スクラムに関する研修・資格周りの情報は複雑過ぎる(と、私は感じています)。本記事ではスクラムの研修・資格に関連する企業・組織、資格および、研修の効果的な受講方法を解説します。
第1話では、ジェフ・サザーランド、ケン・シュエイバー、野中郁次郎 先生、竹内弘高 先生について詳細に解説しました [第1話へ]
この第2話では、スクラムの資格の研修を実施している企業・機関および、各種スクラムの資格について解説します。
スクラム関連の研修を検討する際、どの研修を受講するのが良いのか判断に困ることが多いのは、これらの情報が丁寧に解説された記事が少ないためだと、私は感じています。
本記事では、各組織について、丁寧に整理したいと思います。
なお、第3話では、なぜこれほどスクラム関連の研修・資格の情報は複雑でややこしいのかを解説します。
(全4話構成です)
本記事の後半では、スクラム関連の研修を効果的に選択・受講する方法についても解説いたします。
※本記事は全4話構成のスクラムシリーズの「第2話」です
・第1話:スクラムの重要人物を詳細解説
・第2話:スクラム関連の研修・資格のまとめ & おすすめの研修受講方法
・第3話:スクラム研修・資格周りの歴史を解説:なぜケンはScrum.orgを設立したのか?
・第4話:ジェフ・サザーランドはいかに竹内・野中論文に出会ったのか?大学時代から解説
<本話の目次>
第1章 スクラムに関連する企業・組織
[1] Scrum Alliance
[2] Scrum Inc.
[3] その他のCertified Scrum(認定スクラム)資格の研修提供企業
[4] Scrum.org
[5] Scrum Inc. Japan
第2章 スクラムの各種資格
[1] Certified Scrum(認定スクラム)
[2] Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)
[3] Licensed Scrum(Scrum Inc.認定スクラム)
[4] Registered Scrum(Scrum Inc.登録スクラム)
第3章 スクラム研修を効果的に選択・受講する4つのコツ
[1] 研修前に書籍1冊でも読んでいるだけで違う
[2] 「Certified Scrum(認定スクラム)資格」を受講検討する場合は、講師について調べよう
[3] 日本語で日本の企業文化や制度に合わせたものを期待するなら「Licensed Scrum by Scrum Inc. Japan」
[4] 資格の有効期間、資格更新時のコスト、手間を事前に考慮しよう
第1章 スクラムに関連する企業・組織
[1] Scrum Alliance
Scrum Alliance社は、2002年にケン・シュエイバーがマイク・コーン、エスター・ダービーとともに設立した機関、企業です(ケン57歳頃)。
Scrum Allianceは 「Certified ScrumMaster(日本では 「認定スクラムマスター」 と呼ばれます)」をはじめとした、「Certified Scrum(認定スクラム)」 と呼ばれるスクラムの各種資格を認定している組織です。
(「Certified Scrum(認定スクラム)」については次章で解説します)
おおざっぱに一言で表すと、
「Scrum Allianceはスクラムの共同開発者であるケン・シュエイバーが中心となって2002年に立ち上げた、Certified Scrum(認定スクラム)と呼ばれるスクラム資格を認定する組織」、です。
[2] Scrum Inc.
