本記事は【増枠】社会人学生 Advent Calendar 2024 Advent Calendar 2024に掲載しています.
サマリ
- 得られたこと
- 博士号(研究の独り立ち(課題発掘から学術的価値へのアウトプットの過程(+αでビジネス価値創出),論文構成等の習得))
- アカデミック業界での人のつながり
- ビジネス的な成果(人件費1億円/年削減,社外ビジネス展開)
- 絶対的な自信と自身の限界の理解
- 家族の大切さへの気付き
- 苦労したこと
- 本業と学業(といっても勉強というよりは研究)の2重生活(在籍期間の平均睡眠時間3-4時間,週2-3日徹夜)
- そもそも博士号取得自体が難しい中,それを働きながら取得するという過酷なチャレンジ
- 学費や研究にかかる費用は完全自己負担(100%プライベートな活動のため)
- 同じ打ち合わせに参加していた人は業務になるが,自分だけ業務外(年休利用)扱いである葛藤
- アカデミック成果と企業におけるビジネス成果の橋渡しの追求
- 仕事,研究,家庭の全立は時間的,体力的に無理であったため,いずれかは犠牲にしなければ成し遂げられなかったこと
- 現在の活動につながっていること
- アカデミック業界のコミュニティ参加による研究成果の把握
- 大学で非常勤講師として2講義(14コマ分/1講義)を任せられる信頼の獲得,通年での学生とのつながりが持てたこと
- ジャーナル論文投稿や特許出願による知的財産の権利の獲得
- 社内外でデータ分析関連の技術相談やビシネスに関する相談が増えたこと
- 家族の絆が深まったこと
- 特定支出控除を用いた節税
そもそも社会人ドクターとは?
- 社会人ドクターとは,企業の社員等としての籍を持って働きながら,大学院の学生としての籍も持ち,博士号取得を目指して研究に取り組む学び方を指す
- 大学4年間で学士号を取得した後,大学院の前期課程(通常2年間)で修士号を,後期課程(通常3年間)で博士号の学位が取得できる.学士では講義を履修して単位を取得するのが主であるが,博士では講義はほぼなく,自らの研究を論文に執筆し,査読と呼ばれる審査を通すことが主となる.
- 学士は54万人/年,修士は6万人/年,博士は1.2万人/年が学位を取得しており,博士号取得者は日本の人口割合で0.4%しかいない
- また,博士後期過程の標準修業年数は3年間であるのに対し,博士号取得者の平均在学年数は5から6年程度で,学位は取得せずに単位取得満期退学になる割合は40から50%程度となる
- 学士や修士に比べて博士号取得が難しい理由としては,要件は大学院によって異なるが,平均で6ヶ月の期間を要する外部審査である査読を通した論文(採択済みの学術雑誌論文投稿)が数本必要であり,査読を通すためには執筆した論文で学術的な優位性(新規性/有用性/構成の読みやすさ)を示す必要があるためである
なぜ社会人ドクターの道を選択したのか
- 修士修了後,数年間悩み続けた結果,以下2つの目的で社会人ドクターの道を決断
- 企業とアカデミアのギャップを埋める
- 民間企業に入社して,企業での業務やビジネスのやり方が古典的で学術成果が活きていないと肌身で感じたため,先進的なやり方でより世の中を良くしていきたいと思った.一方で,大学側はアカデミックの領域に専念するあまり,実用性に欠け,社会から取り残されている.この両面を改善していくことは,両者に所属した人間にしかできないと考えたため.
- 自身のキャリアの幅を広げる
- 社会人の経験を積み重ねることで,企業の色に染まっていくことに疑念を抱き,改めて視野を広げるために初心に立ち返り,多分野でワールドワイドに活躍したいと考えたため.
- 企業とアカデミアのギャップを埋める
- 結果,茨の道であったことに違いはないが,得られたものが多く,博士修了後も継続してアカデミアにも関わり,当初の目的も少しずつ達成
どのようにして実現したか
- 進学を悩んでいるとき
- どうすれば博士号を取得できるかわからない,どれくらいの費用(学費,入学金,研究費等)がかかるかわからない,どれくらいの期間かかるのかわからないという状況であったが,当時の上司が博士号保有者であったため,相談することでこれらが明確になる
- 明確になることでより不安になる(費用は学費で200万円,新規でジャーナル2本掲載必要)が,上司や家族の後押しもあり,進学を決断
- 進学前
- 大学院,指導教員を決める必要があるが,指導教員とのこれからのコミュニケーション(東京)か指導教員との既存関係(名古屋)を優先するかで色々と調査して指導教員との既存関係を優先
- 学位取得条件は,採録済み学術雑誌論文(査読付きジャーナル) 2本掲載と所定単位(研究室ゼミ)になり,後者は社会人ドクターであることと,居住地が東京であることから,別時間で研究室の学生指導をすることで単位補完することを交渉
- 入試のため,研究テーマ決めや入学手続きで諸々対応(ただし,研究テーマの妥当性はこのタイミングでは吟味できておらず,進学後に指導教員と相談しながら決める)
- 進学直後(1年目)
- 入学式の際,社会人経験があることで総長の言葉に共感し(社会人経験がないときには響かなかった) ,勇気ある知識人になるために日々の小さな勇気の実践をしていくことを決意
- 研究テーマを決める際,先行研究や関連研究を調査し,研究価値(新規性/有用性)を訴求できるか,また,在籍期間内で成果が実になるかを吟味し,指導教員に相談しながら3年間の過ごし方を具体化する
