Web3やインターネットの現実に失望を感じたことがある方にこそ、ぜひ届いてほしい記事です。
本記事は、創設者のSam Williams自身の言葉で語られたインタビュー全文の翻訳を掲載しています。『1984年』に対する言及が多用されているように、インターネット・ディストピアを防ぐという明確な使命感のもと、「永続的なウェブ」(Permaweb)の思想哲学は構想されました。
「永続的なウェブ」(Permaweb)の思想哲学やArweaveが半永久的なストレージとして機能する仕組み、さらに分散コンピューティング「AO」について理解を深めたいすべての人にとって最適な入門です。
記事では技術的な解説にとどまらず、より本質的な問いにも踏み込んでいます。
「真のプロトコルとは何か。プロダクトとは何が違うのか」「トークンエコノミクスのあるべき姿」「現代のアテンションエコノミーとどう向き合うべきか」など、示唆に富む論考が語られています。
特殊な口語英語のため翻訳には苦労しましたが、一行ずつ丁寧に意味を汲み取り、日本語として自然に読める形に仕上げました。僕がこれまで執筆してきた多数のWeb3記事の中で、一番読んでほしい内容です。
Arweave 設立経緯: 壊れたインターネット
Host: 本日のゲストは Sam Williams さんです。a16z の出資を受けている Arweave の創設者で、「データ版ビットコイン」とも呼ばれることがあります。永続的な情報ストレージに特化したプロジェクトです。本日は、その全貌をじっくり掘り下げていきます。ようこそお越しくださいました、Sam!
Sam: ありがとうございます。番組に呼んでいただけて光栄です。
Host: Sam さん、お越しいただきありがとうございます。さて、番組冒頭の恒例コーナーに入りましょうか。よろしければ、自己紹介をお願いします。これまでのご経歴や、Arweave を立ち上げるに至った背景についても、ぜひお聞かせください。
Sam: 今から 7〜8 年前、私は分散オペレーティングシステムの設計に関する博士課程に取り組んでおり、ちょうど修了に差し掛かっているところでした。当時は、「高信頼なコンピューティング」と呼べるような分野に強く関心を持っていました。私の研究テーマはこうしたアイデアを探究する OS の構築で、具体的には、マシンが稼働中にハードウェアの一部が抜かれたり故障した場合でも、有用な計算を継続し、障害から自律的に復旧できるようなシステムを目指していました。いわゆる、ハードウェア障害に対する耐障害性コンピューティングです。
博士課程の終わり頃、私は次第にこう感じるようになりました。社会全体において、本当に必要とされているのは「信頼できる計算」ではなく——当時の私は、それはある程度カバーされていると考えていました——信頼性の高い情報の保存と、時間を経ても正確に保たれる情報の提示ではないか、と。要するに、私たちは「何が真実なのかを見極めることがどんどん難しくなる世界」へと突き進んでいるように思えたのです。かつては情報が比較的自由に流れていた西側諸国においてさえ、その流れが徐々に制限され始めていました。私は、あの『1984 年』のような世界に生きたくはありませんでした。
そこで私は考えました。ブロックチェーンというのは、本質的にはデータに対するコンセンサス(合意)を形成するマシンです。これを活用すれば、情報を非常に多くの場所に複製することができ、どんな個人や組織であっても、それらすべてから完全に削除する力や権限を持てなくなるのではないかと。本質的には、これはこういう問いです。サトシ・ナカモトがビットコインの最初のブロックに新聞の見出しを埋め込んだように、限られた情報ではなく任意のサイズのデータを、誰にも消せない形で残すにはどうすればよいのか?ということです。
それが、Arweave を生み出すことになった着想の原点でした。
Arweave の概要: SPoRA, Storage Endowment
あれは今からおよそ 7 年半から 8 年前のことです。私たちはその着想に沿って開発を進めていきました。その中で、「SPoRA(Succinct Proofs of Random Access)」と呼ばれる新しい証明システムを考案しました。これは、ユーザーが自分のハードドライブを使ってマイニングできる仕組みで、保存しているデータ量をネットワークに対して証明できるようにするものです。さらに、ネットワーク上であまり複製されていないデータを保存するほど、より高いインセンティブが得られる設計になっています。
さらに Arweave は、任意のサイズまでスケール可能なため、理論上はウェブ全体を 1 つのベースレイヤー・トランザクションに収めることさえ可能です。しかし、それによって新たな課題が生まれます。そのコストをどう支払うのか?という問題です。ビットコインは、オンチェーン上での永続的なストレージを「成り立たせる」ことができましたが、それは保存するデータ量が極めて小さかったからです。一方で、非常に大きなデータセットを扱う場合には、長期にわたってその保存コストをどのように支払い続けるかという、現実的かつ持続可能なメカニズムが不可欠になります。
そこで私たちが考案したのが、Arweave のもう一つの中核的なイノベーションである Storage Endowment(ストレージ基金) の仕組みです。これは、ネットワークにデータを追加した時点で、200 年分の保存コストを一括で前払いするというモデルです。その後、ストレージの単価が時とともに下がっていくことで、この前払い分の「ストレージ購買力」は実質的に拡張されていきます。仮にそのコスト下落率が年 0.5% を上回るなら、毎年、開始時よりも多くのデータを保存できる購買力を持って年を終えるということになります。一見すると直感に反するように感じられますが、これは実際に成立するメカニズムです。
この仕組みによって、あらかじめ一定の資本を用意しておけば、そこから長期にわたってストレージコストをまかなっていけるという「基金モデル」が実現されます。それがまさに、Arweave の基本的な仕組みです。プロジェクトは順調に成長を続けており、メインネット稼働からすでに 6 年半が経過しました。そして先週、ネットワーク上に保存された情報の総数が 100 億件を突破し、これは私たちにとっても重要な節目となりました。
Host: それって、インデックス化されたウェブ全体の……4 分の 1 くらいってことになりますかね?
