AIは現場のどこまで入り込んでいるのか

清野:本日は、ここ最近、進化のスピードがますます上がっているAIの話を踏まえ、エンジニアにおける基礎学習の大切さについて、お互いエンジニア組織のマネジメントを担っている立場としてお話を伺えればと思っています。
和田:このトピックは、新卒でエンジニアキャリアをスタートするエンジニアが8~9割を占める弊社にとっても、非常にホットだと感じています。
清野:早速ですが、いえらぶGROUPでは、現時点でAIはどれくらい浸透していますか?
和田:昨年10月に社内で実施したアンケートでは、92%が「毎日使っている」という状況でした。今はもっと増えて、ほぼ全員が使っているはずです。触れない日はないですね。開発プロセスの中でも、要件定義・設計・実装・レビュー・テストまで、あらゆる工程にAIが入り込んでいます。
清野:それは、ワークフローを組んで「知らず知らずのうちに使っている」のですか? それとも各自が試行錯誤して使いこなしているのでしょうか?
和田:両方ですね。工程ごとにツール、プロンプト、ルールなどの概念的な共通項は揃えていますが、ワークフローを完全に型にはめるのは、進化が早すぎてなかなか難しいです。組んでいる間に別のツールが出てきて前提が変わってしまうことが2〜3回起きたので、「ちょっと待とう」と。ツールを配布しつつ、ツール単位・フロー単位で差し替えができるように運用しています。
清野:Qiitaでも、Copilotが中心だったのですが、Claude Codeを全員に付与する形に切り替えたり、Difyを入れて非開発職のフローもAI化しようとしたりと、様々な取り組みをしています。ただ、その中で分かりやすく言うと「乗り気で進める人」と「乗りづらい人」の温度差が出ている印象です。いえらぶGROUPではどうですか?
和田:当社でも同じで、かなり試行錯誤しているポイントです。基本的には「社内インフルエンサー」のようなメンバーに焦点を当て、そこを起点に盛り上げています。勉強会が年に何十回もあるので、参加したタイミングで、ハンズオン的に「強制的に触ってもらう」ようなこともやっています。例えば「全員、今日帰るまでにCursorの指定のrulesを触ってみてください」と、試してもらったこともあります。
全員にIDは配布済みだったので、あとは実際に触ってもらい、「なるほど」と理解できるまで一気にやってもらいました。実際に、そこから稼働率が上がりました。文化醸成を進めながら、時にはこのようなパワープレイも混ぜつつ、相応にコストをかけていますね。
清野:浸透させるために、様々な取り組みをされているんですね。
「AI禁止令」は逆行ではなく、最短距離だった

清野:一方で、和田さんは「AI禁止」の話もQiitaに書かれていましたね。現場ではAIを浸透させつつ、あえて使わせない判断もしているということですか?
和田:そうですね。ただ、全体に対して行っているわけではありません。記事に出てくるのは1年目のメンバーで、当時僕と一緒にプロジェクトを行っており、コードの中身のレビューもしていました。そのため、どのような状態かがリアルに分かっており、結果的に「AIを使わないほうが早い」という判断をしました。
僕や他のメンバーがレビューするコストがかかっていた一方で、コストがかかっているわりには本人が理解できていませんでした。それであれば「1,000行のコードを100行に圧縮するよりも、毎日10行ずつコードを書いてもらった方が絶対に早い」という、ほぼ確信に近い直感がありました。
清野:そうなんですね。実際に、AIを一旦やめさせることで「基礎力」は伸びましたか?
和田:間違いなく伸びました。AIから与えられる情報量は多すぎるので、全部インプットしようとすると効率が悪いですし、判断がつかないことも多いと思います。ですから、僕からは与える情報と指示を厳選しました。「モノを作れ」という指示ではなく、「まずはクラス名だけを提出してください」という具合です。
清野:成果物ではなく、設計図だけを出させる、とか。
和田:そうですね。まずは全体の設計図だけに焦点を当てて考えさせて、レビューをして、次は処理の流れだけを出させてレビューする。このように、頭の整理がどのように進むのかを見ながら、段階的に進めました。1巡目は正直スピードはそれほどでしたが、3ヶ月後に別プロジェクトをやったとき、彼が僕の思考プロセスを覚えていて、「設計だけレビューお願いします」「処理の流れだけ壁打ちさせてください」と自発的に言うようになりました。大幅なショートカットができたのは大きいですね。設計レビューなしでも、ある程度できあがったもので、自力でやってくれるだろうという期待は、かなりできるようになりました。

