こんにちは、GMOコネクトの名もなきエンジニアです。
よろしくお願いします!
日刊IETFは、I-D AnnounceやIETF Announceに投稿されたメールをサマリーし続けるという修行的な活動です!!
今回は、2025-10-20(UTC基準)に公開されたInternet-DraftとRFCをまとめました。
- Internet-Draft: 443件(本記事では376-400件目を掲載)
- RFC: 0件
※本日は投稿数が非常に多いため、25件ごとに分割して掲載しています。
参照先:
その日のサマリー & Hot Topics
第16部では、ネットワーク管理とデータモデリングの高度化が顕著です。RESTCONF・NETCONFのリストページネーション拡張、インベントリトポロジーマッピングYANGモデル、ネットワークエネルギー効率YANGモデルなど、大規模ネットワーク管理の効率化とグリーンネットワーキングへの対応が進んでいます。また、Model Context Protocol(MCP)を活用したインテントベースネットワークトラブルシューティングとネットワーク測定フレームワークが提案され、AI駆動型ネットワーク運用の新時代が到来しつつあります。
ポスト量子暗号(PQC)への移行も本格化しており、PQCアルゴリズムガイダンス、IKEv2での署名認証、リモートアテステーションと鍵交渉の統合など、量子コンピュータ時代のセキュリティ基盤整備が進展しています。Selective Disclosure CBOR Web Tokens(SD-CWT)により、プライバシー保護と認証の両立も実現されます。さらに、SRv6ドメイン間Flexible Algorithm、MPLS Network Action for DetNet、PFC・細粒度フロー制御、マルチキャストMoE活用など、次世代ネットワークアーキテクチャと大規模AI基盤の標準化も加速しています。
投稿されたInternet-Draft
FANTEL Use Cases and Requirements in Wide Area Network
WANにおけるAIサービスに関連する主要シナリオと、それらのシナリオにおけるFANTEL(FAst Notification for Traffic Engineering and Load balancing)の要件を紹介します。従来のネットワーク管理メカニズムは、遅いフィードバックと高いオーバーヘッドによって制約され、リンク障害・輻輳・負荷不均衡への迅速な反応が困難でした。AIサービスは超高スループットと無損失データ伝送を必要とするため、FANTELによるリアルタイム・プロアクティブな通知が求められます。
RESTCONF Extensions to Support List Pagination
RESTCONFプロトコルを拡張し、大規模リストの効率的な取得を可能にするページネーション機能を追加します。クライアントは必要なデータのサブセットのみを取得でき、サーバーは一度に処理するデータ量を制限できます。ネットワーク管理システムのスケーラビリティとパフォーマンスを大幅に向上させます。大規模ネットワークインベントリやルーティングテーブルの効率的な管理を実現します。
Post-Quantum Algorithms guidance
ポスト量子暗号(PQC)アルゴリズムの選択と実装に関するガイダンスを提供します。NIST標準化プロセスで選定されたアルゴリズムの特性、適用領域、実装時の考慮事項を解説します。量子コンピュータの脅威に対応し、長期的なセキュリティを確保するための移行計画を支援します。デジタル署名、鍵交換、暗号化における具体的な推奨事項を含みます。
NETCONF Extensions to Support List Pagination
NETCONFプロトコルを拡張し、大規模リストデータの効率的な取得を可能にするページネーション機能を追加します。RESTCONF拡張と同様のアプローチで、ネットワークデバイスから大量の設定・状態情報を効率的に取得できます。管理システムのメモリ使用量削減とレスポンス時間改善に貢献します。
Selective Disclosure CBOR Web Tokens (SD-CWT)
CBOR Web Token(CWT)に選択的開示機能を追加し、プライバシー保護と認証の両立を実現します。トークン保有者は必要な属性のみを検証者に開示でき、不要な個人情報の露出を防ぎます。IoT環境やリソース制約デバイスにおける軽量な認証・認可メカニズムを提供し、ゼロトラストアーキテクチャとプライバシー重視システムに適しています。
A YANG Network Data Model for Inventory Topology Mapping
ネットワークインベントリとネットワークトポロジー間のマッピングを表現するYANGデータモデルを定義します。物理デバイス、論理ネットワーク要素、トポロジー構成要素の関係を明確化し、ネットワーク全体の可視性を向上させます。障害分析、容量計画、サービスプロビジョニングにおける意思決定を支援します。
List Pagination for YANG-driven Protocols
YANG駆動型プロトコル(RESTCONF、NETCONF)におけるリストページネーションの共通フレームワークを定義します。大規模データセットの効率的な取得、メモリ使用量の削減、ネットワーク帯域の最適化を実現します。統一されたページネーションセマンティクスにより、異なるプロトコル間の相互運用性を確保します。
