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生成 AI があれば、BI はいらない?

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前回 (2025/08/16) に なんで Power BI を正しく使用できるユーザーが増えないのだろう? という記事を書いたところ、Qiitaのトレンドに入ってしまい、とても戸惑いました😇 (2025/08/24 現在 15 万 views 超)

前回の記事の最後に「AI に頼り過ぎ(過度な期待」という項目を挙げたのですが、今回はそこを自分なりに深掘りしてみようと思いました。

というわけで、タイトルの疑問が今回のテーマです。それでは張り切っていきましょー。

まずは AI の定義から

AI と一言で言っても、様々なものがあります。昨今流行りのものは LLM (Large Language Model: 大規模言語モデル) をベースにした生成 AI です。膨大なテキストデータを保持していて、この言葉の後にはこの言葉よく使われるよねというパターンを高度かつ統計的に学習させてあるディープラーニングモデルです。1つの言語において、言葉のパターンを知り尽くしているので、自然な対話ができるようになっています。この自然な対話を利用して、利用者が求める文書や画像、動画、音楽など、何らかの成果物を生成するため、生成 AI と呼ばれています。

生成 AI が学習しているパターンというのを具体的な例にすると、私達人間が、職場や学校で「おはよう」と友人に言われたら、「おはよう」と返すような挨拶のようなものです。ここでのポイントはおはようと言われてから、おはようと返すまでに、思考をしていないことです。挨拶というのは、考えて返事をするものではなく、条件反射です。嫌いな相手から挨拶をされた場合は、考えるかもしれませんが、AI の場合は趣味嗜好がありませんので、嫌いな相手がいません。よって、思考をせずに返事をします。そして、これをすべての会話について、行っています。つまり、AI は思考をしていません。あくまでもパターンマッチングです。尤も、LLMに基づいているので、人間が想像するよりはるかに高度なパターンマッチングですが。

さて、生成 AI の流行のきっかけは、OpenAI の ChatGPT であると言えるでしょう。おかげで、最近は AI と言えば、生成 AI を意味するくらいにコモディティ化(=一般的に使用される状態)しています。しかし、生成 AI の流行以前から、AI というのはありました。AI、つまり人工知能ですが、その中には、機械学習、ディープラーニングなど、分野が細分化されて、遥か昔から研究が実施されています。

現在では当たり前ですが、デジタルカメラでも、スマホのカメラでも、シャッターを押す前から、被写体の人物の顔を認識し、最適化してくれます。人物がいなければ、風景画として最適化して、動物や乗り物が素早く移動していれば、そこにフォーカスして撮影してくれます。夜景でも撮りたいと思っているものを肉眼で見るより綺麗に保存してくれます。これらはすべてディープラーニングを利用したモデルによって、処理されています。つまり生成 AI ではない、AI による処理です。おそらく、2025年現在において、最も自然に民生品で使用されている AI のひとつでしょう。事実、カメラで写真を撮る際に、「私は AI を使っているぜ!」なんて思う人はいませんよね。それは、もはや当たり前で自然なことになっているからです。むしろ、お持ちのデジタルカメラやスマホで、AI の処理をなくす設定をする方が難しいでしょう。

少々乱暴ですが、生成 AI とそれ以前からある AI と2種類に分けた場合、今回この記事でテーマにするのは「生成 AI」の方です、ということが言いたかったわけです。

生成 AI にデータ分析を依頼するということ

生成 AI にデータを渡して、分析を依頼したり、グラフを生成してもらったことがある方もいらっしゃるでしょう。割と普通にやってくれますし、できあがったものは仕事場でも使えるクオリティだったりします。ですが、それでもデータ分析のプロは、生成 AI が出してきたものを参考にすることはあっても、そのまま自分の成果物として使用することはないでしょう。いくつか理由が考えられますが、私の場合は、AI を信用していないし、信頼もしていないからです。なぜ信用・信頼していないかというと、毎回回答が異なるからです。人間で考えれば、当然で、何かを聞いたら、毎回言うことが変わる人を信用・信頼なんてできません。

例えば、とあるデータがあって、この項目に着目して、分析してと依頼した場合、それらしいグラフを作ってくれます。しかし、もう一度聞くと、結果が変わることがあります。人間に依頼した場合、起こりえないことです。もちろん複数回、微妙にプロンプト(AI に聞くための言葉)を変えて、あえて聞き、それらすべてを総合的に参考にして、自分なりの分析をする、ということであれば、プロもやります。ここでのポイントは、自分なりの分析です。最終的に自分の解として第3者に示すのであれば、責任を持つ必要が出てきます。ですから、最後は自分なりの解を導かなければなりません。

