はじめに
この書評を書こうと思った経緯
参画している案件において UIUX デザイン検討を行う機会があり、人間中心設計の専門家と接する機会があった
様々な入力インタフェースデバイスの登場により、インタフェースデザインは単なる道具や画面の設計ではなく、人間の行為や行動の側面からデザインを設計しなければならないことを痛感した
その時に本書のタイトル 『融けるデザイン』が目に留まり、
今後どういうデザイン設計思想や考え方が重要なのか、いちエンジニアである私がデザイン価値を再考する機会にしようと、書評として残すことにしました
💡 ポイント
UIUX デザイン検討の現場経験から、人間中心設計の重要性を痛感し、エンジニア視点で現代のデザイン設計思想を再考した書評です。
本書の基本情報
- 著者: 渡邊恵太
- 出版社: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2015 年 1 月
- 対象読者: デザイナー、エンジニア、UX/IoT 関係者
📚 本書の特徴
本書では、ハード/ソフト/ネットにおけるインターフェースとは何かという提起を出発点に、在るべきデザイン設計思想について独自の用語で表現しており、デザインに対する新たな気付きを与えてくれる
本書の構成と主要な論点
第 1 章: デザインの変遷
コンピューターの本質を「知的能力を強化・拡張するもの」と表現し、普及した背景に、「メタファ」(現実世界で使われる要素に見立てて伝わりやすくデザインした)を中核に、メタメディアとして定義したことを挙げている
一方で、Twitter や Facebook 等のように、現実世界のメタファのないサービスが誕生し、メタファ依存の限界に直面した
例:スキュアモーフィズムデザインとフラットデザイン
🔑 キーワード
メタファからの脱却、現実世界を超えた新たな体験創造
最近 Apple から発表された Liquid Glass は、ガラスを思わせる実生活の質感を表現したもので、一見スキュアモーフィズムデザイン回帰かと思われるが、
表現しているものは液状化しているガラスであって、実際には手で触れたことのないもの
なのに、不思議と触れたことのないものの感触をイメージ出来て、直感的に操作出来る点が優れていると感じた
📝補足
アフォーダンス理論
https://www.unprinted.design/articles/affordance/
👆 要点
メタファからの脱却、現実世界の見立てを超えた新しい人間の体験を設計する UX の重要性
第 2 章: 身体性とインターフェイス
インタフェースとは「モノと人との境界線」
原因に対する結果の関係性が複雑になってきたことで、インタフェースを意識せざる得ない場面が増加してきた
🔑 キーワード
道具それ自体を意識することなく対象に集中できること=道具の透明性
道具が透明であるということは、道具が自分の身体と同じような状態、つまり身体の拡張であり、無意識に新たな力を得られていることを指す
👆 要点
理想的な UX では、ユーザが道具自体を意識せずに対象に集中して利用できる状態を作り出す。「道具の透明性」。
第 3 章: 自己帰属感の設計
本章では前章で挙げた道具の透明性を如何にして得られるのかを考察する上で、身体の境界線という観点で、カーソルは身体の延長であり、自分と言えるのかという問いを立てている。
マルチダミーカーソル実験
操作者は自分のカーソルを発見出来る一方で、観察者には分からない
動きの連動(制御)が自己を特定し、自己感を与え、
完全に制御された状態においてカーソルは身体の延長(透明)であると結論付けられた。
🔑 キーワード
制御出来ている、動きと連動している状態=「自己帰属感(sense of self-ownershipment)」
先程の Liquid Glass の例を見ると・・・
ユーザ視覚的に情報をどのように受け取り、どのような価値や重要性を情報に見出しているのかを解明し、UI 側で動的にコントロール・制御することで、
「自己拡張感」を感じつつ、その先に新しい「知覚世界」を魅せることを実現している
👆 要点
制御出来ている、動きと連動している状態を「自己帰属感」と表し、自己帰属感の高いインターフェースが UX 性が高く、完全な自己帰属感が達成された先には、新たな知覚世界を広げることが出来る
第 4,5 章: 情報の道具化と環境化
情報の道具化とは、人の行為を介在させずに実生活にデータを如何に適用させるか
情報の環境化とは、情報技術を如何に人間の時間/活動に融け込ませて透明性を得られるか
→ 情報の環境化を考える上で、パラレルインタラクションと非拘束性を意識することが必要
🔑 キーワード
情報の道具化、情報の環境化
【情報の道具化の事例】
・計らなくて済むスプーン
【情報の環境化の事例】
・TimeFiller
・中断要素のあるゲームアプリ
👆 要点