Scrum Inc.社は、スクラムの共同開発者であるジェフ・サザーランドが2006年に起業した、スクラムの研修および資格認定の企業です(ジェフ65歳頃)。
2002年にケン・シュエイバーらが「Scrum Alliance」を立ち上げ、「Certified Scrum(認定スクラム)資格」の普及を開始したとき、ジェフ・サザーランドもトレーナー役を個人的に引き受けたりして、支援していました。
そして、本格的にScrum Allianceを支援し、Certified Scrum(認定スクラム)資格の普及を推進する教育研修(およびスクラムの導入支援、コーチング)の企業として、ジェフ・サザーランドが2006年にScrum Inc.社を起業しました。
そのため初期のScrum Inc.社は「Certified Scrum(認定スクラム)」の研修(およびその他のコーチングや支援など)を実施する研修会社でした。
現在はScrum Inc.社独自の資格認定と研修などを実施しています。
おおざっぱに一言で表すと、
Scrum Inc.はCertified Scrum(認定スクラム)の資格の研修会社として2006年にジェフ・サザーランドが立ち上げ、現在はScrum Inc.社独自のスクラム資格を認定・研修したりしている企業、です。
なお、大規模スクラムのひとつである 「Scrum@Scale」 は、このジェフ・サザーランド率いるScrum Inc.社が提唱するフレームワークです。
[3] その他のCertified Scrum(認定スクラム)資格の研修提供企業
日本語もしくは、日本語通訳付きで「Certified Scrum(認定スクラム)」の各種、たとえばCertified ScrumMaster(認定スクラムマスター)の研修を提供している代表的な企業様としては以下が挙げられます。
■ Odd-e Japan様 認定スクラムトレーニング
https://www.odd-e.jp/training/
■ アギレルゴ様 アジャイル研修
https://www.jp.agilergo.com/training
■ Agile Business Institute様
https://www.abi-agile.com/
「Certified Scrum(認定スクラム)」ではスクラムマスター、プロダクトオーナー、開発者、それぞれに対して、3つのレベルの資格研修が用意されています。ただし、
レベル1の Certified Scrumは日本語同時翻訳コースが多いですが、
レベル2の Advanced Certified Scrum や、
レベル3の Certified Scrum Professional は、
ほとんど日本語翻訳してくれるコースはなく、英語で受講する必要があります。
レベル1については、スクラムマスター、プロダクトオーナー、開発者、どの役割に対しても日本語版研修が用意されています。
[4] Scrum.org
ここまでの内容であれば、「Certified Scrum(認定スクラム)の各種資格」を認定する「Scrum Alliance」と、その研修企業各社だけが存在しており、非常にシンプルな状態でした。
ここから話が複雑になり、スクラムの研修・資格周りの情報が分かりにくくなっていきます。
2009年、「Scrum Alliance」を立ち上げ、「Certified Scrum(認定スクラム)の各種資格」を整えていったケン・シュエイバーがScrum Allianceを離脱します 。
(※なぜケンはScrum Allianceを去ったのかについては、第3話で解説します)
そしてケン・シュエイバーが新たにスクラム普及のために作成した組織が 「Scrum.org」 です(ケン64歳頃)。
このScrum.orgが認定する資格が「Professional Scrum Master(プロフェショナルスクラムマスター)」をはじめとした、「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」 の各種資格 です。
(「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」については次章で解説します)
なお、Scrum.orgでは「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)の各種資格」の研修は、他社に任せるのではなく、Scrum.orgが自らが管轄して主催しています。
Scrum Allianceはいろいろな研修会社にその研修を任せていますが、Scrum.orgは自分たちの資格の研修を自分たちで実施しています。
このあたりが、ケン・シュエイバーが自分で立ち上げたScrum Allianceを辞めて、組織を作り直した理由に繋がっています。第3話にて詳細を解説します。
おおざっぱに一言で表すと、
Scrum.orgは2009年にケン・シュエイバーが立ち上げた、Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)と呼ばれるスクラムの資格の認定および研修を提供する組織、です。
なお、大規模スクラムのひとつである 「Nexus」 は、このケン・シュエイバー率いるScrum.orgが提唱するフレームワークです。
[5] Scrum Inc. Japan
第1章の最後に「Scrum Inc. Japan」について紹介します。