現状では、補助的に自分の観点に見落としがないか、確認するために使用することはできても、すべてを任せることはできないと思います。

BI を構築するのは大変だし面倒

前回 の記事を書いたら、いくつかいただいたコメントの中に、

「そんなに面倒なら、BI なんてやらないわ」

というニュアンスを含んだものがありました。

これは、とても理解ができるコメントです。おそらく BI を面倒に感じる方は、グラフを作ることをゴールにしているのでしょう。BI を理解している方は、グラフを作ることをゴールにしません。なぜなら、BI のゴールは可視化ではないからです。BI にとって、可視化(ビジュアライズ)というのは、手段に過ぎません。可視化はとても重要な要素で、綺麗なグラフ、かっこいいグラフ、誰が見てもわかるグラフを作りたいと、誰もが思います。でもそれらができても、目的は達成されません。

BI の目的は、

  • 「いま、何をするべきか」
  • 「次に、何をするべきか」

をユーザーが考えられるようにすることです。私はこれを「ネクストアクションがわかること」と表現しています。グラフはそのための手段に過ぎません。究極的にはそれは信号機のようなものです。数字ではなく、赤、青、黄色によって、いま止まるべきか、行くべきか、あるいは注意して進むべきか。それらがわかるようにすることが BI の究極のゴールでしょう。

組織において、その状態にまで導くには、過去データと現状、そして今期の目標との比較が必要になります。とある分野のデータを過去、現在、未来において、定点観測し続けて、初めて、いま止まるべきか、行くべきか、あるいは注意して進むべきかがわかるのです。昨今は、世間を取り巻く状況も刻一刻と激しく変化しますから、組織内のデータだけでそれらが決まるものではありません。しかし、組織内のデータをそこまで整理しておかないと、社外のデータが入ってきても、どう判断してよいのか、それこそ戸惑ってしまいます。

生成 AI に依頼するのは簡単

一方、生成 AI に依頼して、グラフを作成するのはとても簡単です。データを用意して、指示をするだけです。出てきた結果がなんか違うなって思えば、追加の指示を与える。そうして納得いく結果が得られるまで続ければいいのです。グラフを作成するまでの手間を BI と比較すれば、雲泥の差ですね。

その簡単さは、まさにコモディティ化で、誰でもできるものです。その意味ではとても素晴らしい。データ準備に必要な技術を持っていなくても、自然言語で指示するだけで、欲しい結果が得られるというのは、まさに未来だなぁと思います。

では本題 ⇒「生成 AI があれば、BI はいらない?」

私は BI を生業にしていますので、その立場から考えると、次のように言えます。

アドホック(1回限りの)な目的であれば、生成 AI に依頼してグラフを作成する、データを分析してもらってもよいでしょう。

「明日、会議で発表するスライドにグラフを入れたい」
「コミュニティで登壇するので、スライドにグラフが必要だ」

こういったケースでは、グラフが図になっていても問題ありませんし、何より、その機会が終わったら、もう使いません。1回限りの使用であれば、できるだけ簡単に作りたいと思うのは当然のことです。

一方で、継続的にグラフを見て、分析して、判断をする場合には、BI が必要になります。継続的に見るということは、データが日々変化することを意味します。データが変わるたびに生成 AI に聞いていては、それこそ面倒です。また、毎回同じフォーマットで回答してくれるとも限りません。

「プロンプトをガチガチに作り込めが、毎回同じフォーマットで回答が得られるよ」

という人もいるかもしれませんが、それとて、人が生成 AI に指示をするという作業が発生してしまいます。ルーティン作業を自ら増やすのは、ナンセンスです。

「だったら、自動化ツールで自動化してしまえば!」

そうなりますよね。なので、BI が必要になってくるのです。どんな BI ツールでも、データを定期的に取得して、決まった形にモデリングして、最新化するという機能が備わっています。つまりデータを取得する自動化はできるのです。(逆に言えば、BI ツールを選定する際はこの機能を持っているか確認することを強くお勧めします)

割と盲点

生成 AI にデータを渡す時に、多くの人が意識していないことをひとつ挙げておきます。それは、

「AI にデータを渡す時に、きちんとデータを整理していますか?」

ということです。

たしかに生成 AI は優秀です。多少汚いデータであっても、文句も言わず、言われたように処理してくれます。ただ、これまでビジネスの現場で使用されているデータを見てきて、AI に渡すにしても、とても、とても、ノイズの多い、汚いデータばかりでした。ビジネスデータは基本的にデータ分析には、向いていません。なので、使わない列や値を先に除いておくなど、前処理は必須です。前処理をすることで、プロンプトが短くなるので、節約に繋がります。

BI の中にある生成 AI

少し違った観点で見てみましょう。BI ツールの中で、生成 AI が使えるものについては、どう考えるのか?

