【受講レビュー】Max Summer School 中級編でFluCoMaの音色分類を学んだ
2026年8月、東京藝術大学で開かれた Max Summer School in 藝大 2026 の中級コース(講師:大久保雅基さん)を受講してきました。テーマは FluCoMa を使ったニューラルネットワークによる音色分類。「トロンボーンとオーボエを、AIに聞き分けさせる」という一日でした。
会場の様子。スクリーンに講師のMaxパッチ(fluid.mfcc~ 〜 fluid.mlpclassifier~)が映し出され、受講者は手元のノートPCで同じパッチを組み上げていきます。
この記事は、その受講レポートと学習まとめです。手を動かしながら学んだ内容を時系列でたどりつつ、途中で私が感じたこと(つまずいた点・なるほどと思った点)を挟んでいきます。そして最後に、ドラマーである私自身が、この技術で何を作りたいかという構想まで書いてみます。
私は普段、ドラマーとして演奏活動を行いながら、音楽とプログラミングを組み合わせた作品制作を続けています。機械学習そのものに苦手意識はありませんでしたが、FluCoMaのようにMaxだけで音響機械学習がここまで自然に扱えるとは想像していませんでした。
このレビューは講義内容を整理するだけではなく、私自身がどのように理解し、どこでつまずき、どの瞬間に腑に落ちたのかを残すことを目的にしています。同じように途中で置いていかれそうになった受講者の助けになれば嬉しいです。
この記事で扱うこと
- 今回使う FluCoMa と MFCC が、そもそも何者で何ができるのか
- 実際の受講内容(データ集め → 学習 → 判別 → 保存)を、時系列で
- 受講してみて感じた、正直なところ
- ドラマー視点での「次に作りたいもの」の構想
完成イメージを先に1枚で示すと、こういう一本道の処理を組み上げていく一日でした。
今回の主役①:FluCoMa とは
ひとことで言うと
FluCoMa(Fluid Corpus Manipulation/フルコマ) は、「音の分析」と「機械学習」を、プログラミングの深い知識なしに音楽制作へ持ち込むためのツールキットです。名前は「Fluid Corpus Manipulation = 音の集まり(コーパス)を自在に扱う」ことに由来します。
Max / PureData / SuperCollider 向けに、fluid.〜 という名前のオブジェクト群として提供されます。
なぜ FluCoMa が要るのか
機械学習で音を扱おうとすると、普通は Python や TensorFlow、PyTorch に加えて深層学習の知識が必要になります。音楽をやりたいだけの人間にとって、これはかなり高い壁です。
FluCoMa は、その技術を Max のオブジェクトを並べるだけで使える形に翻訳してくれます。数式やコードの代わりに、いつものパッチングの延長で機械学習が使える。「AIの専門家ではなく、音を作る人が主役」という思想で作られているのが、いちばんの特徴だと感じました。
何ができるのか
FluCoMa の機能は、大きく3つのグループに分けられます。
| グループ | 何をするか | 例 |
|---|---|---|
| ① 分割(Slicing) | 一続きの音を意味のある単位へ切り分ける | 音の立ち上がりで区切る、無音で区切る |
| ② 分析・分解(Analysis / Decomposition) | 音から特徴量を取り出す/成分に分ける | ピッチ、音量、そして今回の MFCC(音色) |
| ③ 機械学習(Machine Learning) | 取り出した特徴量で分類・回帰・クラスタリング | 今回の 音色分類、音のマッピング |
今回の講義で作るのは、②で音を数値化 → ③で学習・判別という、FluCoMaの中核的な使い方でした。
- 公式サイト: https://www.flucoma.org/
用語メモ:コーパス(Corpus)とは?
