「クラスター Advent Calendar 2025」13日目の記事です。前日は、FUKUDAさんの「はじめてのUnityワールド作成のススメ」でした。本日は、「3Dの創作をすぐに複数人で体験できる」魅力を持つcluster、およびソーシャルVR/メタバースの魅力をより掘り下げてお伝えします。
こんにちは、クラスターメタバース研究所の eau. / 廣井裕一(@eau_0c)です。
本日は、モバイルコンピューティング・IoTなどの分野を扱う査読付国際学術誌 IEEE Pervasive Computing に採択された論文のご紹介です。
本論文では、共著者である東京大学 情報学環 畑田裕二 助教、そして筑波大学 図書館情報メディア系 准教授であり当社メタバース研究所 シニアリサーチサイエンティストでもある平木剛史さんとともに、物理空間とメタバースを同時に使いこなす新しい生活様式「Cross-Reality Lifestyle」 に関する分析を行いました。
書誌情報
- 論文タイトル: Cross-Reality Lifestyle: Integrating Physical and Virtual Lives Through Multiplatform Metaverse
- 著者: Yuichi Hiroi, Yuji Hatada, Takefumi Hiraki
- 掲載誌: IEEE Pervasive Computing (PrePrints)
- DOI: 10.1109/MPRV.2025.3610749
「ながらメタバース」という発見
本研究のきっかけは、共著者の畑田さんと弊所の早瀬友裕さんが2024年のVR学会で発表した「ながらメタバース」に関する研究です。
- 畑田裕二, 早瀬友裕. "非没入型のメタバースにおける実環境とバーチャル環境間のマルチタスキングに関する調査". 第29回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集, 2024.
この論文では、スマホやPCでメタバースにアクセスするユーザーたちが、実に多様な「ながらメタバース」を実践していることを明らかにしています。
例えば、「料理をしながらclusterにログインして音楽ライブを聴く」「会社の昼休みにこっそりメタバースで友人と雑談する」「無言で作業する人が集まるワールドに接続して作業に集中する」といった使い方です。
こうした実践は、従来のVR研究における「VRは現実から完全に切り離された没入体験」という前提とは異なる性質を持ちます。
従来、物理空間とバーチャル空間の関係は、どちらか一方を主とする二項対立として捉えられてきました。例えば、デジタルツインやVRトレーニングはバーチャル空間での活動を通じて現実世界の能力や効率を向上させる手段として、メタバースプラットフォームは現実の物理的・社会的制約を超えた新しい表現や交流の場として、それぞれ発展してきました。
しかし、「ながらメタバース」においては、ユーザーは現実とメタバースの「どちらか一方」ではなく、同時に使いこなしながら、どちらか一方の空間では成し得ない新たな価値や生活体験を創出しています。
「ながらメタバース」が生まれてきた背景には、近年のメタバースプラットフォームにおけるマルチデバイス対応の急速な進展があります。VRChatは2025年10月にiOS/Android版を正式にリリースし、Robloxは2023年にMeta Questへの対応を追加しました。clusterも以前からVR-HMD、PC、スマートフォンといった多様なデバイスからのアクセスをサポートしています。
特にスマートフォンからのメタバースアクセスが容易になったことで、ユーザーは物理空間での活動を継続しながらバーチャル空間にも同時に参加できるようになりました。この「部分的な参加」や「ながらの参加」という新しい体験のあり方は、VR-HMDを装着して物理空間から完全に切り離される「没入型」体験を前提としてきた従来のVR研究の枠組みでは、十分に捉えきれていない領域でした。
この発見を受けて、私たちは問いを広げました:
- 従来の二項対立を超えて、物理空間とバーチャル空間が統合された生活体験をより適切に分析できるフレームワークを構築できないか?
- そのような統合的な生活体験を実現するために、プラットフォームにはどのような技術的要件が求められるのか?
