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神Excel問題は「脱Excel」ではなく「意図と再現性が残らないこと」だと思う

Last updated at Posted at 2025-12-13

はじめに

皆さんの職場には、いわゆる「神Excel」は存在するでしょうか。

長年の改修で誰も全体像を把握できていない、触ると壊れそうで誰も手を出せない、結果は正しそうだがなぜそうなるのかは分からない。
こうしたExcelは、多くの現場で共通の悩みだと思います。

最近は「Excel業務をDX化してほしい」「脱Excelを進めたい」と言われることも増えてきました。
私はDXの専門家ではありませんが、天文の研究の中で処理をコードに落としながら、
「次の人が同じ結果を再現できるか」「意図がきちんと伝わるか」
といった点を重視してきた立場です。

その視点からExcelを眺めてみると、
問題になりやすい構造には、ある共通点があるように感じました。
以下では、それらを順に見ていきます。

Excelの罠①:結果は見えるが、意図が見えない

Excelの画面は、とても完成度が高く見えます。

数値が並び、グラフが描かれ、レイアウトもそれなりに整っている。
一見すると「完成品」です。

しかしその裏で、

  • なぜこの計算が必要なのか
  • どこまでが入力で、どこからが派生なのか
  • どんな前提や仮定が置かれているのか

といった 「考えた人の意図」 は、ほとんど画面に残りません。

たとえばセル F23=A3*B7/C12 と書かれていても、

  • A3は何か
  • B7は何か
  • なぜC12で割っているのか

といった背景は、作った本人の頭の中にしか存在しないことが多いのではないでしょうか。

Excelの罠②:処理順序はあるのに、把握しづらい

Excelの計算には、実際には明確な処理順序があります。

どのセルがどこを参照し、どの値が積み上がって最終結果になるかは、内部的にはきちんと決まっています。

しかしその順序は、画面上には明示されません。
空間的に散らばり、シートをまたいで飛ぶことも珍しくありません。

そのため第三者が把握するには、セルを一つ一つ追いかける必要があります。

特に初学者にとっては、

  • どこから読み始めればよいのか
  • どこが重要な計算なのか

などが分かりにくく、
Excelは初学者でも直感的に編集できるように見える一方で、
処理の流れや意図を理解しようとすると、
実は かなり読解難度が高い構造 になっていると感じます。

Excelの罠③:再現性が低い

私が特に問題だと感じているのは、再現性の低さです。

Excelの画面は「状態」を保存します。

  • その時点のセルの値
  • 数式
  • レイアウト

一方で、

  • どの順序で処理したのか
  • どのような考えで組み立てたのか

という 手順そのもの は保存されません。

そのため、

「この画面をもう一度作ってください」

と言われると、

  • どこが入力で
  • どこで足し上げていて
  • どの計算が中間結果なのか

を、改めて全部追い直す必要があります。

これは、
「結果はあるものの、ゼロからもう一度作ろうとすると大変」
という状態で、作った本人にとっても、後から引き継ぐ第三者にとっても
負担になりやすいと感じています。
その結果、いわゆる「秘伝のタレ」のような存在になってしまうのではないでしょうか。

コードにすると何が変わるか

コードの場合、

  • 上から下へ処理順が並び
  • 変数名や関数名に意味を持たせられ
  • コメントで意図を補足できる

ため、

同じ入力 → 同じ手順 → 同じ結果

を、第三者が再現しやすくなります。

言い換えると、

  • Excelは「結果のスナップショット」
  • コードは「再生可能なレシピ」

に近い存在だと感じています。

AI時代との相性という視点

もう一つ、最近強く感じている点があります。
それは AIとの相性 です。

現在は、コードが読めなくても、

  • AIに「この処理は何をしている?」と聞く
  • 全体の流れを要約してもらう

といったことが、現実的に可能になっています。

コードは、

  • 文法が決まっており
  • 処理順や構造が明示されている

ため、人間だけでなく AIにとっても理解しやすい形 になっています。

一方Excelは、

  • 意味がセル番号に埋もれ
  • 処理順が画面に現れず
  • 文脈がシート間で分断される

ため、人にもAIにも読ませにくい構造 になりがちです。

「コードは難しい」という壁は、変わりつつある

もちろん、「コードは難しい」「Excelの方がとっつきやすい」と感じる方が多いのも事実だと思います。

ただ少なくとも現在では、

  • コードを一から書けなくても
  • AIに説明させたり、補助させたりしながら

処理の意味や順序を理解する、という選択肢が現実的になってきました。

重要なのは、全員がプログラマになることではなく、
処理の意図や手順が、人やAIに読み取れる形で残っているかどうか だと思います。

脱Excelではなく、脱ブラックボックス

ここまで書いてきましたが、私は「Excelは悪」「とにかく脱Excelすべき」と言いたいわけではありません。

問題なのはExcelそのものではなく、

  • 意図が残らない
  • 処理順が見えない
  • 再現性が低い

という ブラックボックス化した使われ方 だと思っています。

Excelを使うにしても、

  • 入力と出力を明確に分ける
  • 計算の意図を別途言語化する
  • 重要な処理はコードや別の形で切り出す

といった工夫で、状況は大きく改善します。

おわりに

DXという言葉は広く、ツールやサービスの話に寄りがちです。
ただ、日々の業務を振り返ってみると、問題の多くはツールそのものではなく、
「どのように考えられ、どのように作られたのかが分からない状態」にあるようにも感じます。

Excelは、結果を素早く形にするには非常に優れた道具です。
ただし、その過程や意図まで自動的に残してくれるわけではありません。

Excelであっても、コードであっても、大切なのは、
次の人がその内容を理解し、同じ結果を再現できる形で知識が残っていることだと思います。

これからは、
人が理解できるかどうかだけでなく、
AIを含めた第三者が読み解ける形になっているか、という視点も
少しずつ重要になっていくのではないでしょうか。

そうした観点を意識してみることで、
Excel業務の見え方が少し整理される場面もあるかもしれません。

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