私が専門にしている Power BI でも Copilot for Power BI が使えるようになっています。現在、Copilot for Power BI ができることは、

  • 自身がアクセスできる Power BI のコンテンツから条件に合うレポートやセマンティックモデルなどを検索してくれる
  • 特定のレポートを要約してくれる
  • 特定のモデルのデータに対する質問に回答してくれる
  • 自分が開いているレポートを要約してくれる
  • 特定のセマンティックモデルを使用してレポートのページを作成してくれる
  • DAX クエリを書いてくれる
  • メジャーの説明を追加してくれる

など、多岐にわたっています。とても便利なものですが、当然他の生成 AI を使う際と同様、回答には指示を出したユーザーが責任を持つ必要があります。つまり、回答を検証しなければならないということです。

そして、最も大切なことは AI 用にデータを準備する 必要があるということです。リンクは公式ドキュメントですが、そこでもまさにこれが説明されています。

特に Power BI で Copilot のセマンティック モデルを最適化する が最初にやるべき最も重要なことだと、私は認識しています。Copilot for Power BI は Power BI に最適化された Copilot ですから、Power BI のベストプラクティスに従って、動きます。簡単に言えば、セマンティックモデルは必ず、スタースキーマにするべきです。なぜなら、Copilot がそれを前提に動くからです。加えて、テーブル名、列名、メジャー名にも気を遣う必要があります。Copilot が知り得るのは、モデルの中に書かれたものだけです。Copilot は皆さんの業務がどんなものか、知りません。ですから、それを可能な限り、シンプルに名称と説明 (Description) で伝えてあげる必要があります。

どんなに生成 AI が優秀でも、エスパーではないので、言われていないことは知り得ない。これは使用するにあたって、肝に銘じておくべきことだと、思います。

これはたぶん愚痴と危惧

Copilot for Power BI にレポートを要約してくれる機能があると、紹介しました。これに関して、レポート作成者としては少々、モヤることがあります。

例えば、自分が作ったレポートを組織内に共有して、ユーザーに使い始めてもらいました。ある時、ユーザーが Copilot を使用して、自分が作ったレポートのとある1ページを要約しているのを見てしまいました。

この時、レポート作成者として思うのは、

「あれ...俺が作ったグラフ、要約しないとわからないものだったのかな...」

というかなりの敗北感です。

もともと、BI のグラフというのは、パッと見たら訳の分からないデータをわかるように作られたものです。どんなレポート作成者であれ、そこには相当の時間をかけます。わからなければ、意味がないですからね。そうして、考えて、ユーザーにヒアリングもして、色に気を遣って作成したレポートのグラフをユーザーが Copilot を使って、要約していたら、そのショックは相当なものです。

当事者の目線ではこうなりますが、これを少し視座を高くして考えてみましょう。

「果たして、その生成 AI による要約に頼っていたら、そのユーザーの分析能力は向上していくのだろうか?」

本来、グラフは見る人によって、それぞれの意見があっていいものです。同じことを読み取っても、次に取り得るアクションはその意見が反映され、異なる仮説や対策や出てくる。そこをディスカッションして、決めていく。順に試して、仮説を検証する。ダメだったら、次に進む。求める結果が得られるまで、続ける。

そうして初めて、改善するものだと思います。BI はそのための経営手法だと思っています。が、生成 AI を使うことで、そこに辿り着くのでしょうか?

これは、現在、個人的興味がとてもある命題です。結果は、数年後にわかることでしょう。願わくば、ユーザーが自分で考えることができないといった、最悪のシナリオにならないことだけを願っています。

まとめ

今回は、「生成 AI があれば、BI はいらない?」というタイトルで考えてみました。

生成 AI を使う時に

「できるからって、実業務で採用するべきか、これを常に考えるべき」

ということが重要だと思っています。生成 AI は優秀ですし、今後ますますできることが増えていくことでしょう。既に「そりゃあ、AI を使えばできるでしょうよ」という状態になりつつあります。できるのが当たり前の状態で、それを業務に取り入れることが、最適なのか。これを考えるのが、人間の仕事になってきています。そこには、業務フロー、費用感、その方法を数年続けたら何が起こるのか?など、検討するべきことがあります。

せっかく生成 AI を使える時代にいるのですから、便利になり、空いた時間で、落ち着いて考えていただきたいと、思うところです。

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