そうして生まれた研究が、今回の「クロスリアリティ」ライフスタイルの分析です。
従来の枠組み:一次元の連続体と技術的な立方体
バーチャル空間と物理空間の関係を考える枠組みには、長い歴史があります。
Milgram & Kishino: Reality-Virtuality Continuum(1994)
最も有名なのは、MilgramとKishinoが1994年に提唱した「Reality-Virtuality Continuum」です。
この枠組みでは、完全な現実空間と完全なバーチャル空間を両端に置き、その間にAR(Augmented Reality, 拡張現実)やAV(Augmented Virtuality)が位置する一次元のスペクトラムとして表現されました。
例えば:
- AR(Augmented Reality):現実空間にバーチャル情報を重ねる(Pokemon GOなど)
- AV(Augmented Virtuality):バーチャル空間に現実の要素を取り込む
この枠組みは、知覚体験を理解する上で非常に有用でした。しかし、一次元の連続体であるため、どちらかの空間に主に位置している状態しか表現できませんでした。
Zeltzer, AIP Cube(1992)
一方、VRシステムの技術的特性を分析する枠組みとして、Zeltzerが1992年に提唱したAIP Cubeがあります。

画像出典:日刊工業新聞社 今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしいVRの本」(p.15)
AIP Cubeは、VRシステムを3つの軸で評価する三次元フレームワークです:
- Autonomy(自律性):システム内のオブジェクトがどの程度自律的に振る舞い、外部刺激に反応・対処できるか
- Interaction(相互作用性):ユーザーがバーチャル環境内のオブジェクトや環境とどの程度相互作用できるか
- Presence(臨場感):ユーザーがバーチャル環境に「存在している」と感じる度合い。感覚入出力チャンネルの数と忠実度の総体的な尺度
各軸は0から1の連続値で評価され、座標(1, 1, 1)が「究極のVRシステム」を表します。
AIP Cubeは、VRシステムの技術的能力を分析する優れた枠組みでした。しかし、これは技術側の視点であり、ユーザーの日常生活における体験の価値を直接分析するものではありませんでした。
新しい枠組み:ACE Cube
私たちは、Milgramの一次元連続体とZeltzerの三次元分析という先行研究の知見をふまえ、バーチャル空間と物理空間を行き来するユーザーの生活体験における価値創出に焦点を当てた新しい三次元フレームワークACE Cubeを提案しました。
ACE Cubeは、物理空間とバーチャル空間の統合パターンを、3つの軸で連続的に評価します:
1. Amplification(増幅):一方が他方を強化する
一方の空間での体験が、もう一方の空間での能力や楽しみを高める度合いを測ります。
例えば:
- 工場のデジタルツインで運用を最適化する(バーチャル→現実)
- VR手術トレーニングで現実の手術スキルが向上する(バーチャル→現実)
- VTuberのリアルイベントに参加して、バーチャル空間での推し活がさらに深まる(現実→バーチャル)
- アニメの聖地巡礼で作品世界への没入感が増す(現実→バーチャル)
増幅型の特性を時間の流れで捉えると、「順序性」 があることが特徴です。まず一方の空間で何かの活動を行い、それが時間をおいてもう一方の空間での活動を強化する、という流れになります。
2. Complementary(補完):一方が他方の制約を補う
一方の空間が持つ制約や限界を、もう一方の空間が補う度合いを測ります。
例えば:
- Zoomミーティング:距離や時間の制約を超えて、対面コミュニケーションの代替手段を提供する
- VTuberシステム:物理的な身体の制約を超えて、アバターを通じた新しい自己表現を可能にする
- テレプレゼンスロボット接客:障害や介護等の事情によって外出困難にある状況の方が、離れた場所から接客業務を行う
時間的な観点から見ると、補完型には 「同時選択可能」 という特徴があります。対面ミーティングとZoomミーティングを状況に応じて使い分けられるように、どちらも等価な選択肢として存在し、必要に応じて切り替えることができます。
3. Emergence(創発):同時参加で新しい体験が生まれる
そして、これこそが「ながらメタバース」の本質です。両方の空間に同時に参加することで、単純な足し算では得られない、全く新しい体験が生まれる度合いを測ります。
例えば:
- 料理をしながら音楽ライブ:現実では料理という家事をこなしつつ、メタバースではアバターが自動で踊り、音楽を楽しむ
