概要
地震や台風などの自然災害時に,人工衛星による被災地域の観測や,観測したデータから得られた推定被害地域の情報が提供されています.
ここでは,公開で提供されている情報の入手方法や,そのデータの地図ソフト(今回はQGIS)の重畳させる方法を紹介します.
自然災害での衛星画像については,国土交通省が提供しているガイドブックがわかりやすいので,こちらを参考にしてください.
災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・衛星基礎編
災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・浸水編
災害時の人工衛星活用ガイドブック 土砂災害版
はじめに
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は, 自然災害発生時に災害箇所の被害把握を目的に,運用している「だいち2号」(ALOS-2)を用いた緊急観測を行っています.さらに,2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)などの大規模災害などの広範囲の災害が発生した場合は,より多くの人工衛星による観測から被災情報を得るために,センチネルアジアや国際災害チャータなどの国際協力の枠組みを活用し,海外衛星も含めた災害情報を防災ユーザに提供しています.
<令和元年東日本台風における国際枠組みからの協力>
センチネルアジア
国際災害チャータ
ここでは,2019年10月の台風19号災害(令和元年東日本台風)にて提供された衛星画像および被害情報につい紹介します.
衛星画像および災害情報の可視化
自然災害の推定被害情報の取得
JAXAが観測した「だいち2号」の観測画像のなかで,災害前の過去画像との災害後の観測画像の組み合わせにより得られた画像(RGBカラー合成),およびそれより判読された浸水域や土砂崩落箇所の情報は,以下のWEBポータルより入手することができます.
ここの「最新の災害」をクリックし,対応した災害および提供されたリストを閲覧します.
このなかで,「2019年台風19号(2019-038-JPN)災害速報ページ」をクリックします.
そうすると,プロダクトダウンロードのページに移ります.
ここでは,台風19号災害にて実施した「だいち2号」の観測データのうち,過去データとの組み合わせ処理(RGBカラー合成)や,判読された浸水被害や土砂移動推定箇所の情報がアップされています.
データ(ファイル)のダウロードにはアカウントが必要みたいですが,WMSやWFSなどのデータの参照はきるみたいです.WMSやWFSについては,詳しくは以下のサイトをご参考ください.
データそのものを取得することはできませんが,Web上にてデータを閲覧,もしくは解析に利用できるサービスになります.
では,10月14日12時頃に観測された茨城県水戸市の観測結果を見てみます.
”浸水粋推定箇所手動編集結果”のWebGIS"をクリックします.
そうすると,災害速報図ビューア(C)JAXAが立ち上がります.
これをみると,水戸北スマートIC付近に水色のポリゴンが現れます.これが,衛星画像より推定された浸水域の情報になります.
また,そのポリゴンの名称は,Layer Listをみると"【更新】浸水抽出ポリゴン 20191014-006-05-WTR"であることがわかります.
では,この浸水情報のWebGISのアドレスを確認します.
先程の掲載されているリストを見ると,"解析結果 WMS/WFS配信情報"とあります.こちらをクリックして開きくと,下記の各情報の配信URLのリストがでてきます.
ここで,先程のLayer Listと同じ名称のURLがありました.こちらのアドレスをコピーします.
次に,QGISを用いてここで取得した浸水域の情報を地図に重畳します.
QGISでの推定被害域の閲覧
QGISのインストールおよび閲覧方法については以下のサイトをご参考にしてください.
では,インストールしたQGISを起動します.
起動が終わったら,今回は背景(ベースマップ)に国土地理院地図を用います.国土地理院地図の閲覧方法については,以下のサイトをご参考にしてください.
GISソフト(QGIS)でGoogle Mapなどの汎用地図をプラグインする方法.
左の”XYZ Tiles”を右クリックし,”新しい接続”を選びます.
次に,上記のとおり,URLに国土地理院地図のURLをペーストし,名前を適当に記入し”OK”をクリックします.
ZYZTilesに国土地理院地図が追加されるので,これをダブルクリックすると下部の”レイヤ”に国土地理院地図が追加されます.ではズームして茨城県を見てみます.
これで準備はできました.次に,「だいち2号」の観測画像より推定された浸水域を重畳します.
今回参照したWebGISサービスは,名称を見ていただくとわかるのですが,”WFSサービスのURL”とあります.
