はじめに
2025年10月4日,東京都内で開催されたUdemy Instructor Meet Up 2025に参加してきた.このイベントは,Udemyで講座を公開している講師たちが一堂に会する年に一度のリアルイベントで,今年はUdemyとベネッセの協業10周年という特別な節目でもあった.
私自身,Udemy講師としてのキャリアはまだ1年半ほどだが,このイベントで得られた学びは想像以上に大きかった.特に印象的だったのは,パネルディスカッションで登壇された受講者の方々や,他の講師たちとの交流を通じて見えてきた「オンライン教育における人間らしさの重要性」である.
本記事では,イベントの概要とともに,私がUdemy講師になった経緯,そしてこのイベントで得た気づきについて共有したい.
Udemy Instructor Meet Up 2025とは
Udemy Instructor Meet Upは,Udemy講師同士が直接交流し,インスピレーションや新たなつながりを得ることができる年に一度のイベントである.昨年は約110名の講師が参加したとのことで,今年も同規模の講師たちが集まった.
今回のイベントは二部構成で進行された.
第一部(15:00-17:00) では,10周年セレモニーとして以下のプログラムが実施された.
- ベネッセによる講演
- Instructor Award 2025の表彰
- 人気講師によるトークセッション
- 受講者を交えたパネルディスカッション
第二部(17:30-19:00) は懇親会形式で,Udemyやベネッセの社員も交え,講師同士が自由に交流できる場となっていた.
実際に参加してみて感じたのは,オンラインで教える立場にある講師たちが,こうしてリアルで顔を合わせることの価値の大きさだった.普段は画面越しでしか接点のない世界で活動している私たちにとって,同じ悩みや喜びを共有できる仲間と直接話せる機会は貴重である.
私がUdemy講師になった経緯
そもそも,私がなぜUdemy講師になったのかについて少し触れておきたい.
2023年3月,私は数理最適化に関する博士号を取得した.しかし,学位を取得したからといって,日常の業務に劇的な変化が訪れるわけではなかった.もちろん,博士課程で得られた知見や経験は大きかったが(この点については過去の記事でも書いた),せっかく取得した学位を何かの形で活かしたいという思いが強くあった.
そんなとき,2023年9月頃に知り合いの教授から,大学での新規講義開設に伴い担当してほしいという打診を受けた.これはチャンスだと思い,2024年4月から1講義(14コマ)を担当することになった.講義内容の検討から資料作成まで,約半年をかけて準備を進めた.
大学での講義を担当する中で気づいたのは,オペレーションズ・リサーチ(OR)という分野が,学術界に寄った話でありながらも,産業界の実務で役立つ場面が非常に多いということだった.実際,私が博士後期課程で実施した研究は,NTTの実務に関する事例研究でもあった(詳細は博士論文を参照).
こうした経験から,学生だけでなく,世の中のより多くの人に数理最適化の価値を伝えたいと考えるようになった.今の世の中は生成AIに関するコンテンツが溢れているが,生成AIとは全く異なる技術である数理最適化を正しく理解してもらいたかった.次世代技術の先取りとして,数理最適化を広げていきたいという思いもあった.実際,Udemyで数理最適化に関するコンテンツを検索しても,当時は数件しか存在しなかった.
こうして2024年6月,私は最初のコース「明日から役立つ『オペレーションズ・リサーチ概論』」を公開した.その後,同年10月に第2弾を公開し,さらにクラウド関連のコースも手がけた.最新作は2025年5月に公開した製造業における数理最適化の活用に関するコースで,UdemyBusinessにも対応している.
振り返ってみると,大学での講義がきっかけとなり,それがUdemyでのコンテンツ作成へとつながっていった流れは,自然な展開だったように思う.
イベントで得られた学び
今回のイベントで最も印象に残ったのは,人気講師によるトークセッションと,受講者を交えたパネルディスカッションだった.
講師視点からの学び
講師は,最初は自分の強みを活かしたコンテンツから始め,次第に少し幅を広げ,最近では生成AI関連のトレンドもキャッチアップしているという話をされていた.この「段階的な広がり」というアプローチは,私自身も実践していることで,非常に共感できた.
もう一つ興味深かったのは,「コンテンツの作成意欲には波がある」という話だった.その講師は,「この波を無視しないことが長く続けるコツ」だと語っていた.苦労して無理に作るよりも,作りたいと思える時期に集中して取り組む方が,結果的に良いコンテンツが生まれるという考え方だ.
