- Deep Research やエージェント機能の使える時間
などもコンパクトに抑えられています。
AI2L 的に見ると、
- 「闇雲にたくさん投げる」より
- 1 回の投げ方(プロンプト)を工夫して、少ない回数で質を稼ぐ
という発想が Green AI(省エネ) の観点からも重要になります。
1-3. プライバシーとデータ利用の前提
個人向け ChatGPT では、
- 会話内容がモデル改善のために利用される場合がある
- 設定で「学習に使わない」を選ぶことができる(新規会話から反映)
- 個別のプロンプト単位での削除はできない(会話単位・アカウント単位)
といった制約があります。
AI2L の「情報保護」の柱に沿うなら、最低限:
- 実名・学籍番号・社員番号・住所などは入れない
- 特定の患者・顧客を直接識別できる情報は入れない
- 「社外秘」「部外秘」と明記された資料はアップロードしない
といったラインを チームのルールとして明文化 しておくと安全です。
2. まずは「普通の使い方」を 3 パターンで押さえる
いきなり AI2L の話に行く前に、
ChatGPT 無料版でよくある「普通の使い方」を 3 パターンだけ押さえておきます。
2-1. パターン1:分からない概念をざっくり教えてもらう
例:
ニューラルネットワークの「過学習」を高校生にもわかるように説明して。
数式よりも、イメージ重視でお願いします。
- ゴール:
「とりあえずイメージはわかった」状態まで持っていく - 使い方:
1 問 1 答の Q&A でサクサク聞く
2-2. パターン2:文章の叩き台を作ってもらう
例:
研究室の見学会の案内メールの草案を書いてください。
・対象:学部 1〜3 年生
・トーン:やわらかめ、でも最低限フォーマル
・本文だけ、件名も 3 案ください。
- ゴール:
白紙から書くより楽に、叩き台 を手に入れる - 使い方:
出てきた文章を自分で読み直して、口調と事実だけ直す
2-3. パターン3:ファイルを投げて要約してもらう
例:
(PDF をアップロードして)
このスライドの内容を、
・A4 1 ページの箇条書きサマリー
・3 分で説明できる口頭用メモ
の 2 パターンでまとめてください。
- ゴール:
長い資料を一気に読む前に、ざっくり全体構造をつかむ - 使い方:
要約を読んだうえで、原文も後でしっかり読む
3. 「普通」と AI2L 流の使い方の違い
ここからが本題です。
ざっくり言うと、AI2L では
ChatGPT を「代わりに作業してくれる人」ではなく、
「学びを手助けしてくれる相棒」として使う
ことで、完成物にブラックボックスを残さない ようにします。
3-1. 4 つの柱を ChatGPT 利用に当てはめると
AI2L の 4 つの柱を、ChatGPT 無料版の使い方に翻訳すると:
-
ブラックボックスを残さない
- コードや手順は、コメント付き・手順付きで出してもらう
- 「なぜその結論になるのか?」の説明も含めて出力させる
-
アカウンタビリティ(説明責任)
- プロンプト・前提条件・判断基準を メモとして残す
- 「この部分は人間がチェックした」という印を残す
-
情報保護
- 機密情報を入れない前提でプロンプトを設計する
- 必要ならダミー/サンプルデータを使う
-
Green AI(省エネ・低コスト)
- 同じ型のプロンプトを使い回して、少ない回数で回す
- 不要に Deep Research や重い処理を走らせない
3-2. 普通の使い方 vs AI2L 流(比較表)
| 視点 | 普通の使い方 | AI2L 流の使い方 |
|---|---|---|
| 目的 | 今すぐ答えが欲しい | 学びつつ、あとから再現できる形で残したい |
| プロンプト | 「〜を教えて」「〜を書いて」 | 「目的」「前提」「出力形式」「根拠の出し方」を指定 |
| 出力 | 最終成果物のみ(文章・コードなど) | 最終成果物 + 手順 + 根拠 + 自分のメモ |
| 保存するもの | ChatGPT の履歴頼み | プロンプト・出力・自分の要約を Project 等に整理 |
| 人の役割 | 出力を軽く直す | 出力を検証し、理解して、自分の言葉にまとめ直す |
以下では、無料版でも真似しやすい AI2L 流の使い方 を
具体例で 3 つ紹介します。
4. 具体例1:授業・自習で「理解を深める」AI2L チャット
4-1. シナリオ
- 対象:
学部〜大学院レベルの講義(機械学習、統計、信号処理など) - やりたいこと:
「講義スライドを見ただけだと腹落ちしない概念」を、
ChatGPT と対話しながら 自分の言葉で説明できるレベル にする
4-2. 普通の使い方
カーネル法とは何ですか?
