コンピュータストレージの概念とクラウドにおける分類
第1部:コンピュータとストレージの基本関係
1. 起動の仕組み:BIOS/UEFI
コンピュータの電源が投入されると、OS(オペレーティングシステム)が読み込まれる前に、まず「BIOS」またはその後継である「UEFI」が起動します。
これらは、SSDやHDDのようなストレージ(ドライブ)上ではなく、PCの基盤であるマザーボード上の専用ROMチップに書き込まれています。
BIOS/UEFIの主な役割は、キーボード、メモリ、ストレージなどのハードウェアを認識・初期化することです。そして、どのストレージからOSを起動するかを決定し、そのストレージを読みに行くよう指示を出します。
2. OSが起動するドライブ:「ブート」と「システム」
BIOS/UEFIによって読み込まれるストレージには、OSを起動し、実行するための重要な領域が含まれます。
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ブートドライブ(ブートパーティション)
OSを起動するための基本的なプログラム(ブートローダー)が保存されている領域です。UEFI環境では「EFIシステムパーティション(ESP)」と呼ばれる小さな領域がこれに当たることが多いです。 -
システムドライブ(システムパーティション)
OS本体(Windowsフォルダ、Program Filesなど)が実際にインストールされている領域を指します。一般的に「Cドライブ」と呼ばれるものです。
現在では、これら2つの領域はOSインストール時に同じ物理ストレージ上に自動作成されるため、ユーザーはこれらをまとめて「システムドライブ」と呼ぶのが一般的です。
3. 「ドライブ」と「ファイルシステム」
OSがストレージを「ドライブ」として認識し、データを自由に読み書きできるのは、「ファイルシステム」という仕組みのおかげです。
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ドライブの語源
「ドライブ(Drive)」という言葉は、元々ハードディスク(HDD)などの円盤を物理的に「駆動(Drive)」させてデータを読み書きしていた装置(Hard Disk Drive)に由来します。SSDのように物理的に駆動しない装置が主流になった現在も、OSが認識する記憶領域の単位として「ドライブ」という呼称が使われています。 -
ファイルシステムの役割
ファイルシステムは、ストレージ内の「どこに」「どのファイルが」保存されているかを管理する「台帳」の役割を果たします。これにより、OSはデータをフォルダ階層で管理したり、巨大なファイルであっても「ファイルの特定の部分だけを書き換える」といったランダムアクセスが可能になります。
第2部:クラウド(AWS)におけるストレージの分類
クラウドコンピューティング環境(例:AWS)においても、これらの基本的な考え方に基づき、用途や特性に応じてストレージが分類されています。
1. EBS (Elastic Block Store) - 「システムドライブ」
EBSは、AWSの仮想サーバー(EC2インスタンス)にとっての「内蔵ドライブ」や「Cドライブ」に相当するブロックストレージです。
- 特徴: OSが直接管理し、ファイルシステムを作成して使用します。EC2インスタンスに物理的に接続されているかのように動作するため、応答速度(レイテンシ)が最も速いのが特徴です。
- 接続: 原則として、1つのEBSボリュームは同時に1つのEC2インスタンスからのみ専有して接続されます。
- 用途: OSの起動(ブートボリューム)、データベース、その他高速な読み書きが要求されるアプリケーションの実行領域。
2. EFS (Elastic File System) - 「NAS(ネットワーク共有ドライブ)」
EFSは、ネットワーク経由で接続して使用するファイルストレージであり、オンプレミス環境における「NAS(Network Attached Storage)」に相当します。
- 特徴: AWS側でファイルシステム(NFS)が提供されており、EC2インスタンスからは「データドライブ」としてマウントして使用します。EBSよりもネットワーク越しの遅延は発生します。
- 接続: 複数のEC2インスタンスから同時にマウントし、同じファイル群を共有できる点が最大の特徴です。
- 用途: 複数サーバー間で共有するWebコンテンツ、設定ファイル、共有開発環境など。速度が最優先されるOS起動やデータベースには向きません。
3. S3 (Simple Storage Service) - 「オブジェクトストレージ(Web倉庫)」
S3は、上記2つとは根本的に異なるオブジェクトストレージです。
- 特徴: API(HTTP/REST)経由でアクセスします。「ファイルシステム」を持たず、データを「オブジェクト」としてキー(ファイル名)と共に丸ごと保管するのが基本です。
- 性能: ファイル全体のダウンロード(スループット)は高速ですが、API通信を伴うため1回ごとの応答速度(レイテンシ)はEBS/EFSより大きくなります。
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用途:
- ファイルシステムのような細かい読み書き(ランダムアクセス)は、レイテンシが積み重なり非常に遅くなるため不向きです。
- 安価・大容量・高耐久性を活かし、バックアップデータの保管、Webサイトの画像・動画配信(静的コンテンツ)、データ分析のためのデータレイク(データの置き場)などに使用されます。
まとめ:適材適所のストレージ選択
ストレージ技術は、「速度(レイテンシ)」「機能(ファイルシステム、共有性)」「コストと容量」という3つの要素のトレードオフで成り立っています。
究極的にはEBSのように高速なストレージが望ましいですが、コストや共有の要件から、現実的には用途(落とし所)に応じて、EFSやS3のような異なる特性を持つストレージを使い分けることが重要です。