もとは言語学で「大量の文章データの集まり」を指す言葉です。FluCoMa では 「大量の音の集まり(音素材の山)」 を意味します。この音の山を分析・分類して、作曲や演奏に活かせる形へと“耕す”のが FluCoMa の狙いです。
今回の主役②:MFCC とは
- 公式リファレンス(
fluid.mfcc~): https://learn.flucoma.org/reference/mfcc/
音色分類の心臓部が、音を数値化する MFCC です。ここは講義でも「詳しくは難しいので雰囲気で」と説明された部分ですが、この記事では少し踏み込んで噛み砕いてみます。難しく感じたら、各項目の太字の結論だけを拾って読み進めていただければ大丈夫です。
MFCC=「音色を数値化したもの」
MFCC(Mel-Frequency Cepstrum Coefficients/メル周波数ケプストラム係数) は、ひとことで言うと 「その音の“音色”を、十数個の数値の並びで表したもの」 です。公式リファレンスでは 「スペクトル全体の輪郭を、少数の係数へ圧縮したもの」 と説明されています。
同じ高さの「ド」でも、トロンボーンとオーボエでは質感が違います。MFCCは、この 「高さ(ピッチ)ではなく質感(音色)の違い」だけ を取り出して数値化します。だから楽器の聞き分けにぴったりなのです。
名前にある「ケプストラム(cepstrum)」は、「スペクトル(spectrum)」の頭の綴りをひっくり返した造語です。スペクトルにもう一段の変換をかけた“スペクトルのスペクトル”のようなもの、というニュアンスが込められています。この「もう一段」が、音色を掴む鍵になっていきます。
音色の正体は「スペクトルの外形」
なぜ数値の並びで音色が表せるのか、もう少し掘り下げてみます。ある瞬間の音を周波数ごとの強さに分解したものを スペクトル と呼びます。このスペクトルを眺めると、細かくギザギザした成分と、そのギザギザ全体を包むなだらかな外形の、2つの情報が重なっています。
- 細かいギザギザ:音の高さ(ピッチ)に対応します。倍音が等間隔に並ぶことで生まれる成分です。
- なだらかな外形(スペクトル包絡):どの周波数帯がよく響くか、という共鳴の癖です。これが 音色の正体 にあたり、楽器の管や体の形が作る「フォルマント」と呼ばれる山に対応します。
MFCCがやりたいのは、この2つのうち なだらかな外形(=音色)だけを取り出す ことです。ピッチのギザギザのほうは捨てたい。その分離を、次の計算がうまくこなしてくれます。
どう計算されるのか(ざっくり4ステップ)
fluid.mfcc~ の内部では、おおよそ次のことが順番に起きています。
-
周波数に分解する(フーリエ変換)
- 波形を「どの高さの音がどれだけ含まれているか」に分解し、スペクトルを求めます。
-
人間の耳の物差しに合わせる(メルフィルタ)
- メル周波数は、人の耳の感じ方に合わせた“高さの物差し”です。低い音は細かく、高い音は粗く(対数的に)まとめ直します。人は低音域の違いには敏感で、高音域はざっくりとしか聞き分けないので、その感覚に寄せる工程です。
-
強さを対数にする
- 音の大きさは桁で大きく変わるので、対数(デシベルに近い尺度)に直します。こうすると小さな音に含まれる音色の違いも潰れずに残ります。
-
離散コサイン変換(DCT)で圧縮する
- メルスペクトルの形を「いくつかの基本的なコサイン波形の重ね合わせ」として表し直します。すると、なだらかな外形は 番号の若い少数の係数 に集まり、細かいギザギザ(ピッチ)は番号の大きい側へ追いやられます。若い番号だけを残せば、音色の外形だけがきれいに取り出せる、という仕組みです。
結果として、ピッチではなく音色の特徴が、通常 10〜20個 の数値リストとして出てきます。今回は13個を使いました。
各係数は何を表しているのか
13個の数値は、番号が若いほど「スペクトル外形の大まかな形」を、番号が大きいほど「外形の細かな起伏」を表す、という役割分担になっています。
- 0番目:全体の音量(エネルギー)。
- 1〜数番目:明るい音か、こもった音か、といった大づかみな質感。
- 後ろの番号:音色の細かなニュアンス。