そのため,QGISのブラウザからWFSの部分を右クリックし,”新しい接続”を選択します.

名称には適当な名前を入力し,URLに先程コピーしたURLアドレスをペーストします.そして,OKを押します.
左の”ブラウザ”のWFSに,ここで準備した”衛星画像より推定された浸水域”が追加されたことがわかります.これをダブルクリックし下部層を表示し,ファイル名の”UPDATE_PRD_20191014_006_0000303323_05_WTR”をダブルクリックすると,地図に推定された浸水ポリゴンが表示されます.
色が好みではないので,レイヤの対象ファイルを右クリックし,プロパティを選びます.そして,”シンポロジ”より色を変更します.今回は,水色枠を選びました.
浸水ポリゴンの色が変わったことがわかります.
では,水戸北スマートIC付近を見ていきます.
少し分かり難いですが,青い枠が推定された浸水箇所です.浸水と推定された大部分が田んぼであることがわかります.一方,オレンジ色の四角は建物ですが,建物が密集している地域までは浸水していないように見えます.
実際には,浸水範囲はもう少し広く,推定浸水ポリゴンよりも左側部分の家屋に浸水が報告されていました.これは,衛星の観測時期が実際の浸水時間と異なることもありますが,今回用いた「だいち2号」の観測センサであるSAR(電波)センサは,その特徴から,平坦部分の浸水を推定するのは得意ですが,建物部分の浸水の推定はそれほど得意ではありません.その影響が大きいかと思います.
この部分は研究が進められており,近い将来には,建物付近も衛星画像による浸水の推定精度が向上することが期待されています.
一方,Google Mapなど,多くの方に馴染みのある光学観測画像は,浸水があれば”土色”になるため区別することが見た目でもわかりますが,水害時は災害箇所が雲に覆われていることが多く,観測できるかどうかは”天気次第”になります.そのことから,災害では必ず観測できる”SARセンサ”が頼られます.
SARセンサによる災害箇所の識別については,先に紹介しました国土交通省のハンドブックをご参考ください.
おまけ
せっかくなので,衛星画像そのものの解析結果もここに重畳してみます.
先程のLayer LISTから衛星画像の解析結果を選択します.
ファイル名称をみると,”WMSサービスへのURL”とあります.そのため,ブラウザより”WMS/WMTS”を右クリックし,”新しい接続”を選択します.
名称は適当に入力し,URLに先程のリストのアドレスをペーストします.そして,OKを押します.
ファイルの名称”PRD_RGB_....”が表示されますので,こちらをダブルクリックし,下部の”レイヤ”に追加されます.
こちらが,災害前の観測画像と災害後の観測画像から得られたRGB合成画像,とよばれる解析画像になります.
これでは少し分かり難いので,左の”レイヤ”からRGB画像をドラッグドロップで,UPDATE表示よりも下部に移動させます.
すると,RGB画像で赤い部分が,浸水と推定された青いポリゴンがその枠を囲っているのがわかります.
衛星解析画像の赤い部分は,衛星のSARセンサへの反射信号が低下した部分を表しています.一般的には,水がはった部分は鏡面になるため,反射信号は低下します.詳しくは,災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・衛星基礎編をご参考ください.
おわり
今回は,災害時に提供されている衛星画像から得られた被害域の情報の入手方法,およびGISソフトを用いた地図への重畳方法について紹介しました.
ここでは,2019年10月の台風19号災害での情報を例としましたが,その他にも2018年7月の西日本豪雨災害などの情報も提供されています. 衛星画像そのものは解析できませんが,提供されている画像情報を同じWebGISより閲覧することは可能ですので,ご興味のある方は試してみてください.
衛星画像そのものを解析,例えば今回のような過去画像と新しい画像よりRGB合成画像を作成するなど,はTellusのサイトでできますので,トライしてみてください.
人工衛星画像のオープンフリーなプラットフォーム「Tellus」にてデータ解析.
参考情報
国土交通省:災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・衛星基礎編
国土交通省:災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・浸水編
国土交通省:災害時の人工衛星活用ガイドブック 土砂災害版
センチネルアジア
国際災害チャータ
だいち防災WEBポータル



















