はじめに
iRICソフトウェアは、水工学系の数値シミュレーションを行うための統合環境であり、現在までに多種多様なソルバーが開発・公開されており、ご自身の目的に合ったソルバーを使用することができます。
もちろん、その人の好きなようにソルバーを開発することも可能です。開発に使用する言語はFORTRAN, Python, C、C++のいずれかです。開発したソルバーはiRIC上で動作させることができます。
本記事は、iRICソルバーをPythonで作成することを前提として、その開発環境の整備方法を備忘録的に紹介するものです。
なお、今回の環境構築にあたっては、iRICソフトウェアのインストールおよびメンテナンス時にインストール可能なMinicondaは使用しません。 Minicondaは別に用意した上で環境構築を進めます。
Minicondaのインストールの注意点に関しては、iRICユーザーズマニュアルでも説明されています。
iRICユーザーズマニュアル
今回は、上記マニュアル内の既存の Miniconda を使った iRICソルバの実行環境の構築基づいて環境構築を行います。

用意するもの
- Visual Studio Code
- Miniconda
MinicondaのWindows x86_64版をダウンロードしました。
Minicondaのインストール方法は、下記のサイトをご参照ください。
Minicondaのインストールが完了すると、スタートページからMinicondaのプロンプトを起動できます。Anaconda Prompt と Anaconda Powershell Prompt という2種類のプロンプトが表示されるはずです。また、それらプロンプトからPythonを実行できるようになります。
- iRIC
iRIC Version 4.Xをダウンロードしました。
ダウンロードの際にはiRICの会員登録(無料)が必要です。
環境構築
チャネルの設定
スタートページからAnaconda Powershell Promptを起動し、次のコマンドを実行することで、チャネルの設定を行います。チャネルには conda-forge を使用します。
# 既定チャネルの削除
conda config --remove channels defaults
# conda-forgeチャネルの追加
conda config --add channels conda-forge
# チャネル一覧の確認
conda config --show channels
# channels:
# - conda-forge
仮想環境の設定
上記と同じくAnaconda Powershell Promptにて次のようなコマンドを実行し、仮想環境の作成を行います。なお、仮想環境名は任意で設定できますが、今回は py310 という名前に設定しました。以下、仮想環境名を py310 として記述します。また、ここで指定するPythonのバージョンも、ご自身の環境に合わせて変更してください。
conda create -n py310 python=3.10.8
# conda create -n (仮想環境名) python=(Pythonバージョン)
# Pythonのバージョンは"python --version"で確認する
仮想環境の一覧は次のコマンドで確認できます。
conda info -e
また、仮想環境のアクティベーションおよびディアクティベーションは次のコマンドで実行できます。
conda activate py310
# py310には任意の仮想環境名を入力
conda deactivate
# base環境に戻る
Visual Studio Codeの拡張機能
Visual Studio Codeを起動し、次の拡張機能をインストールします。
setting.jsonの編集
Visual Studio Codeの設定ファイル setting.json を開き、minicondaのパスや仮想環境の自動起動の設定を行います。 setting.json は次のような方法で開くことができます。
-
ctrl + shift + Pでコマンドパレットを表示 - 検索窓に
settingsと入力 - 検索結果の
Preferences: Open User Setting (JSON)(日本語の場合、基本設定:ユーザー設定を開く(JSON))を選択
setting.json を開いたら、同ファイルに次のような記述を追加します。
なお、(Users)はご自身のPCのユーザー名です。
{
"python.autoComplete.extraPaths": [],
"python.terminal.launchArgs": [],
"terminal.integrated.env.windows": {
"PATH": "C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Scripts;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\condabin;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Library\\bin;${env:PATH}"
},
"terminal.integrated.profiles.windows": {
"Miniconda (py310)": {
"path": "C:\\Windows\\System32\\cmd.exe",
"args": [
"/K",
"C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\condabin\\activate.bat",
"py310"
]
}
},
"terminal.integrated.defaultProfile.windows": "Miniconda (py310)",
"python.defaultInterpreterPath": "C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\envs\\py310\\python.exe",
"security.workspace.trust.untrustedFiles": "open",
"editor.mouseWheelZoom": true,
"jupyter.askForKernelRestart": false
}
それぞれの設定をみていきます。
"terminal.integrated.env.windows": {
"PATH": "C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Scripts;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\condabin;C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Library\\bin;${env:PATH}"
}
環境変数(PATH)の設定です。4つのパスが設定されています。
C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3
C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Scripts
C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\condabin
これらのパスを設定することにより、Visual Studio Codeのターミナル上でcondaが動作するようになります。
C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\Library\\bin
PythonライブラリnumpyやscipyはIntel MKL(mkl_*.dll)を使用します。そのため、DLLが格納されているフォルダにもパスを通します。
"terminal.integrated.profiles.windows": {
"Miniconda (py310)": {
"path": "C:\\Windows\\System32\\cmd.exe",
"args": [
"/K",
"C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\condabin\\activate.bat",
"py310"
]
}
}
仮想環境py310を自動起動させます。なお、仮想環境のアクティベーションにはactivate.batを使用します。activate.batが次のように複数フォルダに存在することもあります。
C:\Users\(User)\AppData\Local\miniconda3\Scripts\activate.bat
C:\Users\(User)\AppData\Local\miniconda3\condabin\activate.bat
この場合は、condabinのものを使用します。
"terminal.integrated.defaultProfile.windows": "Miniconda (py310)"
デフォルトで開くターミナルプロファイルを設定するそうです。
"python.defaultInterpreterPath": "C:\\Users\\(Users)\\AppData\\Local\\miniconda3\\envs\\py310\\python.exe"
Pythonの本体のパスを設定します。
setting.jsonの編集が完了したら、一旦Visual Studio Codeを閉じて再起動してください。
再度Visual Studio Codeを起動したら、ctrl + shift + @でターミナルを起動します。
ターミナル左側に、仮想環境名(今回はpy310)が表示されていればOKです。
condaやpythonも正常に動作するのかを確認します(conda --version, python --version)。