Guidelines for Characterizing "OAM"
Operations, Administration, and Maintenance(OAM)機能を特徴付けるためのガイドラインを提供します。OAMの定義、分類、評価基準を明確化し、新しいOAMプロトコルや機能を設計・評価する際の共通フレームワークを確立します。ネットワーク運用者が適切なOAMツールを選択し、効果的な障害管理と性能監視を実現できるよう支援します。
Using the Model Context Protocol (MCP) for Intent-Based Network Troubleshooting Automation
Model Context Protocol(MCP)を活用したインテントベースネットワークトラブルシューティング自動化を提案します。ネットワーク管理者の意図を理解し、AIエージェントが自動的に問題を診断・解決します。大規模言語モデル(LLM)とネットワーク管理ツールを統合し、人間の専門知識とAIの処理能力を組み合わせた高度な運用自動化を実現します。
MPLS Network Action for Deterministic Networking
Deterministic Networking(DetNet)におけるMPLS Network Actionを定義します。時間制約のある通信において、パケット処理の決定論的な動作を保証します。産業オートメーション、自動運転、リアルタイム制御システムなど、厳密なタイミング要件を持つアプリケーションのためのMPLSベース伝送を実現します。
MCP-based Network Measurement Framework: Using Model Context Protocol for Intelligent Network Measurement
Model Context Protocol(MCP)を利用したインテリジェントネットワーク測定フレームワークを提案します。AIエージェントがネットワーク測定を自動化し、測定結果を分析・解釈します。動的な測定計画、異常検出、パフォーマンス最適化をAI駆動で実現し、ネットワーク可視性と運用効率を大幅に向上させます。
Usecase and requirement of deploying PFC and fine-grained flow control
Priority Flow Control(PFC)と細粒度フロー制御のユースケースと要件を定義します。データセンターネットワークにおける輻輳管理を改善し、無損失伝送を実現します。RDMA over Converged Ethernet(RoCE)、AI/MLワークロード、分散ストレージなど、低遅延・高スループット要件を持つアプリケーションのネットワーク基盤を強化します。
BGP Extensions for Inter-Domain Flexible Algorithm with Segment Routing over IPv6 (SRv6)
Segment Routing over IPv6(SRv6)を使用したドメイン間Flexible Algorithmを実現するBGP拡張を定義します。異なる自律システム間で柔軟な制約ベースルーティングを可能にし、遅延最適化、帯域保証、リンク属性ベースパス選択などの高度なトラフィックエンジニアリングをドメインを横断して実現します。
Signature Authentication in the Internet Key Exchange Version 2 (IKEv2) using PQC
Internet Key Exchange Version 2(IKEv2)におけるポスト量子暗号(PQC)を使用した署名認証を定義します。量子コンピュータの脅威に対応したVPN接続を確立し、長期的なセキュリティを保証します。ML-DSA(Dilithium)、SLH-DSA(SPHINCS+)など、NIST標準化PQCアルゴリズムのIKEv2への統合を規定します。
Integration of Remote Attestation with Key Negotiation and Key Distribution mechanisms
リモートアテステーションを鍵交渉および鍵配布メカニズムと統合する方法を定義します。デバイスの信頼性を検証しながら安全に鍵を交換し、ゼロトラストアーキテクチャにおける強固なセキュリティ基盤を構築します。TLS、IKEv2、その他の鍵交換プロトコルとRATSアーキテクチャの統合パターンを提供します。
Stateless Encryption Scheme of Enhanced Encapsulating Security Payload (EESP)
Enhanced Encapsulating Security Payload(EESP)のステートレス暗号化スキームを定義します。従来のIPsecと比較して、状態管理のオーバーヘッドを削減し、高速パケット処理を実現します。大規模ネットワークやクラウド環境における効率的なセキュリティ通信を可能にし、スケーラビリティとパフォーマンスを両立します。
A YANG Data Model for network energy efficiency