清野:「学び方の型」が入った、ということですね。和田さんのQiita記事で言及されているのは特定のメンバーのケースだと思いますが、他の新卒の方に対しても、同じことをしていたのでしょうか?
和田:人によりますね。彼は業務の進捗が早いほうだったので、ひとまとまりのボリュームがあるプロジェクトをして、AIを禁止しないといけない問題が露見した、という感じです。
清野:アウトプット量が多いからこそ、AIを使うスキルが課題になっていたイメージでしょうか。
和田:そうですね。先ほどの記事を書いたのは去年12月ですが、出来事は10月後半ごろです。その後、同世代の後続たちも同じ状況に陥り始めて、AIを禁止しはじめています(笑)。
清野:なるほど。みんな同じステップを踏んでいくわけですね。
和田:ただ、最初からAIを禁止するのが正解ではないとも思っています。本当に何も分からないときは、モノを作る手応えを感じてもらったり、楽しんでもらったりしたいので、あえて使わせて「できた!」と成功体験を作ってもらうこともあります。
「できる人がさらにできる」時代に、メンバー育成へ投資する意味とは

清野:ここからは僕が悩んでいる点です。AIを使うことで「できる人」が何倍も成果を出せるようになりましたが、だからこそ、ジュニア育成にどれだけコストと時間を割くべきか、迷うことがあります。いえらぶGROUPでは、できる人への投資と若手育成のバランスを、どのように考えられていますか?
和田:基本的に、新人育成をスローダウンさせるつもりは一切ないです。というのも、できる人がよりできるようになるのは、実はあまりコストがかからないですよね。ある程度の裁量と権限を与えれば、自走してフローを作ってくれます。なので、そのような方たちに対しては、裁量権を与えて、動いてもらっています。一方で新人育成は、将来に対する投資であって、ここはAIが進化しても、基本的には変わりません。
清野:育て方自体は変わりましたか?
和田:変わってきていますね。フィードバックの質や量が、整備された感じがあります。本人たちにコードを書いてもらう際にはAI使用を制限しつつ、フィードバックはある程度体系的じゃないといけないのですが、その部分がAIによって、かなり統制がとられるようになりました。コードレビューの観点には、要件、設計、不要な実装、過去トラブルの反映など多くの要素がありますが、その漏れはかなり減りました。AIが担える部分が増えたことで、人間が見るべきポイントに集中しやすくなったと感じます。
清野:成長サイクルそのものにAIが組み込まれているのですね。
和田:そうです。ただ、組み込まれてまだ半年も経っていないものばかりなので、どうなるかはこれからですね。
清野:ちなみに、新卒世代は入社前からAIを使っているものでしょうか?
和田:すでに入社している若手世代は「就活時点でChatGPTが出たかな」くらいなので、使っていないメンバーも多いですね。一方、内定者やインターンの世代はソースコードの塊をGPTに入れて試行錯誤しているようなので、ここから下は完全に違う世代になっていくなと感じています。
点を線にする「体系的学習」は、今の時代、めちゃくちゃ重要
清野:AIがあれば「それっぽいアウトプット」は出せてしまいますが、だからこそ、基礎力がないことに自分で気づくのが難しい時代になっている気がします。若手が何をやるべきか、課題感にどのように気づくのか、会社としてどのようなことを考えていますか?
和田:私は普段から「コンピューターサイエンスと各言語の基礎は、勉強した方がいい」と口酸っぱく言っています。例えばメモリ管理は、昔のマシンスペックだとかなり気をつかって実装しないと、メモリオーバーしてしまいますが、最近はそのようなことはないです。

