はじめに
データエンジニアリングの現場では、「データの取り込み」「品質チェック」「増分処理」「複数ソースの統合」「マスターデータの同期」といった課題に日々直面します。これらを個別に解決しようとすると、複雑なコードと運用負荷が積み重なっていきます。
Lakeflow Spark宣言型パイプライン(SDP)は、これらの課題をSQLとPythonの宣言的な記述だけで解決するフレームワークです。
本シリーズ「Lakeflow SDP入門:基礎から実践まで」では、SDPの基本概念から実践的なパターンまでを5つのレベルに分けて段階的に学びます。各記事は独立したハンズオンを含み、実際に手を動かしながら理解を深められる構成になっています。
本シリーズのすべてのハンズオンは、無料のDatabricks Free Editionで実行できます。 クレジットカード不要で、今すぐ始められます。
学習パス一覧
| Level | タイトル | 所要時間 | 学ぶ概念 |
|---|---|---|---|
| 1 | SQLだけで始めるLakeflow SDP | 30分 | マテリアライズドビュー、パイプライン |
| 2 | Lakeflow SDPでデータ品質を守るエクスペクテーション | 30分 | エクスペクテーション、データ品質 |
| 3 | Lakeflow SDPの増分処理とストリーミングテーブル | 45分 | ストリーミングテーブル、増分処理 |
| 4 | Lakeflow SDPのフローを理解する | 45分 | フロー、append_flow、ONCE |
| 5 | Lakeflow SDPのAUTO CDCでマスターデータ同期 | 60分 | AUTO CDC、SCD Type 1/2 |
各レベルの概要
Level 1: SQLだけで始めるLakeflow SDP
学ぶこと: マテリアライズドビュー(MV)とパイプラインの基本
SDPの最初の一歩として、SQLだけでデータパイプラインを構築します。マテリアライズドビューを使って、ソーステーブルから集計結果を自動的に更新する仕組みを学びます。
CREATE MATERIALIZED VIEW daily_sales AS
SELECT date, SUM(amount) as total
FROM sales
GROUP BY date;
こんな方におすすめ: SQLは書けるが、SDPは初めての方
Level 2: エクスペクテーションでデータ品質を守る
学ぶこと: データ品質チェックの宣言的な記述方法
本番環境では「NULLが混入した」「想定外の値が入った」といった問題が発生します。エクスペクテーションを使えば、品質ルールを宣言的に定義し、違反時の挙動(警告/除外/停止)を制御できます。
CREATE MATERIALIZED VIEW clean_orders (
CONSTRAINT valid_amount EXPECT (amount > 0) ON VIOLATION DROP ROW
) AS SELECT * FROM raw_orders;
こんな方におすすめ: データ品質管理の仕組みを導入したい方
Level 3: 増分処理とストリーミングテーブル
学ぶこと: 効率的な増分処理の仕組み
毎回全データを再処理するのは非効率です。ストリーミングテーブル(ST)とAuto Loaderを使えば、新しく追加されたデータだけを処理できます。
CREATE STREAMING TABLE orders_bronze;
CREATE FLOW ingest_orders AS
INSERT INTO orders_bronze BY NAME
SELECT * FROM STREAM read_files('/path/to/files/', format => 'csv');
こんな方におすすめ: 大量データの効率的な処理方法を学びたい方
Level 4: フローを理解する
学ぶこと: 複数ソースの統合とバックフィル
STでは「テーブル定義」と「データ挿入(フロー)」が分離されています。これにより、複数のソースから1つのテーブルにデータを統合したり、過去データを1回だけバックフィルしたりできます。
CREATE STREAMING TABLE all_orders;
CREATE FLOW online_orders AS INSERT INTO all_orders ...;
CREATE FLOW store_orders AS INSERT INTO all_orders ...;
CREATE FLOW backfill_2023 AS INSERT INTO ONCE all_orders ...;
こんな方におすすめ: 複数データソースの統合パターンを学びたい方
Level 5: AUTO CDCでマスターデータ同期
学ぶこと: 変更データキャプチャ(CDC)の処理
マスターデータ(顧客情報など)は追記だけでなく、更新や削除も発生します。AUTO CDCを使えば、複雑なMERGE文を書かずにCDCイベントを処理できます。
CREATE STREAMING TABLE customers;
CREATE FLOW sync_customers AS
AUTO CDC INTO customers
FROM STREAM cdc_source
KEYS (id)
SEQUENCE BY event_time
STORED AS SCD TYPE 2;
こんな方におすすめ: マスターデータの同期や履歴管理を実装したい方
SDPの主要概念マップ
前提条件
本シリーズを始めるには以下が必要です:
- Databricksワークスペースへのアクセス - Free Editionで無料で利用可能
- Unity Catalogが有効化されていること - Free Editionではデフォルトで有効
- SQLの基本的な知識
推奨する学習順序
初めてSDPを学ぶ方: Level 1 → 2 → 3 → 4 → 5の順番で進めてください。各レベルは前のレベルの知識を前提としています。
特定のトピックを学びたい方:
- データ品質管理だけ知りたい → Level 1 → Level 2
- 増分処理を理解したい → Level 1 → Level 3
- CDCを実装したい → Level 1 → Level 3 → Level 5