**Sam:**まさにその通りです。
Arweave と他の分散ストレージの違いとは?永続的なストレージ
Host: いやあ、実に興味深いですね、Sam さん。この話には後ほどまた戻るとして、まずは触れておきたいことがあります。いわゆる分散型ストレージ・ソリューションを開発しているプロジェクトは他にもいくつかありますよね。Arweave のほかに、Filecoin や InterPlanetary File System(IPFS)などもあります。
さて、先ほどあなたは『1984 年』に言及されましたね——もちろん、ジョージ・オーウェルによる古典的なディストピア小説です。多くの方は、『1984 年』が象徴する未来像についてご存知だと思いますが、念のためリスナーのためにお伺いしたいんです。なぜ、あなたはあのような未来に対する代替手段を持つことが重要だと考えているのか?そして、もし私たちが他の選択肢を持たなければ、今の社会はなぜあの方向へと進んでしまう恐れがあるのか?そのとき、私たちはいったい何を脅威として直面することになるのでしょうか?非常に重要な問いだと思います。
Sam: 実は、先ほどの 2 つの問いにはひとつの観点からまとめて答えることができると思います。たとえば Filecoin や IPFS のようなプロジェクトは、いずれも「一時的な情報保存」を前提に設計されています。対して Arweave は、まったく逆のアプローチから始まりました。一時的なストレージが欲しいのであれば、中央集権的なプロバイダーから買えばいい。それをあえて分散型ネットワークで実現するのは確かに面白いですが、得られるのはスケールメリット(規模の経済)であって、ゼロイチのイノベーションとは言えません。それは本質的には、「資本効率」の改善に関する技術革新にすぎないのです。
一方で、いかなる個人や組織の支配や権限の及ばないビジネスモデルのもとで、データを保存できる仕組み。これはまさに、ビットコイン以降に初めて可能になった、根本的に新しい概念です。ビットコインはその最初の実例として、「信頼を必要としない通貨システム」を実現しました。そして Arweave は、「信頼を必要としないデータストレージシステム」です。任意の長期にわたって情報を複製・保持することを可能にします。
そもそも、なぜそんな仕組みを構築しようと考えたのか?当時の私たちが抱いていた問題意識はこうでした。——インターネット上の情報に誰もが自由にアクセスできるという状態が、少しずつ失われつつあるように思えたのです。私はいま 32 歳ですが、たしか 10 歳くらいのときに初めてインターネットに触れました。つまり私は、非常にリアルな意味でインターネットと共に育ってきた世代です。私が育ったのは、歴史的に見てもインターネットが最も自由だった時代だったと思います。誰もが自分のウェブサイトを立ち上げ、自分の視点を持ち、それを世界中に発信できた時代です。
しかしその後、私たちが今「Web2 の巨人たち」と呼ぶ企業群による、再びの中央集権化が進みました。そこでは、ユーザーとしての権利はほとんど存在しません。実際、あなたはただの「顧客」にすぎない。いや、ほとんどの場合、料金すら直接払っていないので、顧客としてさえ尊重されていないと言っていいかもしれません。実際には、そうしたサービスにおけるあなたの役割は、企業が別の形で収益を得るための手段にすぎないのです。典型的には、あなたの「注意力(アテンション)」を第三者に売ることで利益を上げています。つまり、あなたは「サービスを受けている顧客」ですらなく、売られる存在になっているのです。
私たちはこのような状況が起こり始めるのを目の当たりにして、こう考えました。インターネットの根本的な問題のひとつは、「リンクが切れる」ということではないか。たとえば、あるウェブサイトにアクセスしたとしても、その中身はあとから変更されてしまう可能性があります。そして時間をおいてもう一度アクセスしても、最初に見たときとまったく同じ内容が、同じ場所にあるという保証はどこにもないのです。
現代のインターネットは、社会における情報の調整メカニズム、つまり「意味を構築する方法」そのものに深く組み込まれています。だからこそ私たちは今、社会全体として“非常に忘れっぽい存在”になってしまっていると言えるのです。たとえば、アメリカの最高裁判所の判決の約 50%には、現在デッドリンクが含まれています。つまり、彼らが当時どのような情報を参照して判断を下したのかを後からたどろうとしても、その情報自体にアクセスすることができないのです。
それはとても微妙で、背景に隠れるように、しかもゆっくりと進行するため、人々はなかなか気づこうとしません。けれど実際には、私たちは現代の文化や歴史のほとんどすべてを、静かに忘れつつあるのです。だからこそ私たちは考えました。文化と歴史を、決して忘れられず、改ざんもされない「石の中」に刻もう。—つまり、ブロックチェーン上に記録し、それが時間の経過によって一切変化していないことを証明可能な形で保存するのです。そしてそれによって、「過去」を、言うなれば、生き生きとした鮮明なものとして蘇らせる。そうなれば、『1984 年』のウィンストンがしていたような、“情報を痕跡ごと葬り去る”ような仕事(メモリーホール化)は不可能になるはずです。
実際、私たちはネットワーク上のすべてのノードが、他のノードに対して『1984 年』を語りかけるような仕組みにしました。それによって、このシステムが生まれた背景と、それを支える原則を、私たちが決して忘れないようにするためです。
Permawebとは?永続的なウェブ
Host: 素晴らしいお話ですね、Sam さん。だからこそ、あなたはたとえば「200 年というスパンでストレージを支払う」という発想をされているわけですね。それは、私たちが普段考える時間軸よりも、はるかに長いものです。現代人の平均寿命を超えているわけですし、そもそも人々はそんなに長い時間のことを考えること自体、ほとんどありません。ましてや、それ以上の未来のことなどなおさらです。
それって、まさにあなたが「Permaweb(パーマウェブ)」と呼んでいるコンセプトにつながっている話でもありますよね。よければ、その Permaweb というアイデアについて、そしてそれが Arweave のコア技術スタックとどのように関係しているのか、説明していただけますか?