「Scrum Inc. Japan」は、ジェフ・サザーランドが設立したScrum Inc.社と、日本のKDDI株式会社様、株式会社永和システムマネジメント様の3社による合弁会社として、2019年に設立されました。
設立時の発表記事を以下に掲載します。
なお永和システムマネジメント社の代表取締役社長は、日本のスクラムの第一人者である、平鍋健児さんです(私は平鍋さんから勝手にたくさんの影響をいただいており、私がとても尊敬している方です)。
平鍋さんは、書籍「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」の著者としても有名です(野中先生との共著) [書籍 Amazon link]。
また、平鍋さんが野中郁次郎先生に「先生の製造業でのSCRUM論文がソフトウェア開発でいま活用されているのですよ」と伝え、日本においてジェフ・サザーランドと野中郁次郎先生を繋ぎ合わせたりしてくださっています。
このように、日本でのスクラム普及に向けて取り組んでいるのが「Scrum Inc. Japan」となります。
「Scrum Inc. Japan」の特徴は、日本でのスクラム普及に向けて、日本語でスクラム関連の研修を実施している点が挙げられます。
また、日本のビジネス背景を考慮されたスクラム研修という点も、他組織の研修との大きな違いと言えます(スクラムの基本部分は当然、どこの国でも同じですが)。
「Scrum Inc. Japan」が提供している研修は、「Certified Scrum(認定スクラム)」でも、「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」でもありません。
Scrum Inc.社でジェフ・サザーランドが作成した 、「Scrum Inc.認定スクラムマスター研修」(Licensed Scrum Master Training) など「Scrum Inc.認定スクラム」(Licensed Scrum)の各種資格の研修を実施しています。
そのため、資格を認定しているのは、ジェフ・サザーランドが立ち上げた、米国のScrum Inc.社となります [(参考) Scrum Inc.認定資格の取得の流れを教えてください]。
そして、その資格の研修を実施しているのが、「Scrum Inc. Japan」となります。
おおざっぱに一言で表すと、
「Scrum Inc. Japan」はジェフ・サザーランドが作成し、Scrum Inc.社が認定する、Licensed Scrum(Scrum Inc.認定スクラム)と呼ばれるスクラムの資格の研修を実施している企業、です。
以上、第1章ではスクラムに関連する企業・組織として、
[1] Scrum Alliance
[2] Scrum Inc.
[3] その他のCertified Scrum(認定スクラム)資格の研修提供企業
[4] Scrum.org
[5] Scrum Inc. Japan
を紹介しました。
第2章ではスクラムの各種資格について解説します。
第2章 スクラムの各種資格
[1] Certified Scrum(認定スクラム)
ここまでに紹介した通り、「Certified Scrum(認定スクラム)」は、スクラムの認定資格の一つです。
世界的にも最も有名な資格です。
現在は、スクラムマスター、プロダクトオーナー、開発者向けの研修・認定が3レベルずつ用意されています(以下、資格一覧ページへ)。
https://www.scrumalliance.org/get-certified
おおざっぱに一言で表すと、
「Certified Scrum(認定スクラム)」の各種資格を認定するのが「Scrum Alliance」であり、研修を提供している企業は世界中にあります。基礎レベルであれば、日本語同時通訳で研修を開催をしている研修会社もあります。
なお、注意点ですが、Certified Scrum(認定スクラム)の各種資格を取得するには、研修受講が必須となります。
研修費用は取得したい資格の種類、研修会社によってまちまちですが、20万円程度のイメージです。
研修の後、資格試験があるのですが、基本的には研修をにきちんと取り組んでいれば合格するレベル(だそうです)。
ちなみに2020年のデータでは、日本での「認定スクラムマスター資格」の保有者数は5,700人、アメリカはその50倍以上で33万1,000人だそうです。
外部ブログ「アメリカの認定スクラムマスターの数は日本の50倍以上!!!」(上記画像引用元)
[2] Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)
おおざっぱに一言で表すと、
スクラムの共同開発者であるケン・シュエイバーが立ち上げた組織、Scrum.orgが認定するスクラムの資格が「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)の各種資格」です。
なお「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)の各種資格」は、研修の受講は必須ではありません。そのため、試験に合格するだけで、資格が取得できます。
ただし各資格に対応した研修が用意されていないわけではありません。
きちんとScrum.orgが研修を主催しています。
単に、資格取得に際して、研修は受講必須ではない、という意味になります。
