はじめに
IBM watsonx Orchestrateを始めた人・始めようとしている人に向けて、Model Context Protocol(MCP)の基本から実際の活用方法まで解説します。
MCPとは何か
Model Context Protocol(MCP)は、AIエージェントを様々な外部ツールやデータソースに接続するための標準化されたプロトコルです。AIアプリケーション向けのUSB-Cポートのような役割を果たすと言えるでしょう。
従来、AIエージェントが外部システムと連携するには、それぞれ専用の実装が必要でした。MCPはこの問題を解決し、一度の実装で様々なAIプラットフォームから利用できる標準化された接続方法を提供します。
MCPのアーキテクチャ
MCPは、ホストアプリケーションが複数のサーバーに接続できるクライアント・サーバーアーキテクチャを採用しています。
主要コンポーネント:
- MCPホスト: Claude Desktop、IDE、watsonx Orchestrateなど、MCPを通じてデータにアクセスしたいAIアプリケーション
- MCPクライアント: ホスト内でサーバーとの接続を維持するコンポーネント
- MCPサーバー: 標準化されたModel Context Protocolを通じて特定の機能を公開するプログラム
- ローカルデータソース: ファイルシステム、データベース、ローカルサービス
- リモートサービス: MCPサーバーが接続できるインターネット上の外部システム(Web API、SaaS等)
ローカルMCPサーバーとリモートMCPサーバーの違い
MCPサーバーにはローカルMCPサーバーとリモートMCPサーバーの2種類が存在します。
ローカルMCPサーバー
- ホストアプリケーションと同じ環境(ローカルマシンやクラウドインスタンス)で動作
- ファイルシステムへの直接アクセスやローカルプロセスとの連携が可能
- 低レイテンシーでの通信を実現
- ローカルMCPサーバー経由でリモートサービスにアクセスするパターンが一般的
- 例: ファイルシステムアクセス、ローカルデータベース接続、システムコマンド実行、GitHub API連携、Slack API連携
リモートMCPサーバー
- ネットワーク経由でアクセスするサーバー
- インターネット上のサービスとして提供
- 複数のクライアントから共有利用が可能
- 例: クラウドベースのGitHub連携サービス、Zapier等のiPaaSによる外部連携サービス
現在のMCPサーバーエコシステム
MCPサーバーは現在、様々なプラットフォームで公開されており、急速に成長しているエコシステムです。
主要な実装言語とプラットフォーム
- Node.js・Python: 最も多くの実装が存在し、NPMとPyPIで公開
- Docker: Dockerイメージとして提供されるサーバーも多数存在
- その他の言語: Go、Rust等のSDKも提供されているが、Node.jsとPythonと比較すると数は少ない
代表的なMCPサーバーの例
公式SDK・サーバーコレクション
- Model Context Protocol SDKs - 各種言語向けSDK
- 公式サーバーコレクション - 豊富なサンプル実装
パッケージ管理システム
- PyPI: mcp-server-fetch等の多数のサーバー
- NPM: @modelcontextprotocol/server-filesystem等
Docker Hub
企業公式サーバー
- GitHub MCP Server - GitHub公式のMCPサーバー
- 各種SaaSベンダーからの公式実装が続々登場
IBM watsonx OrchestrateのMCP対応
IBM watsonx Orchestrateは、クラウド上で動作するAI Agentプラットフォームとして、MCP機能を提供しています。Claude DesktopやIDEのようなデスクトップアプリケーションとは異なり、完全にクラウド環境で動作するため、独自の特徴があります。
watsonx Orchestrateの特徴
クラウドネイティブなMCP実行環境
ユーザーのローカルデータソースには直接アクセスできませんが、「ローカル」MCPサーバーをクラウド上で実行できます。これにより、ユーザーがインフラを意識することなく、PythonやNode.jsランタイムを利用したMCPサーバーを簡単に導入できます。
管理の簡素化
ローカル環境でのMCP設定と比較して、チームでの利用を管理しやすいです。
現在の対応状況(2025年7月時点)
対応済み機能:
- MCPホスト機能 - watsonx OrchestrateがMCPクライアントとして動作
- MCPクライアント機能 - 複数のMCPサーバーとの接続管理
- MCPサーバーのランタイム環境 - クラウド上でのサーバー実行環境
- Node.jsランタイム対応 - JavaScriptベースのMCPサーバー実行
- Pythonランタイム対応 - PythonベースのMCPサーバー実行
現在未対応の機能:
- DockerベースのMCPサーバー
- リモートMCPサーバーへの直接接続
今後の展望
現在未対応となっているDocker対応とリモートMCPサーバー対応について、今後のアップデートでの実装が期待されています。これらの機能が追加されることで、より幅広いMCPサーバーエコシステムとの連携が可能になり、以下のような利用シーンが広がると考えられます。
watsonx Orchestrateを始める際のポイント
始めやすさ
現在対応しているNode.jsとPythonベースのMCPサーバーだけでも、基本的なMCP機能は十分に活用できます。公式サーバーコレクションやNPM/PyPIで公開されているサーバーから始めることをお勧めします。
学習リソース
まとめ
IBM watsonx Orchestrateは、MCPプロトコルの主要機能をクラウド環境で提供するAI Agentプラットフォームです。現在はNode.jsとPythonベースのローカルMCPサーバーに対応しており、多くの実用的なMCPサーバーを活用できる環境が整っています。
将来、DockerやリモートMCPサーバーへの対応により、さらに豊富なエコシステムとの連携が実現されることが期待されており、MCP活用の可能性は今後ますます広がっていくでしょう。