一つ一つの数値に「これは明るさ」といった明確な名札が付いているわけではありません。ただ、この13個の“並び方のパターン”がトロンボーンとオーボエで安定して違うので、機械学習がその違いを覚えられます。人が意味を読み解くための数値ではなく、機械に音色の違いを渡すための数値だと捉えると腑に落ちました。
講義では「メル周波数とフーリエ変換を組み合わせたもの」と説明されましたが、正確にはメルスペクトルに DCT(離散コサイン変換) をかけたものです。細部は公式リファレンスに任せて、ふだんは「音色を13個の数字にする箱」と捉えておけば十分でした。
参考:FluCoMa 公式
fluid.mfcc~リファレンス https://learn.flucoma.org/reference/mfcc/
音量に惑わされない工夫
MFCCの 0番目の係数は「音量」の情報 を持っています。公式にも「0番目を除けば、MFCCは音量の違いに影響されない」とあります。今回は「大きい音か小さい音か」ではなく音色そのもので分類したいので、この0番目を捨てて1番目以降だけを使いました(後述の @startcoeff 1)。この一手で、演奏の強弱に振り回されずに楽器を聞き分けられます。
受講レポート:一日の流れ
ここからは、実際に手を動かした順にたどっていきます。要所では、私が感じたことを「受講メモ」として挟みます。
STEP 0. 環境構築:FluCoMa のインストール
ツールキットは Web からもダウンロードできますが、Max の Package Manager から入れるのが簡単でした。
- メニューの
File > Show Package Manager - 検索窓に
flucomaと入力 - 「FluidCorpusManipulation」 を選ぶ
-
Installを押す
これで fluid.〜 系のオブジェクトが使えるようになります。
受講メモ:ダウンロード数が2万超え。海外の音響界隈ではすでに定番なのだと知りました。日本語の情報が少ないだけで、世界的にはしっかり使われているツールなんですね。
STEP 1. ゴール像の確認 — 何を作るのか
配布された starter-patch には、最初から2つのサウンドプレイヤーが載っていました。1つはオーボエ、もう1つはトロンボーンのサンプルです。右下には今回の主役 fluid.mlpclassifier~(多層パーセプトロン分類器)が置かれています。
多層パーセプトロンは、脳の神経回路を真似た 入力層・隠れ層・出力層 を持つネットワークです。音の特徴(ピッチ・明るさ・騒がしさなど)を入力し、「トロンボーンか、オーボエか」を出力します。
図:音の例を分析にかけ、多層パーセプトロン(Input→Hidden→Output)が音色を判定する。(出典:講義資料 / FluCoMa 教材)
受講メモ:分類器のパラメータ(
@activation@learnrate@maxiter)は「詳しくは難しいのでこのくらいの値で」と割り切った説明でした。最初は不親切に感じましたが、実際やってみると、細部を理解していなくても“動く”のがFluCoMaの良さだと納得しました。まず動かして感覚を掴む、という順番です。
STEP 2. 音色を数値化する(MFCC)
まず、音を fluid.mfcc~ に通して数値化します。
fluid.mfcc~ 13 @startcoeff 1
-
13… 出力する係数の数 -
@startcoeff 1… 0番目(音量)を除いて1番目以降を使う(音量に左右されない分類のため)
出力を multislider で可視化すると、13本のスライダーの高さの並びが、その瞬間の「音色の指紋」になります。
図:fluid.mfcc~ 13 @startcoeff 1 の出力を multislider で可視化。13本の高さの並びが音色を表す。(出典:講義資料)
受講メモ:ここで一番大事な注意がありました。MFCCは リアルタイムでその瞬間の音しか見ていない ということ。音が止まればスライダーもゼロに戻ります。「だから記録するには、音を鳴らしている最中に操作する必要がある」。この前提が、後の“Bang連打”につながっていきます。
STEP 3. データとラベルの保存先を組む
