空から製造業DXを推進せよ。原料ヤードの在庫管理を自動化する、日立のドローンソリューションとは
政府が「働き方改革」を押し進めるようになって数年が経過します。しかし、製造現場などでは、デジタル化が進んでいない業務も、まだまだ残されているのではないでしょうか。また、それに起因する課題の数々は、労働人口の減少トレンドが続く我が国においては、ある意味で中長期的なリスクが伴うと言えます。
今回は、そんな課題に立ち向かうプロジェクト、ドローンを使った「原料ヤード」(大量の鉄鉱石や石灰石、石炭などを置くスペース)のオペレーション変革に携わる日立製作所のおふたりにお話を伺いました。
既存の原料ヤード運用にはどのような課題があり、それに対して日立ではどのようなソリューションを提供しているのか。また、どのようなこだわりを持ってサービスが設計されているのか。詳しく聞きました。
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AI・ドローン等の新技術を用いて、公共システムのDXを推進するソリューション・サービスの企画、開発
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プロフィール
パブリックセーフティ推進本部 パブリックセーフティ第一部 第4G 技師
パブリックセーフティ推進本部 パブリックセーフティ第一部 第4G 企画員
原料ヤードの在庫確認は、今でも「目視確認」がスタンダード
――まずは日立のドローン事業について、概要を教えてください。
高 : 日立では、空撮による測量、送配電設備のようなインフラの点検、無人配送といった物流、ドローンの運行管理などの領域で、ドローンソリューションを展開しています。実際に使用するドローンの選定からメーカーへの手配、撮影に関するアドバイス、データの管理や解析・出力まで、トータルでコンサルティングを行っています。私たちはその中でも測量分野を担当しています。
――ドローンそのものは他社のものを活用し、データ部分管理や解析・出力部分で日立の独自技術を使っている、ということですね?
高 : おっしゃる通りです。日立ではもともと、防衛分野にてドローンを含む無人航空機の事業を展開していました。
ここ10年ほどでドローンの機体そのものがリーズナブルになり、空撮やインフラ点検など民間でのニーズも高まってきています。日立では従来の事業ノウハウを活かし、公共に限らず民間分野にも進出して事業を推進しています。
――その中で、おふたりが担当されている原料ヤード向け「日立在庫管理システム」とは、どのようなものなのでしょうか?
高 : 輸入した鉄鉱石などの原料を船から荷揚げして、山積み保管している広大な「原料ヤード」でドローンを飛ばし、ドローンで空撮した画像などのデータを解析して得られた情報を元に、原料の在庫管理を効率的に行うというものです。クラウドシステムの提供を主軸に、お客さまのご要望に合わせたチューニングやドローンのフライト方法の設計など、在庫管理に必要な様々なサービスの提供を行っています。
――原料ヤードって、よく海岸沿いなどにある大きな「砂の山」みたいなもののことですよね?
海谷: はい。原料ヤードにはたくさんの原料が積まれた山があり、その1つの山のことを「パイル」と言います。
――そもそも、ヤードにある原料の在庫管理は、通常どのようにされているものなのですか?
海谷: 熟練の現場作業員の方が、現地を歩きながら複数のパイルを1つずつ目視で確認して紙媒体で確認結果を管理されています。目視での確認では正確な在庫管理が難しく、紙媒体のへの記録では在庫状況の社内外共有に膨大な工数を要してしまいます。また、ヤードでは様々な機械が往来しているので、安全性の面でも課題があると言えます。
このような課題があるからこそ、今回のソリューションを提供することになりました。
ドローンで画像撮影し、三次元データから在庫量を把握する
――「原料の在庫管理を効率的に行う」とは、具体的にどうされているのでしょうか?
高 : 原料ヤードの上空でドローンを飛ばし、上からパイルの様子を大量に撮影して、クラウド上に画像データを蓄積していきます。そこからパイルの三次元データを生成して解析し、在庫量や空きスペース、形状といった在庫情報を自動で計測しています。
――三次元データとは、どのようなものでしょうか?
高 : X軸(横)とY軸(縦)に加えてZ軸(高さ)の情報を持つ立体のデジタルデータのことです。そのデータを解析し、パイルの体積と面積、高さを自動で算出することができます。
――なるほど。ドローンはどうやって飛ぶのですか?現場担当者が操作するのですか?
高 : 三次元データを生成するためには、上空の複数の位置から撮影した大量の写真が必要で、撮影位置の座標計算などを含む適切なフライト設計が求められます。そのため、自動フライト(自動的に移動、写真撮影)可能なドローンを利用します。現場担当者は、ドローンを自動操縦させつつ、周辺の安全面への配慮などを行いながら撮影を行います。
――全自動フライトなのですね。原料ヤードには、それこそ大きな機材や人影、頻度は低いでしょうが飛行中の鳥など、様々な障害物があると思います。その辺りは大丈夫なのでしょうか?
