はじめに
今年、2023/11/20 で 『Turbo Pascal』 が 40 周年を迎えました。めでたい。
Turbo Pascal 40 周年
Turbo Pascal が 40 周年を迎えたというのに、その子孫である『Delphi』を開発・販売している Embarcadero は静かなものです。先日リリースされた 『Delphi 12 Athens』 には Turbo Pascal 40 周年イースターエッグが隠されていたりしたものの、とてもセンスがない質素なものでした。
真ん中の奴は、『BYTE』誌 1983/11 (Vol.8 No.11) P.129 に初めて掲載された Turbo Pascal の広告です。左上のは恐らく『Turbo Pascal 7.0』です。右下が最新の Delphi。
- I first met Philippe Kahn and Turbo Pascal 40 years ago this month (blogs.embarcadero.com)
- Turbo Pascal turns 40 (Marco Tech Blog)
Embarcadero の関係者も幾つかブログ記事を書いてはいますが...ちょっと寂しい感じがしますね。
寂しいので
Embarcadero さんが Turbo Pascal 40 周年記念で何かをやる感じがしなかったので、25 周年の時に 2008/11/1 から毎日投稿されていたブログ記事を、日付をなぞった形で Twitter (X) へ毎日流す事にしました。
そしたら途中で community.embarcadero.com の記事が読めなくなり 1、急遽 Internet Archive へのリンクも投稿するハメになりました。予約投稿が台無しです。
Turbo Pascal
高速なコンパイルとその価格によって、Pascal のデファクトスタンダードと言っても差し支えない位置に居たのが『Turbo Pascal』です。
1983 年当時に存在したものだけを揃えて『Turbo Pascal』を試してみると理解できると思うのですが、オーパーツにしか思えません。
・Turbo Pascal の歴史
ただ、『Turbo Pascal』はいきなり『Turbo Pascal』として世に出たのではなく、実際の所 OEM 製品でした。
元となった Pascal は 8bit コンピュータ用に作られ、その後 16bit バージョンが作られ、『WordStar』互換のエディタが組み込まれ『Turbo Pascal』となりました。この『Turbo Pascal v1.0』のリリース日が 1983/11/20 と言われています。
・Turbo Pascal のバージョン
製品としての『Turbo Pascal』はバージョン 1.0 ~ 7.0 が存在しました。ver3.0 までは CP/M (80/86) 版が存在しました。『Turbo Pascal 7.0』は日本未発売です。
『Turbo Pascal』は ver1.0~3.0 まではほぼ同じ使い方で、CP/M を切り捨てた ver4.0 ではドラスティックな変更が入っています。
・Turbo Pascal for Windows
ナンバリングに入っていない『Turbo Pascal for Windows 1.0』と『Turbo Pascal for Windows 1.5』という製品がありますが、これらは Windows 3.0 / 3.1 上で動作する IDE を持った Turbo Pascal です。
『Borland Pascal with Object 7.0』は『Turbo Pascal for Windows 1.5』と『Turbo Pascal 7.0』の機能を併せ持ったスイート製品です。
・Turbo Pascal for the Mac
短い間ですが、Macintosh 用の Turbo Pascal も発売されていました (1986 年)。
・Turbo Pascal のキーパーソン
Pascal コンパイラを開発したのは、後に Delphi、J#、C#、TypeScript 等の開発に携わる事になるアンダース・ヘルスバーグ氏です。
「エディタを買うと Pascal コンパイラが付いてくる」と言われるまでに評判の高かったエディタは Borland Ltd. の共同設立者 3 人のうちの一人であるモーゲンス・グラッド氏が書いたと言われています。
フィリップ・カーン氏は Borland International 社 (Borland のアメリカ法人) の創始者で、Turbo Pascal を販売していました。多分誤解されていますが、彼は Borland Ltd. の創始者ではありません。実の所、1983 年時点 (BYTE 誌に広告を出した時点) では、米国には不法滞在状態だったとも言われています。
また、彼はチューリッヒ工科大において Pascal の生みの親であるニクラウス・ヴィルト氏の下で学んでいたという経歴があります。
・日本国内での状況
日本国内での『Turbo Pascal』は、サザンパシフィック社とマイクロソフトウェア・アソシエイツ (MSA) が販売していました。
1989 年以降はボーランドジャパン社 (MSA 100% 出資。1992 年以降はボーランド株式会社) が Borland 製品を取り扱っていました。
『Turbo Pascal for Windows 1.5』『Borland Pascal with Object 7.0』『Turbo Pascal 7.0 for DOS』は日本未発売となっています。
日本国内では CP/M がほぼなかった事にされているので 2、主に PC-98 シリーズ用の MS-DOS 版の評価が多く、CP/M-80 版の Turbo Pascal については評価が殆どないのが実情です。
・アンティークソフトウェア
ver1.0, 3.0, 5.5 の MS-DOS 版はアンティークソフトウェアとして Embarcadero 社が公開しています。
Delphi