- VR睡眠:物理的には一人で寝ているが、VR空間では友人と一緒に寝る感覚を得る
- 作業通話の延長としての「作業用メタバース」:現実では集中して作業しながら、メタバースでは無言で作業する人たちの輪に入り、程よい公共性を得る
時間的な観点から見ると、創発型には 「持続的な同時性」 という特徴があります。補完型が状況に応じて空間を切り替えることで全体性を回復するのに対し、創発型は両方の空間に同時並行的に関与し続けることで、新しい体験を創造します。
ACE Cube
これら3つの軸を立方体として可視化したのがACE Cubeです。
各体験は、この3次元空間上の座標(A, C, E)として表現されます。そして、座標(1, 1, 1)が「究極のメタバースプラットフォーム」を表します。すべてのタイプの体験をサポートできる、理想的なプラットフォームです。
ZeltzerのAIP Cubeとの違いは、AIP Cubeが技術システムの能力を測るのに対し、ACE Cubeはユーザーの日常生活における体験の価値を測る点にあります。AIP Cubeが「このVRシステムはどれだけ高性能か」を問うのに対し、ACE Cubeは「このバーチャル空間と物理空間にまたがる体験は、ユーザーの生活にどんな価値をもたらすか」を問うものです。
「Verse」概念の導入
「リアル」vs「バーチャル」という言葉には、両者を二項対立させてしまう問題があります。そこで私たちは、物理空間とメタバース空間を等価に扱うために、「Verse(バース)」 という言葉を分析の基軸として用いました。
この視点では、物理空間もメタバース空間も、どちらも「活動空間」の異なる実装であると捉えます。
例えば、VTuberのイベントを開催するとき、
- 物理実装(Physical-Verse) では、会場を確保し、ステージを設営し、照明と音響を設置する
- メタバース実装(Metaverse) では、バーチャルな会場をデザインし、3Dステージを構築し、バーチャル照明と音響を配置する
というように、使う技術は違いますが、「イベント空間を構築する」という本質は同じであると捉えます。
この記述はマルチバース時代への対応も視野に入れています。例えば、VRChatでのアバター作成スキルがclusterでのイベント開催能力を高める場合、これは「メタバースV1 → メタバースV2への増幅」として分析できます。
クロスリアリティ体験事例・商用プラットフォーム分析
それでは、実際にどのような体験がACE Cube上でどのように配置されるのか見ていきましょう。私たちは、clusterで開催された200以上の公式イベント事例、関連研究を調査し、様々なクロスリアリティ体験をACE Cube上にマッピングしました。
さらに、商用のメタバースおよび関連するプラットフォームを6種類に分類し、同様にACE Cube上にマッピングしました:
- 産業用メタバースプラットフォーム(例:NVIDIA Omniverse)
- 配信特化型プラットフォーム(例:YouTube Live、Twitch)
- 2Dテレカンファレンスツール(例:Zoom、Teams)
- 2D-空間型テレカンファレンスプラットフォーム(例:Gather、SpatialChat)
- 3Dゲームベースプラットフォーム(例:Fortnite、Roblox、Minecraft)
- ソーシャルVRプラットフォーム(例:VRChat、cluster、Second Life)
ACE Cube上へのマッピング
以下の図は、これらの体験事例とプラットフォームをACE Cube上にマッピングした結果を示します。2つの二次元投影図(A-C平面とA-E平面)で表示しています。
なお、このマッピングは、著者3人による主観的な議論に基づいて作成されています。より客観的・定量的なマッピング手法の確立は今後の研究課題です。
体験の大まかな分類
図4を見ると、体験は大きく3つの領域に分かれていることがわかります。
増幅重視の領域(高A・低C・低E)
この領域には、VR手術トレーニング、VRリハビリ・スポーツトレーニング、VR/AR観光、心理学・神経科学におけるVR研究など、現実世界の能力向上や効率化を目的とした体験が位置します。
これらの体験に共通するのは、一方の空間での活動が、時間をおいてもう一方の空間に明確な効果をもたらすという点です。産業メタバースプラットフォームは、これらの増幅型体験を支えるプラットフォームとして存在します。
補完重視の領域(低A・高C・低E)
この領域には、テレカンファレンスツール、空間的ミーティングプラットフォーム、アバターベースの接客サービス、VTuberシステムなど、物理空間の制約を克服する体験が集まります。
これらに共通するのは、現実の対面交流や身体的制約に対する代替選択肢としての役割です。状況に応じて物理空間とバーチャル空間を切り替え、最適な組み合わせを選択できることが重要です。