分析したMFCCと、「これは何の楽器か」という正解ラベルを、セットで貯める場所を作ります。
-
buffer~ mfccbuf @samps 13… MFCCを貯めるバッファ -
fluid.list2buf @destination mfccbuf @autosize 0… リストをバッファへ変換(@autosize 0は処理軽量化) -
fluid.dataset~ mfccData… 分析データを格納 -
fluid.labelset~ instr… 正解ラベル(trombone / oboe)を格納
さらに、データを見分けるための ID を作ります。counter(番号を進める)→ combine example- i @triggers 1(example-0, example-1… を作る)という組み合わせです。IDとラベルは join でまとめてから格納します。
受講メモ:
@triggers 1の説明で唸りました。Maxのオブジェクトは普通「左インレットに入れないと出力しない」のに、これを付けると右インレットの入力でも発火する。こういう“Maxらしい作法”は、独学だと見落としがちな部分です。講師に直接教わる価値を感じた瞬間でした。
STEP 4. 【最大のつまずき】「学習」は3つの操作だった
ここが、私が一日でいちばん混乱し、そして腑に落ちたポイントです。
ボタンを連打していると「これで学習しているのかな?」と感じます。でも実は、「学習」と呼んでいる操作は3つに分かれていました。
| 操作 | 中身 | 実行方法 |
|---|---|---|
| ① 例集め | 鳴っている音のMFCC+ラベルを1件ずつ保存 | 手動クリック(連打) |
| ② 学習 fit | 貯めた教材でネットワークを訓練 | 手動クリック(反復) |
| ③ 判別 predict | 未知の音を予測 | 自動(トグル+qmetro) |
-
①はまだ「学習」ではありません。 教材が1枚ずつ増えるだけで、ネットワークはまだ賢くなっていない。賢くなるのは②の
fitを押した瞬間です。 - ①②は手動、③だけ自動。
受講メモ:これを理解する前は「連打=学習」だと思い込んでいました。実際は「①教材を集める」と「②その教材で勉強する」は別の行為。人間の勉強にたとえると、①がノート作り、②が暗記、③がテスト本番。この区別がついた瞬間に、パッチ全体の見通しが一気に良くなりました。同じところで詰まる人は多いはずなので、ここは強調しておきたいです。
STEP 5. 例を集める(データ収集)
いよいよ教材集めです。手順はシンプルでした。
-
oboeかtromboneのラベルを選ぶ - その音を再生する
- 鳴っている間に Bang ボタンを連打する
オーボエとトロンボーンの各5演奏ほどを教材に、残りは後で検証用に取っておきます。print を送ると、Maxコンソールに example-7 oboe のように、IDとラベルが貯まっていくのが見えます。
受講メモ:音を鳴らしながらカチカチとBangを連打する、この“手作業感”が意外と楽しい。無音のところで押すとゴミデータが混ざるので、耳と手を使って「良い瞬間」を選んでいく。ここは演奏者の感覚が活きる作業だと感じました。ミスったら
clearでやり直せる気軽さも良かったです。
STEP 6. 学習させる(fit)
教材が揃ったら、fit mfccData instr を fluid.mlpclassifier~ に送ります。すると fit 0.7457 のような数値が返ってきます。これが Loss(誤差) で、小さいほど賢い。数値が下がるように、何度もクリックして学習を繰り返します。
受講メモ:「どこまで学習させればいい?」という私の疑問に、講師の答えは明快でした。「Lossが0になるまで、ではなく、下がりが止まったらやめる」。押しすぎると 過学習(オーバーフィッティング) になり、手元の例は完璧なのに未知の音では急に外すモデルになってしまう。“丸暗記の状態”という説明がしっくりきました。ドラムの練習でも、譜面をなぞりすぎて本番のノリが死ぬのと似ているな、と勝手に納得していました。
STEP 7. 判別させる(predict)
