とても久しぶりに記事を書こうと思いました(2024年12月25日が最後の記事だった😇
具体的な数値データがあるわけではないけど、これまで仕事で Power BI の研修やコンサルティングを担当してきて、おそらく1000人以上の方に教えてきましたが、最初から正しく Power BI を利用できていたユーザーは皆無でした。
そして、コミュニティにおいても、正しく使えるようになっていく人は、ほんの一握りです。こういう事実と現実がある中で、その理由をふと考えてみました。今回の記事はそんな考察です。
1. BI 自体が難しい
これは言わずもがな。BI (Business Intelligence) は難しい。「BI とは何か?」と聞かれて、シンプルに説明できる人は、なかなか出会えるものではない。仕事で、Power BI を使ってます、教えてます、研修講師を担当していますという方々でも、説明できない人がとても多いのが現実です。(残念ながら)
個人的意見として、「BI とは何か?」を考えたことがない人に、BI を理解することはできない。故に、BI の目的もわかりようがない。BI を導入したいので研修を依頼された場合、私は必ずこの質問をします。
私:「BI で実現したいことは何ですか?」
導入したいと言っているのだから、その目的は明確なはずです。ですが、多くの企業(正確には担当者の方)が、その回答を持っていません。
企業:『現状、Excel でやっているので、それを Power BI に変更したくて...』
時にはこのような回答もいただきます。ですが、これは理由になっていません。ですから、当然次のように尋ねます。
私:「Excel でやっていて、どのような課題があるのですか?」
どこの企業とは言いませんが、IT系サービスを提供している会社によっては、宣伝で「まだ Excel でやってるの?」的な謳い文句を使用しています。そういった文言が CM 等で流れて、刷り込まれてしまっているユーザーさんは、Excel = 古い方法だと思い込んでいる人がいます。Excel は単なるソフトウェアでツールに過ぎません。たしかに Microsoft 社によって最初の Excel (Mac 版) がリリースされたのが 1985 年ですが、今でも継続して、アップデートが提供されています。Excel = 古いなんていうことはないわけです。
課題があるとすれば、使い方に問題があるのでしょう。いや、問題があると感じているのでしょう。まずはここを明確にしなければ、解決には至りません。
さて、話を戻して、BI はとても概念的なものです。私は BI を経営手法のひとつだと説明していますが、まずは BI という概念を理解することから始めなければなりません。BI という概念は、Microsoft 社が作ったものではなく、それよりもはるか昔から存在する概念です。元は学会で発表されたアカデミックなものでした。BI という概念があって、それを各 IT 企業が理解をして、ツールとして提供しているものが BI ツールです。Power BI はそのひとつに過ぎないのです。
車というものが何をするためのものかよくわからないが、それを買う人はいませんよね?
(車じゃなくても、テレビ、冷蔵庫、エアコンなど日常使用する家電に置き換えても OK です)
現代は便利な時代です。調べれば、その概念は出てきますので、ぜひとも調べてみてください。
ということで、BI という概念を正しく理解していなければ、BI ツールを正しく使用することはできないでしょう。
2. Excel のように軽いノリで使いがち
さて、次の理由です。これは Microsoft 社のマーケティングも影響しているかもしれませんが、Microsoft Office のように、簡単に使えると思われているユーザーが一定数いるということです。
1 の理由で BI 自体が難しいぞという話はしました。そこを吹っ飛ばして、「このツールは、皆さんが慣れている Microsoft Office のように使えます!」と言われたら、軽いノリで使ってしまいますよね。まして、Power BI Desktop は無償でダウンロードし、使用できてしまいますから、使用するのに学習が必要だと思われていません。
これは明らかなミスリードです。もっとも、実際は Excel さえも正しく使えているユーザーはほとんどいないのですが、「Excel を使えますか?」と質問されたら、多くの人が Yes と回答するでしょう。つまり、使えていると思い込んでいることが、Excel のユーザー数をこれほどまでに多くしているとも言えます。
Excel は単なるソフトウェアでツールに過ぎませんから、ユーザーが好きな使い方をすればいい。
これは、その通りです。そんな使い方をしてはいけない、という制限はありません。ですが、Excel は表計算ソフトとして、スタートしています。その延長線上に様々な機能が実装されているのが、現状です。よく見る間違った使い方に、ワープロとして使用している例が挙げられます。皆さんも見たことがあるはずです。
