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この記事は インフォマティカ Advent Calendar 2025 の記事として書かれています。

はじめに

データマネジメントのエバンジェリストを務めるもりたくです。

先日は私の過去の講演を元に2025年のデータマネジメント・トレンドをまとめました。
今回は、初めての取り組みになりますが、最新の市場予測と現場で見聞きした情報を元に「2026年の10のデータマネジメント・トレンドを予測」してみたいと思います。

2026年の10のデータマネジメント・トレンド

2025年は「生成AIをどう使うか」に奔走した年だったと言えます。しかし2026年、私たちは大きな転換点を迎えます。AIは優秀だけど指示待ちの「チャットボット」から、自律的に業務を遂行する「AIエージェント」へと進化し、組織のあらゆる隙間に浸透します。

IDCの予測によれば、2027年までに主要企業のAIエージェント利用は10倍に、それに伴うAPIコールやトークン負荷は1,000倍に膨れ上がるとされています。この爆発的な進化を支えるのは、他でもない「データマネジメント」です。

これに伴い、データマネジメントの役割は「ビジネスにおけるデータ活用を支えるマネジメント」だけでなく、「AIエージェントの自律性を制御し、信頼性を支えるマネジメント」へと劇的に進化していきます。

データマネジメントに携わる私たちがこれから目撃し、そしてリードすべきであろう10のトレンドを解説します。

【AI】 AIエージェントの知能を支える「情報の質」が勝負を決める

1. Multi Agentic AI にいかにしてコンテキストを提供するか

2026年、AIの主流はSingle AI Agentから、複数の専門エージェントが連携して複雑なワークフローを完遂する「Multi Agentic AI」へと移行します。ここで最大のボトルネックとなるのが、エージェント間の「共通認識(コンテキスト)」の欠如です。

エージェントが自律的に正しい判断を下すためには、RAG(検索拡張生成)によるドキュメント参照だけでは不十分です。複数のAgentic AIが共通言語で語り合えるようにするために、データマネジメントの取り組みは必要不可欠となります。

企業の「ビジネスルール」や「用語の定義」を機械が理解できる形で定義したセマンティックレイヤーは、エージェントにとっての「常識」となるでしょう。

また、顧客や製品の「正解」を示すマスターデータ管理(MDM)は、エージェントがアクションを起こす際の「信頼の拠り所」となるでしょう。システムや事業を跨ぐ異なるエージェントの会話には、共通の顧客、共通の製品を意味するゴールデンマスターの仲介が必要だからです。

更に、メタデータ管理は、もはや管理のための管理ではなく、AIエージェントに「知能」と「文脈」を注入するための最重要プロセスへと進化します。人間から依頼されたビジネスの依頼に資する、最適な情報を含むシステムやエージェントが誰なのか。どのデータを軸に解決策を講じるべきなのか。信頼できるデータプロダクトの見極めへ繋がるメタデータ管理の整備こそが、Multi Agentic AIの成否を分けるでしょう。

2. データマネジメント、ガバナンスの成熟度 Max 企業の出現

2026年、データマネジメントを「コスト」ではなく「競争力の源泉」と捉え切った企業が、圧倒的な差をつけ始めます。先行する製薬大手のSanofiのように、AIエージェントを全社的なオペレーションの核に据え、文字通り「AIのInstagram化(誰もが直感的に、呼吸するようにAIを使いこなす状態)」を実現する企業が増えてくるでしょう。

こうした企業は、データマネジメントの成熟度モデルにおいて最高レベル(レベル5:最適化・自動化)に達しています。データが常にクリーンで、ガバナンスが自動的に適用されているため、新しいAIエージェントを数日で実戦投入できる「アジリティ」を手にしています。2026年は、不完全なデータでAIを動かすリスクを回避し、成熟度モデルを「経営のロードマップ」として真剣に捉え直す年になるでしょう。

【アーキテクチャー】 柔軟な連結と強固な統制の共存

3. Agentic AIを支えるコンポーザブルとハイブリッドアーキテクチャ

2026年には、IT製品やサービスの約45%が「AIエージェント」を主要なインターフェースとして採用すると予測されています。このパラダイムシフトに対応するため、アーキテクチャは「密結合」から「コンポーザブル(構成可能)」へと完全にシフトします。

Model Context Protocol (MCP)」や標準化された「API」により、LLMやエージェントツール、データソースをパズルのように組み合わせる柔軟性が求められます。しかし、組み合わせが自由になるほど、データの整合性を保つのは困難になります。

そこで、フロントエンドがどれほど柔軟に入れ替わっても、データレイヤーで一貫した品質とアイデンティティを保証する「マスターデータ管理」と「データ品質の統制」が、システム全体の崩壊を防ぐ唯一のアンカー(錨)として機能します。

もしこれらが整っていなかったら、せっかくMCPやAPIでアプリケーションを繋いだとしても、繋ぐ中でマスターデータのID変換や統合の仕組みをアプリケーション層で実装する必要が出てきてしまい、アジリティあるAI開発やAIエージェントの利用が進まず、苦労することになります。