情報の道具化と環境化を実現させることで、人間が意識せずに情報・データを実生活に融け込み活用させられる
第 6,7 章: デザインの現象学
本書では、デザインとはインターフェースを考える取り組みと結論付け、
身体全体がインターフェースであり、そのインターフェースの境界のもう一端は環境と呼ばれているものだとしている
その上で、インターフェースを考えるとは、
人の知覚や行為が環境とどのように関わっているのかを解明し、人との関係から設計を考えることである
プロダクト、メディアに依存していたデザイン設計は終焉し、インタフェースを軸に、「体験」に着目した設計思想が求められている
👆 要点
デザインとは、身体全体(インターフェース)と環境との間にどのような関係性があり、どのように関わっているのかを解明することであり、プロダクトやメディアに依存しない「体験」に着目した設計思想へのシフトが必要である
エンジニア視点での読みどころ
自己帰属感を意識した UI デザイン実装
開発現場では、コンセプト設計やデザインミーティングにおいて、AdobeXD や Figma を用いてデザイナーやフロントエンジニアが時間をかけて議論を行うが、
多くが、静止画、もしくは、静止画を組み合わせたパラパラ漫画が評価対象であり、
人間の知覚世界には欠かせない「時間性」を考慮に入れられていない
その結果、UX(「体験」)にとって重要なインタラクションや挙動については実装者の裁量で決定されることが多い
デザイナーだけでなく、フロントエンジニアが「透明性」「自己帰属感」の高いサービスを作ろうという意識を持つだけで、設計時・実装時のクオリティが向上すると考えている
🚀 エンジニア視点での気づき ①
フロントエンジニアが「透明性」「自己帰属感」を意識することで、設計時・実装時のクオリティが向上する
プロトタイピングファースト、攻める技術選定、ユーザ検証の質
本書では 、MIT メディアラボの「Demo or Die」スローガンを例に、「何をやっても新しい」「何でもやらなければならない」というメッセージを残している
CodeSandbox や Vercel 等のデモ環境を用いて、完成度よりも「驚き」を求めた実装アプローチ、技術やデザイン選定戦略を取ることが新たな知覚世界創造には必要である
加えて、ユーザテストでは、単に利用者の意見や感想を集めるのではなく、利用者が行った操作から利用者の反応や思考を考察し、新たなサービスとのインタラクション(関係性)を探ることが、真のデザイン検証(インタラクション評価)であると思う
🚀 エンジニア視点での気づき ②
軽量デモ環境を用いて、プロトタイピングファースト思想で、挑戦的な技術選定戦略と素早いリリース、ユーザーの操作行動から新たなインタラクションを探る真のデザイン検証が必要
パフォーマンスだけに囚われない
エンジニアがアプリケーションを評価する際に、「パフォーマンス」「レスポンスタイム」等が挙げられることが多いが、速さはあくまでも自己帰属感を高める要素(連動性を高める要素)として重要なのであり、速さ以上に自己帰属感が大事である
単純な数値最適化ではなく、ユーザの知覚に基づく最適化、ユーザ体験を重視したパフォーマンスを意識したアプリケーション開発を意識すべきだと再認識しました
🚀 エンジニア視点での気づき ③
アプリケーションの「パフォーマンス」「レスポンスタイム」の重要性は、速さ自体ではなく自己帰属感を高める要素(連動性を高める要素)。単純な数値最適化ではなく、ユーザーの知覚に基づく最適化、体験重視のパフォーマンスが重要。
まとめ
従来のプロダクト・メディア依存のデザインから、人間の知覚・行為と環境の関係性を重視した「体験設計」への転換を提唱したものだった。エンジニアにとっても、自己帰属感や透明性を意識した実装により、真のユーザー体験を創造する重要性を学べる一冊。
また AI の登場によって AI が自律的に判断し行動出来るようになり、更なる UX の進化が期待されているが、
下記の記事でも言及しているように、AI によるシステムの自律性を活かしながらも、ユーザーに主導権を感じさせる設計が求められているのである
つまり、AI も透明化した道具としてユーザが制御しているような感覚が大事である
本書から得られる価値
- 新たな UI/UX、未来のテクノロジーとの向き合い方
- 技術実装を超えた体験設計の視点
- デザイン思考とエンジニアリングの融合
おすすめ度
★★★★☆ (4/5)
どんな人におすすめか
- UI/UX デザインに関わるデザイナーやエンジニア
- デザインをインプットにサービスを構築するフロントエンド開発者
- 未来の UI/UX の在り方に関心を抱く方
参考サイト
https://keita-lab.jp/projects/exui/
https://u-site.jp/alertbox/ten-usability-heuristics



