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組織の力学【心理的安全性シリーズ 2/3】

Last updated at Posted at 2023-01-13

恐れが、人にもたらす影響

「恐れ」には、大きく、分けて、 2つあります。 健全な恐れと不健全な恐れです。
プラス面とマイナス面があります。

1つは健全な恐れ。(プラス) 
納期を守れるだろうか、競合に勝てるだろうか、このレベルの品質を実現できるだろうかなど、
チームが学習し、成長するためにも必要な恐れ。

もう1つは、不健全な恐れ、人間関係に関わる恐れ。(マイナス)
この恐れは「他人からどう思われているだろうか」を過剰に心配することから生じるもので、
社員の行動に多大な悪影響を及ぼします。不健全な恐れがまん延した組織では、
社員は畏縮し、新しいことを提案したり、リスクをとったりすることができません。

また、恐れから、合意(コンセンサス)が導き出される事があります。そのため、合意が正解とは、限りません。
合理的に考えて、合意に達したと思った答えが、実は、間違えである可能性もあるという事です。
言い換えれば、真の合理主義と、偽の合理主義があるという事です。
数字に基づく合理主義が、現在の企業経営を袋小路に追い詰めています。
一見、都合の良い真実(数字に基づく合理主義)は、不都合な真実を覆いつくす事があるという事です。
これに気づくことが出来れば、いろんな意見があることを受容できてこそ、正解に近づく事が出来る事がわかります。

この2つ目の不健全な恐れがない職場
「対人関係のリスクをとっても安全だと信じられる職場環境」が、「心理的安全性が高い」職場です。

では、この不健全な恐れは、組織に対して、
どのような影響を与えるのであろうか?

今回は、事例をもとに、組織の力学をご紹介したいと思います。

東日本大震災のケース

2011年に起きた東日本大震災に伴う福島原発事故はまだ記憶に新しい所ですが、
事後に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会で、
場の空気に支配される、独特の日本的集団浅慮 が浮き彫りになりました。

誰もが原発事故など起きるはずがないと信じ、万が一事故が起きた場合の対策や危機管理を十分に行ってこなかったため、
事故の惨事は人為的ミスに起因するものであるという見方もあります。
事故が起きる前に疑問を抱えていた東京電力の社員もいたに違いありませんが、
異議を唱えることも許されない空気があったことは言うまでもないでしょう。

事故調査委員会の委員長は、次のように報告している。
「日本であればこそ起きた」大惨事であることを認めなければならない。
根本的原因は、 「日本文化に染みついた習慣」
「盲目的服従、権威に威をとなえたがらない、計画を何が何でも実行しようとする姿勢、集団主義、閉鎖性」にある。
「率直な発言も、抵抗もしたがらない姿勢」
「世間に対して、体裁をよくしておきたいという強烈な願望とが混ざり合う文化」
日本人が「対人関係の不安」を感じやすい「恥の文化」であることが大きいかもしれない。
リーダーが「不安を与えてマネジメントする」人物の場合、心理的安全性は組織から著しく損なわれる。

フォルクスワーゲンのケース

フォルクスワーゲンの元会長、フェルディナンド・ピエヒは、
クライスラーのトップから「優れた外観デザインを生み出すコツ」を聞かれた時、
次のように社員に言え、とアドバイスしたという。

六週間で世界トップレベルのボディを完成させろ。誰が何の担当かは、すべてわかっている。
六週間で完成できなかったら、全員クビだからな。以上だ。

その後、フォルクスワーゲンは大きな不祥事を起こした。
排ガスのテストに用いるソフトウェアを操作し、あたかも排ガスが基準に適合するように数値を捏造した事件だ。
原因は、排ガス規制をパスさせろとの、上からの強い圧力によるものだったとされている。

スペースシャトル「チャレンジャー」の打ち上げ失敗のケース

チャレンジャーの事例は、打ち上げプロジェクトチームへの過度のプレッシャーから生じるストレスが関係していた。
当時、チャレンジャー打ち上げプロジェクトはトラブルが続いており、もし延期すれば、予算縮小や打ち上げ計画自体の見直しにつながる恐れがあった。そのため、部品を製造した会社から不具合の報告があったにも関わらず、打ち上げを強行した。

つまり、乗務員の安全を含めた合理的な判断よりも成果を優先した 集団浅慮 によって、チャレンジャーの爆発事故が引き起こされた。NASAのルールには、問題が解決されるまで関係者全員で議論されるべきだとあったにもかかわらず、反対意見や疑問が出ない状況になっていた。通常は優秀な集団であったとしても、ストレスがかかる環境下においては、集団浅慮 が発生しやすい。正しい判断をすることが優先されず、コンセンサスを取ることが優先される場合がある。
ミーティングや会議は、本来、組織が間違った合意形成をしないために活用される。しかし、集団であるためにかえって不合理な判断をしてしまう事がある。一人一人は非常に優秀であるはずの人たちが、集団になると非合理的な判断をしてしまう。

