はじめに
Active Directory Domain Services(AD DS)は、Windows Serverが提供するディレクトリサービスで、ユーザー・PC・グループ・セキュリティ設定を一元管理するための基盤です。
企業ネットワークで「誰が」「何に」「どこまでアクセスできるか」を統制する中心的な存在で、サーバー管理者にとって最重要技術のひとつです。
本記事では、基本概念に加えて、レプリケーションやFSMOロールといった"運用で必須の仕組み"までわかりやすくまとめます。
1. AD DS の役割とは?
AD DSが担う代表的な役割は次の3つです。
✔ 1. 認証と認可
- Kerberos 認証により、ユーザーが正しい本人であるかを証明
- ログインした後、どこまでアクセスできるかを判断
✔ 2. ポリシー適用(グループポリシー)
- パスワードポリシー
- アプリの使用制限
- 自動ログオン、壁紙設定 など
→ 設定をまとめて管理できるため、手作業の設定ミスを防げる
✔ 3. リソース管理
- 共有フォルダ
- プリンタ
- ファイルサーバのアクセス権
→ 誰がどのフォルダにアクセスできるか明確に管理
2. AD DS の主要コンポーネント
ADを理解するには「階層構造」を把握すると簡単です。
✔ ドメイン
- AD管理の最小単位
- 例:corp.local
✔ ツリー / フォレスト
- ツリー:ドメインの階層構造(親子関係)
- フォレスト:複数ツリーを束ねる最上位の集合体
- フォレスト = AD全体の「世界」
✔ OU(組織単位)
- ユーザー・PC・グループを分類する"フォルダ"
- グループポリシーの適用範囲としても活用
✔ ドメインコントローラー(DC)
- 認証を行うサーバー
- ADの中枢であり、冗長化(複数台構成)が必須
3. レプリケーションの仕組みをわかりやすく
複数のドメインコントローラーがあると、「ユーザーを追加した」「パスワードを変更した」などの情報が同期(レプリケーション)されます。
✔ レプリケーションの特徴
マルチマスター方式
どのDCでも更新可能。1台が壊れても他が代わりに動ける。
変更通知方式
変更があると他のDCへ「更新されたよ」と通知。
トポロジ管理
通信経路は Active Directory Sites and Services で最適化。
✔ レプリケーションの種類
① イントラサイト(同一サイト内)
- 高速
- ほぼリアルタイム
- LAN前提で更新頻度が高い
② インターサイト(異なるサイト間)
- WAN(拠点間)向けに帯域を考慮
- 通信圧縮あり
- 更新間隔は長めに設定可能(15分~数時間など)
4. FSMOロール(Flexible Single Master Operations)
ADは「マルチマスター」ですが、一部の操作は"1台のDCだけ"が担当します。これが FSMOロール です。
✔ AD全体に1つだけのロール(フォレスト単位)
| ロール名 | 説明 |
|---|---|
| スキーママスター | スキーマ(属性・構造)の変更を管理 |
| ドメインネーミングマスター | ドメインの追加・削除を管理 |
✔ 各ドメインに1つのロール(ドメイン単位)
| ロール名 | 説明 |
|---|---|
| RIDマスター | SIDの一部(RID)を配布 |
| PDCエミュレーター | パスワード変更、時刻同期の中心 |
| インフラストラクチャマスター | 他ドメイン参照の整合性を維持 |
特に PDCエミュレーター は「時刻同期」「パスワード変更の即時反映」のため、最も重要とされます。
5. AD DS 導入・設計時のポイント
✔ DNS が強く関わる
ADの動作はDNSに依存しているため、DNSが壊れる=ADが壊れる と言っても過言ではありません。
- DC は DNS サーバーとして動作させるのが一般的
- フォワーダー設定も重要
✔ サイトとサービスの設計
- 拠点ごとに サイト を定義
- IPサブネットの紐づけ
- WAN帯域に合わせたレプリケーション設定
✔ セキュリティベストプラクティス
- ドメイン管理者権限の最小化
- パスワードポリシー設定
- SMB署名
- Tier分離(管理用端末の分離)
6. よくある質問(FAQ)
❓ AD DS と Entra ID の違い
| 項目 | AD DS | Entra ID |
|---|---|---|
| 用途 | オンプレ認証基盤 | クラウド向けID管理 |
| 認証方式 | Kerberos/NTLM | OAuth/OpenID Connect |
| 管理対象 | PC・ユーザー・サーバー | SaaSアプリ・クラウドID |
❓ ドメインとワークグループの違い
- ドメイン:集中管理(企業向け)
- ワークグループ:各PCが個別管理(家庭・小規模向け)
まとめ
Active Directory Domain Services(AD DS)は、企業ネットワークの認証・管理を一元化する非常に重要な基盤です。
- ADの構造(ドメイン/OU/フォレスト)
- レプリケーション
- FSMOロール
これらを理解することで、トラブルシューティングや拠点間構成などの運用にも強くなれます。