なお「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)の各種資格」は日本語への対応がなく、全て英語などになります(研修も試験も)。
現在は、スクラムマスター、プロダクトオーナー向けの研修・認定が3レベルずつ用意されています。
開発者向けコースは1つのレベルのみです(※レベルが低い基礎コースというわけではなく、一種類だけという位置づけです)。
以下、資格一覧ページへ。
試験受講料の2万円弱程度~のみで資格が取得できます(試験に合格すれば)。
ただし、試験問題は難易度が高いです。
レベル「I」の資格試験の場合、受験時間は60分、選択問題(多肢選択含む)の形式で、問題数は80問、合格基準は85%以上です。
そのため英語で1問を45秒のペースで、問題文を読んで、選択肢を読んで、回答します。
そして約68問/80問を正解しないといけない(※12問しか間違えれない※)というレベル感です。
ちなみに現時点で、「Professional Scrum Master I(プロフェショナルスクラムマスター I)」の資格取得者数は、約47万5,000人となっています。
「認定スクラムマスター資格」の保有者数より、少し少ないかな?くらいで、同程度の認知度、資格保有者数となっています。
海外のブログ記事でも、「Certified Scrum MasterとProfessional Scrum Masterはどっちを取得するの良いですか~?」という比較記事が多く見かけます。
「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」は、ほぼほぼ日本に上陸していないと言える状況ですので、日本人の資格保有者は「認定スクラム」に比べると、とても少ない(と思います)。
(株式会社ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック様のみが取り扱っている?という状況です)。
なお私は以下の3つを資格を取得しています。プロフェッショナルスクラムは、本人が許可すれば資格取得者情報をScrum.orgのサイト上で公開できます。
・Professional Scrum Master I
・Professional Scrum Product Owner I
・Professional Scrum Developer I
[3] Licensed Scrum(Scrum Inc.認定スクラム)
ジェフ・サザーランドが研修を作成し、 「Scrum Inc. Japan」が研修を実施しているのが、「Scrum Inc.認定スクラムマスター研修」(Licensed Scrum Master Training)です 。
この研修を受講し終えると、 「Licensed Scrum Master(Scrum Inc.認定スクラムマスター)」 の資格取得の試験が受講できます。
そのため研修の受講は必須です(20万円程度)。
なお再掲となりますが、「Licensed Scrum Master」の資格を認定しているのは、ジェフ・サザーランドが立ち上げた、米国のScrum Inc.社となります [(参考) Scrum Inc.認定資格の取得の流れを教えてください]。
「Licensed Scrum(プロフェショナルスクラム)資格」としては、
・Scrum Inc.認定スクラムマスター研修(Licensed Scrum Master Training)
・Scrum Inc.認定スクラムプロダクトオーナー研修(Licensed Scrum Product Owner Training)
の2種類のみが用意されています。
なお資格レベルはありません。また、開発者向けの資格はありません。
「Licensed Scrum(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)資格」の研修は米国Scrum Inc.社では実施されておらず、「Scrum Inc. Japan」のみが開催しています。
日本語での研修がメインですが、ときおり英語での研修も開催されています。
■ Scrum Inc. 認定資格セミナーの詳細情報はこちら↓
以上、スクラムに関する資格を3つ紹介しました。
それぞれのスクラムマスター資格は以下のように3文字の略称で呼ばれることがあります。
以下にそれぞれの資格を認定している組織を【】内に記しました。文末には日本語での呼称を記載しています。
・CSM(Certified Scrum Master) 【Scrum Alliance】(認定スクラムマスター)
・PSM(Professional Scrum Master)【Scrum.org】(プロフェショナルスクラムマスター)
・LSM(Licensed Scrum Master) 【Scrum Inc.】(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)
[4] Registered Scrum(Scrum Inc.登録スクラム)
日本の方は上記の3種類のスクラム資格のいずれかを取得することになるかと思います。
他にもスクラムの資格は各種企業がいろいろな国で独自に展開しています。
ジェフ・サザーランドらのScrum Inc.は、現在は「Certified Scrum(認定スクラム)」ではなく、Scrum Inc.社が独自に開発した 「Registered Scrum」 の研修と資格認定をしています。
