AI時代において、営業という仕事は「なくならない」どころか「より強くなる」と考えています。
前回・前々回の記事で「AI時代は単体スキルより間を取り持つ力が重要」という話をしました。で、ふと気づいたんですよね。「それって営業がずっとやってきたことじゃん」と。
ただ、IT業界の営業には独特の課題がある。そして、その課題を解決する鍵は「エンジニアと営業の歩み寄り」にあると思っています。
前提:シリーズのおさらい
このシリーズで話してきたことを簡単に振り返ります。
| 記事 | 内容 |
|---|---|
| 第1回 | AI時代は「間を取り持つ力」が重要になる |
| 第2回 | 間を取り持てる人材になる5つの方法 |
| 今回 | だからこそ営業職は強い+IT営業の課題と解決策 |
ポイントは以下の3つでした。
- 単体スキル(コードを書く、絵を描く)はAIで代替可能になった
- でもAIは「流れを読む」「文脈を横断する」のが苦手
- だから人間は「間」に立つポジションで価値を発揮できる
では、これを踏まえて営業職を見てみましょう。
営業職が「間を取り持つプロ」である理由
営業の仕事を分解してみると、こうなります。
# 営業の本質的な役割
顧客(外部) ←→ 自社(内部)
↑
営業が間に立つ
営業は、異なる立場・異なる言語・異なる利害を持つ人たちの「間」に立つ仕事です。これは、まさに前回まで話してきた「間を取り持つ力」そのものなんですよね。
AI時代だからこそ営業職が強い3つの理由
1. 「空気を読む」のはAIにはまだ難しい
営業の現場では、言葉にならない情報が飛び交っています。
- 相手の表情の微妙な変化
- 声のトーンの違い
- 「言っていること」と「思っていること」のズレ
- 会議室に流れる空気
これらを読み取って、適切に対応する。これはAIがまだ苦手な領域です。
2. 信頼関係の構築は人間同士でしかできない
ビジネスにおける「信頼」は、最終的には人対人で築かれます。
「あの人が言うなら間違いない」
「この人と仕事がしたい」
こういった感情は、AIとのやり取りでは生まれません。
3. 複雑な利害調整は人間の仕事
営業は、単に「売る」だけの仕事ではありません。
- 顧客の要望と自社のリソースの調整
- 短期的な売上と長期的な関係性のバランス
- 現場の声と経営判断のすり合わせ
この「落としどころを見つける」という仕事は、まさに人間にしかできないことです。
でも、IT営業には「ある課題」がある
ここまで営業の強さを語ってきましたが、正直に言うと、IT業界の営業には独特の難しさがあります。
# IT営業が直面する「乖離」問題
顧客の課題 ←→ 技術的な解決策
↑
IT営業
(技術の深い理解が必要)
IT製品やサービスは、技術的な知識がないと本当の価値を伝えられないことが多い。でも、営業としてのスキルと技術的な知識、両方を高いレベルで持つのは簡単じゃないんですよね。
よくある場面
# IT営業あるある
顧客「このAPIの処理速度ってどのくらい?」
IT営業「えーと、確認して折り返します...」
顧客「うちのシステムと連携できる?」
IT営業「技術担当を呼びますね...」
顧客「セキュリティ面は大丈夫?」
IT営業「詳しい者に確認します...」
これ、悪いことじゃない。わからないことを確認するのは誠実な対応です。でも、その場で答えられたら、もっとスムーズに商談が進むのも事実。
解決策1:エンジニアが営業スキルを身につける
ここで一つの解決策が見えてきます。「技術がわかる人が、営業もできるようになる」というアプローチです。
エンジニア × 営業 のメリット
# エンジニアが営業スキルを持つと...
- 技術的な質問にその場で回答できる
- 顧客の課題に対して適切なソリューションを提案できる
- 「できること」と「できないこと」を正確に伝えられる
- 開発チームと顧客の間の認識齟齬を防げる
具体的に身につけたいスキル
| スキル | 内容 |
|---|---|
| ヒアリング力 | 顧客の真の課題を引き出す |
| 提案力 | 技術を「価値」として伝える |
| 交渉力 | 落としどころを見つける |
| 関係構築力 | 信頼を積み重ねる |
技術力があるエンジニアがこれらを身につけると、IT営業の「製品理解の壁」を一気に超えられます。
解決策2:IT営業がAIを活用して技術理解を深める
逆方向のアプローチもあります。IT営業がAIを活用して、扱う製品・技術の理解を深めるという方法です。
AIを使った技術キャッチアップ
# IT営業がAIに聞けること
「このAPIのレスポンス形式をわかりやすく説明して」
「うちの製品と競合Aの技術的な違いを整理して」
「〇〇業界でよくあるセキュリティ要件を教えて」
「Kubernetesって何?顧客に説明できるレベルで教えて」
以前なら「技術書を読む」「エンジニアに聞く」しかなかった技術知識の習得が、AIを使えばかなり効率的にできるようになりました。
IT営業 × AI活用 のメリット
# AIを活用したIT営業のレベルアップ
- 技術用語の意味をすぐに理解できる
- 顧客の技術的な質問に対する準備ができる
- 競合製品との技術的な違いを整理できる
- 新しい技術トレンドをキャッチアップできる
もちろん、AIで得た知識には限界があります。深い技術判断が必要な場面ではエンジニアの力が必要。でも、「基本的な会話ができるレベル」まで持っていくのは、AIの活用でかなり現実的になった。
両者が歩み寄ることで生まれる価値
結局のところ、最強なのは「両方向からの歩み寄り」だと思っています。
# 理想の状態
エンジニア IT営業
↓ ↓
営業スキルを習得 ←→ AIで技術理解を深める
↓ ↓
└──────────→ 中間地点で出会う ←──────────┘
↓
「製品の本質を伝えられる人」
エンジニアは営業の視点を持つことで、技術を「価値」として伝えられるようになる。IT営業はAIを活用して技術の理解を深めることで、より本質的な提案ができるようになる。
どちらかが一方的に頑張るんじゃなくて、お互いが歩み寄る。それがAI時代のIT業界で求められる姿なんじゃないかな、と。
まとめ
AI時代だからこそ、営業という仕事は強いと考えています。
- 営業は「間を取り持つ」ことを本業としている
- 空気を読む、信頼を築く、利害を調整する──すべて人間の仕事
でも、IT営業には「製品との乖離」という課題がある。
- エンジニアが営業スキルを身につける
- IT営業がAIを活用して技術理解を深める
この両方向からの歩み寄りが、これからのIT業界では重要になると思っています。
あなたがエンジニアなら、営業的な思考を身につけてみてください。あなたがIT営業なら、AIを使って技術の理解を深めてみてください。どちらの立場からでも、「間を取り持てる人」になれるはずです。