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4. データメッシュとデータファブリックは選択から融合へ

中央集権的なデータファブリックか、分散型のデータメッシュか」という二元論は、終止符が打たれつつあります。AIエージェントが部門を跨いで活動するためには、両方の利点を活かしたハイブリッドなアプローチが不可欠だからです。

ビジネス部門がデータのオーナーシップを持ち、データとAIのプロダクトとして責任を持つ「メッシュ」の思想をベースにしつつ、データの発見・統合・ガバナンスをAIで自動化する「ファブリック」の技術で下支えする。このハイブリッドな融合により、データは「部門の持ち物」から「組織全体で利用可能なデータ&AI資産」へと昇華されます。エージェントが企業のあらゆるデータに安全かつ即座にアクセスできる環境を整えることが、2026年のアーキテクトの使命です。

実際、多くの海外先進事例では、データメッシュやデータファブリックの技術要素を、とてもナチュラルにエンタープライズ・データアーキテクチャの中へ組み込んでいる様子が多数目に取れるようになってきています。

【データエンジニアリング】 「予測」への原点回帰と非構造化データの完全制覇

5. 複合AIによる予測AIへの原点回帰と構造化/非構造化データのハイブリッド管理

生成AIの熱狂が一巡し、2026年は「Composite AI(複合AI)」の時代が到来します。アナリストは、70%の組織が生成AIと、従来の予測型・記述型AIを組み合わせたアプローチを採用すると予測しています。例えば「生成AIが顧客の不満を読み取り、予測AIが解約リスクを算出する」といった連携です。

これに伴い、生成AIで脚光を浴びた「非構造化データ(音声、動画、PDF)」と、予測モデルに不可欠な「構造化データ(ERP、CRM)」について、同一のデータパイプラインで物理的な統合を管理し、同一のデータカタログでメタデータ管理することが急務となっています。データマネジメントの対象は、もはやテーブルデータに限定されません。非構造化データからメタデータを抽出し、構造化データと紐付ける能力が、各データマネジメント・ベンダーに求められており、その実現可能性がエンジニアの評価を左右するようにもなるでしょう。

6. RAGデータパイプラインの整備が急務に

RAG(検索拡張生成)」は、「実験段階」から「本番運用」へと移行します。2026年、多くの企業は「場当たり的に作ったベクトルDB」が、データの更新漏れや権限管理の不備で使い物にならなくなる現実に直面します。ベクトルDBも、プロジェクトとしてワンショットで生成するのではなく、サステナブルに変化を自動化された形で受け入れ、且つ、そのデータの流れをリネージュで追跡できるように、自動化されたパイプラインの一つとして管理する必要があります。

これまでのデータパイプラインがETL/ELTを自動化したように、非構造化データを収集し、標準化した上でチャンク化(Chunking)して、ベクトルDBへの埋め込み(Embedding)やインデックス更新を、ガバナンスの効いた「ノーコード・パイプライン」として管理する動きが加速します。属人化されたスクリプトによるRAG構築は終わりを告げ、データの信頼性(Data Reliability)を監視するオブザーバビリティ機能が組み込まれた、エンタープライズ基準のRAG基盤が標準となっていくでしょう。

【データ品質とマスターデータ管理】 AIの力で「負の遺産」を断ち切る

7. 待ったなしのデータ品質管理と自動化の拡大

Garbage In, Garbage Out (GIGO)、AIのパフォーマンスがデータ品質に100%依存することは、もはや常識です 。

AIの品質はデータの品質で決まる」——この真理を痛感する企業が増える中、2026年はデータ品質管理の「自動化」が爆発的に普及します。手動でのクレンジングやルール定義は、膨大なデータの増加スピードに追いつけません。

AI自身がデータのパターンを学習し、異常値を検知、さらには修正案まで提示する「AI for Data Quality」が一般化します。600人のリーダーが語るCDO Insightでも指摘されている通り、データ品質の維持はAI時代最大の「課題」であり「挑戦」です。2026年、品質管理に本気で取り組まない企業は、AIエージェントに「嘘」を教え込み、ビジネスに致命的な損害を与えるリスクを背負うことになります。

データ品質管理の重要性を感じながら、その管理の難しさや大変さに課題を抱え、なかなか最初の一歩を踏み出せなかった多くの企業が、自動化の恩恵を受けて歩み始める2026年になることを期待しています。

8. ドメイン特化言語モデル (DSLM)の台頭とMDMへの回帰

汎用的なLLMの限界が見えつつある中、特定の業界や業務に特化した「Domain-Specific Language Models (DSLM)」が台頭してきます。製造現場の専門用語を理解するAI、医療データを解析するAIなど、救世主としてのDSLMへの期待が高まります。