ネットワークエネルギー効率を表現するYANGデータモデルを定義します。電力消費、エネルギー効率メトリクス、グリーンネットワーキング機能の設定・監視を標準化します。持続可能なネットワーク運用を実現し、環境負荷削減とコスト最適化を支援します。カーボンニュートラル目標達成に向けたネットワーク管理の重要な基盤となります。
Publishing End-Site Prefix Lengths
エンドサイトのプレフィックス長をルーター広告で公開する方法を定義します。ホストはより正確なネットワーク境界情報を取得でき、適切なアドレス選択とルーティング判断が可能になります。IPv6ネットワークにおけるマルチホーミング、モビリティ、プレフィックス委任シナリオでの動作を改善します。
Carrying Network Resource (NR) related Information in IPv6 Extension Header
IPv6拡張ヘッダーでNetwork Resource(NR)関連情報を伝送する方法を定義します。ネットワークリソースパーティション情報をパケットに付加し、差別化サービス、トラフィックエンジニアリング、リソース分離を実現します。5Gスライシング、エンタープライズネットワーク、クラウドサービスにおける柔軟なリソース管理を支援します。
Domain Name Specification for DKIM2
DomainKeys Identified Mail version 2(DKIM2)のドメイン名仕様を定義します。電子メール認証の次世代プロトコルにおけるドメイン識別と署名検証を改善し、なりすまし対策を強化します。DNSインフラストラクチャとの統合を最適化し、メール配信の信頼性とセキュリティを向上させます。
Scalability Considerations for Network Resource Partition
Network Resource Partition(NRP)のスケーラビリティに関する考察を提供します。大規模ネットワークにおけるリソースパーティション実装の課題、状態管理、制御プレーンのオーバーヘッド、データプレーンの効率性を分析します。実用的なNRP展開のための設計原則とベストプラクティスを提示し、持続可能なネットワークスライシングを実現します。
Congestion Notification for Pause
ポーズフレームのための輻輳通知メカニズムを定義します。Ethernet Pause機能を拡張し、より細粒度な輻輳情報を提供します。データセンターネットワークにおけるフロー制御を改善し、無損失伝送とネットワーク利用効率の両立を実現します。RDMA、高性能コンピューティング、ストレージネットワークに最適化されたメカニズムです。
Ingress Replication BUM flag in VXLAN
VXLANにおけるIngress Replication BUM(Broadcast, Unknown unicast, Multicast)フラグを定義します。ブロードキャスト・マルチキャストトラフィックの転送方法を最適化し、オーバーレイネットワークにおけるスケーラビリティを向上させます。データセンターファブリックとクラウドネットワークにおける効率的なマルチテナント環境を実現します。
Multi-Topology in PIM
Protocol Independent Multicast(PIM)におけるマルチトポロジーサポートを定義します。異なるトポロジーで異なるマルチキャストトラフィックを転送することを可能にし、マルチキャストルーティングの柔軟性を向上させます。ネットワーク仮想化、トラフィック分離、QoS差別化を実現し、複雑なマルチキャスト要件に対応します。
Multicast usage in LLM MoE
Large Language Model(LLM)のMixture of Experts(MoE)アーキテクチャにおけるマルチキャスト利用を提案します。分散AI推論システムにおいて、モデルパラメータやアクティベーションデータを効率的に配信します。AIクラスターのネットワーク帯域を削減し、推論レイテンシを改善します。大規模AI基盤を支えるネットワークインフラストラクチャの最適化に貢献します。
編集後記
第16部では、ネットワーク管理の次世代化と量子耐性セキュリティへの移行が顕著です。RESTCONF・NETCONFのページネーション拡張は、大規模ネットワークインベントリ管理の実用性を大幅に向上させます。特に注目すべきは、Model Context Protocol(MCP)を活用した2つの提案です。インテントベースネットワークトラブルシューティングとインテリジェントネットワーク測定は、LLMとネットワーク運用の融合により、人間の意図を理解するAI駆動型ネットワーク管理の新時代を予感させます。
ポスト量子暗号への対応も本格化しており、PQCアルゴリズムガイダンス、IKEv2での署名認証、リモートアテステーションとの統合など、包括的なセキュリティ基盤が整備されつつあります。SD-CWTによるプライバシー保護認証は、IoT環境における実用的なゼロトラスト実装を可能にします。また、LLM MoEにおけるマルチキャスト活用提案は、AI時代のネットワークインフラがどうあるべきかという重要な問いに答えています。大規模AI推論の効率化には、ネットワーク層での最適化が不可欠であり、今後この分野の標準化が加速するでしょう。第17部もお楽しみに!
最後に、GMOコネクトでは研究開発や国際標準化に関する支援や技術検証をはじめ、幅広い支援を行っておりますので、何かありましたらお気軽にお問合せください。