Pythonライブラリのインストール
iRICソルバーの開発に必要となるライブラリをインストールします。下記のiRICユーザーズマニュアル内、iRIC用仮想環境の作成にライブラリの一覧が記載されています。Anaconda Powershell PromptもしくはVisual Studio Codeのターミナルを起動し、仮想環境内(今回はpy310)で それらをインストールします。
なお、上記以外に、jupyterをインストールします。
conda install jupyter
Visual Studio CodeのJupyter拡張機能を動作させるために必要となります。
Jupyterの設定(インストール)
JupyterでPythonの開発を行う場合、Jupyterの拡張機能をVisual Studio Codeに追加します。
ただ、私の環境だと、最新バージョンのJupyterが正常に動作しませんでした。
そのため、最新バージョン版を一度アンインストールし、少し昔のもの(2025.8.0)をインストールしました。
最新バージョン版が正常に動作する場合、これからの処理は必要ありません。
次のような手順でJupyterのインストールを行います。
-
拡張機能を選択 - 検索窓に
jupyterと入力し Jupyter を選択 - 右側の⚙を選択
- プルダウンメニューから
特定のバージョンのVSIXをダウンロード...を選択 - バージョンのリストが表示されるので、好きなものを選択
- プラットフォームを選択(
Windows 64 bit) - VSIXを任意のフォルダに保存
- 拡張機能メニュー右上の
...を選択 -
VSIXからのインストール...を選択(先ほど保存したVSIXファイルを選択)


これで古いバージョンのJupyterをインストールすることができます。
Jupyterの設定(カーネル)
JupyterでPythonのコードを実行するには、カーネルの設定が必要となります。
次のコマンドを実行します。
conda activate py310
# py310 : 仮想環境名
python -m ipykernel install --user --name py310 --display-name "Python (py310)"
# python -m ipykernel install --user --name (登録名) --display-name "(表記名)"
登録したカーネルのリストは、次のコマンドで確認できます。
jupyter kernelspec list
# 結果
# py310 C:\Users\(User)\AppData\Roaming\jupyter\kernels\py310
# python3 C:\Users\(User)\AppData\Local\miniconda3\share\jupyter\kernels\python3
Jupyterでpy310というカーネルを選択できるようになります。
Jupyterでのテストコードの作成
JupyterでPythonのテストコードを作成し、実行してみます。なお、既にmatplotlibをインストールしているものとします。Visual Studio Codeのファイルから新しいファイル→Jupyter notebookと進んでください。
そして、次のコードをコピペして下さい。
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
print(matplotlib.__version__)
print(matplotlib.rcParams['font.family'])
# 簡単な描画テスト
plt.plot([1,2,3], [4,5,6])
plt.title("Test Plot")
plt.show()
次に、画面右上のカーネルの選択を選択し、別のカーネルを選択→Python環境→py310(任意のカーネル名)と進みます。そのうえで、コードの左側にある三角ボタンを押すと、コードが実行されます。次のような図面が表示されたらOKです。
ipynbファイルのパスが長すぎると、コードが正常動作しないことがあるそうです。
iricライブラリの設定
iRICユーザーズマニュアル内の次の項目をご参照ください。
- Python 用 iriclib のインストール
- iriclib の動作確認
これらが全てうまくいくと、Visual Studio Code上でiRICソルバーの開発ができるようになります。
さいごに
本記事が少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです。ただ、あくまで自分用のメモのような記事なので、一部わかりづらい箇所もあるかもしれません。試行錯誤しながら環境構築を行ったため、もしかしたら本記事の通りに進めてもうまくいかない場合もあるかもしれません。そのような場合はご指摘いただけると幸いです。
参考サイト (最終アクセス:2025/10/21)
PythonのためのVisual Studio Codeのはじめ方
Miniconda3をWindows 10にインストール (Qiita)
VS Codeのsettings.jsonの開き方 (Qiita)
VSCodeのターミナル/プロファイルの設定の詳細
vscode で jupyter notebook のカーネル選択ができなくなった時の対処方法