しかし、特化型AIが増えれば増えるほど、組織内に「AIのサイロ化」が発生します。それぞれのAIが独自の解釈でデータを扱わないよう、事業横断の「共通言語」を定義する「マスターデータ管理(MDM)」の重要性が再認識されます。マスターデータ管理は「古い技術」ではなく、バラバラな専門AIたちに一貫性を与える「オーケストレーター」として、新たなニーズの波に乗ることになるでしょう。

そしてここまで読んだら感じる方もいるかもしれませんが、マスターデータ管理には今、新しいニーズがでてきています。実際、旧来の仕組みをお持ちの企業でも、マスターデータ管理をモダナイゼーションする動きが加速しています。マスターデータ管理はAI時代を今後を生き抜いていく上で、企業にとって必至のケーパビリティに昇華してきています。

【データガバナンス】 規制遵守から「ROIを生む資産管理」へ

9.データのオープン化と共に進むデータアクセス管理の中央集権化

Apache IcebergなどのOpen Table Formatの普及により、データのポータビリティは飛躍的に高まりました。Snowflake、Databricks、Google Cloudなど、プラットフォームを跨いでデータが流通する「オープンデータ時代」の到来です。

それに呼応するように、Open Semantic Interchange (OSI) 、Semantic Layerのオープン化も進んでいます。OSIは、ベンダーに依存しない共通標準を推進することで、AIとBIの導入を加速し、データ運用の効率化に貢献することが期待されています。

しかし、これらのデータの流通が加速する一方で、同じ分類のデータがそこら中のクラウドサービス上で参照されることになります。この状況下において、個人情報や企業の機密情報をどのように守っていくべきなのか。

そこで、2026年は、特定のストレージやクラウドサービスに依存しない「ポリシーメタデータ駆動型」の「中央集権的」なアクセス管理が主流になります。InformaticaのCloud Data Access Management (CDAM)のように、一度定義したポリシーをマルチクラウド環境全体に自動適用し、マスキングや認可を動的且つ横断的に行う仕組みが、セキュアなAI活用の絶対条件となるでしょう。

10. データガバナンスを拡張してAIデータガバナンス、更にその先へ

2026年8月2日、EU AI法が完全施行されます。最大3,500万ユーロまたは世界売上高の7%という巨額の罰金が現実のものとなる時代、ガバナンスの重心は「守り」へやや傾くかもしれません。

成功する企業は、「AIガバナンス」をゼロから構築するのではなく、既存の「データガバナンス」を拡張する道を選びます。以下に示す通り、多くの共通点を持っているため、相違点を意識しながら拡張する方が実現が容易だからです。

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データマネジメントの視点から見ても対応付けて考えることは可能です。データマネジメント/ガバナンスが成熟している企業であればあるほど、AIガバナンスを延長線上にとらえいます。

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なお、今後はデータガバナンスを自動化するAIも多く登場するため、そのガバナンスの成熟度は多くの企業で加速度的に伸びていくでしょう。メタデータ管理は手作業が多く頓挫する企業も少なくない分野ではありますが、そこではAIエージェントの恩恵を得られるようになってきています。

また、データの出自/利用先(リネージュ)を追跡することは、AIの透明性を証明するだけでなく、どのデータプロダクトがビジネス価値を生んでいるかを経営層に証明する「ROIの指標」にもなります。

またまた、Agentic AIの業務への適用が加速すると同時に、データとAIが特別なものではなく、誰もに身近なものになる真のデータ&AI民主化の時代も到来するでしょう。

しかしその世界に自分たちも入るためには、AIエージェントが「信頼できるデータ」を識別できる状態を作ることが何より大切です。そのために、企業として承認されたデータプロダクトを整備する取り組みは、より重要度を増していくことになります。

おわりに:データマネジメントは「未来を創る仕事」になる

これらのトレンドは、今後来るであろうデータマネジメントの次なるステージと言えますが、もしかしたら予測というよりは私が期待する願望とも言えるかもしれません。

2026年、データマネジメントはもはや「縁の下の力持ち」ではなくなります。AIエージェントという新しい組織メンバーが信頼して活動できる「信頼のインフラ」を構築するための、極めて戦略的な役割を担うことになるでしょう。

この10のトレンドを指針に、皆さんの組織がAI時代に真の価値を創出できるよう、共にデータマネジメントの未来を切り拓いていければ幸いです!

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

※最後に、以下は没にしたデータマネジメント・トレンドのネタです。
 備忘録代わりにメモメモしておきます。

  • いかにしてLOBからのデータマネジメントへの理解を得るかが最前線に
  • AIデータリテラシーの成熟が企業の成否を左右する
  • データ品質管理とDataOpsの加速
  • 製品としてのサービス化とデータプロダクト、AIプロダクト
  • 支配から信頼へと移り変わるデータガバナンスの世界
  • AIデータマネジメントのROI検証に躍起になる
  • AIデータリテラシーの成熟が企業の成否を左右する
  • セルフサービスとリアルタイム分析の拡大
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