AI Coding Agentの9月の動向
AI Coding.Infoというサイトを2025年7月から運営しています。
これは、Claude CodeやGemini、あるいはCodexなど、AI Coding Agentに関する利用動向をGithubのリポジトリの情報から定点観測するサイトです。
AI Coding Agentの利用の判定として、以下のような条件で毎日調査を行っています。
- Githubの公開リポジトリを9,000リポジトリを毎日調査
- プログラミング言語毎のGithub スター数のTOP 300
- プログラミング言語は30種類から調査
- AI Coding Agent 16種類を対象
- 各種AI Coding Agentの利用するルールファイルがGithubリポジトリにある場合のみ、AI Coding Agentを利用していると判断
過去の動向
AI Coding Agentの利用率は3.6%
9月末のAI Coding Agentのリポジトリ利用率は3.6%で、前回の3.1%から、0.5ポイント増加です。 前回、7月から8月の増加率が0.2ポイントでした。増加率としては増えていますが、それほど、大きくは変わっていない。という印象です。
AI Coding Agentのプロダクト別のシェア
プロダクト別のシェアは以下のようになっています。
順位 | 製品名 | シェア率 |
---|---|---|
1位 | Claude Code | 31.8% |
2位 | Copilot Agent | 26.7% |
3位 | Codex CLI | 16.1% |
4位 | Cursor | 14.8% |
5位 | Gemini CLI | 6.3% |
Claude Code、Copilot Agentのシェア率が引き続き高い。という事実は変わりませんが、全体的に1%ずつ程度シェアが下がっている。という感じです。そして、先月3位であったCursorが4位に、4位であったCodex CLIが3位に浮上しました。
先月、以下の内容の記事を書きました。
また、Codex CLIやGemini CLIは、Cursorがリポジトリ数は上回っているものの、成長率は低いので、Cursorが順位を落とす可能性も見えます。仮に、成長率を固定して計算をすると、1か月後の9月にはCodex CLIはCursorをリポジトリ数で超える可能性があります。
このように、もともとシェア率が3位であったCursorが4位のCodex CLIに9月中にシェア率で抜かれるだろう。という予想でした。そして、実際に、9/25、その順位が逆転しました。
9/15にGPT-5-Codexが出たことが1つトリガーになっているように感じました。
このリリース以降、私の観測範囲内では「Codexを試用してみた。」という意見が散見され、賢い。という意見も見られました。実際、ベンチマーク上は良いスコアを出しているようです。
引用: https://artificialanalysis.ai/?intelligence-tab=coding#artificial-analysis-coding-index
https://artificialanalysis.ai によると、現在、一番コーディング上で良いモデルはGrok 4ですが、そのあとはGPT-5 Codex(high)や、GPT-5(hight)となっています。先ほどのグラフでは複合指標なので、1位がGrok 4となっていますが、個々のコーディングのベンチマークではGPT-5 Codex(high)が1位の場合もあります。そのため、性能がClaude 4.5 Sonnetより少し頭がいい。と感じるのは、実はそうなのかもしれません。ただし、だから、「社内で使っているClaude CodeをCodexへ置き換えた」とは聞かないので、まだ、もうちょっと全体としては様子見か、もしくは、Claude Codeを置き換えるほどではない。置き換えるもコストがかかる。となって、それを超えるものではない。といった評価なのかもしれません。
以前に、私はCodex CLIのレビュー記事も書いておりましたが、久々に触ってみると動作も変わっており、前回の検証の内容が動かなくなっていました。そのため、定期的に動作を確認することが必要そうです。
プログラミング言語別のAI Coding Agent利用状況
一番AI Coding Agentが利用されているプログラミング言語は「Typescript」、2番目が「Rust」、「Python」 です。 2か月間のグラフを見るとわかると思いますが、TypeScriptからJavaScriptまで順位が変わっていません。したがって、AI Codingに向いたプログラミング言語、AI Codingに向いていない言語というものの明暗が分かれてきた。ともいえるかもしれません。
以下のグラフは10/1時点のTypeScriptのリポジトリにおけるAI Coding Agentの利用率と、RustのリポジトリにおけるAI Coding Agentの利用率の比較です。
TypeScriptとRustは、リポジトリ利用数では、1位、2位というランキングではありますが、その実態は少し異なり、TypeScriptは23.7%のリポジトリで利用されているのに対し、Rustでは11.7%しか採用されていません。このように、プログラミング言語間で利用の実態にはかなり差があり、1位と2位の間ですら10%以上のギャップがあります。もう少し踏み込んで議論すると、TypeScriptに関しては、5つに1つのリポジトリでAI Coding Agentの利用が確認できています。TypeScriptに関しては、肌感覚だけではなく、データからもAI Coding Agentの利用はかなり一般化している。といってよいと思います。