・RSM(Registered Scrum Master)【Scrum Inc.】(Scrum Inc.登録スクラムマスター)
・RPO(Registered Product Owner)【Scrum Inc.】(Scrum Inc.登録プロダクトオーナー)
RSMを持っている日本人はほとんどいなさそうですが、RSMというのもあるんだな~程度に覚えておいていただけると良いかと思います。
(※RSMとLSMは良く似ていそうな気がします。ロゴも似ていますし。ただし、同じ名称ではないですし、正確にはロゴも異なりますし、両者は同じ内容ですという記載も、私は見たことがありません。)
以上、第2章ではスクラムの各種資格として、
[1] Certified Scrum(認定スクラム)
[2] Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)
[3] Licensed Scrum(Scrum Inc.認定スクラム)
[4] Registered Scrum(Scrum Inc.登録スクラム)
を紹介しました。
ここまでの知識があれば、以下の図もすっと頭に入ってきやすいかと思います(まだ図中の解説していない部分は今後の話で登場します)。
結局、「Certified Scrum(認定スクラム)」にせよ、「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」にせよ、これらのメジャーな資格の上級資格の研修は英語での開催がほとんどです。
日本語での開講はほぼありません(基礎資格ですら、日本語通訳付き研修は稀です。すぐに満員になります)。
そのためスクラムを極めていくにあたって、英語で研修を受講できる能力がないと、そもそも上級の資格を学ぶことが難しいです。
このあたりが諸外国と比べた際に、日本ではスクラムがきちんと本質をとらえた形で浸透しきれていない?(と、私が感じる)理由の一つかもしれません。CSMやPSMの最上位資格を保有している日本人はほとんどいないでしょう・・・。
そのため私個人的には、「Scrum Inc. Japan」など、日本でのスクラムの浸透に関する活動に応援・貢献したいと思っています。
以上で第2章のスクラムの各種資格の紹介は終了です。 第3章ではスクラムの各種資格の研修を、効果的に選択・受講する方法について解説します。
第3章 研修を効果的に選択・受講する方
[1] 研修前に書籍1冊でも読んでいるだけで違う
最初はいずれかの資格の、スクラムマスターの研修 から受講するかと思います。
その際、「まったくスクラムについて未知の状態、もしくはちょっと聞きかじったことがある程度の状態」で受講するよりも、以下の2冊のどちらか、もしくは以下の順番で両方を読んでから研修を受講するのをおすすめします。
未知であやふやな状態で研修を受けると、高額な研修なのに、その効果は半減です。
たった本1冊で良いので、事前に読んで、スクラムに関連する単語などを簡単に把握しておくと、研修のより細やかな「価値ある部分」を頭に受け入れる余裕が生まれ、研修の効果の向上が期待されます。
(1)「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」、西村直人、永瀬美穂、吉羽龍太郎、翔泳社、2020年。[Amazon link]
(2)「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」、平鍋健児、野中郁次郎、及部敬雄、翔泳社、2021年。[Amazon link]
[2] 「Certified Scrum(認定スクラム)資格」を受講検討する場合は、講師について調べよう
スクラムの資格、研修を検討する場合、
・PSM(Professional Scrum Master)【Scrum.org】(プロフェショナルスクラムマスター)
・RSM(Registered Scrum Master)【Scrum Inc.】(Scrum Inc.登録スクラムマスター)
は、日本語で受講できない点から、ほぼ自動的に検討から外れるでしょう。
そのため、以下の二つから選ぶことになるかと思います。
・CSM(Certified Scrum Master) 【Scrum Alliance】(認定スクラムマスター)
・LSM(Licensed Scrum Master) 【Scrum Inc.】(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)
世界的に知名度が高く、資格保有者が多いのは「Scrum Alliance」が認定し、種々研修会社が実施している、CSM(Certified Scrum Master)です。
とくに、いつか外資系企業に転職する可能性がある場合や、国内企業であっても取得者数が多い資格を取得したい場合は、「CSM:Certified Scrum Master(認定スクラムマスター)」がおすすめです。
ただし、ほとんどのコースの講師は日本人ではないため、研修は同時通訳となります。
以下のサイトに日本でのCSMの今後の研修実施予定日がまとまっています。
上記のサイトで、近日中の日程で複数の研修会社のコースが見つかるかと思います。
どの研修会社、どの講師のコースを受講しても「CSM:Certified Scrum Master(認定スクラムマスター)」の研修としては同じ扱です。