Sam: Permaweb(パーマウェブ)とは、Arweave を基盤とするプロトコル群からなるスタックのことです。ユーザーにとっては、見た目も使い心地も通常のウェブと変わらないものとして体験されます。ただし、その背後には、ブロックチェーンの性質、改ざん不可能性や永続性といった特性が組み込まれているのです。
Permaweb のもっとも基本的な特性は、「永続性」です。一度データをアップロードすれば、同じ識別子(ID)でアクセス可能な状態が保たれ、そのデータは Arweave 上にバックアップされ、将来にわたって無期限に利用できるようになります。「無期限に」と言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、私たちは実現可能な限り“永続的”に近づけるために、最大限の工学的努力を注いでいます。もちろん、それは「無限」でもなければ、「魔法」でもなく、「永久機関」でもありません。ですが、私たちが想像しうる中で最も長くデータを保持し続けるために設計されたシステムであり、それを実現するための複数のメカニズム(仕組み)が組み込まれています。
つまり、Permaweb は「情報が永続するウェブ」なのですが、それは同時に、一度公開された情報が、もはや発信者の手元にはないということも意味しています。情報はいったん記録されると、ある意味で「所有者のいない」状態、あるいは「信頼を必要としない」状態になります。それは、すべての人のあいだに共有された「共通の空間」に存在する情報になるということです。この点が非常に興味深いのは、その性質を活かして「永続的なウェブサービス」や「永続的なアプリケーション」を構築できるようになるからです。
たとえば ardrive.ar にアクセスすると、見た目は一般的なウェブアプリのように見えるインターフェースが表示されます。しかしそのアプリケーションは、ユーザーに対してブロックチェーン的な特性、つまり、永続性や不変性、誰にも改ざんされないという性質を提供しているのです。ここで重要なのは、単にデータの保存先が分散化されているというだけではないという点です。ユーザーインターフェースそのものが分散化されているのです。そのため、ArDrive を開発したチームでさえも、今さら「有料化スイッチ」を追加して、「サービスを使うたびに料金を徴収する」ような変更を行うことはできません。このように、そのアプリケーションは永続的かつ不変なものであり、それはちょうどビットコインのようなブロックチェーン・プロトコルに対して私たちが期待する性質と同じです。ただし、それがプロトコル層ではなく、アプリケーション層で実現されているという点が決定的に異なります。
それこそが、私たちの考える核心です。私たちの本質的な使命は、こうしたものです。その時代の主要なコンピューティング・プラットフォームにおいて、ユーザーが利用するコアなプロトコルやサービスの内部に、あらかじめ保証された「不変の権利」を組み込んだサイバースペースを構築すること。現在で言えば、それは「ウェブ」です。将来的には「VR」かもしれません。けれど、そのプラットフォームが何であるかは本質的には重要ではありません。なぜなら、核となる考え方は常に同じだからです。お金や金融にとどまらない、「信頼不要なサービス」が存在するサイバースペースを実現する。それが、私たちが目指す世界です。
もちろん、(ブロックチェーン的な)サービスは素晴らしいものです。ですが、人々が日常的に使っているサービスの多くは、実際にはそうなっていません。たとえば、X(旧 Twitter)のような SNS、ニュースサービス、あるいは予測市場のようなものまで——私たちの生活の中には、実にさまざまなサービスがあります。そしてそのすべてが、本来は「信頼不要(トラストレス)」であるべきだと私たちは考えています。ユーザーには明確な権利が与えられるべきなのです。私たちは、まさにそれを実現するためのインフラの中核(バックボーン)を構築しています。
AO プロトコルとは?分散化されたスーパーコンピューター
Host: 素晴らしいですね、Sam さん。さて、あなたが最近発表された新しい技術のひとつに、AO プロトコルがあります。「分散型・オープンアクセスのスーパーコンピューター」とも呼ばれていますね。この AO は、Arweave の技術スタックの一部ですが、「ハイパーパラレル・コンピューター」という表現でも紹介されています。そこでお伺いしたいのですが、AO とはいったい何なのか?そして、従来のブロックチェーン・アーキテクチャとは、どこがどう違うのでしょうか?
Sam: AO は Permaweb スタックの一部です。私たちはこの構成を、Arweave を基盤とする複数のプロトコルが積み重なったスタックと呼んでいますが、Arweave が唯一のプロトコルというわけではありません。たとえば、ArIO(ar.io) のようなプロジェクトも、コミュニティから生まれています。これはいわば「ゲートウェイネットワーク」のようなもので、Permaweb へのアクセス層を担っています。ArIO は、アクセス層の分散化を実現すると同時に、ArDrive のような人間が読みやすい名前によるアクセスも可能にしています。とはいえ、AO の本質は、分散型のスーパーコンピューターです。私たちが気づいたのは、これはもともと設計していたわけではなく、結果的にそう“展開された”ものなのですが、任意のサイズのデータを、永続的にオンチェーンで保存できるようになると、そこには、ローカルステートを持ち、グローバルに同期されない構造のまま、任意にスケール可能な計算機の構成要素が自然と揃っていた、ということです。
これをもう少し構造的に見てみると、こうなります。スマートコントラクトシステムで実行されるあらゆる計算というのは、突き詰めれば「プログラム」と「入力群(インプット)」のセットで構成されています。その入力とは、具体的にはそのプログラムと相互作用するトランザクションの集まりです。そして、それらは決定論的な(=常に同じ結果を返す)仮想マシン上で動作するように設計されています。もしそのプログラム・トランザクション・実行履歴すべてが永続的にログとして記録されていれば、後からでもその計算の出力(結果)を正確に再現・検証できるというわけです。
Arweave は、任意のスケールで情報を永続的に保存できる分散型のログシステムです。つまり、計算の記録をいくつでも保存することができます。それぞれのログは、ある意味では一つひとつがブロックチェーンのようなものと捉えられます。そして AO の役割は、それらのログ同士を結びつけることにあります。具体的には、Arweave を「バス(bus)」として活用するネイティブなメッセージングネットワークを使って、複数のログを繋いでいくのです。この「バス」とは、コンピューターサイエンスの用語で、情報を一方から他方へ届ける仕組みのことで、マザーボード上の通信路のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
これは、言うなれば複数の異なるブロックチェーンを一つに縫い合わせ、あたかも統合された 1 台のコンピューターのような環境を提供します。それは、まるで AWS にログインして使うような、ごく普通のコンピューターのように“見え”て“感じられる”ものです。コマンドラインがあり、そこにコマンドを打ち込んでアプリケーションを構築できます。ただし、その裏側は、実のところブロックチェーンに非常に近い構造になっています。
複数の計算ユニットを組み合わせて、あるインタラクションに対する状態を導き出すことができます。そして、現在テストネット上にあり、数ヶ月以内にローンチ予定のメインネットでは、「どの入力をどの順番で処理すべきか」という順序決定(シーケンシング)を分散的に合意形成するための仕組みも導入されます。このように、これらすべてを組み合わせることで、最終的には分散型スーパーコンピューターが出来上がるのです。
私は Ethereum をプロジェクトの初期からずっと追いかけていて、当時のマーケティング資料に「Ethereum はワールドコンピューターになる」と書かれていたのを今でも覚えています。そのコンセプトにすっかり心を奪われて、「まあ今月 AWS に払う予定だった分だし」と思って、ICO に 10 ドルだけ出資してコンピュートクレジットを買ってみたんです。それが、まさに何かとてつもないものの始まりでした。Ethereum は、実に驚異的なプロジェクトとして大きなムーブメントを生み出しました。
金融プリミティブの分散化は非常に驚くべきことです。お金を超えて今や、金融のすべての基本プリミティブです。それは非常にクールですが、ワールドコンピューターではありません。言うなれば、シングルスレッドのワールドコンピューターのようなものです。
Arweave 上でこのアーキテクチャが実現可能だと分かったとき、私たちは迷わず、それを実装することに決めました。現在テストネットでは、平均して 1 日に約 1 万〜1 万 1 千の並列プロセスが動いています。これらは本質的には、それぞれが同時に稼働してメッセージをやり取りしている独立したブロックチェーンのようなものです。送受信されるメッセージの数は、1 日あたり約 700 万〜800 万にのぼります。この状況には本当にワクワクしています。すでに多くの人がこの仕組みに魅了され、クールなプロダクトをどんどん構築し始めています。
AO コンピューターの経済学。BTC をリスペクトしたフェアローンチ
Host: 興味深いのは、Sam さん、あなたが「AO コンピューターの経済学」と呼ぶものに触れるときです。もちろんトークンは存在しますが、あなたははっきりと「AO トークン」(そう呼んでいいんですよね?)が、ビットコインの経済モデルに基づいた 100%フェアローンチのトークンであると強調しています。この点について、簡単に説明していただけますか?ビットコインと同じく、2100 万枚の発行上限、そして 4 年ごとの半減期。これは…かなり意図的な設計ですよね、Sam さん?
