前回の記事で「AI時代は単体スキルより『間を取り持つ力』が重要になる」という話を書きました。
では具体的にどうすればいいのか。今回はその続編として、間を取り持てる人材になるための実践的な方法を5つ紹介します。
前提:なぜ「間を取り持つ力」が必要なのか
簡単におさらいしておきます。
- AIは単体タスクが得意(コードを書く、絵を描く、文章を書く)
- でも「流れを読む」「文脈を横断する」のはまだ苦手
- だから人間は「間」に立つポジションで価値を発揮できる
では「間に立つ」とは何か。それは、具体と抽象の間を自在に移動できるということです。
1. 具体→抽象:「なぜ」を3回掘り下げる
やること
目の前の具体的なタスクから、抽象的な本質を抽出する練習をする。
例
具体的な要件:「ログイン画面にSNS認証を追加したい」
なぜ?① → ユーザーの登録率を上げたい(少し抽象化)
なぜ?② → 新規ユーザー獲得コストを下げたい(さらに抽象化)
なぜ?③ → 限られた予算でユーザー数を増やしたい(本質的な課題)
3回掘り下げると、具体的な要件の奥にある抽象的な課題が見えてくる。
なぜこれが「間を取り持つ力」になるのか
抽象化できると、異なる立場の人と同じ土俵で話せるようになります。
- 「SNS認証を追加する」→ エンジニア同士の会話
- 「登録率を上げる」→ デザイナーとも話せる
- 「獲得コストを下げる」→ ビジネスサイドとも話せる
抽象度を上げれば上げるほど、関われる人の範囲が広がるんですね。
具体的なアクション
- 要件をもらったら、すぐ実装に入らない
- 「なぜそれが必要なのか」を3回聞く(頭のなかでもいいが、できれば最初は書き出す)
- 本当の目的を理解してから、最適な手段を提案する
2. 抽象→具体:目標を施策に変換する
やること
逆方向もやる。抽象的なビジネス目標を、具体的な技術施策に落とし込む練習をする。
例
抽象的な目標:「顧客体験を向上させたい」
↓ 具体化①
「ページ読み込みを速くする」「UIをシンプルにする」「エラーを減らす」
↓ 具体化②
「画像の遅延読み込みを入れる」「フォーム項目を5つに絞る」「バリデーションを追加する」
↓ 具体化③
「LazyLoadコンポーネントを実装」「入力フォームのリデザイン」「APIエラーハンドリング改善」
この過程で起きること
ここが面白いところで、抽象から具体に落とし込む過程で、自分の専門外の知識が必要になるんです。
「顧客体験向上」を技術に落とし込もうとすると、UXの知識がいる。「獲得コスト削減」を考えると、マーケティングファネルの知識がいる。
つまり、具体⇔抽象の往復を繰り返していると、自然と隣の領域への理解が深まっていく。最初から「隣を学ぼう」と意気込まなくても、この思考プロセスを回していれば勝手に学べます。
具体的なアクション
- 抽象的な目標を聞いたら「で、何をすればいいのか」を考える
- 施策を3段階くらいの具体度で言語化してみる
- 具体化の過程で「わからない」が出てきたら、それが学ぶべき領域
3. 「翻訳」を意識的に練習する
やること
同じことを、異なる抽象度レベルで言い換える練習をする。
例:同じ機能を異なる抽象度で説明する
| 抽象度 | 説明 |
|---|---|
| 高(経営) | 「顧客満足度向上でLTV改善につながる」 |
| 中(ビジネス) | 「ユーザーが欲しい情報にアクセスできる」 |
| 中(デザイン) | 「ボタンを押したらデータが表示される」 |
| 低(技術) | 「APIエンドポイントを追加してJSONを返す」 |
これを見ると、立場の違いは抽象度の違いだと気づきます。
エンジニアは具体寄り、経営は抽象寄り。デザイナーやビジネスはその間。立場によって「ちょうどいい抽象度」が違うんですね。
間を取り持つとは、この抽象度を自在に切り替えて、相手に合った言葉で話すこと。
具体的なアクション
- ミーティングで「今の説明を別の抽象度で」と自分に問う
- 技術的な内容を、3段階の抽象度で説明する練習をする
- 逆に、抽象的な要件を具体的な言葉に置き換える練習をする
4. 「メタ視点」でプロジェクトを見る
やること
自分のタスクだけでなく、プロジェクト全体を俯瞰して見る。
メタ視点とは
# 通常の視点(具体)
「自分の担当機能を期限内に実装する」
# メタ視点(抽象)
「このプロジェクトの成功とは何か?」
「各チームは今どんな状態か?」
「どこがボトルネックになりそうか?」
「ステークホルダー間で認識のズレはないか?」
これも具体と抽象の行き来です。自分のタスク(具体)から一旦離れて、プロジェクト全体(抽象)を見る。
なぜ重要か
間を取り持つには、全体像が見えている必要がある。自分のことしか見えていないと、どこに橋を架けるべきかわからない。
メタ視点を持つと、「あ、ここで認識ズレてるな」「この2チームの間を取り持たないとマズいな」と気づけるようになります。
具体的なアクション
- 週に1回、15分だけ「プロジェクト全体の状態」を考える時間を作る
- 「今、一番リスクが高いのはどこか」を自分なりに言語化する
- 他チームの進捗報告にも目を通す
5. 「現場の具体」を雑談で集める
やること
業務外の会話を、異なる職種の人と意図的にする。
なぜ重要か
具体⇔抽象の変換を正しく行うには、現場の具体的な情報が必要です。
公式なミーティングでは出てこない情報がある。
- 本当に困っていること
- 表に出せない不満
- 将来やりたいこと
これらは雑談の中でポロッと出てくることが多いんですね。この「生の具体」を持っていると、抽象化の精度が上がる。
「ユーザー体験向上」という抽象的な目標を具体化するとき、「あ、そういえばあの人がこれに困ってるって言ってたな」という情報があると、より的確な施策が打てます。
具体的なアクション
- 週1回、別職種の人とランチに行く
- Slackの雑談チャンネルに顔を出す
- オフィスで意図的に遠回りして、違うチームの近くを通る
実践のコツ:「なぜ」から始める
いきなり全部やろうとすると続かないです。
おすすめは、まず「1. なぜを3回掘り下げる」から始めること。これが具体→抽象の基本動作になります。
1ヶ月続けると、自然と「あ、これは抽象度を変えて説明した方がいいな」という感覚も身についてくる。その過程で、隣の領域の知識も勝手についてきます。
まとめ
AI時代に「間を取り持てる人材」になるための5つの方法を紹介しました。
- 具体→抽象:「なぜ」を3回掘り下げる
- 抽象→具体:目標を施策に変換する
- 「翻訳」を意識的に練習する
- 「メタ視点」でプロジェクトを見る
- 「現場の具体」を雑談で集める
核心は具体と抽象を行き来する力です。この往復運動ができると、異なる立場の人をつなぐ「間」に立てるようになる。
結果として、隣の領域への理解も自然と深まっていきます。「学ぼう」と意気込まなくても、この思考プロセスを回していれば勝手に身につくんですね。
AIが単体タスクを担う時代だからこそ、人間は「具体と抽象の間」を行き来する価値を磨いていきましょう。
