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マルチモーダルのデータはどの様にモデルに伝わるのか?

Last updated at Posted at 2025-09-27

前回の記事では、マルチモーダルAIが画像、音声、テキストといった異なるデータを 「テンソル」 という多次元配列で統一的に扱うことを解説しました。しかし、実際にこれらのデータをどのように「テンソル空間」へと変換し、統合するのでしょうか?

この変換を行うのはテキストデータと同様に、「エンコーダ」 が行います。今回はエンコーダがマルチモーダルなデータをベクトル空間までどの様に届けるのかを見ていきましょう。


データを「テンソル空間」へ導く「エンコーダ」

エンコーダは、マルチモーダルAIにおけるデータの 「翻訳家」 のような存在です。テキストや画像、音声といった人間が理解できる形式のデータを、AIが共通で扱える 埋め込みベクトル(テンソル) へと変換する役割を担います。

データタイプごとに、その特性を最も効率的に捉えるための専門エンコーダが存在します。

  • テキストエンコーダ: テキストの意味や文脈を捉え、1階のテンソル(ベクトル)に変換します。BERTやGPTシリーズといった大規模言語モデルが、この役割を担う代表例です。
  • 画像エンコーダ: 画像のピクセル情報から、物体、色、空間的な関係性といった特徴を抽出し、一般的には3階(高さ・幅・チャンネルなど)のテンソルに変換されることが多いです。Vision Transformer(ViT)やCNNベースのモデルがよく使われます。
  • 音声エンコーダ: 音声信号から音色、周波数、抑揚といった特徴を抽出し、テンソルに変換します。この分野では、OpenAIが開発したWhisperが代表的な例として挙げられます。

音声・動画エンコーダの現状

音声や動画といったデータは、画像やテキストに比べてデータ量が膨大であり、リアルタイム処理やモデルの軽量化に技術的な課題が残っているのが現状です。そのため、画像やテキストのように汎用的なマルチモーダルモデルも徐々に商用化されつつあり、引き続き活発な研究が進められています。今後が楽しみですね。


変換の設計思想:モジュールか、単一モデルか?

エンコーダを設計する上で、パイプライン方式(モジュール設計)と単一モデルでの統合という、2つの主要な設計思想があります。それぞれにメリットとデメリットが存在します。

パイプライン方式(モジュール設計)

この方式では、各データタイプに対応するエンコーダを独立したモジュールとして設計します。例えば、テキスト用、画像用、音声用といった具合です。それぞれのエンコーダが独立してデータを埋め込みベクトルに変換し、その後に統合する層でまとめて処理します。

この設計は、既存のシステムやUIとの連携において大きなメリットをもたらします。多くのアプリケーションでは、すでに画像アップロードボタンやマイクアイコン、テキストボックスなど、データタイプごとに独立したUIが存在します。エンコーダを独立したモジュールとして設計することで、AIのアーキテクチャをこれらの既存UIとシームレスに連携させることができます。

  • メリット: 再利用性拡張性に優れています。また、開発やメンテナンスが簡素化され、システム全体の変更を最小限に抑えつつ、柔軟に機能を拡張できます。
  • デメリット: 各エンコーダは独立しているため、データ間の深い相互作用や協調をモデルが学習することが難しい場合があります。

単一モデルでの統合

この方式では、画像やテキストなど複数のデータを単一の巨大なモデルが同時に受け取り、内部で変換から統合までを一貫して行います。

  • メリット: モデルが複数のデータを同時に学習するため、データ間のより深い相互作用や関連性を捉えることができます。例えば、画像内の物体の位置と、それを説明するテキストの単語の関係性を、より密接に学習できます。
  • デメリット: 開発が非常に複雑で、モデルが巨大になりがちです。また、システムへの組み込みや、特定のデータタイプだけを更新することが困難になります。

結論:エンコーダがAIの可能性を広げる

エンコーダは、単なるデータ変換器ではありません。それぞれのエンコーダの設計思想が、AIの性能だけでなく、システムの実用性や拡張性をも左右します。

パイプライン方式は、既存のシステムやUIとのスムーズな統合を可能にし、開発の柔軟性を高めます。一方で、単一モデルでの統合は、より高度で複雑なタスクに対応できる可能性を秘めています。

最近では1Mや2Mといった広大なコンテキストウインドウを持つモデルも登場してきています。これらのモデルは、長大なテキスト(小説、コードベースなど)を一度に処理する能力が注目されていますが、マルチモーダルなデータ(画像、音声、動画など)をトークン化する際に大量のコンテキストを消費する場合にも、その能力が活かされます。

エンジニアリング領域におけるこれらのモデルの活用については、特にキュレーションの重要性やRAG(Retrieval-Augmented Generation)の観点も考慮して議論すべきと考えます。これについては以前の記事(RAGとキュレーションについての私見)で詳述しています。

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