Excel業務をDX化したい。あなたならどうする?
〜「脱Excel」でも「活Excel」でもない、現実的な落としどころ〜
はじめに
Excel は嫌われがちです。
- 「神エクセル」
- 「誰も触れないマクロ」
- 「壊したら怒られるファイル」
……でも正直なところ、Excel 自体が悪者なのではなく、使われ方が限界を超えているだけだと思っています。
私自身、Web / モバイルアプリ開発の現場で 「Excel業務をDX化してほしい」 という依頼を何度も受けてきました。
この記事では、次をエンジニア目線で整理します。
- いきなり「脱Excel」しなかった理由
- Excel 業務が壊れる典型パターン
- 現場でうまくいった「現実的なDXアプローチ」
Excel業務が「詰む」瞬間
DX 化の前に、Excel 業務が破綻しやすいサインを整理します。
よくある限界パターン
- マクロ(VBA)が属人化している(作者しか直せない)
- ファイルコピー文化(最新版が分からない / 差分が追えない)
- 同時編集できない(ロック、衝突、後追い修正)
- 履歴が残らない / 監査できない
- Web / API と連携しづらい(自動化が行き止まり)
- 権限管理が雑(パスワード付きZip運用など)
この状態でよく言われるのが、
「じゃあ Web システムに置き換えよう」
ですが、ここに 大きな落とし穴があります。
なぜ「脱Excel」が失敗しやすいのか
Excel を完全に捨てて Web システム化すると、よく起きるのが次の問題です。
- 現場が使い方を覚えられない(導入教育コストが急増)
- 入力スピードが落ちる(キーボード中心の運用が崩れる)
- 表計算・コピペ・行操作がしづらい(“手触り”が変わる)
- 結局「Excel に戻される」(二重運用 → 破綻)
つまり、
UI/UX を捨てた DX は、現場にとっては退化
になりがちです。
私ならどうするか:結論
✅ 結論:ExcelのUIは残し、責務だけを分離する
実務で一番うまくいったのは、これでした。
- Excel = 入力しやすいUI
- システム = 正しく管理する裏側(データ・ロジック・履歴・権限)
実践:Excel業務DXの「分解」アプローチ
① Excelが担っている役割を分解する
Excel は、実は複数の役割を 1つで全部 担っています。
詰む原因は「押し込みすぎ」です。
| 役割 | 本来の適任 |
|---|---|
| 表形式UI | Excel / ExcelライクUI |
| 計算・ロジック | バックエンド(サービス層) |
| データ保存 | DB |
| 共有・履歴 | サーバー(ログ/監査) |
| 権限管理 | 認証基盤(SSO等) |
👉 全部を Excel に押し込んでいるのが問題
② UIは「Excelライク」を維持する
重要なのは、現場が慣れている“気持ちよさ”を捨てないことです。
- 行追加
- 列コピー
- セル編集
- 表計算感覚
- キーボード中心の入力
ここを壊すと、DXは反発されます。
そのため、UIは次のどちらかを選びます。
- Excel をそのまま使い続ける(UIとして再定義)
- ExcelライクなUIをWebで再現(スプレッドシート的な画面)
③ ロジックとデータは外に出す(DXの本丸)
DX の本丸はここです。
- 計算ロジック → サーバー側へ(共通化・テスト可能に)
- データ保存 → DBへ(正・履歴・検索・集計)
- 操作履歴 → ログ化(監査・原因追跡)
- 同時編集 → 排他/楽観ロック等で制御
UIがExcel感覚のままでも、中身は“完全にシステム”にできます。
「活Excel」という選択肢
私はこの方針を 「活Excel」 と呼んでいます。
- Excel を捨てない
- でも Excel に依存しすぎない
- Excel を UI として再定義する
構成イメージはこんな感じです。
[Excel / ExcelライクUI]
↓ API(送信/取得)
[業務ロジック(検証・計算・ルール)]
↓
[DB(正・履歴)]
↓
[ログ/監査/権限/通知]
進め方(現場でハマりにくい順番)
「全部作り直す」ではなく、壊さずに段階移行します。
- データの“正”を決める(どれが最新?どれが正?を終わらせる)
- 入力と保存を分離する(Excel入力 → DB保存)
- ロジックをサーバーへ移す(計算・バリデーション・ルール)
- 履歴・監査を入れる(いつ誰が何を変えたか)
- 同時編集・権限・運用を整える(現場の事故を減らす)
- 余力が出たら ExcelライクUIのWeb化(必要なところだけ)
DXで一番大事だったこと
技術よりも大事だったのは、これです。
❌ やらなかったこと
- 「便利だから」という理由だけでの脱Excel
- 現場を置き去りにしたツール導入
- いきなり全部作り直すこと
✅ やったこと
- 既存業務を壊さない(まずは“事故”を止める)
- Excelの「気持ちよさ」を尊重する(反発を生まない)
- 徐々にシステム側へ寄せる(段階移行で成功率を上げる)
まとめ
- Excel 業務の DX は 二択ではない
- 脱Excel ❌
- Excel温存 ❌
- 責務分離 ◎
- UI は Excel ライクでいい
- DX の本質は「裏側」(データ・ロジック・履歴・権限)にある
おまけ:判断の目安(ざっくりチェック)
- Excelの“気持ちよさ”が価値なら → UIは残す(活Excel)
- 監査・権限・同時編集・外部連携が限界なら → 裏側を先にシステム化
- 入力が複雑でルールが多いなら → ロジックを外に出す優先度が高い
「置き換える」より先に、分ける(分離する)。
これが、現場で一番壊れにくいDXでした。