データではなく、言葉をベースにしたドキュメントですね。手順書だったり、説明書だったり、時にはプレゼン資料だったり。それらは Word で作られるべきものかもしれないし、PowerPoint で作られるべきものかもしれません。ユーザーが慣れているからという理由だけで、万能的に使用されてしまっている。
そういったユーザーが、「Power BI は Excel のように使えるのか!」と思ってしまったら、さぁ大変です。
「Excel ならできることが、Power BI ではできない」
「Excel のあの機能は、Power BI ではどうやるんですか?」
「こういうことがしたいのですが、Excel と Power BI のどちらでやるべきですか?」
こういった質問はとても頻繁にいただきます。おそらく、そういったユーザーは何かを勘違いしている。Excel と Power BI のどちらでやるべきかについて、悩んでいるうちは、その本質を理解していないと言えます。もちろん、試すことは自由です。試したうえで、どちらがより向いているかを考える。そういったアプローチもあります。
大事なのは、自分の中で解を見出すことです。それにはやってみるしかありません。同時に、公式の情報も重要です。もともと何のために作られたソフトウェアなのか?これを知っている人と知らない人では、正しい使い方に辿り着く可能性がまるで異なってきます。
天地がひっくり返っても、現代において、車は空を飛ばないのですから。
3. 正しく学んでいない
ここまで、正しい使い方という言い方をしてきましたが、正しいとは何なのか?それは開発元が想定している使い方ということになります。最近ではベストプラクティスという呼ばれ方もそのひとつです。
ここまでをまとめると、
- そのツールはもともと何をするために作られているのか?
- 自分たちのやりたいことはそれに合致するのか?
- それを実現するためにどうやって使えばいいのか?
ということになります。1 と 2 に解を持っていて、初めて 3 に当たる方法を考えることになりますが、まずは、公式が言っている方法(ベストプラクティス)に従うことが重要です。なぜなら、そのツールはそのために設計されたものだからです。ベストプラクティスに従わないということは、車で海に潜ったり、空を飛んだりするようなものです。
正しい使い方を学んでから、自分たちに当てはめると、何を準備して、どう実装するかを検討することになります。Power BI でいうなら、
- 全社的に BI を使う目的を共有する
- 使えるデータを準備する
- データを必要とするユーザーに適切なアクセス権を与える
- ユーザーからこういったデータを使いたいという要望に応える
- 組織内にサポートできる部隊を作る
- ユーザーがレポートを作成するのか、特定の部署がレポートを作成するのか。あるいは両方か
- 社内研修を用意する
少なくとも、これらは考えなけなりません。技術的な内容はもちろんのこと、組織としてどう対応するのかが必要になってきます。これまで見てきたユーザーさんの中で、上手くいっているケースは、必ずその中心に技術と社内政治の両方をバランスよく見ている人がいます。コミュニティでよく見るのが、ひとりで Power BI をやってますという人ですが、これはリスクが高いのです。なぜなら、BI は決してひとりでできるものではないからです。組織で当たらなければ、その目的は達成できません。この意味が分かる方は、正しく BI を勉強されている人です。
4. MS Learn がわかりにくすぎる
公式の情報が大事と言ってきましたが、いざ Power BI の技術的公式情報が提供されている Microsoft Learn を見ると、膨大な情報があり、その内容も元は英語で、機械翻訳された日本語によって記述されています。はっきり言って、わかりやすいとは言えません。きちんと理解するために、読むだけでも労力を必要とします。これは日本語を母国語として生まれてしまった私達には、致し方ありません。「どうにもならないことは、どうにでもなっていいこと」ではなく、そういうもんだと思いましょう。
ただ、だからといって、読まない理由にはなりません。なぜならば、唯一の公式情報だからです。読んで、手を動かし、理解をする。私たちが義務教育でやってきたことをやる必要があります。
幸いなことに、MS Learn には、ドキュメント(上述したリンク)の他に、トレーニングがあります。Power BI に関するトレーニングは こちら です。トレーニングはドキュメントとは異なり、トピックごとに内容がまとまっており、読みながら、手を動かせるものになっています。ものによっては、無償の仮想環境が提供され、そこで試すこともできます。トレーニングをやる際は、Microsoft アカウントでサインインをした状態で進めることをお勧めします。そうすることで、どこまでやったのか記録してくれますので、途中で終えても続きから再開することができます。
