システムトレードをはじめてみた話 - バックエンドエンジニアの挑戦
自己紹介
バックエンドエンジニアとして働いています。主に上流工程に携わることが多く、設計やマネジメント業務が中心です。
本システムトレードサーバでは、以下の技術スタックを活用しています:
技術スタック
- 言語: Python 3.x
- データベース: PostgreSQL
- Webサーバ: Apache (CGI)
- インフラ: Linux
- 開発支援: AI駆動開発(Claude Code)
- バージョン管理: Git
- データ処理: pandas, numpy
- API連携: requests
システム構成は、リアルタイムデータ受信、技術指標計算エンジン、売買判定ロジック、取引実行エンジンから成る多層アーキテクチャとなっています。
システムトレードをはじめたきっかけ
会社では上流工程が中心で、技術的なスキルを存分に活かせる機会が少なくなっていました。
- 設計書やドキュメント作成が業務の大半
- コーディングする機会が減少
- 最新の技術やツールに触れる時間が取れない
そこで、プライベートで技術力を磨ける場として、システムトレードの開発を始めました。株式市場という実データを相手に、リアルタイム処理、データベース設計、アルゴリズム実装など、エンジニアとして求められる幅広いスキルを実践できると考えたからです。
実際にやってみて感じたこと
想像以上に高いハードル
1. 日本株市場の特殊性
日本株のシステムトレードは、想像以上に情報が少なく、ハードルが高いです。
- API情報の少なさ: 米国株に比べて、日本株のシステムトレード情報が圧倒的に少ない
- 標準化の遅れ: マーケットデータのフォーマットやAPI仕様が統一されていない
- 証券会社の制約: 自動売買に対応している証券会社が限定的
- ドキュメント不足: 公式ドキュメントが不十分で、試行錯誤が必要
2. 初期投資の壁
システムトレードを始めるには、それなりの初期投資が必要です。
- 元手資金: 最低でも数十万円〜(分散投資や戦略検証のため)
- サーバコスト: 24時間安定稼働できるサーバ(月数千円〜)
- データフィード: リアルタイムデータ取得のための費用
- 証券口座: システムトレード対応の口座開設
3. 安定したインフラの重要性
株式市場の取引時間中、システムが止まることは許されません。
- 高可用性: 9:00-15:00(取引時間)は絶対に落ちないこと
- 低レイテンシ: リアルタイム判定と即座の発注が求められる
- データ永続化: 障害時のリカバリ体制
- 監視体制: 異常検知とアラート通知
私は専用のLinuxサーバを用意し、PostgreSQLで全データを永続化、サービス化して安定稼働を実現しています。
4. 開発時間の膨大さ
想像以上に開発に時間がかかります。
- データ取得基盤: API接続、エラーハンドリング、リトライ処理
- 技術指標計算: 移動平均、RSI、MACD、ボリンジャーバンドなど多数の指標実装
- 売買ロジック: エントリー/エグジット判定、リスク管理、ポジション管理
- バックテスト: 過去データでの戦略検証
- ログ・監視: デバッグとトレース用の詳細ログ設計
本業の合間を縫っての開発なので、基盤が整うまでに数ヶ月を要しました。
でも、めちゃくちゃ楽しい!
苦労は多いですが、それを上回る楽しさがあります。
- 実データとの格闘: 教科書通りにいかない現実の市場データと向き合う楽しさ
- アルゴリズムの実験: 様々な戦略を試して結果を検証できる
- 技術の総動員: DB、API、並行処理、データ分析など幅広い技術を使える
- 即座のフィードバック: マーケットが自分のコードの良し悪しを教えてくれる
- 継続的改善: 日々の取引結果から改善点を見つけて実装する楽しみ
エンジニアとして、これほど技術力を試される実践的なテーマは他にないと思います。
AIが超高速にフォローしてくれる
開発を大きく加速させたのが、AI開発支援ツールの存在です。
具体的な活用例
- コード生成: 技術指標計算ロジックの実装
- バグ修正: エラーログから原因を特定し、修正コード提案
- リファクタリング: 継承構造の整理、共通化処理の抽出
- ドキュメント作成: 設計書の自動生成
- SQL最適化: パフォーマンス改善のためのクエリチューニング
- コードレビュー: コーディング規約準拠チェック、潜在的なバグ指摘
特に、「この部分のロジックを共通クラスに統一して」といった抽象的な指示でも、コード全体を理解した上で適切に実装してくれるのは驚異的です。
開発時間が体感で1/3〜1/5に短縮されました。一人で開発していても、優秀なペアプログラマーがいる感覚です。
現実的なコスト問題
利益を出す上で無視できないのがコストです。
手数料の高さ
- 売買手数料: 約定代金の0.05%〜0.1%程度
- 往復コスト: 買いと売りで2回発生
- スプレッド: 成行注文時の実質コスト
短期売買を繰り返すと、手数料だけでかなりの金額になります。
税金の高さ
利益が出た場合の税負担も無視できません。
- 所得税・住民税: 利益の約20%(申告分離課税)
- 損益通算: 損失と利益の相殺は可能
- 繰越控除: 3年間損失を繰り越せる
税金を考慮すると、実質的に必要な利益率はさらに高くなります。
まとめ
システムトレードは、想像以上に大変で、想像以上に楽しいです。
技術者としての成長という観点では、これ以上ない学びの場だと感じています。リアルタイム処理、データ分析、アルゴリズム設計、インフラ構築など、幅広いスキルを実践的に磨けます。
そして、AIの進化により、個人でもかなり本格的なシステムを構築できる時代になりました。AI開発支援ツールを使いこなせるかどうかが、これからのエンジニアの生産性を大きく左右すると実感しています。
今後は、開発の過程で得た知見や、実際のトレード結果の分析などを記事にしていきたいと思います。