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⑦経済産業省が進める「行政手続きのデジタル化」~ローコードツールを使用した行政DXの費用を検討する~

Last updated at Posted at 2020-11-09

#はじめに

インフォシェア株式会社です。

この度弊社は、**経済産業省の「行政手続PaaS環境の導入実証・調査事業」に参画し、ローコード・ノーコードのツールを用いてアプリとWebのポータルサイトを構成することでDX(デジタルトランスフォーメーション)**を実現するプロジェクトを進めています。

本プロジェクトでは、行政のDXに参考になる情報をこちらQiita上で随時公開してきました。
全9回の記事も今回で8回目。

本記事のテーマはいよいよ、プロジェクトの**「費用」**についてです!

DXのような業務方式の変更を伴う変革は進めるには多くの関係者の同意や承認が必要ですので、なかなか思うように進まないと悩んでいる行政関係者の方もいらっしゃると思います。

DXを進めるにはその利点をしっかり共有していくことももちろん大切ですが、同時に具体的な費用を提示して「思ったより安いな」と感じてもらうことができれば、それもDX実現への障壁を低くするポジティブな要因となります。

ローコードツールを使用したDXでは、スクラッチからの開発と比べて、開発にかける工数をかなり抑えたうえで短期間での開発としてはリッチな機能の実現が可能となります。

以下に提示する費用感が、皆さまの組織をDXへと動かす活動の参考になると幸いです。

#ローコードでの短期開発により費用削減
price2.png
まずは今回のプロジェクトで実現した内容について下記の記事で紹介していますのでご確認ください。

→ ②ローコード・ノーコードツールPower PlatformでDXを加速させる試みの全体像

→ ④ローコード、ノーコードで構築した行政DXの例 - Gビズフォームポータルのご紹介

→ ⑥ローコードアプリケーションで実現した業務プロセス例 - 申請プロセスの改善

実際に作成され、すでに一般公開・稼働中のGビズフォームポータルサイトはこちらで確認していただけます。

→ Gビズフォームポータル

本プロジェクトでは、後援名義申請オープンイノベーション促進税制申請という2つの電子申請の窓口となるポータルサイトを0から設計構築、各申請の省内処理で使用する専用アプリケーションをそれぞれの申請に1つずつ作成しました。

使用したツールはMicrosoft社のPower Platfromサービスの一部、Power Appsというローコード・ノーコード開発ツールです。

開発に携わった人数とかかった期間、コーディング比率は下記のとおり。


  • 開発人数  :  2名
  • 開発期間  :  2.5か月(要件定義と設計含む。内最初の1か月で簡易版実稼働開始。)
-----

アジャイル開発の手法をとり、週ごとに経済産業省担当チームの方々や今回の開発物でDXされる業務担当者と30分のミーティング基本とし(足りなければ30分×2)を重ねながら機能を詰めていきます。

2-3週間をひとつのサイクルと定義し、サイクルごとにある水準の実装を完成させテストを実施、問題点を洗い出して改善案に合意し、次のサイクルへ。

この流れを3サイクル実施し、徐々に完成度を高めていきました。

ファイルベースではありますが実際の申請作業がポータル上で実施できる簡易版は最初の1か月で完成し、一般ユーザーからの受付を開始するところまで仕上がりました。

このスピード感はローコードツールならではの利点と言えます。

残りの2か月でファイルで行っていた申請の入力を電子フォームに落とし込むためのデータベース設計やページの構成と作成を行い、Web上で完結する電子申請システムの完成となりました。

#Power Platformのライセンス費用
price3.png

必要となるライセンス費用は構築するシステムによって大幅に変わります。
参考までに本プロジェクトで使用したライセンス費用を公開しますので、上記に載せたプロジェクト紹介記事から全容を確認したうえで、みなさんが想定しているDXではどのくらいの費用感が妥当になりそうか検討してみてはいかがでしょうか。

今回はPower PlatformのなかでもPower Appsが中心となる開発だったのでPower Appsライセンスのみを購入。Power Automateなどに関しては無料版のもので対応しました。

<<本事業で使用したライセンスの月額費用>>

ライセンス 用途 月額  年間
Power Apps per app ユーザー用 ¥1,090 ¥13,080(1ユーザーあたり)
Power Apps per user 開発管理用 ¥4,350 ¥52,200(1ユーザーあたり)
Office 365 E1 Exchangeによる
メール送信
¥870 ¥10,440(1ユーザーあたり)
Power Apps ポータル
(ログイン回数)
ポータル利用 ¥21,740 ¥260,880
Power Apps ポータル
(ページビュー回数)
ポータル利用 ¥10,870 ¥130,440

Power Appsにはper userとper appという2つのライセンスが存在します。
per userはユーザーに割り当てるライセンスで無制限にアプリを実行できる一方、
per appは単一のアプリを実行するユーザーごとに割り当てられ、2つのアプリと1つのポータルのみが実行できます。
→ Power Appsの価格を確認する