- 進学後3ヶ月目のタイミングで異動となり,3年間の過ごし方の計画が早くも崩れる.また,このタイミングで研究のために利用予定であった物品も使えなくなったため,相当悩んだ結果,自費で計算機やソフトウェア購入を行う(50万円程度).(民間企業に属している限り,異動というリスクは常に考慮する必要がある)
- 時間を少しでも有効活用するために,混雑時間を避けて(1秒でも待ち時間を減らすため)7時に出社,帰宅後や土日,長期休暇を利用して研究活動を行い,年休を利用して研究成果を活用できそうな現場へのヒアリングや大学(名古屋)に出向いて指導教員と議論を行った
- 現業側は,とある大規模プロジェクト(ニュースにもなった)で,残業もそれなりにあったため,時間の工面と不安定な生活の不安の払拭で相当苦労した
- 特に,異動直後は研究テーマの再設定等や仕事,学業,家庭をどうするのが現実的か(仕事時短や退学等)について半年くらい悩みながら全て並行して進めた
- その結果,週3日は徹夜で研究したり,休日や年末(気づいたときには年越ししていた)はすべて研究に時間を費やし,度々家族と言い争うになったりした
- 当時は,この生活をしていても身体的には少し疲労を感じるくらいで,大きな病気になることはなかったが,心身的な体力の限界があることや時間が有限であることを人生で初めて実感し,1分1秒を大切にするようになった
- 改めて,研究テーマや環境(計算機等)の準備が揃い始める
- 研究テーマは実現場のビジネス課題解決を図ることであったため,年休を取得して,何度も現場に赴きヒアリングを行ったり,大学に赴き指導教員と議論を重ねた.現業側で着実に成果を残すことで,職場での信頼を獲得し,業務外ではあるが研究活動への理解を得ていた.
- 進学後から軌道に乗り始めたとき(2から3年目)
- 進学1年目に無理をした甲斐もあり,2年目に入るタイミングで査読付きジャーナルになりそうな研究成果が出始める
- 査読付きジャーナルとなると,通常の論文と違い構成や読みやすさも評価ポイントになるため,何度も書き直しを行った(初回は一通り執筆して指導教員に添削してもらい,すべて書き直しになった).構成変更に伴う再実験や細かな文章の修正を含めると,数十往復のやり取りをして,半年くらいの期間を経て,投稿原稿が完成した.
- このとき,社会人ドクターということで,学位が取れなくてもさほど困らないだろうということから(通常の学生は,学位取得前提で卒業後の進路が計画されている人が多い),通常の学生の論文のチェックが優先され,自身の論文は後回しにされることで査読付きジャーナルの投稿時期が計画より後ろ倒しになった(払っている学費は同じであるため,後回しにされることについてはあまり納得していなかった)
- ジャーナル投稿にあたり,研究自体は完全プライベートの時間で実施しているが,研究内容が社内業務(自担当外業務)を取り扱っていることもあり,知的財産の権利関係で揉め,結果,大学と会社の2所属で出すことで整理
- それに伴い,特許も2件出願
- 現場側に研究成果を活用してもらうために,操作GUIと入力IF,その裏で動作する数理モデル及び計算アルゴリズムが組込まれたPoCを作成し,業務支援を実施
- ジャーナル投稿後,約3ヶ月後に条件付き採録の回答が来たため,再度条件を満たすための再実験や原稿修正をして再度投稿.さらにその3ヶ月後に採録通知の連絡が来る.(投稿から6-7ヶ月で採録)また,加えて本研究の学術奨励賞(優秀賞)も受賞.
- この頃現業側は,先程述べた大規模プロジェクトで,とあるトラブルにより月130時間超えの残業を経験.2ヶ月に及ぶトラブル対応で少しずつ収束してきたこともあり,8月のタイミングで現在の部署に異動.
- PoCを用いて現場運用を3ヶ月程度行ったタイミングで,実用レベルであることのフィードバックを受けるとともに,さらなる改善に向けて,新たな要望が出てくる.PoCではその要望を満たす計算アルゴリズムではなかったため,新たなアルゴリズムを3つ開発し,数値実験により各アルゴリズムを評価.その結果を査読付きジャーナルに投稿,特許2件出願するとともに,現場で用いているPoCに導入することで,現場での業務改革,品質向上,スキル継承に関するビジネス課題解決に寄与.
- 2本目の査読付きジャーナル投稿から査読結果通知まで半年以上要したこともあり,このタイミングで博士在学期間を4年に延長することを決意
- 最後の1年
- 査読付きジャーナルに2本採録され,単位要件も満たし,最後に博士論文を執筆.2本のジャーナルがベースとはなるが,1つのストーリーにまとめる必要があり,そのために追加実験や背景を補足するための関連ジャーナル調査を行った.指導教員による添削は十数回に至った.
- 博士論文を提出し,公聴会で発表し,教授会での審査で合格することで,無事に博士号の学位を取得
- 最後は,学位授与式で総代の辞を述べる機会を頂いたため,総長に想いを宣誓
- 学位取得後
- アカデミック業界の方を中心としたメンバからなる研究会に属し,月1回最新の研究成果について発表・議論
- 実現場に研究成果を活用・導入した事例研究を行った有識者として,2024年度から大学の非常勤講師に任用.14コマの講義を上期,下期に実施(資料準備に半年要した).
- これらの活動から,社外有償招待講演の依頼もあり,ーデータ活用を身近にするためにーに関する活動を現在も継続して実施中