近年、多くの工場や建物管理システムでは、従来の PLC と固定HMI(Human Machine Interface) を中心とした構成から大きく進化しつつあります。
デバイス自体が周囲の状況を理解し、クラウドへ大量のデータを送らなくても、その場で判断して動作できる仕組み が求められるようになりました。
この変化の中心にあるのが エッジAI(Edge AI) です。
エッジAIとは、センサーやカメラから得られた情報を、クラウドではなく「機器の内部」で処理する技術のことです。
遅延が少なく、ネットワーク障害にも強く、機密データを外部に送る必要もないため、産業用途に極めて適しています。
この分野で注目されているプロセッサの一つが Rockchip RK3576 です。
このSoCは CPU、GPU、そしてNPU(ニューラルプロセッシングユニット)を1つのチップに統合し、HMIパネルに高度なAI推論能力を付与します。
Rocktech が提供する RK3576 搭載SBC と 産業用TFTディスプレイモジュール を組み合わせることで、次世代HMIを構築するための強力なプラットフォームが完成します。

1. エッジAI時代のHMI:なぜ今、ローカルAIなのか
これまで工場のHMIは、主に “現在値の表示” や “アラーム確認” に使われてきました。
しかし近年、現場では次のような新たな要求が高まっています。
- カメラ画像の瞬時判断(欠陥検出、安全監視)
- 設備の予兆検知(振動・温度・電流の解析)
- 作業者認識やロールベースUI
- ネットワークに依存しない意思決定
こうしたタスクは処理負荷が非常に高く、CPUだけではリアルタイム動作が難しい場合があります。
そこで有効なのが NPU によるAI推論の高速化 です。
RK3576 に内蔵された NPU は、数TOPSクラスの処理能力を持ち、AIモデルを高速・低消費電力で実行できます。
そのため、クラウドへ映像を送信せずとも、パネル内部で判断を下せます。
2. RK3576 の特徴:HMIをAI端末へ進化させるプロセッサ
RK3576 は次のような構成を持つ最新世代のアプリケーションプロセッサです。
● マルチコアCPU
産業用途に十分な処理能力で、OS・通信・制御ロジックを担当します。
● GPU
滑らかなアニメーションやモダンUIを構築できます。
● NPU(Neural Processing Unit)
AI推論を高速化する専用ハードウェア。
画像認識、分類、物体検出などをCPUより圧倒的に高速・低電力で処理できます。
● 豊富なI/O
カメラ(MIPI CSI)、ディスプレイ(MIPI DSI、LVDS、RGB)、USB、Ethernet、UART、CAN、RS-485 など産業用途に必須のインターフェースに対応。
この1チップにより、HMIパネルは単なる表示端末から、
「現場でAI判断を行うローカルAIノード」 へ進化します。
3. Rocktech のソリューション:SBC + TFT ディスプレイ統合プラットフォーム
SoC単体では製品は完成しません。
産業用途では次の条件が求められます。
- 長期供給
- 安定動作
- 温度・振動への耐久性
- 高品質ディスプレイとの適合
- OSサポート(Android / Linux)
Rocktech が提供するのは、こうした要件を満たした 統合ハードウェアプラットフォーム です。
● RK3576搭載SBC(シングルボードコンピュータ)
- 工業用インターフェース完備
- Android / Linux BSP
- NPUアクセラレーション対応
- eMMC / SSD など豊富なストレージオプション
● 産業用TFT/IPSディスプレイ
- 7インチ、10.1インチなど多サイズ
- 高輝度モデル対応
- MIPI/LVDS/RGB 接続
- 広視野角のIPSパネル
● PCAPタッチ + カバーガラス
- 厚みや形状のカスタム可
- 産業現場に耐える強化設計
この組み合わせにより、OEMやシステムインテグレーターはゼロから開発する必要がなく、
短期間でAI機能付きHMI製品を構築できます。
4. RK3576ベースのHMIアーキテクチャ例
RK3576を中心とした一般的な産業HMI構成は次の通りです。
- SoC: RK3576(CPU + GPU + NPU)
- SBC: Rocktech製、Ethernet/USB/CAN/RS485対応
- Display: 産業用10.1インチTFT/IPS(MIPIまたはLVDS)
- Touch: PCAPタッチパネル + 厚みカスタムのカバーガラス
- Camera: MIPI CSI or USB
- OS: Android、Linux
- AIモデル: TensorFlow / PyTorch / ONNX で学習後、RK3576向けに最適化
この構成により、HMIが画像認識・予兆保全・アクセス制御などを高速に実行できます。
5. RK3576で実現できる主要エッジAI用途
### 5.1 カメラによる外観検査
製造ラインに設置されたカメラをRK3576パネルに直結し、その場で不良品判定が可能になります。
- キズ検出
- ラベル欠品チェック
- 形状認識
- 統計可視化
クラウドへ動画を送らずに完結するため、遅延は最小限です。
5.2 作業者認証とアクセス制御
NPUで軽量顔認識モデルを実行し、次の機能を実現できます。
- 作業者自動認識
- 権限レベル別UI表示
- 多言語切替
- セキュリティ強化
外部カードリーダーを追加しなくても、1台のHMIで運用できます。
5.3 設備の状態監視・異常検知
振動センサーや電流センサーのデータをAIモデルで解析し、故障兆候を早期に検出できます。
5.4 ビル管理・エネルギー管理への応用
- HVAC(空調)の最適化
- 電力使用異常検出
- 人感 + CO₂ + 温度センサー連携
HMIがビル管理の“頭脳”として機能するようになります。
6. 統合ハードウェアを使うメリット
RK3576ベースのSBCと産業用ディスプレイをセットで採用することで、次の利点が得られます。
- 開発期間の短縮
- ディスプレイと制御基板の相性問題の排除
- 一元化されたサプライチェーン
- 筐体サイズ違いでも再利用可能
- AI機能は後付けで追加可能(NPU対応のため)
初期リリースではAIを使わなくても、後からモデルを追加するだけでAI対応HMIへアップグレードできます。
7. 将来の産業HMIは「AIノード」へ進化する
産業界では今後、
- 自律的に判断する設備
- 現場ですぐに推論を行うAI端末
- ネットワーク依存を最小化した制御
が求められます。
RK3576、Rocktech SBC、産業TFTディスプレイを組み合わせることで、
“従来のHMI = 単なる表示装置” という概念は完全に変わります。
HMI自体がデータの中継点ではなく、
「AI判断を行う現場の中核デバイス」 となる未来が訪れます。
8. まとめ
RK3576 は CPU、GPU、NPU を統合した強力なSoCで、
産業用HMIにエッジAI能力を付与する理想的な選択肢です。
Rocktechが提供する:
- RK3576 SBC
- 産業用TFT/IPSディスプレイ
- PCAPタッチ + カバーガラス
を組み合わせることで、次世代AI対応HMIをスピーディーに構築できます。
外観検査、異常検知、作業者認証、スマートビル管理など、
幅広い用途を1台のHMIで実現できるようになります。