ただし、重要な点があります。
それは、「講師」 によって研修の運営が大きく異なる点です。
CSMであれば、トータル12時間という点は変わりません。
最終的に得られるミニマムな知識、スキルも担保される(と思います)
とはいえ、講師によって変化する重要なポイントが2つあります。
1点目は、 講師によって、講義:Grワークの比率が異なります 。
私たちのチームのメンバーが異なる講師のCSMを受講してみたのですが、
「講義:Grワーク」の比率は、9:1の講師もいれば、6:4の講師もいました。
とくにリモート研修に切り替わってからは、講師によって、その運営スタイルに違いの差が大きくなっている(と思われます)。
ただし質は担保されているので、自分自身がGrワーク多めの研修が良いのか、少なめの講義スタイルに近い方が良いのかで講師を選択し、コースを選択するのが良いかと思います。
どの講師がどれくらいの「講義:Grワーク」の比率かは、社内の既存の受験者複数名に尋ねると良いでしょう(それしか方法が私には思い浮かばないです)。
また、with コロナの時代になり、最近はオフラインでの研修開催もはじまっています。
「リモートでのオンラインの研修」と「直接会場でのオフラインの研修」はどちらが良いか?という質問ですが、私としては、「実際の自分たちの働き方に合わせた方が良い」と考えています。
自社で自分たちの働き方がリモート主体であれば、リモートで開催されるスクラムマスター研修を受講することで、リモート環境で講師がどのようにファシリテートをしたり、ツールを活用したりするのかを学べるでしょう。
2つ目の重要ポイントは、講師がアウトプットしているブログや書籍を読んで、講師の専門性や解説力、人柄、能力を予想し、ぜひこの人から学んでみたいと思える講師を選ぶこと、です。
たとえば、私たちのチームのメンバーが受講した際の講師のMJさんですと、以下のブログを執筆されています(ご本人が英語で書いた記事を、サポーターの方が日本語に翻訳してくれています)。
こちらのブログは継続的にスクラムの学びを深めていくうえで、とても面白い(と私は感じています)。
以下の動画はプロダクトオーナーに関してです。
見たことがない方はぜひ。とても良い内容です(と私は、思います)。
動画はこちらです(MJさんのブログ内にも掲載されています)
他の講師ですと、Jim Coplien(ジム・コプリエン、正確にはJames O. Coplien)さんの研修を受けたメンバーもいました。
彼は、ジェフ・サザーランドとの共著もある、スクラム界隈でもとても有名な方です。
以下は、彼の出版書籍の例です。
(1)「組織パターン」、James O. Coplien、Neil B. Harriosn、和智右桂 (翻訳) 、翔泳社、2013年。[Amazon link]
(2)「A Scrum Book: The Spirit of the Game(未翻訳)」、Jeff Sutherland、James O. Coplien、Pragmatic Bookshelf社、2019年。[Amazon link]
このように、「CSM:Certified Scrum Master(認定スクラムマスター)」の研修の場合は誰が講師を務めるのかが事前に公開されているので、「ぜひこの人から学んでみたい!」 という観点で、受験する会社や研修日程を選ぶのもおすすめです。
[3] 日本語で日本の企業文化や制度に合わせたものを期待するなら「Licensed Scrum by Scrum Inc. Japan」
・CSM(Certified Scrum Master) 【Scrum Alliance】(認定スクラムマスター)
・LSM(Licensed Scrum Master) 【Scrum Inc.】(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)
のうち、日本語で研修が実施され、通常のスクラムのあり方に加えて、日本企業の文化や制度を考慮したスクラムのあり方を学びたい方は、「Scrum Inc. Japan」が研修を主催する、「Licensed Scrum(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)資格」とその研修が良いのでは、と私は考えています
(※私が実際に受講したことがないため、言い切ることはできませんが)。
研修自体はスクラムの共同開発者ジェフ・サザーランドが作成しており、その内容はお墨付きです。
「Scrum Inc. Japan」の今後のスクラムマスター研修の予定は以下に掲載されています。
また、私が個人的に気になっているが、平鍋健児さんが代表を務める株式会社永和システムマネジメント様(ESM)主催のScrum Inc.認定スクラムマスター研修です。
以下の「Scrum Inc. Japan」のブログにて、「ESM主催Scrum Inc.認定スクラムマスター研修」の提供開始と、このような研修を構築した狙いや研修内容の詳細が記載されています。
公式のHPはこちらになります。
個人的にはとても興味があるのですが、本記事執筆時点では「※次回開催は未定です」と記載されており、今後、継続的にチェックしたいところです。
・CSM(Certified Scrum Master) 【Scrum Alliance】(認定スクラムマスター)
