はじめに
DX推進の現場では、
まずはスモールスタートで始めましょう
と言われることがよくあります。
私自身も、この考え方は正しいと思っています。
実際、最初のDX案件は成功することが多いからです。
例えば、
- Excel集計の自動化
- レポート作成の自動化
- 品質データ分析
などです。
しかし一方で気になることがあります。
多くの企業では、
- 1件目のDX案件は成功する
- 2件目も成功する
にも関わらず、その後活動が停滞してしまうケースがあります。
なぜDXはスモールスタートで終わってしまうのでしょうか。
今回はその理由について考えてみます。
スモールスタートは成功する
最初のDX案件は成功しやすいものです。
なぜなら、
- データが揃っている
- 効果測定しやすい
- 協力者がいる
- 成果が見えやすい
テーマから着手するからです。
実際、
- 「月40時間削減できました」
- 「分析時間が半分になりました」
といった成果も珍しくありません。
ここまでは比較的うまくいきます。
DX案件は実務担当者との合意で進む
DX担当は現場へヒアリングを行いながら改善テーマを探します。
しかし、
この業務は改善できそうだ
とDX担当が思っただけでは案件になりません。
実務担当者も、
それは課題だ
と認識している必要があります。逆も然りです。
例えば、
- ローカルでの資料作成
- ノウハウや知見の共有
- レビュープロセス
など、外から見ると非効率に見える業務にも理由があります。
そのため、
この業務は無駄なので改善しましょう
とDX担当が一方的に判断すると、現場の反発を招くことがあります。
場合によっては越権行為と受け取られるかもしれません。
結果としてDX案件は、
DX担当が改善できると思う課題
×
実務担当者が改善したい課題
の共通部分だけが対象になります。
数件の成功事例は作れる
DX担当は実務担当者へヒアリングを行いながら、改善効果の高いテーマを探します。
その結果、
- 品質分析
- 集計業務
- レポート作成
などの案件は成功します。
ここまではスムーズです。
実際、スモールスタートが推奨される理由でもあります。
しかし活動はやがて停滞する
DX案件は失敗していません。
むしろ成功しています。
それにも関わらず、次第に新しいテーマが見つかりにくくなります。
なぜでしょうか。
実務担当者は課題を知っている
まず誤解してほしくないのは、
現場の課題が無くなったわけではない
ということです。
例えば、
- 品質課題
- 設計課題
- 営業課題
- 生産課題
など、現場には依然として多くの課題が残っています。
実務担当者はそれらを日々見ています。
しかしDXで解決できる課題かどうかが分からない
ここが重要です。
実務担当者は課題を知っています。
しかし、
DXで何ができるのか
AIを含めたデジタル技術で何ができるのか
また何ができないのか
を知りません。
よくあるのは、
AIなら何でもできる
という誤解です。
逆に、
AIなんて何もできない
という誤解もあります。
実際はその中間です。
AIが得意なこともあれば、苦手なこともあります。
しかし、その境界が分からない。
そのため、目の前の課題を見ても、
これはDXで解決できる課題ではないか
という発想に結びつきません。
DX担当にも限界がある
一方でDX担当は、
- AI
- データ分析
- 自動化技術
を知っています。
しかし、全ての現場課題を知っているわけではありません。
現場には、
現場でしか分からない課題があります。
また、DX案件を進めるためには実務担当者との合意も必要です。
そのため、DX担当だけで課題探索を続けることには限界があります。
本来は知識移転が起きるはずである
理想的には、DX案件を一緒に進める中で、
実務担当者が、
- AIで何ができるか
- AIで何ができないか
を理解するようになります。
一方でDX担当も業務知識を学びます。
その結果、
この課題はDXで解決できそうだ
と実務担当者自身が考えられるようになります。
そうなれば、現場から新しいDXテーマが生まれ始めます。
しかし実際には知識移転は起きにくい
現実はそう簡単ではありません。
理由1:習得コストが高い
AIや機械学習は、数時間の説明で理解できるものではありません。
私自身も長い時間をかけて学んできました。
実務担当者が本業と並行して同じ知識を習得するのは容易ではありません。
理由2:責任が分離している
DX案件では、
DX担当が、
- 分析手法を選ぶ
- モデルを選ぶ
- 精度を説明する
責任を持ちます。
一方で実務担当者は、
- 業務に使えるか
- 現場へ適用するか
を判断します。
つまり、
DXの責任
↓
DX担当
業務適用の責任
↓
実務担当者
という構造になります。
すると実務担当者は、
DXはDX担当に任せよう
となりやすくなります。
これは自然な行動です。
結果として、案件を一緒に進めていても知識移転は限定的になります。
私の仮説
私は、
DXがスモールスタートで終わる理由は、改善テーマが無くなるからではないと思っています。
現場にはまだ課題があります。
しかし、
実務担当者は、
DXで何ができて何ができないか
を理解していません。
一方で、
DX担当だけでは全ての課題を発見できません。
本来必要な知識移転も起きにくい。
その結果、
DX担当が発見できるテーマを消化したところで活動は停滞します。
おわりに
私は、
DXがスモールスタートで終わる理由は、
現場に課題が無いからではなく、
現場がDXで何ができて何ができないかを理解できていないからだと思っています。
そして、その背景には、
DX担当と実務担当者の責任分担によって知識移転が起きにくいという構造があります。
DXを継続的な活動にするためには、
単に成功事例を増やすだけでなく、
DX担当が案件を実施するだけではなく、現場へ知識を移転する仕組みも同時に考える必要があるのかもしれません。