5. 機能を知っていれば使えると思っている
他の製品でも同じことが言えますが、Power BI は特にこれが当てはまります。例えば、DAX 関数。公式に DAX 関数リファレンス があり、関数さえわかれば、あるいは知っていれば、使えると思ってしまう。実際に、調べて使用して、エラーが出て使えなかったという方もいらっしゃることでしょう。あるいは、エラーが出なくても、本当に求めたい集計値が得られなかった方もいるかもしれません。最も不幸なのは、エラーが出なかったから、できたと思い、実は正しい値が取れていないというケースは、皆さんが思っている以上にあります。最近はこれに加えて、Copilot や ChatGPT などの生成AIに聞いて、そのまま使用しているなんて方もいることでしょう。正しい値が取れていないケースもありますし、正しい値が取れていても、ベストプラクティスに反する関数を使用していることもあります。
Power BI service の機能でも同じことが言えます。調べたり、誰かにこんな機能がありますと教えてもらい、いざ自身の環境で使用しようと思ったら、なぜだか使えない。理由を調べようにも、どこから調べたらいいのか、わからない。
いろんな原因が考えられますが、ひとつには自身のセマンティックモデルがその機能を使用できる形になっていないということがよくあります。データソースがその機能の対象ではないということもあるでしょう。
経験的に、機能ベースでこれができると考えるのは、Power BI の場合、避けておいた方がいいかもしれません。使いたい機能があるなら、その前提条件を調べておくことが必要です。その上で、自身の手元にあるデータが果たしてその前提条件を満たすのか?を考える必要があります。場合によっては、データソースから見直さなければならないこともありますが、そこまでいくと、そもそもその機能を使う理由を再検討した方がいいかもしれません。
6.AI に頼り過ぎ(過度な期待
Microsoft の AI と言えば、Copilot です。Microsoft はすべての製品に Copilot を搭載すると宣言し、着々とその計画が実現していることはみなさんもご存じのことでしょう。すべての製品で使えるようにするというのは、言い方を変えると、それぞれの製品に Copilot を最適化しているということです。Copilot for Power BI は、Power BI に最適化された Copilot ということになります。現在も進化中ですが、Power BI に最適化するということは、Power BI の当たり前を前提にしている Copilot ということになります。その当たり前とは、ベストプラクティスです。
例えば、現在の Copilot for Power BI にはセマンティックモデルの中のデータを見て、自然言語で聞かれたことに答えるという機能があります。その際に前提となるのは、そのセマンティックモデルがスタースキーマにモデリングされていることです。もし、きちんとスタースキーマになっていなければ、期待する回答を返してくれないことでしょう。また、テーブル名や列名、メジャー名も Copilot は見てくれます。業務的に意味のある名称を付けずに、テーブル1, テーブル2 とか、Col1, Col2 とか、メジャー1, メジャー2 など、本当にテキトーな名称にしてしまうと、回答に含まれない、考慮に入れてくれないといったことが起こります。
AI のために適切な名称を付ける、ということが言いたいのではなく、Copilot を使用しなくとも、それぞれの名称は適切であるべきです。これが前提だということです。人が見てわからないものは、AI だってわかりません。
AI は何でもできるのではなく、製品の当たり前に則って、実装されています。故に、それを利用する人間側がその当たり前を無視していいことは、決してありません。Copilot に任せる人間こそ、きちんと学習しておく必要があるのです。
ましてや、Copilot に DAX 式をたずねて、その回答をそのままコピペするなんていうことは愚の骨頂です。返ってきた DAX 式を読み解き、わからない関数が使われていれば、調べる。そうして、自分が使用しているモデルにおいて、正しい集計値を返すのか?これを検証して、初めて使用することができるのです。
最後に
「なんで Power BI を正しく使用できるユーザーが増えないのだろう?」
今回はこの問いについて、考えられることをざっと挙げてみました。他にも可能性があることでしょう。また思いついたら、追記するか、第2弾として書いてみますね。
みなさんも思いついたことがあれば、コメントを寄せてもらえると助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。