・LSM(Licensed Scrum Master) 【Scrum Inc.】(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)
で迷うと、安直により有名な「CSM」を選んでしまいがちですが、日本企業でスクラムの実施を検討している場合、「Scrum Inc. Japan」が研修を主催する、「Licensed Scrum(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)資格」とその研修内容も、しっかりと検討すると良いと思います。
[4] 資格の有効期間、資格更新時のコスト、手間を事前に考慮しよう
最後にどの資格を取得するの検討する際に考慮すべき点は、資格の有効期間と資格を更新する際の手間・コスト面、です。
・PSM(Professional Scrum Master)【Scrum.org】(プロフェショナルスクラムマスター)
・CSM(Certified Scrum Master) 【Scrum Alliance】(認定スクラムマスター)
・LSM(Licensed Scrum Master) 【Scrum Inc.】(Scrum Inc.認定資格スクラムマスター)
のうち、
PSMなど、Scrum.orgの「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」は、そもそも研修の受講は必須ではありません。
試験のみで資格を取得でき、しかもその資格には有効期限がなく、永続的資格です。そのため更新は不要です。
ただし
-
「Professional Scrum(プロフェショナルスクラム)」は試験は英語のみで合格ボーダーラインも高く、研修必須でない分、試験合格の難易度が他の資格より難しい
-
資格が永続化されるからといって、スクラムについて最新の勉強を怠っては自分の価値が下がる。
とくにスクラムガイドは数年ごとに更新されてきているので、更新前のスクラムガイドで知識が止まっている状態では、資格を保持していても意味がない
です。
つづいてScrum Allianceの「Certified Scrum(認定スクラム)」です。
必須研修の受講後、試験を受けます。
ただし試験は、研修をきちんと受けていれば合格できる代物となってるようです。
「Certified Scrum(認定スクラム)」の資格有効期間は2年間です。
2年間の間に、種々、動画を視聴したり、研修を受講したり、イベントに参加したりなど様々な方法で、「Scrum Education Units(SEU)」を必要単位数取得します。
必要単位数は資格の種類によって異なります。
以下が公式ページですが英語です。日本語ページはありません。
”Certified Scrum 認定スクラム 更新” で検索して、日本語の解説ブログを読んでみると良いでしょう。
以下に一例を掲載します。
最後に、Scrum Inc.、Scrum Inc. Japanによる「Licensed Scrum(Scrum Inc.認定資格スクラム)」に関してです。
まず、資格の有効期間は1年間です。
Scrum Inc. Japanの記事、「Scrum Inc.認定資格の更新について」、では
各資格の有効期限は1年間となり、更新日の30日前・7日前に米国 Scrum Inc. から更新のご案内をご登録いただいたEメールアドレスまでお送りします。
更新にはオンライン試験合格(受験費用 $50, クレジットカードのみ対応)が必要となります。
ライセンスの有効期限内にお手続きください。
と、記載されており、1年ごとにオンライン試験に合格する必要があります。
(おそらく、更新の試験は、取得時の試験ほど難しいレベルではないと思いますが、スクラムの知見が頭からすっぽり全部ぬけて忘れた状態ですと、資格を更新できなくなるかもしれません)
”Licensed Scrum Scrum Inc.認定資格 更新” で検索して、解説ブログを読んでみると良いでしょう
以下に一例を掲載します。
最後に、書籍「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」の著者の一人である吉羽龍太郎さんのブログから、3つの資格を比較した記事も紹介します。
参考にしてみてください。
さいごに
以上本話では、スクラムの各種資格の認定と研修を実施している企業・機関、各種スクラムの資格、そしてスクラム関連の研修を効果的に選択・受講する方法を解説しました。
次回の第3話では、なぜこれほどスクラム関連の研修・資格の情報は複雑でややこしいのか、そのきっかけとなったケン・シュエイバーがScrum Allianceを脱退し、Scrum.orgを立ち上げた経緯を解説します。
以上、ご一読いただき、ありがとうございました。
⇒ 第3話:スクラム研修・資格周りの歴史を解説:なぜケンはScrum.orgを設立したのか?へ
【記事執筆者】
電通国際情報サービス(ISID)AIトランスフォーメーションセンター 製品開発Gr
小川 雄太郎
主書「つくりながら学ぶ! PyTorchによる発展ディープラーニング」
自己紹介(詳細はこちら)
【情報発信】
Twitterアカウント:小川雄太郎@ISID_AI_team
IT・AIやビジネス・経営系情報で、面白いと感じた記事やサイトを、Twitterで発信しています。
【免責】
本記事の内容そのものは執筆者の意見/発信であり、執筆者が属する企業等の公式見解ではございません