**Sam:**ええ、もちろん考え抜きましたよ。これまでにトークン化プロトコルの構築に 7 年間取り組んできた経験がありましたし、それに加えて相当な検討を重ねました。でも、根本的なところでは、私たちはこのプロジェクトを始めた時点で、「これは技術的にものすごく面白い」と確信していたんです。そして実際に今、しっかりとこの仕組みを掘り下げた人たちは、私たちと同じ結論にたどり着いているように思います。
でも、スマートコントラクトのエコシステムを見てみると、こう思うわけです。「この仕組みが成功するには、いったい何が必要なんだろう?」と。なぜ、計算能力だけ見れば電卓と同じような Ethereum が、今なお圧倒的な存在であり続けているのか?答えは明白です。それは“流動性”です流動性というのは、ある種の「磁力」のようなものです。ものを引きつけもすれば、突き放すこともある。たくさん流動性がある場所には、さらに多くの要素が自然と引き寄せられていきます。これは直感的にもわかりますよね。仮にあなたが、今からクリプトの新しいプロジェクトを立ち上げるとしたら、どこで開発しますか?もし金融系のプロジェクトなら、お金がある場所を選ぶはずです。それが一番合理的ですし、他の場所でやる理由がないんです。たとえ面倒なことが多かろうと、自分のアプリを実際に使ってくれる可能性がある場所で作るためなら、人はそれを受け入れるものです。それが“理性的”というものでしょう。
逆もまた然りです。流動性がなければ、他のプロジェクトも集まってきません。そうなると、さらに流動性が生まれにくくなり、まるでプロジェクト自体が流動性を遠ざけているような状況になります。
そこで私たちは、この仕組みを立ち上げるときに考えたんです。「これは絶対に、正しい形でやらなければならない」と。技術はすでに揃っていました。あとは、正しい経済メカニズムさえ組み込めれば、本当にワクワクするようなものが生まれると確信していました。根本的に異なる経済圏を内包した“真のワールドコンピューター”が。金融だけでなく、Web 上のあらゆる用途に対して信頼を必要としないサービスを提供できる、まったく新しいコンピューティングの形が。つまり、すべてのレイヤーがひとつの場所に統合されたフルスタックです。それこそが私たちが目指したものです。
では、このビジョンをどうやって実現すればいいのか?私たちがまず最初に確信したのは、「最初から完全に分散化されていなければならない」ということでした。単一のコアチームだけで動かすようではダメです。それは Web のあり方でもなければ、プロトコルのあり方でもありません。真のプロトコルとは、最初の瞬間に誰かが“ゲームのルール”を定め、それ以降は多様なアクターたちによってそのゲームが展開されていくものです。そして、そのルール自体は基本的に変わらないまま、長期にわたって機能し続ける。それこそがプロトコルの本質であり、TCP、UDP、HTTP といったインターネットの基盤プロトコル、そして Bitcoin にも共通して見られる社会構造の“裏側”なのです。
だからこそ、私たち自身がその中心に居座るわけにはいかない。それでいいんです。むしろそうあるべきだと思っています。必要なのは、この仕組みの成功によってそれぞれがインセンティブを得るような、複数の独立した組織の“ギルド”のようなものです。まず私たちは、技術的なレベルからプロトコルを正しく設計しました。つまり、頻繁に改変する必要がないよう、初期段階で堅牢な仕様を固めたのです。そのうえで、ひとつの主体ではなく、多様な“導入組織”がそれぞれ独立して採用と普及を進められる体制をつくりました。これは、私たちが Arweave エコシステムの中で最終的に学び取ったことでもあります。当時は途中からその構造に移行しましたが、本当は最初からそうしておくべきだった。だからこそ今回は、最初からそれを実現しようとしたというわけです。
次に必要なのは、人々が“経済的居住地”として Arweave を選ぶようなインセンティブです。言ってみれば、巨大な“磁石”のようなものが必要なんです。先ほどの比喩を引き継ぐなら、人々をこのプロジェクトに引き寄せ、まずは試してもらうための力です。そして一度それが何を実現できるかを目にすれば、彼らは、流動性を目当てにやってきて、技術の素晴らしさに惹かれて定着するようになるはずです。なぜなら、私たちはこの技術が、今の市場で手に入るどんな選択肢よりも根本的に優れていると本気で信じているからです。
人々が経済的な拠点(=経済的居住地)としてこの仕組みに参加するためには、報酬が用意されている必要があります。そしてその仕組み自体が、さらなる参加者や開発者を呼び込む“フライホイール(自己強化サイクル)”として機能するべきなのです。
そこで私たちは、AO モデルにおけるすべてのトークン、一部ではなく、10%や 5%のエアドロップではなく、本当に全トークンを、システムに持ち込まれた流動性の量に応じて分配する設計にしました。流動性は、Arweave トークンによるものでも、Ethereum や(まだではありますが、まもなく対応予定の)Solana、さらにはその他多くのチェーンからブリッジされた資産によるものでも構いません。私たちは最終的に、暗号エコシステムの主要な流動性ハブすべてとブリッジ可能になることを想定しており、それらの資産を AO の“マシン”内部に取り込むことで、AO 自体が流動性のルーティングハブのような役割を果たすことを目指しています。
すると人々は気づくんです。「あれ、AO の中のほうが、むしろもっと面白いことができるじゃないか」と。そうして彼らはそのまま定着し、AO の上で構築を始めるようになるんです。
これは従来とはまったく異なるモデルです。私たちは VC にトークンを売ることなく、この仕組みを成立させています。最初に「Andreessen Horowitz(a16z)」の話が出ましたね。それは Arweave については事実です。しかし AO については、多くの VC から出資の申し出を受けたものの、私たちはそれをすべて断る決断をしました。
その代わりに、利回りを生むトークン、たとえば、stETH のような流動性ステーキングトークンや、DAI 貯蓄レート(DSR)を使った DAI のような通常のトークンをシステムにブリッジする設計にしました。私たちは、人々に対して「すでに利回りを生んでいる資産」をブリッジするよう呼びかけています。そして、それらをシステム内に置いておくだけで AO トークンを獲得できるようにしたのです。ユーザーは元本を失うことなく、そのトークンが本来生み出す利回りを、エコシステムを構築するギルドの資金源として提供するという形になります。