今回は開発用と運用管理用としてPower Apps per user
ユーザー用としてPower Apps per appを調達しました。

また、申請作業の要件としてExchangeを使用してメールを送信する必要があったのでExchangeのライセンスを含むOffice 365 E1ライセンスを購入。

最後にPower Appsポータルですが、こちらはユーザーのアクセス単位でのアドオン購入となります。

認証されていない一般のユーザーがページを訪問できる回数を購入する
**ページビュー回数アドオン(10000PV/月まで)**と
ログインを経て認証されたユーザーのログインセッション回数を購入する
**ログイン回数アドオン(1日有効な100ログインセッション/月まで)**の2つの購入方法があります。

→ Power Appsポータルの価格を確認する

Gビズフォームには認証されていないユーザーが自由に訪問できるページと、認証されたユーザーのみがログイン後に訪問できるページがあるのでページビュー回数アドオンとログイン回数アドオンの両方を購入しました。


このライセンスを使用して、簡単な行政向け申請アプリを作成するとします。

例として、今回のプロジェクトと同様にポータルから市民の電子申請を受けつけ、管理用としてPower Apps per userを2ライセンス、役所内申請担当者が使用するユーザー用としてPower Apps per appを10ライセンス購入するというシナリオで年間のライセンス費用を試算してみます。

みなさまのDX検討中の業務について費用を試算する際の参考にしてみてください。

<<一般市民と所内担当10人規模で利用する公開ポータルの年間ライセンス費用試算>>

ライセンス 月額 数量  年間
Power Apps per app ¥1,090 10ユーザー×12か月 ¥130,800
Power Apps per user ¥4,350 2ユーザー×12か月 ¥104,400
Office 365 E1 ¥870 2ユーザー×12か月 ¥20,880
Power Apps ポータル
(ログイン回数)
¥21,740 12か月 ¥260,880
Power Apps ポータル
(ページビュー回数)
¥10,870 12か月 ¥130,440
合計 - - ¥647,400

#業務方式を再検討する
price4.png
今回のプロジェクトで構築されたシステムを、ローコードツールなどを使用せずにイチから開発を実施したと想像してみると、とても2.5か月で完了できる作業量ではありません。

Power Platformなどのローコードツールでの開発にはライセンス費用が掛かる反面、開発費用の多くを占めるコーディングの工数がググっと圧縮されます。

さらにMicrosoftによって正しい動作が担保されたコントロールやセキュリティを使用しているので、実装だけでなくテストにかかる工数も短縮されます。

一方で、ローコードツールではツール内で提供されているサービスをうまく組み合わせて機能を実現しなければならないという制約があります。これにより開発の自由度は大きく制限されます。

もしコーディングを含む開発を組み入れて望みの機能を実現しようと思えばそれも可能ですが、そのような範囲が広がれば広がるほど上に挙げたローコードツールのメリットが失われていきます。

つまり**「いかにローコードツールの標準機能で必要な機能を実現するか」がローコードの利点である「いかに工数を短くできるか」に直結している**ということです。
もちろん工数次第でプロジェクトの費用が決まりますから、費用を検討する際にはこの点もしっかりと考える必要があります。


しかしローコードツールの標準機能で実現できない内容を望むとき、実装面か費用面のどちらが大きな妥協が必ずしも必要になるかと言えばそうではありません。

多くのケースで、従来の業務方式をそのままデジタル化しようとするせいで発生する問題というものがあります。

そこで、ローコードツールを使用したDXを実施するにあたっては、想定される制約についてよく調査と検討を行い、ローコードツールで実現できる範囲に合わせて業務方式のほうを変革するというアプローチが有効です。

2018年に経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン Ver.1.0(平成30年12月)」に記載されているDXの定義においても、その内容をまとまめると「データやデジタル技術を活用することで、単なる作業の電子化や業務の効率化にとどまらずビジネスモデルやこれまでの就業文化を抜本的に変革し、競争や経済活動を優位に進めるのに最適化された組織、業務プロセス、製品とサービスを実現する」という趣旨となっています。

ではどのように変革するのか?
そのひとつの答えとして**「業務方式を技術側に寄せたものにする」**という考え方があります。

この考え方は低予算でのDXにおいては特に大切となります。

みなさまの業務でDXをおこなうにあたり、システムに合わせて変革できる部分は業務のどの部分でしょうか。
また、システムに合わせるためとはいえ、妥協できないのはどの部分でしょうか。

このような検討が、プロジェクト全体にかかってくる費用に直接影響してきます。
ぜひ検討してみてください。


いかがだったでしょうか。
ローコードツールを使用した行政のDXにおいて、現実としてどれくらい費用がかかったか、参考にできる事例は多くないようです。
今回は、情報をオープンに公開し行政でのDX推進のきっかけになっていくという本プロジェクトのコンセプトに則り、全体の費用感を紹介いたしました。

わたくしどもで作成したGビズポータルと合わせてご覧いただき、みなさまがDXを検討する際に参考にしていただければと思います。

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