1. IBM Paverとは何か
- Claude CodeやIBM BobのようなAIコーディング支援の普及により、アプリケーション開発のスピードは大きく向上しました。一方、インフラストラクチャーの設計、構築、監視、障害対応、セキュリティー対策といった運用業務には、依然として多くの作業が自動化されていません。
- さらに、複数の管理ツールやCLIを使い分けながら、ログ、メトリクス、構成情報、変更履歴を横断的に確認し、状況に応じて判断しなければなりません。こうした環境の複雑さに加え、担当者の習熟に時間がかかること、ツールや作業が分断されていること、障害の切り分けが個人の経験に依存しやすいこと、変更作業にリスクが伴うことが、インフラ運用の大きな負担となっています。その結果、ITシステム全体において、アプリケーション開発に比べてインフラ運用がシステム全体の変革スピードを制約する要因のままとなっています。
- こうした課題に対してIBMが提供するのが、IBM Paverです。IBM Paverは、IBM Infrastructureのプラットフォームおよびサービスに組み込まれる、AI Agentです。単に質問へ回答するAIアシスタントではなく、利用者が実現したい結果を自然言語で伝えると、現在のインフラ環境を踏まえて作業計画を作成し、リスクを評価し、承認後に既存のインフラ運用ツールを通じて処理を実行することを目的に設計されています。
- ドキュメント
2. IBM Paver へのアクセス方法
IBM Infrastructureによって、提供方式・アクセス方式は異なります。IBM Cloudの場合は、IBM Cloudアカウントがあれば、Web UIまたはIBM Paver CLIからPaverとの会話を開始できます。しかも、月々 1000 Credit以内であれば無料でスタートできるところが嬉しいところです。ここでは、IBM Cloud版(SaaS)での利用方法をご紹介します。
2-1. コンソールアクセス
-
https://paver.cloud.ibm.com/ に直接アクセスするか、もしくは https://cloud.ibm.com にアクセスした後にナビゲーションを辿ることからでもアクセスできます。
- IBM PaverのGUI。
- プロンプト入力例。
2-2. CLIアクセス
Mac/Linux ユーザーであれば、
$ curl -fsSL https://paver.cloud.ibm.com/cli/install | bash
からPaver CLIをインストールします。Windowsユーザーはこちらを参照してください。
# 一般のログイン方法
$ paver login
# Federation設定をしているユーザーのログイン方法
$ paver login --sso
# API Keyを使ったログイン方法
$ paver login --apikey <your-api-key>
3. IBM Paverの代表的な機能
- Skills
- Skillsは、チーム固有のワークフローや専門知識をPaverに追加する仕組みです。一般的なクラウド知識だけでなく、組織内の運用手順、標準的な作業方法、特定システム向けの知識などを追加することで、より状況に合ったガイダンス、アクション、推奨事項を利用できます。Skillsを利用するためには、事前に利用するSkillをアップロードしておく必要があります。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/skills/
- Files
- 推論に利用するファイルもしくはフォルダを管理する機能です。Filesを利用するためには、事前に利用するファイルもしくはフォルダをアップロードしておく必要があります。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/files
- Keyring
- 資格情報やシークレットを毎回チャットへ貼り付けることなく、安全にセッションで利用するための仕組みです。シークレットを一度保存してエクスポートすると、Paverがセッション内で利用できるようになります。Keyringを利用するためには、事前に利用する資格情報やシークレットをアップロードしておく必要があります。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/keyring
- Shell
- Paverのサンドボックス内で利用できる対話型ターミナルです。エージェントと同じセッション内で、利用者がコマンドを直接実行できます。Paverにすべてを任せるだけでなく、AIによる支援と手動操作を組み合わせた調査や運用が可能です。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/shell/