私も実際に4つのコースを作成する中で,この「波」を強く感じていた.大学の講義準備と並行してコンテンツを作成していた時期は正直かなりハードだったが,作成意欲が高まっている時期だったからこそ乗り切れたのだと思う.
受講者視点からの発見
パネルディスカッションでは,実際にUdemyで学んでいる受講者の方々が登壇し,講座を受ける中で感じたことを率直に語ってくれた.これが予想以上に講師にとっての多くの気づきを与えてくれた.
ある受講者の方は,「Udemyで学ぶようになってから,『今日はどれだけ学べるか』と考えるようになった」と語っていた.学ぶことが習慣になり,日常の一部になったという変化は,コンテンツを提供する側としては最高の褒め言葉だと感じた.
また別の受講者は,「講師が同じ目線で話してくれることが重要」だと指摘していた.困りごとや講師自身の経験値を交えて説明してくれると,内容が頭に入りやすいという話だった.
意外だったのは,「間違っているシーンもカットしない方がいい」という意見だった.完璧に編集された動画よりも,リアルな試行錯誤が見えた方が,むしろ学習者にとっては親近感が湧き,理解が深まるというのだ.綺麗なところだけを見せる必要はないという言葉は,コンテンツ作成における完璧主義から解放してくれる考え方だった.
さらに,「レスポンスがあると嬉しい」という素直な声も印象的だった.Q&Aでの質問に対する返答や,レビューへのコメントなど,講師からの反応があることで,学習へのモチベーションが大きく変わるという話だった.私自身,まさに最近Q&Aをいただいたが,返答に2週間程度の時間を要していたため,今後気を付けたいと強く感じた.
共通して見えてきたもの
講師側の話と受講者側の話を聞いていて気づいたのは,どちらにも共通するキーワードが「人間らしさ」だということだった.
熱量,苦労した点,似た境遇への共感.こうした要素が,オンラインという物理的に離れた環境でも,人と人とのつながりを生み出している.講師も受講生も,実は孤独な戦いをしているという点で共通しているのかもしれない.だからこそ,画面越しでも伝わる「人間らしさ」が,学びの質を大きく左右するのだろう.
懇親会では,他の講師たちとも直接話すことができた.異なる分野で活動している講師たちと意見交換する中で,皆が同じような悩みを抱えていることがわかり,安心すると同時に,新たなアイデアも湧いてきた.
まとめと今後の展望
Udemy Instructor Meet Up 2025への参加を通じて,私は改めてオンライン教育における「人間らしさ」の価値を認識した.
完璧に作り込まれたコンテンツよりも,試行錯誤のプロセスが見えるコンテンツの方が,受講者にとっては共感しやすく,学びやすい.講師自身の経験や失敗を率直に共有することで,画面越しでも人と人とのつながりが生まれる.
今後は,この気づきを活かして,より「人間らしい」コンテンツ作りを心がけていきたい.数理最適化という一見難解なテーマでも,私自身の試行錯誤や実務での経験を織り交ぜながら説明することで,より多くの人に届くコンテンツになると信じている.
また,受講者からの質問やフィードバックに対しても,より積極的に応答していきたい.一方通行の講義ではなく,双方向のコミュニケーションを大切にすることで,学びのコミュニティを育てていけたらと思う.
最後に,このような貴重な交流の場を提供してくれたUdemyとベネッセに感謝したい.オンラインでの活動が中心だからこそ,こうしたリアルでの出会いが持つ意味は大きい.来年のMeet Upにも,ぜひ参加したいと思っている.
参考文献
- Udemy Instructor Meet Up 2025 イベントページ
- 社会人ドクターの経験から得られたこと,苦労したこと,そこから現在の活動につながっていること(前編)
- 博士論文「工事立会者手配業務に対する数理モデルと実践的解法」
- Udemyプロフィール
公開コース一覧
作目 | コース名 | 公開時期 |
---|---|---|
1作目 | 明日から役立つ「オペレーションズ・リサーチ概論」 | 2024年6月 |
2作目 | 明日から役立つ「オペレーションズ・リサーチ概論」Ⅱ | 2024年10月 |
3作目 | 【Applied Skills対応】Microsoft Azure での Linux 仮想マシンのデプロイと管理 | 2024年10月 |
4作目 | 簡単に数理最適化アプリが作れる!製造業における数理最適化の活用術 | 2025年5月 |