高 : ドローンの機体自体に障害物を検知するセンサーが搭載されている場合もあります。また、クラウドシステムの機能として重機(巨大な機械)を自動除去する機能も備えていることや、数cm単位の解像度でパイルを計測できるので、高い精度で体積などの必要な情報を算出できます。
高 : さらに、生成された三次元データを時系列で管理し、お客さまの従来の管理情報(パイルの名前や銘柄名など)を付与することができます。また、それらの情報を出力することもできるので、帳票のデジタル化にも貢献します。
クラウドベースのサービスがお客さまの運用を大きく変える
――帳票のデジタル化は業務効率化に向けてインパクトが大きそうですね。既存オペレーションが大きく変わる中で、現場の皆さんからどのような反応がありますか?
海谷: これまでお話しさせていただいたお客さまからは、現場作業の負荷軽減に期待する声を数多くいただいています。このサービスでは、原料ヤード全域を上空から俯瞰して撮影したような巨大な合成画像上に、お客さまごとに異なる情報の表示や原料の銘柄などを登録する機能が搭載されています。UIも原料ヤードに特化した設計になっていますので、現場担当者でも違和感なく操作いただけるものになっていると思います。
また、このサービスはクラウドで展開しているため、場所を問わずWebブラウザからチェックすることも可能です。
例えば本社や原料調達部門などと情報共有する際に、紙で運用していると、現場にある紙情報を1つずつ手入力してデータ化しなければならないので、膨大な工数になります。
高 : 大きい会社だと本社が別の場所にあることが多いので、その日の情報を伝えるのに、紙での運用だとどうしても限界があるわけです。
海谷: 本サービスを利用することで、共有用のデータ作成・転記などの作業が不要になって円滑な情報共有が可能になるので、そこも大きなアドバンテージとして感じていただけていると思います。
――だからこそ、ドローンからの空撮をもとに算出した情報をクラウド経由で参照できるのは、製造業のDXにつながるというわけですね。
海谷: 情報共有の他にも、例えば蓄積したデータから、ヤードの運用効率性や累計の原料滞留時間などを可視化したり、気象データなどと組み合わせて原料推移の予測をしたりするなど、関連する情報と合わせて分析することで、より業務の高度化を図ることもできます。
――なるほど。ドローンを活用した測量ソリューション自体は様々な企業が提供していると思うのですが、差別化要因としてはどんなものがありますか?
高 : ドローンの活用に関する実証実験はたくさん行われているのですが、定常的な業務運用への組み込みは、なかなか進んでいないと私個人としては感じています。単純な三次元化を行うことは比較的簡単になってきていますが、日々、三次元データの解析を行ってお客さまの運用でご活用いただくことはまだハードルが高いものです。だからこそ、運用面を踏まえたサービス提供を行っている点が、日立の優位性になっていると思います。
お客さまからの感謝の言葉が何より嬉しい
――開発を進める上で、どのような課題がありましたか?
高 : まず「撮る部分」でお伝えすると、先ほどお伝えした通り、測量に適した自動フライトを行う必要があります。例えば、カメラは下に向けて高度は一定にして、ジグザグに動かしながら撮影を進めることになります。
――確かに、あまり見ない動きですね。
高 : もちろん、お客さまによって原料やパイルの大きさが異なるので、それに合わせたフライトやカメラのチューニングが必要です。例えばカメラの設定で言えば、せっかく撮影しても画像がぼやけてしまっていては解析がうまくいきません。
海谷: ヤードやパイルの状況は、現場によって様々です。パイル一つひとつの高さやヤードの広さ、障害物の状況など、それぞれ異なるので、最低1回は必ず現場に伺って状況を確認して調整するようにしています。実は昨日(取材日前日)も現場に行ってきました。
――ヤードはどこも同じようなものだと思っていたのですが、現場によって随分と環境が違うんですね。
高 : そうですね。「解析の部分」についても、今のような事情から撮影した画像のバリエーションが豊富に存在するので、難易度は高いです。広い土地に山を持っているという条件は一緒ですが、山も形や幅が異なったり、重機が複数存在することが自動化にあたっての課題となります。
――標準的なパッケージで提供するというものではなく、個別でしっかりとカスタマイズして提供しているということですね。
海谷: はい。リリース済みのサービスは標準的なものですが、それをベースに個別にカスタマイズをしています。
――サービス開発では様々な困難があると思いますが、その中で「やってよかったな」と思う瞬間は、どんなときでしょうか?