- Memory
- Paverが会話をまたいで保持する継続的なコンテキストです。利用者の作業方法などの情報を保持し、同じ前提を繰り返し説明する負担を軽減します。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/memory
- Safety mode
- セッション内でPaverによる変更を許可するかどうかを制御します。調査や計画から利用を開始し、必要に応じて実行へ移行する際に重要な機能です。
- Safe mode:環境に対する変更を防止
- Edit mode:承認ワークフローを利用した変更を可能にする
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/managing-risk-and-control
- Paver Guard
- Paver Guardは、Paverによるインフラ変更を統制するためのポリシーベースの承認機能です。提案された操作のリスクを評価し、重要な処理について、人による承認を受けてから実行するように制御します。
- https://paver.ibm.com/docs/core-concepts/managing-risk-and-control
4. IBM Paverのユースケース例
IBM Paverは、インフラ担当者に代わってすべてを自動化するものではありません。担当者による判断や統制を維持しながら、環境の調査、作業計画の作成、リスクの確認、定型作業の実行などをAIで支援し、インフラ運用をより迅速で一貫性のあるものにすることを目的としています。自然言語で実現したいことを伝えると、Paverが現在の環境を確認し、必要な作業を計画します。環境を変更する操作については、実行内容とリスクを事前に提示し、必要に応じて人の承認を得たうえで、CLI、API、スクリプト、Terraformなどの既存ツールを通じて実行します。
主なユースケースは次のとおりです。
- アーキテクチャーの計画と設計
- システム要件を自然言語で伝え、要件に沿った構成や実装計画を検討できます。
- 例えば、複数リージョンを利用する構成、セキュリティー要件を満たす構成、可用性や回復性を考慮した構成などについて、推奨事項を提示させる使い方が考えられます
- インフラの構築
- アプリケーションの要件に基づいて実行計画を作成し、利用者の承認後にインフラの構築や設定を行います。
- たとえば、アプリケーションをIBM Cloudへデプロイするために、必要なサービス、接続、アクセス制御などを計画し、既存のインフラ運用ツールを通じて構成します。
- 定型運用の標準化と自動化
- Paverは、CLI、API、スクリプト、Terraformなど、チームがすでに利用しているツールを通じて処理します。これにより、既存の運用環境を生かしながら、担当者ごとの手順の違いや作業漏れを抑え、日常的な運用負荷を軽減できます。
- 例えば、サービスIDの作成やAPIキーのローテーションなど、複数の操作で構成される定型業務が挙げられます。
- また、Skillsを利用して、組織固有の知識や運用手順をPaverに追加できます。一般的なインフラの知識だけでなく、チームが定めた作業手順や特定環境向けの情報を利用することで、それぞれの組織やシステムに適したガイダンス、計画、操作を行えるようになります。
- 障害調査とトラブルシューティング
- ログ、メトリクス、構成情報、直近の変更内容などを関連付け、問題の原因調査と復旧を支援します。
- 例えば、「午前9時以降にレイテンシーが急増している原因を調べてください」と依頼すると、Paverは関連情報を確認し、原因候補と修正案を提示します。複数のツールを行き来して情報を収集する負担を減らし、インシデント対応の迅速化につなげます。
- セキュリティー状態の確認と改善
- IAMポリシー、リソース構成、ネットワークの公開範囲、暗号化設定などを確認し、脆弱性、設定ミス、コンプライアンス上の不足を特定します。
- 例えば、検出した問題を重大度に基づいて整理し、是正に向けた推奨対応を提示することで、セキュリティー状態の継続的な確認と改善を支援します。監査証跡の収集や、コンプライアンスチェックに関する作業が挙げられます。
- コストとリソース効率の最適化
- リソースの利用状況を分析し、コストの増加要因、使用頻度の低いリソース、削減余地などを確認できます。
- 例えば、「コストの主な増加要因と削減余地を確認してください」と依頼し、利用状況に基づく改善案の提示を受ける使い方です。公式ドキュメントでも、使用頻度の低いリソースの特定や、インフラコストの確認と最適化案の提示が利用例として示されています。