創発型体験の台頭(低A・中C・高E)
この領域には、VR睡眠、バーチャル音楽イベント中の現実活動、ビデオ通話中のマルチタスキング、Study with meストリーミングなど、両空間への同時参加による新しい体験が集まります。
これらの体験が生まれた背景には、スマートフォンやPCからの非没入型アクセスの普及があります。VR-HMDで完全に没入すると物理空間での活動は不可能ですが、スマホやPCなら両方を同時に行えます。この「部分的な参加」や「ながら参加」という新しいあり方が、創発型体験を可能にしています。ソーシャルVRプラットフォームは、これらの創発型体験において特に優れた能力を示しています。
プラットフォームの戦略的差別化
商用プラットフォームの配置を見ると、2つの平面で異なるパターンが現れます。
A-C平面:増幅と補完のトレードオフ
A-C平面では、商用プラットフォームがおおよそ黄色い曲線に沿って配置されています。この曲線が示すのは、既存のプラットフォームが増幅と補完の間でトレードオフの戦略を取っているということです。
増幅型体験の実現には高精度なシミュレーションや詳細なトラッキング技術が必要な一方、補完型体験には安定した通信インフラや直感的なインターフェースが求められます。限られた開発リソースの中で、プラットフォームは明確な方向性を選択しているのです。
A-E平面:ソーシャルVRの創発的優位性
一方、A-E平面では、ソーシャルVRプラットフォームが創発的能力で優位であることが示されています。
3Dゲームベースのプラットフォームはゲームプレイに最適化されているため、「ながら参加」のような創発的体験の実現には限界があります。同様に、ストリーミング重視のプラットフォームは配信者から視聴者への一方向的なコミュニケーションが中心であり、双方向的な創発体験とは性質が異なります。
これに対して、ソーシャルVRプラットフォームは、マルチデバイス対応、アバターの自動化機能、柔軟な参加モデルなど、設計思想的に高い自由度を示しています。この自由度の高さが、「料理しながらライブ参加」といった新しい生活様式の創発を可能にしているのです。
プラットフォームを支える技術要素の分析
では、これらの体験を実現するには、どのような技術が必要なのでしょうか?次に私たちは、商用プラットフォームに求められる技術要件を3つの層に分類し、ACE Cube上にマッピングしました。
技術要件の3層構造
技術要件は、以下の3つの層に分類されます:
1. コンテンツ層:メタバース空間内での体験設計と相互作用に関する要素です。具体的には、UGC作成・共有システム、音楽ライブ・会議などの没入型ソーシャルイベント機能、バーチャルコミュニティ・イベント管理、高忠実度トレーニングアプリ、適応的なレベルデザイン・トレーニング・ガイダンスなどが含まれます。
2. プラットフォーム基盤層:システムの核となる技術インフラです。具体的には、マルチデバイス対応、リアルタイム通信システム、スケーラブルなストリーミング、永続的なデータストレージ、ビデオコミュニケーション、常時接続インフラなどが含まれます。
3. デバイス・インターフェース層:物理空間とバーチャル空間を橋渡しする技術です。具体的には、高精度トラッキング・センシング、専門的な入出力デバイス・ハプティクス、コンシューマー向けMRデバイス、軽量MRデバイス、モバイルアクセス、リモートロボット操作・テレプレゼンス、BIM/CADデータや製造実行システム等とのクロスプラットフォーム互換性などが含まれます。
ACE Cube上へのマッピング
これらの技術要素をACE Cube上にマッピングした結果を下図に示します。比較のため、両平面には先ほどの商用プラットフォーム分析と同じ位置に黄線が引かれています。
この図より、各軸の高い領域には、それぞれ特徴的な技術要素が集まっています。
高A領域の技術:精密さと専門性
増幅型体験は、高精度な物理・空間処理、高精度トラッキング・センシング、専門的な入出力デバイス・ハプティクス、高忠実度トレーニングアプリ、適応的トレーニング・ガイダンス、クロスプラットフォーム互換性などの、高精度で専門的な技術によって支えられています。これらの技術が重視されるのは、他方の空間における転移可能性を最大化するためです。VRでの訓練が実際の作業に活きるためには、バーチャル体験が現実にできるだけ近い必要があります。
高C領域の技術:安定性と利便性
補完型体験には、ビデオコミュニケーション、低遅延・高信頼性接続、セキュリティ・プライバシー保護、統合されたAPI・プロトコル、クロスプラットフォーム互換性などの、誰でも使いやすく、安定した技術が求められます。これらの技術が重視されるのは、補完型体験が現実の対面交流の代替選択肢だからです。Zoom会議が対面会議の代わりとして機能するには、音声や映像が途切れず、誰でも簡単に参加でき、企業のセキュリティポリシーを満たす必要があります。