学習が済んだら、predictpoint mfccbuf を送って予測させます。毎回手で押すのは大変なので、qmetro 50 にトグルを付けて自動化します。
トグルをオンにして、まだ学習させていない後半の音を鳴らしてみると、ちゃんと oboe / trombone と判定してくれました。
受講メモ:初めて未知の音を正しく当てた瞬間は、素直に感動しました。自分が数十回カチカチ押しただけの“教材”から、機械が一般化して聞き分けている。仕組みは単純でも、これはまぎれもなく機械学習だ、と実感できました。音の切れ目で一瞬だけ判定がブレるのも含めて、「AIの挙動」を肌で感じられます。
STEP 8. 無音時の処理(loudness)
その「音の切れ目のブレ」を抑えるのが、この工程です。何もしないと、無音のときにも無理やりどちらかを判定してしまう。そこで fluid.loudness~ で音量を測り、一定以上の音量のときだけ判定を通します。
fluid.loudness~ → $1 → > -30. (-30dBFS以上なら判定を通す)
「無音(silence)」フラグが欲しい場合は、!- 1 で0と1を反転させて取り出します。
受講メモ:
!- 1の「!を付けると引き算の左右が入れ替わる」という小ネタ、地味だけど一生使える知識でした。エフェクトを音に反応させたいとき、この“無音判定”は必ず要る処理。実用に直結する部分で、ここだけでも受講した元が取れた気がします。
STEP 9. モデルの保存と読み込み(JSON)
パッチを閉じると、せっかく学習したモデルは消えてしまいます。そこで write myModel.json で保存し、read で読み込みます。loadbang → read myModel.json と繋いでおけば、次回パッチを開いた瞬間に学習済みの状態から始められます。
受講メモ:モデルが人間にも読めるJSONのテキストで保存される、というのが個人的にツボでした。“学習結果”がブラックボックスではなく、ファイルとして手元に残る。この安心感は大きいです。(講義中、
writeがうまく効かない場面もありましたが、スペルミスなど原因を一緒に切り分けていく様子も含めて、ライブ受講ならではでした。)
完成したパッチ
すべてをつなぐと、こうなりました。左が分析・保存、右が学習・判別と無音ゲートです。
図:完成パッチ。左=MFCC分析と保存(fluid.dataset~ / fluid.labelset~)、右=学習・判別(fluid.mlpclassifier~)と無音判定(fluid.loudness~ → > -30. → !- 1)。(出典:講義資料)
受講を終えての総括
今回一番印象に残ったのは、「機械学習を理解した」というより、機械学習との付き合い方を理解したことでした。
講義中は専門用語も多く、正直に言えば途中で流れを見失いそうになる場面もありました。実際、周囲にも「今どこをやっているんだろう」と戸惑っている受講者がいました。
しかし振り返ると、講師の意図は最初から理論を理解させることではありませんでした。
まずは動かす。
動いたものを観察する。
そして必要になったところだけ理解を深める。
この順番だったからこそ、一日で最後まで到達できたのだと思います。
私自身も、STEP4で「例集め」「fit」「predict」が別物だと理解した瞬間、一気に全体像が見えました。この『理解が繋がる瞬間』を体験できたことが、この講義で最も価値のあった時間でした。
良かったところ・難しかったところ
もう少し具体的に、率直な感想を整理しておきます。
良かったところ
- とにかく“動く”。機械学習を理屈から積み上げるのではなく、まず動かして感覚を掴ませる設計が秀逸でした。非エンジニアでもゴールまで辿り着けます。
- 概念と操作が1対1で対応している。「MFCC=音色を数字に」「fit=勉強」「predict=テスト」と、抽象的な機械学習の言葉が、目の前のオブジェクト操作に紐づく。腹落ちのスピードが速いです。
-
実用に直結する小ネタが多い。
@startcoeff 1(音量を除外)、無音ゲート、モデル保存など、そのまま自分の作品に持ち込める工夫が散りばめられていました。
難しかった・戸惑ったところ