高校生にもわかるように説明してください。
- メリット:
とりあえずイメージはつかめる - デメリット:
「分かった気」にはなるが、
自分で説明できるレベルの理解 まで到達しているとは限らない
4-3. AI2L 流:3 ステップ対話テンプレ
Step 1:自分の理解度チェックから始める
あなたは「わかりやすく教えるのが得意な TA」です。
これから「カーネル法」について学びたいので、まず私の理解度を確認してください。
- カーネル法とは? を学ぶために、3〜5 問の簡単な質問を出してください。
- 私の回答を読んだら、「いまどのくらい分かっているか」と「次に何を押さえるべきか」をコメントしてください。
- そのうえで、今のレベルに合った説明プラン(見出しレベル)を提案してください。
ポイント:
- いきなり説明を求めない(=どこから説明してもらうべきかを一緒に決める)
- プラン(見出し)まで含めて出してもらう
Step 2:説明+自分の要約をセットで残す
プランが出てきたら、セクションごとに:
さきほどのプランのうち「1. カーネル法の直感的なイメージ」だけを説明してください。
- まずあなたの説明を書いてください。
- その後に「チェック用クイズ」を 3 問出してください。
- 最後に、私が自分の言葉で要約を書く余白として、見出しだけ用意してください。
(例)「### 自分の言葉での要約(ここは私が後で書きます)」のように。
ここで出てきたクイズに自分で答え、
自分の言葉での要約 を実際にノートや Project の Canvas に書き込みます。
Step 3:最後に「自分が説明する」練習までやる
ここまでの対話をふまえて、
- 私が「友達に 3 分で説明する」ための台本
- スライド 3 枚分の見出しだけ
を作ってください。
台本と見出しを読んだあと、私は自分で話してみます。
話した内容を箇条書きにして貼るので、抜けているポイントがあれば指摘してください。
AI2L 的なポイントは:
- ChatGPT に 「説明してもらう」だけで終わらせない
- 自分の要約・台本を残して、あとで見返しても再現できる形にする
5. 具体例2:Python コード+データ分析を「ブラックボックスにしない」
5-1. シナリオ
- 公開されているサンプル CSV(Kaggle の Toy データなど)を対象に、
- ChatGPT 無料版の データ分析モード を使って
- 可視化
- 簡単な前処理
- シンプルなモデルの実験
を行いたい。
5-2. 普通の使い方(よくあるパターン)
- CSV をアップロード
- 「このデータで簡単な分析をしてください」と投げる
- きれいなグラフと説明が出てくる
- とりあえず納得して終わる(自分の手元には何も残らない)
この場合、「どんな前処理をしたか」「どんなコードが走ったか」が
ChatGPT 側に閉じたブラックボックス になりがちです。
5-3. AI2L 流:コード+解説+手順をセットで出させる
データ分析モードを開いて(または Project 内で)最初に投げるプロンプト例:
あなたは「教育目的の Python データ分析講師」です。
これから公開データ(機密情報を含まない CSV)をアップロードするので、
AI2L の方針に沿って、ブラックボックスを残さない形で分析を手伝ってください。要件は次のとおりです:
- すべてのコードセルに、何をしているかのコメントを入れてください。
- 分析のステップごとに、「なぜその操作をするのか」の解説を Markdown で書いてください。
- 最後に、「このノートブックをローカル(例:Colab)で再現するための手順」を箇条書きでまとめてください。
- 途中で仮説を立てたり判断した場合は、「仮説」「根拠」「限界」の 3 点を明示してください。
この状態で CSV をアップロードし、
この CSV を使って、
- データの概要確認
- 基本的な可視化(ヒストグラム・散布図など)
- ごく簡単なモデル(線形回帰など)のベースライン
までを行ってください。
と指示します。
5-4. 最後に「ローカルで再現する」前提で締める
セッションの最後に、さらに一言:
ここまでの分析を、私のローカル環境(例:VS Code + Python、もしくは Google Colab)で再現できるように、
- 必要なライブラリ一覧
- フォルダ構成の例
- 実行順番のチェックリスト
を Markdown 形式でまとめてください。
こうしておくと、
- ChatGPT 上でだけ完結するのではなく
- ローカルでも再現可能な「ノートブック的成果物」 が手元に残る
ので、まさに AI2L の
- ブラックボックスを残さない
- アカウンタビリティ(なぜそうしたか)
を満たしやすくなります。
6. 具体例3:研究室・チームの「AI 利用ルール」を一緒に整える
6-1. シナリオ
- 研究室や小さなチームで ChatGPT を使い始めたい
- でも「どこまで OK / NG か」「どう記録を残すか」が曖昧
- 無料版の範囲でいいので、小さく回るルール を作りたい
6-2. 普通の使い方
研究室で生成 AI を使うときのルール案を書いてください。
- 無難なチェックリストが出てくる