AI Coding Agent利用リポジトリ数の1か月の推移
2025年9月1日時点でのリポジトリ数は374、2025年10月1日時点でのリポジトリ数は446となり、72件の増加となっています。日によって一部上下動がありますが、AI Coding Agentを利用しているリポジトリ数は着実に増えていることが日時の推移からもわかります。これは先月の記事でも議論しましたが、一番下の黒い部分がCursorで、緑色がCodex CLIとなっています。この図からも、Cursorはリポジトリ数が一定に対し、Codex CLIのリポジトリ数が増えていることが分かります。
OpenAIとWindsurf・Cursor。そして、AGENTS.md
OpenAIがCodexを公開したのが2025年4月17日でした。その時期あたりに、タイムリーな記事が何個かありました。1つはOpenAIによるWindsurfの買収です。
2025年5月7日にOpenAIがWindsurfを30億ドル(4,500億円)相当で買収した。という話がありました。
しかし、海外のニュースサイトを見ていると、OpenAIが買収したかったのは、Windsurfではなく、Cursorだった。という噂もあります。これは2025年4月17日のニュースです。
したがって、OpenAIはAI Codingの領域に参入を考えており、その中で、先行者であるWindsurfやCursorなどをリーチや開発者、顧客共に欲しかった。と類推できます。しかし、実際に買収できたのはWindsurfであり、Cursorではありませんでした。
その一方で、AGENTS.mdという流れが2025年8月20日に生まれました。
AI Coding Agentでは、それぞれのツールで、AIへリポジトリ内の情報を指示するためのドキュメントファイルが存在します。GEMINIであれば、GEMINI.md、ClaudeCodeであれば、CLAUDE.mdなどです。これを統一しようとする動きが、AGENTS.mdで、OpenAIが旗振りしています。2025年10月2日現在で公式サイトに掲載されているAI Coding Agentは以下の18種類です。
これを見ると、かなり横断的にAGENTS.mdは対応しているように思えますが、色々と不可解な点もあります。
- Windsurfがないこと
- Gemini CLIやGithub Copilot、Cursorなどの純粋な競合も対応していること
Windsurfに関しては、AI Coding.Infoの観測範囲内ではかなり利用数が少ないです。Windsurfは全体ランキングでは7位、リポジトリ採用数では9,000件中3件程度です。
そう考えると、一時期ほどの勢いというものは感じません。しかし、開発陣自体をOpenAIが買収していることを考えると、OpenAIからVSCodeベースのIDE、OpenAI版のWindsurfのようなものが出てきても不思議ではないです。実際、CodexはVSCodeのExtensionとしても公開されているので、そういう方向性もあるかもしれません。そのようなことを考えると、WindsurfをCodex IDEといった名称で看板を付け替えてリリースする。というのはある意味で分野の常とう手段を出してくる可能性もあると思っています。
2.に関しては、どういう業界構造か。ということに焦点があると思っています。今、かなりの割合で、ClaudeCodeが利用されているのだろうな。とう肌感はあり、それに対抗する手段、というのは各AI Coding Agent開発会社が対策を練っているのではないか。と考えています。一方で、GithubはAnthropicに後塵を拝しているものの、リーチの強さ等で、対ClaudeCodeとして、他のAI Coding Agentと協調動作をとる。ということは、個人的には考えにくいと思っていました。同様にGoogleなどもその強大さから、そういった対ClaudeCodeの包囲網に参戦するということも考えにくいと思っていました。
そこで、このAGENTS.md周りについて深堀していくと面白いことが分かりました。Github Copilotを紹介した以下の記事を見てみます。
copilot-instructions.md との優先順位
ここで気になるのは、Copilot の従来のカスタム指示ファイルである copilot-instructions.md とAGENTS.md はどちらが優先されるのか、という点です。
下記のドキュメントの日本語版に次のように記載されています。Copilot 命令ファイルをリポジトリに含めないことを選択した場合、Copilot は、CLAUDE.md、AGENTS.md、GEMINI.md など、既存のカスタム命令にフォールバックします。
最近のGithub Copilotのドキュメントにはフォールバックという記述はなくなっていますが、おそらくそうなんじゃないかな。と思います。Github Copilotもかなりシェアを取りに行く姿は見られて、ドキュメントには、
Copilot コーディング エージェント では、さまざまな種類のカスタム指示ファイルがサポートされています。