和田:なので、力任せに個人のローカルではうまくいくけれど、サービスに展開してデータ量が増えると、落ちることがあります。そこで「なんで?」を説明・理解するには、基礎理解が必要になってきます。「土台を知ることで応用が効く」と話しています。格闘技で受け身が大事なのと同じですね。
清野:基礎のレベルに関しても、コンピューターサイエンスの深いところからアプリ開発の基礎まで様々だと思います。このAI時代、どの程度の基礎力が必要だと感じますか?
和田:組織やプロダクトで変わると思いますが、僕のチーム周辺でお伝えすると「処理を見て、背景が説明できる」ことが、基礎が身についているかの基準です。プログラミング言語、サービスの設計や設計意図、世の中にあるデザインパターンの知識、このソースコードに至った歴史。それらがざっくり分かると、応用に進んでも良い基準と考えていて、ある程度自走してくれます。いえらぶGROUPだと早い人なら1年目後半、たいていは2年目前半くらいで、そこに到達する人が多い印象です。
清野:そのレベルまでの到達が早い人とそうでない人で、学び方に差はありますか?
和田:これまで得た情報をどうやって内省し、アウトプットに変換してきたか、に依存すると感じます。大学入試で点を取れる人と、そうでない人がいるのと同じですね。ただ、順番としては、実践してから体系的に理論のインプットをする人が多いですね。頭から体系的に積み上げようとすると、時間がかかったり理解が追いつかなかったりする印象がありますね。
清野:AIが出てきたことで、アウトプットが過多という、今までの時代では考えられない現象が起こっていますね。アウトプットはできるがインプットは足りていない中で、アウトプットを自分でできたり、アイデアを考えて動かせたりする人は、インプットさえできれば回るのかなと、お話を聞いて感じました。
和田:本当にそうですね。サイクルを回せるような段階まで育ってもらいたいですね。
清野:今はアウトプットを出そうと思えばいくらでも出せるからこそ、インプットをして、インプットしたことをとりあえず動かそうというモチベーションさえあれば、どんどんアウトプットにつなげて、フィードバックサイクルが回ることにつながるのかなと思いました。
ここまでで、AI時代の基礎力の大切さについてお伺いできたかなと思います。問題は「基礎力をどう付けていくか」「どう勉強していくか」ですが、和田さんはどう考えていますか?

和田:今はアウトプットが過多なので、体系的な学習教材で1から10までの知識を、定期的に取り入れるのが大事だと感じます。現場でレビューしていて「この観点がない」「ここ分かってないな」と見えたら、「動画1本見ておいで」「週末までにこれ読んでおいで」と、体系的な情報を入れてもらうようにしています。
清野:たしかに、検索やAIで目の前の問題は高速に解けますが、それは対症療法になりやすいですよね…。なぜ問題が起きたのか、本質は何なのかを理解しないまま進んでしまうなと。AIが出てきて対症療法がさらに速くなったからこそ、あえて腰を据えて「1から10まで」を網羅する価値が増していると感じます。
ただ、いざ体系的に学ぼうとすると、「どの教材が自分に合うか分からない」「関連技術もセットで学びたいけれど、その都度コストがかさむ」などのハードルもあります。
和田:そうですね。
清野:そうした「体系的な学び」をより身近にする選択肢として、注目したいものがあります。Udemyの個人向け定額プラン(サブスクリプション)です。これまでは1講座ずつの買い切り型が主流でしたが、月額3,000円程度で29,000以上の講座が受け放題という、これまでの学習の常識を覆すようなプランが登場しています。
和田さんはこれまでUdemyを使われた経験はありますか? また、こうした「定額で学び放題」というスタイルは、エンジニアの研鑽においてどう機能すると感じられますか?
和田:Udemyには、めちゃくちゃお世話になっています。それこそ7〜8年前のReactが出てきた頃に「アプリ作ってみてよ」と無茶ぶりされました。PHPばかり触っていた状態で、「とりあえず勉強しなきゃ」と考えた末、Udemyに辿り着きました。30時間でアプリを作ってみようという講座があったので、動画を見ながら手を動かしました。「いえらぶGROUPで使うには、どうすれば良いだろう?」のとっかかりに、かなり使わせてもらっていました。それを機に、学習アセットの一つとして活用しています。
先ほど、最近は「手軽にアウトプットできすぎる」状態だとお話ししました。これは例えるなら、世界史の一問一答だけをひたすら暗記して点を取るような状態に近いと感じます。個々の事実(点)は説明できても、歴史の流れ(線)が分からない。しかし、線で理解すると、どう解釈すべきかが分かるようになります。点を線にする体系的学習は、今の時代でも、非常に重要です。そういう観点でも、Udemyはこれまでの点を線で結ぶきっかけを作ってくれる学習機会だと感じています。
Udemyの「個人向け定額プラン」はここがすごい