- でも、「誰が」「どのタスクで」「どのくらい」使うのかが曖昧なまま
6-3. AI2L 流:Project を使って「見えるルール」を育てる
- ChatGPT のサイドバーから
新しい Project(例:Lab-AI2L-Rules) を作る - Project の説明に、AI2L の 4 つの柱を簡単に書いておく
- 最初のチャットで次のように依頼:
あなたは「研究室の AI 利用ルールづくりをサポートするファシリテーター」です。
この Project では、AI to Learn(AI2L)の 4 つの柱に沿って、
- 研究室で ChatGPT をどう使うか
- どういうタスクは使わないか
- 使ったときに何を記録しておくか
を一緒に整理したいです。まず、次の 3 つを Markdown で提案してください:
- 「入力前チェックリスト」:機密情報・個人情報を入れないためのセルフチェック
- 「出力チェックリスト」:出力をうのみにしないための確認項目
- 「記録テンプレート」:AI を使った作業について、あとから説明できるようにするためのメモ欄
- 出てきた提案を、研究室メンバーで読みながら少しずつ書き換える
- 必要に応じて、Project にメンバーを招待(無料版なら 5 名まで)
ここで作ったチェックリストやテンプレートは、
- 実際にタスクをこなすときに貼り付けて使う
- 改善点があれば、同じ Project 内で更新していく
ことで、「生きたルール」 として育っていきます。
7. ChatGPT 無料版で AI2L を実践するときの小さなコツ
最後に、無料版でも真似しやすい工夫をいくつかまとめます。
7-1. 1 タスク 1 Project(または 1 チャット)を意識する
- 勉強用、データ分析用、ルールづくり用など、
- 目的ごとに Project やチャットを分ける と、あとから見返しやすいです。
- 「AI2L 用テンプレ」専用の Project を 1 つ用意しておくのもおすすめです。
7-2. プロンプトは「目的 → 前提 → 出力形式 → 制約」の順で書く
例えば:
目的:〇〇の予習のために、基礎から理解したい
前提:私は〜〜レベル。講義スライドはあとで自分で読む。
出力形式:見出し+説明+クイズ+自分で要約を書く余白
制約:専門用語を出したら、必ず一言で意味を補足する
という形で書いておくと、
あとから見ても何をしたかったプロンプトか分かりやすい です。
7-3. 「AI の出力」だけでなく「自分のまとめ」を必ず残す
AI2L では、
- ChatGPT の出力は 「学びの材料」 にすぎない
- 最終的な成果物(レポート・コード・手順書など)は
人が理解して、自分の言葉で書いたもの であること
を重要視します。
- ChatGPT の回答をそのままコピペするのではなく
- 自分で理解し直して、自分のノートやリポジトリに再構成して保存する
というひと手間をかけるだけで、
ブラックボックス感はかなり減らせます。
7-4. 無料版の「制限」を、むしろ設計のヒントにする
- 5 時間あたりのメッセージ数が限られている
- データ分析や画像生成にも別枠の制限がある
だからこそ、
- 同じタスクで毎回ゼロから説明させるのではなく、
- テンプレプロンプトを作っておき、必要な部分だけ手で編集する
といった工夫が、Green AI(省エネ)にもつながります。
8. まとめ:ChatGPT 無料版でも AI2L は十分実践できる
本記事のポイントを振り返ると:
- 2025/12/02 時点の ChatGPT 無料版は
- GPT‑5.1 ベースの高度な推論(回数制限付き)
- Web 検索・ファイル/画像アップロード・データ分析・画像生成
- Project 機能による整理と共有
を備えており、学習用途には十分強力。
- 「普通の使い方」は
- すぐ答えが欲しいときには便利だが、
完成物がブラックボックス化しやすい。
- すぐ答えが欲しいときには便利だが、
- AI2L 流の使い方では、
- プロンプトに「目的」「前提」「出力形式」「根拠の出し方」を書く
- コードや手順は コメント付き・手順付き で出させる
- Project やノートに 自分の要約と決定プロセス を残す
ことで、「あとから読んだ人も再現できる成果物」を目指す。
明日以降の Advent Calendar では、
より具体的な研究・実務・教育の現場での AI2L 実践例を紹介していく予定です。
もしあなたが今日からできることを 1 つ挙げるとしたら、
- よく使うタスク(予習、データ分析、文章草案づくりなど)を 1 つ選び
- 本記事のテンプレを一つだけ真似してみる
ところから始めてみてください。
「ChatGPT に全部やらせる」のではなく、
「ChatGPT に学びを手伝ってもらいながら、理解の痕跡を残す」
という AI2L 的な使い方が、無料版でも十分に実践できます。
参考
- AI to Learn(AI2L)プレプリント
DOI: https://doi.org/10.51094/jxiv.1435 - Day 1 記事:
「AI2L入門:完成物にブラックボックスを残さないための基本ルール(Day 1)」