少し日が空いてしまいましたが、TechXchange 2026 Atlantaの2日目のジェネラルセッション内容をまとめました。

ライブのトランスクリプトと動画を再度確認しながら記事をまとめています。
Day 2のジェネラルセッションには「The Future: Built By You」というサブタイトルが付けられていました。
Day 1がAIエージェントによる業務変革の可能性を示す内容だったのに対し、Day 2ではその先にある「企業でAIを安全に構築し、運用し、拡張していくための実践」をテーマとしたセッションでした。
0. まとめ
TechXchange 2026の2日目ジェネラルセッションでは、AIエージェントを企業システムへ本格展開するための考え方と具体的な製品・事例が紹介されました。
セッション全体を通じてIBMが強く打ち出していたメッセージは次の一言に集約されます。
AIは能力を提供する。
人間は専門知識を持ち、責任を負い、経験を活用する。
AIが間違えたからといってAIの責任にはできない。責任は人間にある。
そのうえで企業がAIエージェントを導入する際の重要な判断として、
- どう作るか(Build)
- どう守るか(Secure)
- どこで動かすか(Run)
という3つの観点が示されました。
Day2は、IBM Bob、ガバナンス、セキュリティ、インフラ基盤まで含めて「Enterprise ReadyなAI」を描いたセッションだったと感じました。
こちらのリンクに2日目のジェネラルセッションの動画もすでにアップロードされています。
※動画への直リンクは出来なかったので、「Session 3:The Future: Built By You」をご覧ください。
https://www.ibm.com/new/videos/techxchange-sessions
1日目と同様に、別ウインドウで開き動画を見ながら読んでいただければ、より内容を理解していただきやすいかと思います。
1. AI時代に人間が担う3つの判断
冒頭、IBM SoftwareのNeil Sundaresan氏は、AIエージェントを企業で導入する際に人間が決めるべきこととして次の3点を挙げました。
Build(どう作るか)
- 既存システムとの接続
- API連携
- ツール統合
- 企業データ活用
Secure(どう守るか)
- ガードレール
- 権限制御
- 認証認可
- ガバナンス
Run(どこで動かすか)
- SaaS
- オンプレミス
- ハイブリッドクラウド
AIそのものではなく、人間が設計し統制することの重要性がセッション全体の土台となっていました。
2. IBM Bobが描くBuildの世界
IBMによると、Bobはすでに社内17万人以上が利用しており、その約3分の2は開発者ではなくビジネスユーザーとのことです。
Day1で発表された
- Bob Bazaar(Marketplace)
- Bob Desktop
- 音声エージェント
に続き、Day2ではより実践的なデモが紹介されました。
デモ①:Bob Desktopによる営業分析
営業マネージャー向けのBob Desktopによる分析シナリオが紹介されました。
担当者は数時間後の役員会議に向けて、役員会向けに案件分析を行うシナリオです。
Bobは
- 受注案件
- 失注案件
- 顧客インタビュー
- CRM情報
- Monday.comの案件データ
を横断的に分析しました。
結果として
- 30案件中18件受注
- 勝率60%
- 約1,870万ドル相当
という結果を提示。
さらに、
勝因
- セキュリティ評価
- サポート品質
- 経営層との関係構築
失注要因
- 価格
- 調達部門の遅延
- 法務確認の遅延
を自動的に抽出しました。
最終的には役員向けプレゼンテーション資料まで作成しており、AIエージェントが分析から洞察抽出、ストーリー化、成果物作成まで一気通貫で実施する未来像が示されました。
デモ②:IntelliJを利用したJava近代化
続いてBob for Developersのデモでは、銀行向けのJava 8アプリケーションをJava 21へ移行するシナリオが紹介されました。
Bobは
- 現状分析
- 依存関係調査
- 脆弱性検出
- 移行計画策定
- コード修正
- テスト生成
- ドキュメント更新
までの一連の作業を支援し、開発者はアプリケーションを知らない状態から開始していましたが、Bobがシステム構造や移行方針を説明しながら作業を進めるため、短時間で全体像を把握できる様子が紹介されました。
3. AIが顧客環境に合わせる時代へ
IBMが繰り返し強調していたのは
顧客がAIに合わせるのではなく、AIが顧客環境に合わせるべき
という考え方です。
IBMはBobのオンプレミス提供も発表しており、
- データ主権
- 規制対応
- 独自言語
- レガシー環境
への対応を重要視しています。
企業には長年運用されてきたシステムや独自資産が存在しており、その環境を捨てるのではなく活用しながらAIを導入するという考え方です。
4. 顧客事例で見るAI活用
Wimbledon
ウィンブルドンでは15,000以上のコンテンツをAdobe Experience Managerへ移行。
従来なら4〜5名の専門家が数か月かける作業でしたが、1名のエンジニアがナレッジグラフとAI支援ワークフローを使い、4週間で完了したと紹介されました。
Javaモダナイゼーション
別の事例では
- 127個の非推奨API解消
- テストコードの92%をAI生成
- 開発工数90%削減
という成果が報告されました。
IBM i
600万行を超えるRPG資産を保有する保険会社において、近代化評価を6週間で実施した事例も紹介されました。
IBM Z Atlas
IBM Z向けではBob for Zに加え、新たにIBM Z Atlasが発表されました。
新発表の IBM Z Atlas は、システム間の関係を可視化する「システムインテリジェンス」と、変更の影響分析を行う「変更オーケストレーション」の 2 本柱です。
