AIエージェント系用語は日々増え続けている
MCP、HITL、A2A、ハーネスなどなど。
AIエージェント界隈では新しい用語が次々と出てきており、そのすべてを把握して説明できるようになるのは至難の業です。
筆者自身、「これって結局どういう意味だっけ」となる用語がいくつもあります。そこで、よく見かける20個の用語を平易な言葉でまとめ直してみました。
意味としての厳密さよりも「実際どういう場面で使われる言葉なのか」を重視しています。
ただし、ここでの定義や区分けは私なりの整理であり、ベンダーやチームによって言葉の使い方に幅があることをあらかじめお断りしておきます。
厳密な定義を知りたい場合は、各社の公式ドキュメントを参照してください。
1. AIエージェント(AI Agent)
目標を渡すと、達成方法を自分で考えて動いてくれるAIシステムのことを指すのが一般的です。
普通のチャットボットは一問一答で終わりますが、エージェントは次の一手を自分で計画し、必要なツールを使い、結果を確認しながら作業を続けられます。
たとえば「来月のセミナーの集客ページを作って」と頼むと、チャットボットなら構成案を提示するだけですが、エージェントなら競合ページを調べ、ドラフトを書き、画像を用意するところまで進めてくれるイメージです。(実際にどこまで動いてくれるかはプロンプト次第でもある)
なお「AIエージェント」という言葉自体、業界内でも厳密な定義が定まっているわけではありません。
どこからが「エージェント」でどこまでが「自動化スクリプト」なのか、線引きは人によって異なります。この記事では便宜上、上記のような広い意味で使っています。
2. サブエージェント(Sub-agent)
1つの大きなタスクを、独立した権限とコンテキストを持つ複数の小さなエージェントに分割して処理させる仕組みのことです。
親となるエージェントが、専門特化したサブエージェントにタスクを委任し、結果だけを受け取ります。
たとえば「コードレビュー用」「調査用」のように役割ごとにサブエージェントを分けておくと、それぞれが自分のコンテキストウィンドウの中で独立して作業できるため、親エージェント側のコンテキストを圧迫せずに済みます。
CodexやClaude Codeなど、コーディング用のエージェントツールでよく使われる仕組みです。
3. エージェントループ(Agent Loop)
「行動する → 結果を観察する → 次の行動を決める」を繰り返す仕組みを指す言葉です。ゴールに到達したとエージェント自身が判断するか、上限回数に達するまでこのループが続きます。
注意点として、上限回数を設定し忘れると、同じ確認と修正を延々と繰り返してAPIコストだけが膨らむことがあります。
実運用では最大反復回数を設定しておくと安心です。
似た言葉に「エージェンティックワークフロー」がありますが、こちらは人間があらかじめ設計した手順の中の一部をAIに任せる、という意味で使われることが多く、エージェントループとは区別されます。
ただしこの使い分け自体、書き手によって揺れていることも多いです。
4. ツールコーリング(Tool Calling)
LLM自体は文章を生成するだけの存在なので、外部の情報を取りに行ったり何かを実行したりするには、関数やAPIを「ツール」として渡してあげる必要があります。
モデルは必要なツールを選び、実行のリクエストを出し、その結果を受け取ってから返答を作ります。
「今月の売上を教えて」と聞かれたときにAIが適当な数字を答えるのではなく、getSalesData(month) のようなツールを呼び出して実データを取得する、という流れがツールコーリングです。
5. エージェントハーネス(Agent Harness)
LLM単体はエージェントの「頭脳」に過ぎません。ツールの管理、ループの制御、権限チェック、エラー処理など、頭脳の周りを固める土台の部分を指してこう呼ぶことがあります。
「ハーネス」という名前から複雑な仕組みを連想しがちですが、要はLLMを実際に動かすためのプログラム側の仕組み全般を指す言葉、というくらいの理解で十分です。
6. コンテキストエンジニアリング(Context Engineering)
システムプロンプトだけでは足りないとき、その瞬間にモデルへどんな情報を渡すべきかを設計することを指します。
会話の履歴、関連ドキュメント、記憶、ツールの実行結果などが対象になります。
「これも投稿しておいて」という曖昧な指示でも、直前のやり取りや承認済みかどうかの情報が渡っていれば、エージェントは何を指しているか正しく判断できます。
渡す情報は多ければ良いわけではなく、必要なものを的確に渡すことが重要だとよく言われます。
7. メモリ(Memory)
会話の文脈だけに頼らず、重要な情報を保存して後から呼び出す仕組みのことです。同じ説明を毎回繰り返さなくて済むようになります。
先週「このツールの無料枠は月100リクエストまで」と伝えていれば、数週間後に「あのツールの上限っていくつだっけ」と聞くだけで答えが返ってくる、というのがメモリーの役割です。
8. MCP(Model Context Protocol)
エージェントが外部のツールやデータに接続するための共通規格です。
Anthropicが2024年11月に公開し、2025年12月9日にはLinux Foundation傘下の新組織Agentic AI Foundation(AAIF)へ寄贈され、ベンダー中立の標準として運用される体制になりました(Anthropic公式発表)。
MCPが登場する前は、連携したいサービスの数だけ個別に実装が必要でした。
MCPサーバーを用意すれば、そのサーバーに対応しているどのAIアプリからでも同じ手順でツールやデータにアクセスできます。
2026年7月28日には仕様が大きく改訂され(通称2026-07-28仕様)、セッション管理を廃止したステートレスな方式に切り替わりました。バージョンによって挙動が変わる部分があるため、実装時は公式ドキュメントで対応バージョンを確認することをおすすめします。