つまり、システムにトークンをブリッジしても元本を失うことはなく、その代わりにネットワーク上のオーナーシップを獲得できるんです。しかも、誰もが完全に同じ条件で参加できる。優先的な権利や特別なアクセスは一切ありません。これは本当に嬉しいことですし、「本来の暗号のあるべき姿」に回帰していると感じています。誰でも、平等な条件でこのネットワークの一部になれる。実際、現時点でも通常の日で 5 億ドル相当の資産がすでにネットワークに事前ブリッジされていて、この仕組みはすでに現実のものとして機能し始めているんです。
アテンションエコノミーへの解釈
Host: まさにその通りですね、サム。今のお話はとても明確に伝わってきました。そして話を少し戻すと、先ほどあなたが言っていた「取引数の伸び」についてですが、総取引数が 100 億件に到達したのは、確か先週のことでしたよね?その膨大な取引量を見ても、Arweave は今、世界で 2 番目か 3 番目に利用されているブロックチェーンの一つになっているんじゃないかと思います。
ただ一方で、あなたが先ほど言っていたように、流動性はさらに流動性を呼びます。たしかに、AO のようなエコシステムは本当に素晴らしいものです。つまりこれは、ただの VC がロック解除のタイミングを狙ってトークンを売り抜けるだけの構造ではなく、公正なルールに基づいたエコシステムだと言えるでしょう。でも同時に、あなたが触れていた通り、今の人々は、Web2 でもクリプトでも、"自分の注目(アテンション)"を切り売りする形で生きている。そして現実には、このアテンション・エコノミーは流動性のある場所へと従っていくんです。そして今、その“流動性”が集中しているのは、ミームコインの世界です。
つまり、たとえ表面的には Arweave が順調に成長し、素晴らしいプロジェクトに見えるとしても、実際にユーザーをどう引きつけていくのか?というのも、暗号通貨の“アテンション・エコノミー”は極めて移ろいやすく、気が散りやすく、そして何より一瞬でトレンドが切り替わるものですから。その極端な注目経済の世界に、どう食い込んでいくつもりなのか?——そこが問われていると思うのですが。
Sam: Arweave は、長い間、Web3 のインフラとして機能してきました。「開発者に最も好まれているブロックチェーン」と呼ばれているのを見かけることもあります。ほぼあらゆるタイプのブロックチェーンアプリケーションを構築する際に、開発者たちがまず使うのが Arweave なのです。実際、2021 年の NFT バブル期に広く使われた“数少ない主要インフラ”のひとつでもありました。もう一つの代表的な選択肢は IPFS でしたが、あちらはデータの半数が失われてしまった。なぜなら、IPFS は永続的なストレージではないからです。そのため、2021 年の NFT バブル期に作られたコンテンツのうち、今も残っているものの大半は、Arweave が保存しているんです。
Arweave は、スタック全体のあらゆるレイヤーでインフラとして使われてきました。しかし、インフラは“注目(アテンション)”が集まる場所ではないんです。
そこで、AO を立ち上げて以来、私たちが目の当たりにしてきたのは、Permaweb エコシステムが“エンドユーザーに直接届く”ための最後の一歩を踏み出せたということです。つまり、ユーザーは自分のウォレットに Arweave のアイデンティティを持てるようになり、その中でさまざまなアプリケーションを利用できるようになったのです。
ここではトークンを保有することもでき、資産を所有することもできます。そして、DeFi エコシステムでできる基本的な操作は一通り実行できます。それだけでなく、エージェントを使って経済圏の中でトラストレスに戦略を実行するといった、従来の DeFi では絶対に実現できなかった、よりクールで革新的なことが数多く可能になっているんです。
私たちが今考えているのはこうです。AO はまだテストネットの段階にあり、メインネットのローンチまではあと数ヶ月かかります。現在、多くのユーザーが「プレブリッジング」を行っています。といっても、実際に資産がロックされているわけではなく、いつでも引き出すことが可能です。彼らは、自分のトークンを何らかの形でプールに預けることで、メインネットが立ち上がった際に AO へ移行する意思があることを示しているのです。
そして、来年 2 月には、エンドユーザーにまで届く道筋が明確になり、それに続く形で、より広範な暗号通貨エコシステムからの注目が集まり始める――そんな重要な分岐点を迎えることになります。実際、AO のローンチ以降、その兆しはすでに見え始めています。人々は次第に気づき始めているんです。「ああ、Arweave が提供する“永続的なデータストレージ”って、単なる保存機能以上の価値があるんだな」と。
永続的なデータというのは、実のところ不思議なことに、“計算”そのものでもあるんです。データは、ある種の「計算を暗に含んでいる」、あるいは「計算を推論させる」ものでもあります。そしてそれは、分散型の AO コンピューターのような仕組みを構築するための“構成要素”として活用することができるのです。
私たちはこれを、Arweave の進化の道のりにおいて極めて重要な一歩だと捉えています。そして実際、すでにその反響は非常に大きなものになっています。AO のローンチ直後の数日間には、過去に例のないほど多くの注目が Arweave に集まりました。人々は心の中で、明らかに Arweave を再評価し始めているようです。「ただのストレージ的なインフラかと思っていたけれど……いや、違う。いやいや、これは、分散型 Web の“フルスタック”をひとつに統合した、まったく新しい基盤かもしれない」と。
ArFleetとは?一時的なストレージキャッシュ
Host: まったくその通りですね。さてサム、もう一つ、人々の目に触れる方法として──これは“新製品”と呼んでいいのかわかりませんが──「ArFleet」がありますよね?私の理解では、これはFilecoinに近い仕組みなんですよね?一種の“一時的なストレージ”ではあるけれど、それでも分散型なんでしょうか?