/.github/copilot-instructions.md
/.github/instructions/**/*.instructions.md
**/AGENTS.md
/CLAUDE.md
/GEMINI.md
と他社のルールファイルだろうが何だろうか見に行く姿勢が見られます。
また、GEMINI CLIに関しても以下のような記述がAGENTS.mdに見られます。
これはどういうことかといいますと、Gemini CLIはデフォルトではGEMINI.mdしかみないよ。設定すればAGENTS.mdを読むようになるよ。
という話でして、なかなか水面下ではバチバチしていることを私は感じ取りました。
噂通りであれば絶妙な立ち位置にいるCursorですが、これもAGENTS.mdの対応に関する記載のドキュメントがあります。
参考:https://docs.cursor.com/ja/context/rules
立場としては、「.cursor/rulesの簡単な代替としてはAGENTS.mdが使えるよ」ぐらいの印象を私は受けています。この辺りは若干の板挟みを感じています。
したがって、AGENTS.mdは業界での対ClaudeCodeにむけた協調動作と見えつつ、生き馬の目を抜くがごとく業界トップを狙っている。そんなものも垣間見えます。これは当たり前といえば当たり前で、AGENTS.mdによりこのあたりが標準化されてしまうと、AI Coding Agentの乗り換えがスムーズに行ってしまう。という問題があります。これは、ユーザーからは乗り換えコストが0になるため、今使っているAI Coding Agentを捨てられる可能性が高まります。これは言い換えると、良いAI Coding Agentが出てしまえば、ユーザーが急速に別製品へ移動することを示すので、AI Coding Agentの開発側からすれば、競争激化してしまいます。これは良いかはわかりませんが、そうすると巨大資本のある会社がソフトウェアのクオリティで蹂躙するか、もしくはOpenAIのようにLLM性能で囲い込みをするか。というどっちにしてもBigTech同士の戦いに引きずり込まれ、それ以外のAI Coding Agentがなくなっていく未来も見えます。
そう考えると、AGENTS.mdはOpenAIによってほかのAI Coding Agentのユーザーを吸い上げる手段にも見え、実際にシェアも増えつつあるが、GithubやGoogleはそれに対する防御策もしっかりとやっている。というのが感想です(注:AI Coding.InfoではAGENTS.mdの使用しているリポジトリをCodex CLIのシェアとして計算しています)。逆にAGENTS.mdに一本化しているAI Coding Agentもありそうですが、この辺りは戦略的に大丈夫かな。と思う部分はあります。
感想
9月の動向に関しては、直感と乖離している部分がありました。今回、
9月末のAI Coding Agentのリポジトリ利用率は3.6%で、前回の3.1%から、0.5ポイント増加です。前回、7月から8月の増加率が0.2ポイントでした。増加率としては増えていますが、それほど、大きくは変わっていない。という印象です。
という文章を書きました。確かに、数字上軽微ではあります。しかし、この伸び率が0.3パーセント増加しているというのは、どうも心の中で突っかかりがあり、無視してはいけない直感があります。AI Coding Agentにより加速度的にコーディング速度が上がっている実感はありますが、ここ数か月のデータからは、それほど顕著ではない。というのが私の意見でした。しかし、この時点になってデータ上からも加速度的に、指数関数的に普及が進んでいることを感じ取りつつあります。実際、TypeScriptに関してはかなりの速度で普及が進んでいることは確認しています。このあたりの、加速度的に増えているか。ということは、来月ぐらいに明白になるのではないか。と思います。
ただし、もう一段、別のエポックメイキングな進化点があるように思います。以前にこんな記事を書きました。
これは私の論考ですが、以下のような論旨です。
「現代のプログラミング言語において流行している言語の1つの要因として、パッケージマネージャーがしっかりしていること。そのためには、プログラミング言語におけるモジュールの再利用性や独立性が保たれていることが重要。これらを満たしたプログラミング言語はインターネットの普及により加速度的に再利用性が高まったために、現代でも流行っている。」
AI Coding Agentによりプログラミング言語も変曲点にある気がしています。以前より、C/C++は、AI Codingの普及率が高くありません。しかし、Rustは高い。ということを考えると、組み込みなど低層にある言語も、AI Coding Agentを機会に変革があると思っています。ほかにも、JavaのAI Coding採用率が非常に低いです。最近の大規模なサーバーサイドはGo、Rust、Javaあたりが主流だと思いますが、これもまた変わるかもしれません。ある意味で、AI Coding Agentが「書きやすい」プログラミング言語やその周辺の仕組み。インターネットとパッケージマネージャーの組み合わせのような要素技術が今後でてくるかもしれません。1つにこれはMCPである可能性もありますし、最近流行の兆しのあるKiroやSpec Kitなどの仕様ベースのアプローチかもしれません。