9. プランニング(Planning)
複雑な目標を渡されたとき、いきなり手を動かすのではなく、先にタスクを分解して順序を決める工程のことです。
「展示会用のブースを準備して」という依頼なら、「会場の仕様確認 → デザイン案作成 → 発注 → 搬入手配」のように、まず計画を立ててから各タスクに着手します。
10. リーズニング(Reasoning)
単に情報を検索したり暗記した内容を答えたりするだけでは足りない、複数の選択肢を比較し制約条件を踏まえて妥当な結論を出す能力を指す言葉です。
「A社とB社、どちらの見積もりを採用すべきか」のような判断には、価格だけでなく納期や過去の実績といった複数の条件を天秤にかける必要があり、ここでリーズニングの力が問われます。
なお「リーズニング」という言葉は、LLMの内部的な推論プロセス(Chain of Thoughtなど)を指す文脈でも使われ、意味がやや広いことには注意してください。
11. マルチエージェントシステム(Multi-Agent System)
万能なエージェントを1体作るのではなく、役割ごとに専門化した複数のエージェントを協働させる構成のことです。
営業資料作成担当、請求書処理担当、問い合わせ対応担当のように役割を分けると、それぞれのエージェントがシンプルな指示で済み、全体としての精度も上がりやすいとされています。
ただし、エージェントの数を増やすほど管理コストや連携ミスのリスクも増える点は留意が必要です。
12. オーケストレーション(Orchestration)
複数のエージェントやツールが存在するとき、誰がいつ何をするかを采配する役割のことです。
オーケストレーター(進行役のエージェント)がタスクを振り分け、各結果を集約します。
新商品の発売準備なら、オーケストレーターが在庫確認担当・価格設定担当・広告文作成担当それぞれに指示を出し、集まった結果をまとめて最終案を組み立てます。
13. ハンドオフ(Handoff)
あるエージェントが「この先は別の専門エージェントに任せた方がいい」と判断し、会話やタスクの続きを引き継ぐことです。単にツールとして呼び出すのとは違い、その後の対応そのものを別のエージェントに委ねます。
問い合わせ対応エージェントが、返金に関する込み入った相談を受けたときに経理専門エージェントへ引き継ぐ、といった使い方をします。
14. A2A(Agent2Agent Protocol)
異なるベンダーやチームが作ったエージェント同士が、互いを見つけ出し連携するための通信規格です。
Googleが2025年4月に発表し、同年6月にLinux Foundationへ寄贈されました。2026年4月には運用1年の節目で、150以上の組織が支持を表明していると発表され、AWS・Microsoftなど主要クラウドとの統合も進んでいます(Linux Foundation公式発表)。
MCPが「エージェントとツールをつなぐ」規格なのに対し、A2Aは「エージェントとエージェントをつなぐ」規格、という整理で覚えると混同しにくいです。
両者は競合するものではなく、組み合わせて使われることが多いとされています。
15. ガードレール(Guardrails)
エージェントの行動を制限・監視する仕組みのことです。入力や出力の内容をチェックしたり、特定のツールへのアクセスを禁止したり、実行前に許可を求めたりします。
「メール下書きの作成はOK、実際の送信はNG」のように、できることとできないことを明確に線引きしておくのがガードレールの基本的な考え方です。
16. HITL(Human-in-the-Loop)
エージェントが自律的に動く中でも、重要な判断だけは人間の承認を挟む仕組みのこと。
高額な発注や不可逆な操作の直前に「本当に実行しますか」という確認を挟むのが典型例です。
自動化と安全性のバランスを取るうえで、実務では欠かせない設計要素となります。
17. Evals(イーバルズ)
エージェントの性能を評価するためのテストのことです。最終的な回答の質だけでなく、正しいツールを選べたか、想定通りの手順を踏めたかまで検証します。
「会議日程の調整を依頼したら、想定外にホテルの予約を始めてしまった」というような失敗は、Evalsを整備しておくことでリリース前に発見できる可能性が高まります。
18. コンピュータユース(Computer Use)
APIが用意されていない古いシステムに対して、人間と同じようにブラウザやOSを操作させる方式です。画面を認識し、ボタンをクリックし、フォームに入力するところまでAIが担当します。
APIに比べて操作の安定性が低く、画面レイアウトの変更で失敗しやすいという弱点があります。API連携が使える場面では、そちらを優先する方が安全だとされています。
19. サンドボックス(Sandbox)
エージェントにコードの実行やファイル操作を任せる際、外部のシステムやネットワークから隔離された安全な実行環境を用意することです。
エージェントが生成したコードにバグや悪意ある処理が含まれていても、サンドボックスの外には影響が及ばないようにする、いわば「実験用の隔離部屋」です。
コード実行を伴うエージェントを運用するなら、ほぼ必須の考え方とされています。
20. コンテキストウィンドウ(Context Window)
LLMが一度に読み込んで処理できる情報量の上限のことです。会話履歴、渡したドキュメント、ツールの実行結果などはすべてこの枠に収まる必要があります。
エージェントが長時間タスクを続けると、履歴やツール結果がどんどん積み上がり、コンテキストウィンドウを圧迫していきます。
上限に近づくと古い情報を要約・圧縮したり、サブエージェントに処理を切り出したりといった工夫が必要になります。
おわりに
一つひとつは難しい概念ではないのですが、似たような言葉が多く、初見では整理がつきにくい分野だと感じます。
繰り返しとなってしまいますが、この記事はあくまで私なりの整理であり、正式な定義集ではありません。
実務で使う際は、チーム内やドキュメントでの用語の使われ方を優先してください。