大規模メインフレーム環境をAIで理解するための基盤として位置付けられていました。
5. BobalyticsでAI利用を可視化
Bobalyticsは今回新規発表された機能ではなく、これまでもBob Enterpriseで提供されていた機能です。 今回のジェネラルセッションでは、AI活用を可視化・最適化する重要な要素として改めて紹介されていました。
具体的には
- トークン消費量
- モデル利用状況
- コスト
- 効率
- 利用品質
などを可視化できます。
IBMは
コスト・性能・能力の最適なバランスを見つけることが重要
と説明しており、AIのROI管理やガバナンスの観点で改めてBobの良いポイントとして認識できました。
6. Secure:AI時代のセキュリティ
後半ではRed Hat、NVIDIA、HashiCorp/IBMによるパネルディスカッションが行われました。
テーマは
AIエージェントをどのように安全に制御するか
です。
Red Hat
Chris Wright氏は、AIの普及によって脆弱性発見数が急増していることを説明しました。
- 月間約1万件の脆弱性発見
- llm-d 1.0到達
- LightwellプログラムによるOSS修正支援
などが紹介されました。
NVIDIA
Chris White氏は
OpenShell
エージェント実行環境のサンドボックス化
NVIDIA Sentry
AIエージェント本体が動作するCPUとは別のハードウェアであるDPUを活用した帯域外監視
を紹介。
AIエージェントそのものを監視する仕組みの重要性が語られました。
HashiCorp / IBM
Drew Roy氏はAgent Identityの考え方を説明しました。
- エージェントごとの固有ID
- 最小権限アクセス
- ジャストインタイム認証
- Vaultによるシークレット管理
さらにSCIMやShared Signalsなどの標準仕様を活用し、既存IAMとの連携を重視する方針が示されました。
ガバナンスは加速のために存在する
セッション全体で印象的だったのは
ガバナンスはAIを遅くするためではなく、安全に加速させるためにある
という考え方でした。
むしろ、
- ポリシーを定義し
- エージェントを制御し
- トレーサビリティを確保する
ことで、安心してAI活用を加速できるというメッセージでした。
7. Run:AIを支えるインフラ
最後はIBM InfrastructureのHillary Hunter氏によるセッションでした。
Power Autonomous Operations
Power環境向けに
- 異常検知
- 原因分析
- リスク評価
- チケット起票
を自動化する仕組みが紹介されました。
ただし実行には人間の承認を必要としており、人間を中心に据えた運用モデルが採用されています。
事例では容量管理作業を15倍効率化したことが紹介されました。
AI対応インフラ
IBMはAI基盤として
- IBM Cloud AI Services
- Fusion AI Server
- OpenShift AI
- IBM Z AI
- Spyre AI Accelerator
を紹介しました。
クラウドからオンプレミス、メインフレームまでをカバーする包括的なアプローチが印象的でした。
MetaとPyTorch
MetaのJana van Greunen氏がゲスト登壇し、Spyre AI Accelerator(※)のソフトウェアスタックはPyTorchエコシステムをベースとしていることを説明しました。
※ IBMが開発しているAI推論・学習向けアクセラレータ製品
またIBMとMetaは、Helionプロジェクトなどを通じて協業していることも紹介されました。
Helionは、AIモデルの学習や推論で利用される演算処理(カーネル)の開発効率向上と実行パフォーマンス最適化を目的とした取り組みです。これにより複数種類のAIアクセラレータで共通のソフトウェア資産を活用しやすくなり、ハードウェアごとの最適化負荷を軽減できます。
IBMはSpyre、MetaはPyTorchを中心としたオープンなAIエコシステムを推進しており、ハードウェアからソフトウェアまでを含めた共同開発が進められていることが紹介されました。
8. 私の所感
Day1がAIエージェントの可能性を示すセッションだったとすれば、Day2の「The Future: Built By You」は、その可能性を企業でどのように実装し運用するかを示すセッションだったように感じます。
業務支援やアプリケーション近代化だけでなく、
- BobのようなコーディングAIエージェントのオンプレミス対応
- Agent Identity
- ガバナンス
- セキュリティ
- AIインフラ
- コスト最適化
まで含めて、IBMが考えるEnterprise ReadyなAIの姿が語られました。
Bobのオンプレミス対応については、私自身もお客様への提案活動の中で質問を受けたことがあります。
特に日本企業では、企業情報や業務データを外部サービスへ送信することに慎重なケースが少なくありません。
どのAIを使うかだけではなく、
- どのデータを送るのか
- どこで処理されるのか
- 誰がアクセスできるのか
まで含めて設計する必要があることを、改めて認識しました。
このセッションで印象的だったのは、やはりこの記事の冒頭でも書いた次の言葉でした。
AIは能力を提供する。
人間は専門知識を持ち、責任を負い、経験を活用する。
AIが間違えたからといってAIの責任にはできない。責任は人間にある。
AIエージェント時代において人間は作業者ではなく、設計者・管理者・意思決定者へと役割を変えていくようになったと感じました。
「The Future: Built By You」というタイトルには、AIが未来を作るのではなく、その未来をどう設計し、どう運用するかを決めるのは私たち自身である、というメッセージが込められていたように思います。