恐れが、集団浅慮をもたらす

アメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスが過去の誤った政治判断
(真珠湾攻撃、ベトナム戦争、朝鮮戦争等)を何故してしまったのか、を研究する中で、この集団浅慮を分析した。

集団浅慮に陥る原因
「人は見たいものしか見ない、人は自分の望むものを信じたがる」
ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の言葉として知られています。
そうなってしまう背景をご説明致します。

1.集団凝集性が高い
反対意見を言うとその集団のよい雰囲気を壊すことになるので、組織のメンバーは自分の意見を発言しない。
参考としなければならない外部からの意見を聞き入れなくなる。

2.外部情報が入らず閉鎖的な状態である
物事を客観的に判断したり、さまざまな角度から見直したりすることができない。
閉鎖的で秘密性が高い組織では、話し合いの中身を外部に公表する必要がなく、
外部からのチェックや情報提供が行われないために、組織の独りよがりな決定がなされる場合がある。
「自分たちは集団として間違っていない」という偏見で、不適切な意思決定が起こりやすくなる。

3.リーダーや専門家の存在など特定の人の知識や権力が強い
強力なリーダーが存在する組織では、リーダーの顔色を見ながら立ち回ってしまい、反対意見が控えられることがある。
勇気をもって反対意見を発言したメンバーに対して、何らかの制裁が下る場合もあり、個人の意見が尊重されない組織体系。
自分よりもその領域に詳しい専門家がいるとその人の意見を鵜呑みにしてしまい、自分の頭で考えなくなってしまう。

4.集団が過度のストレスにさらされる
例えばノルマ達成やトラブル対処を時間内に終えなければならないようなケースでは、
行動を起こすことや結論を出すこと自体が目的になってしまい、内容をしっかり検討できなくなってしまう。
人間関係や意思決定のプレッシャーなどから逃れたいので、十分な検討をしないまま、意思決定してしまう事がある。
時間が無いときは、内容よりも決定することが優先されやすくなる。

5.決定することに参加者の利害が発生する
何らかの利害関係が発生する打ち合わせでは、自分に有利になるよう考えてしまい、議論の内容自体への考えが浅くなってしまう。意思決定において、特定の利害関係があると、自分にとって有利な決定がなされるように意見を進めたり、プレッシャーなどから早く逃れたいあまりに、十分な検討をなさないまま、進めてしまう。

恐れから、目を背けたい
という気持ちがもたらす集団浅慮の兆候

1.自分たちは正しい、大丈夫だと勘違いする 
自分たちの組織は間違いや失敗を起こすことはないと思い込む。
失敗しても組織が壊滅することはあり得ないと考える。
絶対に間違えないという決めつけは全体主義の兆候とも重なると指摘されている。

2.自分たちに都合の悪い情報を無視する
我々と我々以外で敵味方を判断し、我々以外は敵とみなすように極端になる。
組織外からの意見に対して、目を背ける。

3.責任転嫁する
組織が判断したことで失敗が起こった場合には自分のミスとは認めず、責任を他に転嫁する。

4.組織のモラルを当たり前と考え、外部からの注意や警告に耳を傾けない
組織内のモラルが当たり前の事と考え、分析をしなくなる。

5.波風を立てないように自分の考えや意見を抑えて、周囲に合わせる
場に出ている意見に対して反対の考えを持っていても、
無意識に波風を立てないように自分の考えや意見を抑えて、周囲に合わせる。

6.満場一致と勘違いするようになる
発信者以外のメンバーが沈黙している場合には満場一致であるとみなすようになる。
コンセンサスを打破されないように、多数派意見を全員一致の意見だと思い込む。

7.異議や都合の悪い意見に圧力をかける
場を乱す人、場の意見とは違う意見を持っている人に対して圧力を加えて意見を統一しようとする。

8.自己防衛
新しい意見や人が入ってくることに対して防衛的になる。

人は、恐怖を遠ざけたがる。ただ、そうすることにより、何か大切なものから目を背けていないか、考えた方が良いのかも知れないと言う事を忘れないで下さい。

ハーバード大学で組織行動学を研究している
エイミー・エドモンドソン教授(Amy C. Edmondson)の

・TEDトーク
・恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
image.png

を参考にしました。

次に続く
ダイバーシティーインクルージョンとは?【心理的安全性シリーズ 3/3】
https://qiita.com/kimuni-i/items/c84777691aaf06e20461

バックナンバー
何故、率直な発言が出来ないのか?【心理的安全性シリーズ 1/3】
https://qiita.com/kimuni-i/items/7047c79714ac97ce0ed2

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