**Sam:**それは、一時的なストレージキャッシュです。Filecoin とは技術的にかなり異なる点が多く、しかも専用トークンは存在しません。AR トークンをそのまま使うだけなんです。ただ、私たちがこれを開発した理由は、そしてこれは AO にも共通していますが、「自分たち自身の問題を解決するため」でした。たしかに、最初は明確に AO の開発を始めたんですが、ある時点からは勢いそのものが私たちを引っ張っていった、という感じもありますね。でも根本的には、自分たちが必要としていたものを作った、ということなんです。
1 年半ほど前、私たちは「Odyssey」というサービスを買収しました。暗号通貨の世界ではあまり知られていないかもしれませんが、実はこれは世界最大級の分散型ソーシャルメディア・プラットフォームです。月間アクティブユーザーはおよそ 700 万〜800 万人にのぼり、ユーザーの定着率も非常に高いのが特徴です。多くのユーザーが何年にもわたってこのサービスを使い続けており、通常、マーケティングにはほとんど費用をかけていません。それでもユーザーが離れないのは、純粋にこのプロダクトを心から気に入っているからです。
もっとも、「Web3」と言ってはいますが……実のところ、それほど分散化されているわけではありません。(リスナーの方が多いのか視聴者が多いのか分かりませんが、いま実際に“引用符付き”で「Web3」と言っています。)
私たちが Odyssey を買収したのは、それを Permaweb 上で分散化し、オープンで中立的な公共財――通常のブロックチェーンと同様の権利と保証を持ちながら、見た目は Web アプリのような――プロトコルに変えるためです。この仕組みでは、ユーザーが投稿する際に、Odyssey に身元情報の管理やデータの複製を委ねる必要はありません。彼らは、そのサービスを通じて、不変かつ公平な権利を直接手に入れることができるのです。
この構想を進めるにあたって、まず必要になると考えたのは、人々がデジタルコンテンツの「所有権」を取引できる能力でした。というのも、デジタルコンテンツには本来的な価値があるからです。しかし、NFT のブームでは、そうした本質から切り離された価格変動、つまり、数字がほぼ無作為に上下するような投機的サイクルがその価値の根底を覆い隠していました。ですが私は、その背後には極めて重要な問題提起が潜んでいたと考えています。それはこうです: 「なぜプラットフォームは存在するのか?なぜそれがビジネスになり得るのか?」それは、突き詰めれば「コンテンツに価値があるから」に他なりません。
プラットフォームは、デジタルコンテンツから価値を引き出す仕組みを持っています。しかしそれは、V1 世代の NFT ではほとんど再現されていませんでした。代わりに存在していたのは、どこか奇妙な「社会的ギャンブル」の要素で、それは今のミームコインにも多少なりとも見られる現象です。要するに、これらは同じトレンドの延長線上にあると私は考えています。とはいえ、デジタルコンテンツそのものには明確な価値があり、その価値をマーケットプレイスで取引するための方法も確かに存在します。問題は、私たちが、そのコンテンツに「権利」をきちんと付与してこなかったという点にあります。
そこで我々は、まさにそれを行う方法である Universal Data License というものを構築しました。デジタルコンテンツに実世界の権利を付与し、コンテンツにアクセスするとき、ヘッダーでライセンス権が配信されるような方法で。誰が所有し、誰に支払うべきか、アクセスするためにいくら支払うべきかの情報を持たずにデータにアクセスすることはできません。そこで私たちは、「Universal Data License(ユニバーサル・データ・ライセンス)」と呼ばれる仕組みを構築しました。これはまさに、デジタルコンテンツに現実世界の権利を紐づける方法です。コンテンツへアクセスする際には、HTTP ヘッダーなどにライセンス権情報が付与されます。そのため、誰が所有者で、誰にいくら支払うべきかという情報なしにデータにアクセスすることはできません。
これは構成要素のひとつにすぎませんが、私たちは続いて「iVal Content Marketplace(アイヴァル・コンテンツ・マーケットプレイス)」というシステムを構築しました。これは、コンテンツ同士、あるいは他の流動性のある資産と交換・取引できる場所です。この時点で私たちは気づきました。「これはなかなか面白い。ひとつの概念実証にはなる」と。しかし、Odyssey には月間 700 万〜800 万人のアクティブユーザーがいます。もしこの仕組みを本格的なコンテンツの流動市場として稼働させようとするなら、膨大な量のトランザクションが発生することになるでしょう。特に、実際の売買主体が人間ではなくボットになる可能性が高いと分かってきたことを考えると、なおさらです。
人間が膨大な数の動画それぞれに対して、流動的な市場で個別に関与するのは現実的ではありません。そうではなく、求められるのはこうした仕組みです:統計データを参照し、「この動画はいまこれだけ再生されている。将来的にもこの程度の再生数が見込める。だから現在の市場価格であれば購入に値する」と判断するボットが、そうした取引をリアルタイムで実行するような仕組みです。
こうした背景があって、私たちは AO の構築に踏み出しました。というのも、それを実現できるほどスケーラブルなスマートコントラクトシステムは、当時どこにも存在していなかったのです。Arweave 上でそれがどのような形になるかという構想自体は、以前から思い描いてはいました。しかしついに、実際に手を動かして、それを具現化したのです。
ArFleet についても、事情は同じです。Odyssey 上の多くの動画は、実際のところそれほど多く視聴されていません。視聴回数が非常に多い少数の動画と、ほとんど再生されない大量の動画、そうした分布になっています。とはいえ、そうした動画も私たちは残しておきたい。削除したくはありません。しかし、それらをすべて Arweave に永続保存するのは非効率ですし、そのコストをユーザーに負担させるわけにもいきません。
では、代わりに私たちに何ができるでしょうか?たとえば、Arweave と AO の上に一時的なストレージシステムを構築して、いわば「Permaweb スタック」を完成させるというのはどうでしょう。そのスタックが本当に完成したと言えるのは――ある種、構造が“反転”する瞬間です。つまり、それがもはや「永続性」だけにとどまらず、システムの出発点である「一時的なデータ保存」さえも内包・支援するようになったときです。
基本的には、証明(proof)はチェーン上に永続的に記録しますが、すべてのデータをそこに保存する必要はありません。少なくとも、保存したいのでなければ。
主なタイムライン
Host: とても納得できるお話でした、サム。ありがとうございます。さて、そろそろこのポッドキャストの前半を締めくくるところですが、製品のパイプラインとして、今後登場予定のものには何がありますか?たとえば、メインネットのローンチ予定日など、何か共有できる情報はありますか?