高E領域の技術:自動化と継続性
創発型体験を可能にするのは、インテリジェントなアバター・モーション自動化、常時接続インフラ、モバイルアクセス、コンテキスト認識同期システム、ユーザーステータス表示などの、「ながら参加」を支える技術です。これらの技術の本質は、物理活動中のバーチャルプレゼンスの自動化にあります。一方の空間で料理をしながら、他方の空間の音楽ライブに参加している感覚を体験できるのは、アバターが自動で踊ってくれるからです。作業しながらメタバースに居られるのは、常時接続されていて、手が離せないときでも存在感を維持できるからです。
プラットフォーム分析との対応
プラットフォーム分析と技術要件分析を重ね合わせることで、重要な知見が得られます。
A-C平面:精密さと手軽さのトレードオフ
A-C平面の黄色い曲線は、技術投資における精密さと手軽さのトレードオフを示しています。
現状の技術では、高精度シミュレーションと誰でも使える手軽さを、同時に高いレベルで実現することは困難です。産業メタバースプラットフォームが高精度技術に投資すれば、必然的に専門性が高まり、一般ユーザーにとっての敷居は上がります。逆に、テレカンファレンスツールが手軽さを追求すれば、高精度シミュレーションのような専門機能は犠牲になります。
この曲線は、プラットフォームが限られた開発リソースの中で明確な方向性を選択している現状を反映しています。
A-E平面:創発を実現する技術の統合
A-E平面の黄色い直線から上に位置する技術要素は、創発型体験を実現するために必要な技術を示しています。
特に注目すべきは、ソーシャルVRプラットフォームが優位性を持つ理由が、この平面で明確になることです。これらのプラットフォームは、E軸に沿った技術要素、特にアバター自動化、常時接続インフラ、モバイルアクセスといった要素を統合的に実装していることで、「ながら参加」という新しい体験を可能にしています。
新興技術と今後の可能性
この図には、今後の可能性を示唆する技術要素も含まれています。
例えば、軽量MRデバイスは伝統的に排他的だった高ACE領域を統合できる可能性があります。現在のVR-HMDは、長時間装着すると疲労が蓄積します。そのため、「ながら装着」は現実的ではありません。しかし、メガネ程度の重さのMRデバイスが実現すれば、日常生活の中で常時装着することが可能になります。これにより、伝統的に排他的だった高ACE領域を統合できる可能性があります。つまり、増幅も補完も創発も、すべてを高いレベルで実現する 「究極のメタバースプラットフォーム」(1, 1, 1) に近づけるのです。
軽量MRデバイスを日常的に装着し、現実世界の作業効率を高めながら(増幅)、遠隔地の人とも自然にコミュニケーションを取り(補完)、両方の空間に同時存在する(創発)、そんな未来が見えてきます。
まとめ
本研究では、物理空間とメタバースを同時に使いこなす「クロスリアリティライフスタイル」を分析するため、ACE Cubeという新しいフレームワークを提案しました。
従来の「リアルvsバーチャル」という二項対立を超えるため、私たちは「Verse(バース)」という概念を導入しました。物理空間もメタバース空間も、どちらも異なる実装による活動空間であると捉えることで、両者の統合パターンを中立的に分析できるようになります。そして、その統合パターンを増幅(Amplification)、補完(Complementary)、創発(Emergence) という3つの次元で連続的に評価するのがACE Cubeです。
200以上の事例分析を通じて、様々なクロスリアリティ体験と技術要件をACE空間上にマッピングしました。これにより、統合パターンと技術実装の対応関係が明確になりました。特に重要な発見は、商用プラットフォームの分析から得られた2つの知見です。第一に、A-C軸(増幅と補完)において、既存プラットフォームは明確な戦略的差別化を行っており、トレードオフの関係にあること。第二に、A-E軸(増幅と創発)において、ソーシャルVRプラットフォームが創発的能力で優位性を持つことです。
ACE Cubeフレームワークは、開発者やサービス設計者に実践的なガイドラインを提供します。目標とする体験領域に応じてプラットフォームを選択し、技術投資の優先順位を決定し、アプリケーション開発の方向性を定めることができます。開発者は、ターゲットとする体験ドメインに必要な技術要件を特定し、「究極のメタバースプラットフォーム」(1, 1, 1) に向けた戦略を立てられるのです。
ACE Cubeフレームワークが、これからのメタバースサービスの技術設計を導く指針となることを期待しています。