『Delphi』は『Turbo Pascal』の子孫なので、コンパイラのバージョンは Turbo Pascal 1.0 からの通し番号ですし、Copyright も 1983 年から始まっています。
Delphi 1.0 のリリース日は 1995/02/14 です。
コンパイラバージョンが Turbo Pascal 4.0 (VER40) からになっているのは、それよりも前の Turbo Pascal には条件コンパイル指令がないためです。
ISO 7185 Pascal
Pascal が ISO で規格になったのも 1983 年の事でした。最初の規格が ISO 7185:1983 で、改訂版が ISO/IEC 7185:1990 です。こちらも 40 周年ですね。
ISO 7185 に対応した処理系に『Pascal-P5』がありますが、これを Delphi でコンパイルできるようにした記事もあります。
その『Pascal-P5』の使い方についても記事があります。
Turbo Pascal を動かす環境
Embarcadero が公開しているアンティークソフトはすべて MS-DOS 版です。公開されていないバージョンやプラットフォーム用の Turbo Pascal はアバンダンウエアとして扱う必要があります 3。
アンティークソフトにマニュアルは付属しませんが、PUG BOOKS の『Turbo Pascal トレーニングマニュアル』を購入するといいでしょう (バージョン毎に出ています)。できれば『Turbo Pascal プログラミング・マニュアル』が欲しい所です。
Turbo Pascal 3.0 以前の使い方であれば、次の記事が参考になると思います。
・Windows
64bit Windows で動かす事もできます。
- Turbo Pascal 1.0 を Windows 10 (64bit) / 11 にインストールしてみる (Qiita)
- Turbo Pascal 3.02 を Windows 10 (64bit) / 11 にインストールしてみる (Qiita)
- Turbo Pascal 5.5 を Windows 10 (64bit) / 11 にインストールしてみる (Qiita)
・RunCPM
CP/M-80 エミュレータが動くマイコンボードで動作させる事もできます。
スタンドアロンで動作する超小型 CP/M マシンを作る事もできます。
RunCPM は Windows 向けにビルドする事もできます。
超高速で動作するコンパイラ環境と考える事もできます。
・PCEmulator (FabGL)
8086 エミュレータが動くマイコンボードの MS-DOS / CP/M-86 上で動作させる事もできます。
・MSX
MSX の DOS は MSX-DOS といいますが、この MSX-DOS はほぼ CP/M-80 です。MSX-DOS ver2.0 (MSX-DOS2) は階層化ディレクトリ等の概念を持ち、MS-DOS ver2.0 の機能を取り入れてはいますがCP/M-80、MSX-DOS との互換性を保っています。
簡単に言えば、MSX-DOS 上で CP/M のプログラムが走ります。そう、CP/M 版『Turbo Pascal』もね。
もちろん、MSX-DOS 上で動かした『Turbo Pascal』でコンパイルされた実行ファイルも動きます。
素の CP/M-80 版『Turbo Pascal』でも設定変更だけで MSX-DOS 上で動くのですが、オランダとイタリアでは Borland 謹製 MSX 用『Turbo Pascal』が Philips 社から販売されていたようです。このためか、MSX 固有の機能を使うためのライブラリが幾つか存在するようです。
実は MSX も今年 40 周年でして、MSX0 (MSX プラットフォーム IoT デバイス) とかで盛り上がっております。
See also:
- MSX (Wikipedia)
- 『MSX0 Stack』の操作方法
- MSX0 Stackで伝説の 8 ビット MSX パソコンが甦り、IoT 用コンピュータに (CAMPFIRE) - 2023/03/31 終了
- 【MSX0】MSX技術を活用した新世代IoTデバイス (Kibidango) - 2024/01/15 終了
・SHARP PC-G850V + EborsyEEP
『SHARP PC-G850V』に『EborsyEEP』を接続すると、CP/M を動かす事ができます。そう、ポケコンで『Turbo Pascal』 が動作するのです!
その他にポケコンで Turbo Pascal というと、『CASIO PB-2000C』用に『DL-PASCAL』という Pascal があり、これが Turbo Pascal 5.0 互換らしい、という事を知りました。
Turbo Pascal に関係ありませんが、40 周年という括りなら、人気機種だった SHARP PC-1245 も今年 40 周年ですね。
See also:
おわりに
今年は Turbo Pascal 40 周年という事で、Turbo Pascal そのものを触ったり、Turbo Pascal の書籍を買って読んだり、Turbo Pascal が動作する環境を構築したりしていました。
Twitter (X) で謎の Turbo Pascal 推しをしていたのはこのせいだったんですね... (^^;A
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突然記事が読めなくなった心当たりが一つだけあるっちゃーある。偶然だったらいいのだけれど (w ↩
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日本国内での CP/M の状況については『パソコン創成期 (青空文庫)』を読むとなんとなく解るかと思います。 ↩
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怒られない範囲で使ってね、という事です。 ↩