そして、Arweave のエコシステムに飛び込んで、いわば“ウサギの穴”を探検してみたいという人にとって、どんな方法が一番おすすめでしょうか?具体的に、何をすればよくて、どこに行けばいいのでしょう?
Sam: もちろんです。まず日付についてですが、6 月 8 日は Arweave のローンチ日です。同時に、それはジョージ・オーウェルの『1984 年』が出版されてから 69 周年という日でもあり、それがこの日を選んだ理由でもあります。ただし、AO のメインネットに関しては、それが正式な日付というわけではありません。AO のメインネットとトークンの譲渡機能がローンチされるのは、来年の 2 月 9 日を予定しています。
AO の公式サイトからトークンを預けることで、すでにフェアローンチには参加できます。ただし、それらのトークンはまだ実際のシステムにはブリッジされておらず、現在は“プレ・ブリッジ状態”といったところです。今後、完全なメインネットのブリッジ機能が実装されれば、今日時点で存在する約 5 億ドル相当の流動性に加え、ユーザーがブリッジしようとしているすべての AR トークンも、そのタイミングでシステムに一斉に移行してくることになります。ですので、これは私たちにとっても非常に大きな節目になります。
エコシステムの中では、日々本当に多くのプロジェクトが立ち上がっています。正直なところ、すべてを把握しようと思っても、到底追いきれないくらいです。とはいえ、私たちが普段情報を追う手段としては、今のところ、残念ながらまだ中央集権的なソーシャルメディア、X(旧 Twitter)を使っています。ちょっと恥ずかしいですが。@ArweaveEco をチェックしてみてください。ここは、Permaweb で起きているあらゆる動きをまとめている、いわばコミュニティのアグリゲーター的なチャンネルです。各プロジェクトの最新情報が随時リポストされているので、まずはそこを見れば全体の流れがつかめるはずです。そのチャンネル(@ArweaveEco)をフォローしておけば、投稿を見ていくうちに自然と気になるプロジェクトやチャンネルが出てきて、そこから間接的に、エコシステムで今何が起きているのかを把握できるようになります。願わくば、そういった情報循環が近いうちに Odyssey 上でも行われるようになるはずです。
他にも、実際に試してみることができるプロジェクトがたくさんあります。中でも「Llamaland(ラマランド)」は、多くの人にとってかなり楽しめるものだと思いますよ。
私たちが「分散化され、任意にスケーラブルなスーパーコンピューター」と言ったとき、それは決して誇張ではありません。Llamaland は、本質的に完全オンチェーンで動作する MMO(大規模多人数参加型オンラインゲーム)です。2D の小さな世界を自由に動き回れる仕組みですが、その内部には LLM(大規模言語モデル)が組み込まれています。使用されているのは Llama 3 系の派生モデルで、80 億パラメータ規模のものが、8 ビット程度に量子化され、およそ 60 ギガバイトのデータがスマートコントラクトのメモリ上に保持されています。
そして基本的に、これは「AI 独裁者が運営するミームコイン」です。私たちはこれを、“法定通貨シミュレーター”のようなものとして設計しました。つまり、もし、自分を本気でラマだと信じている AI ラマが金融政策を担当し、しかもそれが人間の管理下にない、完全にトラストレスな仕組みだったとしたら、いったい何が起こるのか?これは、そうした方向性に対するひとつの実験なんです。
そこでは、自由に歩き回ったり、他のユーザーとチャットしたりすることができます。しかも、そこはパーミッションレスなオープンワールドでもあるので、ユーザーたちは自分のエージェントを投入し始めています。たとえば、ちょっと笑えるようなユニークな振る舞いをするものもあれば、DAO での投票など、実用的なタスクをこなすエージェントもいます。そういう感じで、自由度の高い実験がどんどん進んでいるんです。
そんなふうに探索して楽しめるのが「llamaland.net」です。実際にはゲートウェイを通じてアクセスする形になっていて、たとえば ar.io や ardrive.ar など、どの URL からでもアクセス可能です。これはすべて ArIO の仕組みのおかげです。ArIO、本当にありがとう!
Sam Williams の思想的背景
Host: はい、まさにその通りです。ありがとうございました。リンクはショーノートに載っていますので、ぜひチェックしてください。さてサム、いよいよエピソードも終盤です。ということで、恒例の「Crypto Conversation ホットテイク・ラウンド」に突入しましょう。準備はいいですか?
Sam: ぜひ、お願いします。
Host: サム、これからいくつか質問をします。よければ、テンポよくホットテイク風に答えてください。最初の質問です。どんな答えが返ってくるか楽しみですね。質問はこうです:あなたは、「ビットコイン至上主義者」から「マルチチェーン派の機会主義者」までのスペクトラムの中で、どのあたりに自分が位置していると思いますか?
Sam: これは正確な情報じゃないかもしれないので、あくまで参考程度に聞いてください。でも、たぶんかなり近いはずです。僕が保有している暗号資産は、基本的には Arweave のトークンと、あとはビットコイン。それから、たしか少しだけ Monero を持っていたと思います。それと……2018 年にジョークで買った Dogecoin がちょっとだけあるかもしれません(笑)。でもそれは、もうアクセスできない Kraken のアカウントに入ってるんで、正確な数量はわからないですけど、まあどこかに少量残ってるはずです。
だから、私はこの点についてはかなり真剣です。あ、そういえば、ICO のときに入手した Ethereum もまだ少しだけ持っています。本物のプロトコルこそが、唯一目指すべき道だと思っています。ただ率直に言って、業界全体としては、その構築にまだ本気で取り組めていないのが現状です。私たちはまだ、「本当にプロトコルであるプロトコル」をどう作るかというプレイブックを見つけられていません。多くは、プロトコルの“ふりをしたプロダクト”にすぎないんです。本当に重要なのは、分散化されていることではなく、トラストレスであること。ユーザーの権利をサイバースペースで確実に守るには、トラストレスであることが決定的に重要なんです。
ビットコインは、まさに素晴らしい実例です。Satoshi は、信じられないほど見事に「一発で」正解にたどり着いた。やり直しは一度もなかったんです。それは本当に驚異的なことでした。Arweave についても、私たちは同じ方向性を目指して構築を進めてきました。アプローチは明らかに異なりますが、いまでは Arweave も、かなり「プロトコルらしいプロトコル」になってきています。コア・プロトコルはもはやほとんど変更されておらず、それでもなお成長は続いている。人々が使い始めるのは、それが“プロトコル”だからです。プロダクトじゃない、本物の基盤だからこそ選ばれる。だからこそ、私はビットコインと同じように、Arweave エコシステムを愛しているんです。
Host: あなたがジョージ・オーウェルのファンだというのはよくわかります。こんな名言があります:
オーウェルが恐れたのは、本を禁じる者たちだった。一方でハクスリーが恐れたのは、本を禁じる必要すらない未来――誰も本を読みたいと思わない世界だった。オーウェルが恐れたのは、私たちから情報を奪う支配だった。ハクスリーが恐れたのは、私たちに情報を与えすぎて、私たち自身が情報の海に溺れてしまうことだった。オーウェルが恐れたのは、真実が隠されること。ハクスリーが恐れたのは、真実が「無関係という海」に沈んで見えなくなってしまうことだった。
ディストピア的な未来像には、大きく 2 つのタイプがあります。ひとつはハクスリーの『すばらしい新世界』、もうひとつはオーウェルの『1984 年』。どちらもほぼ同時期に書かれた作品ですが、提示している未来像は対照的です。にもかかわらず、どちらも現代社会の本質を見事に言い当てています。さて、私たちは今、そのどちらの方向に向かっていると思いますか?