清野:2025年より、Udemyでは「個人向け定額プラン」というサブスクリプションプランが登場しました。今までは1講座買い切り型での提供だったところ、月額プランであれば3,000円/月、年額プランであれば2,292円/月で、29,000以上の講座が受けられるという、インパクトのあるプランです。
和田:すごいですね…!自分がごりごりとコーディングをしていた時に欲しかったプランですね。
清野:講座の買い切り受講とサブスク受講とでは、基礎力を磨く上でどう使い分けるのが良さそうですか?
和田:私がUdemyを買い切り型で購入・受講する時は、「この分野をインプットするぞ」と腹をくくるためにお金を払っていることが多いですね。新規事業をやるタイミングの頃は、知らない分野の情報が次々とやって来るので、まず10時間勉強して基礎を知る、という使い方をしていました。
それに対してサブスクとなると、組織としては、新人教育の一環として活用するのに相性が良さそうです。というのも、新人の最初の半年〜1年は、フロントもDBも設計もビジネスマナーも全部必要で、広くインプットする必要があります。まさに、サブスクが向いていますよね。一方である程度の方向性が見えてきたら、今度は買い切りで必要なものを深掘りするのも良いでしょう。
清野:AIが学習のトリガーになる未来もありそうですね。AIが「Nextで」「Goで」「AWSのこのコンテナで」と提案してくる頻度が増えれば、知らないスタックについての定期的なインプットが必要になるので、その時にサブスクの価値が上がりそうだなと思います。
和田:そうですね。できれば「アウトプットするにはこのシリーズ」みたいにまとまっていると、さらに使いやすいと思います。いずれにしても、コンテンツの「つまみ食い」ができることで、分野をまたがった形での体系的な学習ができるので、組織としても個人としても非常に有用だと捉えています。
清野:ちなみに、Udemyの個人向け定額プランでは、エンジニアリング以外にも様々なコンテンツが用意されています。エンジニアリング以外で興味のある内容はいかがですか?
和田:プロジェクトマネジメントは実践寄りでしかやっていないので、体系的に学ぶのは面白そうですね。あと、ブロックチェーンのように少し前に話題になった技術も、AIの進化で立ち位置が変わる可能性があるので、押さえ直すのに使いたいと思っています。
「出来上がったものを自慢したいか/嬉しいか」という基準を持ってほしい
清野:これからAIを使い続けるエンジニアに必要なマインドセットを伺いたいです。
和田:AIに対して疑いを持ち続けること、アウトプットを自分なりに解釈して判断することですね。テクニックとしては「リバースプロンプト」という考え方があります。AIに答えだけ出させるのではなく、「私に質問してください」「私が判断できるように指示してください」といった形で、必ず自分が判断するようにAI側からも促させるようにします。そうすることで、AIに頼り切らない姿勢につながると考えています。
清野:AIを正解として扱わないのが重要ですよね。「AIがそう言うのならこっちが正解かな」となってしまうのは、基礎力がなくて「なぜ違うか」を論理的に言えないから、という面もあると思います。もう一つ、AIに限らず、エンジニアリングの初学者にアドバイスするとしたら、どのようなことをお伝えしたいですか?
和田:姿勢の話になってしまいますが、「できあがったものを自慢したいか/嬉しいか」という基準を持ってほしいです。どんなに小さい動作ひとつとっても、自分で考えてつまづきながら動かした成果物は、相応の手応えがあるものです。その積み重ねが血肉になって、より有機的なインプットになり、より高度なアウトプットになります。そこが満たされるくらいのアウトプットになるなら、AIだってどんどん使って構わないと思いますが、AIに頼り切って自分の実力が伴わないアウトプットは、そうはなっていないはずだからです。
清野:ありがとうございます。それでは最後に、Qiita読者の皆さまへメッセージをお願いします。
和田:AIのせいでジュニアの基礎力が…みたいな話はありますが、僕はポジティブに捉えています。教えてもらえる環境は増え、先輩たちが悩んでいた部分を高速で駆け上がれるのがAIの素晴らしさだと思います。世の中にインパクトを出すという、より本質的なところに自分の頭を使える職業にエンジニアは近づいていっていると思います。だからこそ、Udemyのような体系的に学べるプラットフォームを活かして、自分の血肉となるインプットをしてくれる人が増えると自分も嬉しいですね。