高 : データ収集のために自身でドローンを飛ばしたり、お客さまと実証実験をしているときですね。純粋に楽しいです。
開発・研究職気質なこともあり、ドローンを自分で何度も飛ばしてデータ収集を重ねました。また、実証実験では現場にいらっしゃるお客さまとのコミュニケーションを常に意識しています。業務用ドローンを初めて見るお客さまも多いため、興味をもって機体自体やフライトをご覧いただくケースが多くあります。「新しいことをやろうとしている」という空気感の中、感謝されるときなどはやりがいにつながっているなと思います。
――なるほど。海谷さんはいかがでしょうか?
海谷: お客さまにサービスをご紹介して高評価をいただいたときは純粋に嬉しいですね。また、ご要望いただいた機能を作り、改めてご紹介した際にさらに高い評価をいただいたときも、やって良かったと感じます。
やりたい仕事にチャレンジできる環境も
――日立製作所というフィールドは、今回お話しいただいたような先端技術のサービスを開発するにあたっていかがでしょうか?
海谷: 日立には、グループ会社も含めて多種多様な分野があって、それぞれの良さがあると思います。それを組み合わせることができる点は大きなメリットだと言えるでしょう。映像事業に強い部署や、分析をメインでやっているようなデータサイエンスの専門部署もあるので、連携の幅が広がりますね。
高 : いま海谷さんがおっしゃったとおり、ビジネスユニットを跨いだ活動がしやすいなと思います。私自身、SEや研究職の方との協働が多いのですが、それぞれの分野に長けた専門家がいるので、協力会社含めていつも連携しています。今回のサービスで搭載している自動処理の部分も、みなさんの協力を得て実現しました。
海谷: あとは、やりたい仕事にチャレンジできる環境もありがたいと感じています。
――海谷さんは、設計・開発の仕事から、プリセールス的な役割にジョブチェンジされていますよね。これは希望されてだったのですか?
海谷: はい。より提案寄りの仕事をしたい、ということを以前からマネージャーに話していたので、そのような部署が立ち上がるタイミングで異動が実現しました。
高 : マネージャーとの定期的な面談を通じてキャリアの希望についてすり合わせも行っていますし、会社の制度として、グループ社内公募やFA制度もあります。やりたい仕事にチャレンジするための仕組みがあり、チャレンジできることの幅が広い点は魅力だと思います。
――今後、おふたりが日立製作所で実現したいことや、将来的なキャリア像について教えてください。
高 : 当面は、引き続き「モノづくり」をやっていきたいですね。ドローンはまだまだ発展途上ですが、政府がドローンに対する制度の整備を進めていますし、日立のドローンソリューションが課題解決の選択肢としてより認知されていくように頑張りたいと思います。
海谷: もう少し技術的なところの知識を深めていって、お客さまへの提案の幅を広げていきたいと思います。
――それに向けて、今後どんな人と一緒に働きたいですか?
高 : 組織としては多様な人財が必要とされていると思いますが、私個人としてはビジネスとしてのシステム設計や開発などから、例えば学術的なアルゴリズムまで、技術面での幅広い知識がある方と一緒に仕事できれば楽しいなと思います。
海谷: 発想力豊かな人ですかね。お客さまに最適な提案をするために新しいことを考えるときに、新しい観点で意見を出してくれる人がいいかなと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまに向けてのメッセージをお願いします。
高 : 日立には様々な仕事がありますが、お客さまとの距離が近く、上流工程で要件定義をしながら仕事を進めていくことも多いので、そのようなスタイルが好きな方にはとても良い環境なのではないかと思います。
海谷: お客さまからの生の声を通じて、知らないことも含めて常に新しい情報が入ってくる環境は、とても楽しいです。また、先ほどもお伝えしたとおり、社内には多種多様な分野のエキスパートがいるので、普段なかなか関われないような人の話を聞いて、一緒にモノづくりができることも醍醐味のひとつだと思います。
※日立のドローンソリューションについては、ぜひ以下の動画もご参照ください。
編集後記
普通に生活をしていると、なかなか原料ヤードについて詳しく聞ける機会は無いので、非常に興味深くお話を伺いました。デジタル技術を使って原料ヤードを適切に在庫管理できるということは、インタビューでもお話された工数削減や生産性向上に寄与することはもちろん、配船計画の最適化にもつながります。そうすれば、物流に伴うCO2 排出量や環境負荷の低減にも貢献するとも言えるのではないでしょうか。そのような観点でも、多くのヤード管理事業者がドローンを1つの選択肢として認知できるようになると良いなと感じました。
取材/文:長岡武司
撮影:平舘平
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