**Sam:**そうですね、確かにおっしゃる通りだと思います。どちらか一方ではなく、現実はその両方が混ざったような状態だというのは、まさにその通りだと感じます。『1984 年』について、いつも興味深いと思ってきたのは、オーウェルが多くを鋭く描き当てた中で、唯一と言っていいほど見誤ったのが「スクリーン(テレスクリーン)」の存在でした。まだ本を読んでいない人のために説明すると、テレスクリーンとはプロパガンダを垂れ流すと同時に、その部屋の中で何が起こっているかを監視する装置で、社会のあらゆる場所に設置されています。
小説の中では、テレスクリーンは人々に強制的に設置されていました。ところが現代の“テレスクリーン”、つまりスマートフォンはどうでしょう。もはや「携帯」すら関係なく、ただの“電話”と呼ばれるそれを、私たちは 1 台 1000 ドルも出して買い、自分の意思で持ち歩いているのです。それが安全ではないことも、私たちは皆わかっています。西側諸国の政府は、これらのデバイスに関して私たちにプライバシーなど存在しないという前提で動いています。それでも私たちは、それを四六時中、事実上 24 時間 365 日、身につけているのです。
Host: とても興味深いお話でした。関連するテーマでお伺いします。お気に入りの SF 作品があれば、本・映画・テレビ番組問わず教えてください。
Sam: 私にとっては、やはり『1984 年』が一番だと思います。
**Host:**なるほど、それもうなずけますね。 実は最近、私自身もちょっとオーウェル熱が再燃していまして。というのも、14 歳の息子がいま英語で『動物農場』を読んでいるんです。改めてオーウェルの思考に触れるのは、本当に刺激的ですね。『動物農場』はやはり名作です。それから、『ウィガン波止場への道』も意外なほど良い本で、人にもぜひ勧めたい一冊です。『パリ・ロンドン放浪記』も興味深い読み物ですが、こちらはまたテーマがまったく違っていて面白いですよ。
オーウェルという人物は、本当に語るべき背景を持った存在でした。あまり知られていませんが、彼は第二次世界大戦の前、1930 年代半ばのスペイン内戦で、急進左派やアナーキストの側に立って戦っていたんです。彼の人生にはドラマがあり、そして本当に傑作と呼べる作品をいくつも書き残しました。まだ読んだことがないなら、ぜひ読むべきです。『動物農場』は、子どもにもおすすめできる名作です。まるで「大人向けの本に、子ども向けの衣装をまとわせた」ような作品ですね。
Sam: その通りです。『動物農場』は、オーウェル作品の入門としてとても良い選択だと思います。でも『1984 年』は、名作とされるのにはちゃんと理由があります。あれは本当に圧倒される一冊です。あの本に漂う“抑圧”の空気は、読者を完全に包み込むんですよ。
おわりに
Host: まさにいい締めくくりですね、サム。今日は出演していただき、本当にありがとうございました。最後に、X(旧 Twitter)のアカウントや、普段オンラインで活動している場所などをリスナーに紹介していただき、さらにぜひ、あなたとチームが Arweave で取り組んでいる数々のプロジェクトについて、「なぜ今チェックすべきなのか」、その魅力を一言で伝えていただけますか?
Sam: 私たちはいま、金融にとどまらず、技術スタック全体にわたって、ユーザーの権利を保証するサイバースペースを構築しています。そして将来、インターネットの黎明期を振り返ったとき、GAFA のような企業が支配していたあの時代は、実は「ものごとの始まりにあった、ほんの脚注」に過ぎなかったと見なされるかもしれません。本当に長期にわたって人々に使われ続けるのは、人間の信頼に依存しない“トラストレス”な、インターネット・ネイティブの制度やサービスなのです。
私たちは、必要なインフラをすべて整備し、スケーラブルで分散化されたサービスをサイバースペース上に構築できるよう、本気で取り組んでいます。そして今、その基盤はほぼ完成しています。もし少しでも興味があるなら、ぜひ Permaweb 上で私たちの活動をチェックしてみてください。私に Arweave Mail を送りたい場合は、Permaweb 上で私の X(旧 Twitter)アカウント @Sam_E_Williams をたどっていただければ、メールアドレスが見つかります。また、Permaweb の sam.ar にアクセスすれば、私が読んだ記事や連絡先など、いろいろな情報をご覧いただけます。お会いできるのを楽しみにしています。
Host: 本日はありがとうございました、サム。今後のさらなるご成功を願っています。またお会いしましょう。
Sam: どうもありがとう。
【Arweave Japan とは】
Arweave Japan は Arweave / AO の日本語ビルダーエコシステム構築を目的とした分散型組織です。
【Arweave / AO とは?】
Arweave は無制限にスケール可能な分散型ストレージであり、AO は Arweave 上に構築された無制限にスケール可能な分散型スーパーコンピュータです。Arweave と AO を使って既存のブロックチェーンでは実現不可能であった実用的なプロダクトが開発できます。
イーサリアム L1 のリステーキングによってセキュリティが担保され、TVL はローンチ数ヶ月で 1000 億円近くまで上がり、今後数兆円規模の市場が期待されます。完全フェアローンチされた AO のトークン設計によって、この流動性は AO 上のプロジェクトが活用することができ、ビットコインと同じ半減スケジュールでミントされる AO トークンは開発者やプロジェクトが受け取れる仕組みとなっています。
Web2 を置き換えるレベルで実用的なプロジェクトが構築できる唯一無二の分散型プロトコル AO で開発することはグローバルの第一線で活躍する非常に大きなチャンスとなっています。
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