- 設定するオブジェクトと引数が多く、序盤は「何をしているのか」を見失いがちでした。STEP 4 の「学習=3操作」を理解するまでは、霧の中を歩いている感覚です。
- パラメータの意味を“雰囲気”で流す場面があり、もっと知りたい人には物足りないかもしれません(そこは公式リファレンス送りでした)。
総じて、「音響機械学習にはもっと大掛かりな環境が要る」という思い込みを、一日で覆してくれる講義でした。仕組みの詳細より先に「使える」という体験を渡してくれたのが、何よりありがたかったです。
ドラマーとして、次に何を作るか(構想)
さて、ここからが私にとっての本題です。トロンボーンとオーボエを聞き分けられるなら、ドラムの音源から、キック/スネア/タム/シンバルを判別・記録できるのでは? 受講中、ずっとそれを考えていました。
結論としては 条件付きでできる、というのが今の理解です。ただし「分類(何が鳴ったか当てる)」と「分離(その音だけを抜き出す)」はまったくの別物なので、そこを分けて設計する必要があります。
作りたいもの:叩いた1発を判別・記録する
トロンボーン/オーボエを、キック/スネア/ハイハットに置き換えるだけで、考え方はそのまま使えます。ただしドラムは持続音ではなく**打撃音(トランジェント)なので、「鳴っている間ずっと予測」ではなく、「1発ごとに解析する」**形へ変えます。
ドラム音源
↓
fluid.onsetslice~ … 打撃の頭(オンセット)を検出して「1発」を切り出す
↓
fluid.mfcc~(+fluid.stats で統計量に)… その1発の音色を数値化
↓
fluid.mlpclassifier~ / fluid.knnclassifier~ … 「これはスネア」と分類・記録
ドラムは音色差がはっきりしているので、むしろ精度が出やすい題材のはずです。「いつ・何が鳴ったか」をラベル列として記録できれば、演奏の可視化や、叩いた音でのエフェクト切り替えなど、応用が一気に広がります。
設計上の壁:「同時に鳴る」問題
ドラムの難しさは、キック・スネア・ハイハットが同時に鳴る瞬間があることです。分類器は基本的に「1つの入力に1つのラベル」しか返さないので、同時打撃を1発として解析すると、混ざった音色に対してどれか1つしか答えが出ません。ここは、帯域を分ける・複数の分類器を並べるなどの工夫が要りそうです。まばらに鳴るフレーズは得意、密集した同時打撃は苦手、と割り切って設計するのが現実的だと考えています。
「音だけを分離して録りたい」なら別ツール
「シンバルの音だけを抜き出して録音」まで行くなら、それは**音源分離(source separation)**という別の課題で、今回のMFCC分類では実現できません。FluCoMaには、そのための別系統のオブジェクトが用意されています。
| オブジェクト | 役割 |
|---|---|
fluid.bufnmf~(NMF) |
混ざった音を複数の成分へ分解。ドラム分離の定番。 |
fluid.hpss~ |
持続音成分と打撃音成分を分ける。 |
fluid.sines~ / fluid.transients~
|
正弦波成分と過渡(アタック)成分を分ける。 |
つまり 「分類(今回のMLP)」と「分離(NMF等)」は目的の違う別ツール。判別だけなら今回の手法、音を取り出すなら分離系、と使い分ける設計になります。
ステレオ(2ch)について
fluid.mfcc~ は基本的にモノラルを解析します。ステレオの2chは分類の手がかりとしてはあまり効かない(パンの位置情報くらい)ので、モノにまとめて解析するか、必要なら左右を別々に解析する想定です。
現在の状況:この「ドラム音色分類パッチ」は、いま別のMacで制作を進めているところです。オンセット検出のしきい値調整や、同時発音の扱いをどう妥協するかが肝になりそうです。完成したら、実際のパッチと結果をこの記事に追記します。ドラマー+機械学習という掛け合わせで、どこまで実用になるか。続きは制作編で。
付録A:使用したオブジェクト早見表(再現用)
手元で再現したい方向けに、登場したオブジェクトをまとめます。~ が付くものはシグナル(音声信号)を扱います。
| オブジェクト | 役割 |
|---|---|
playlist~ |
複数の音声ファイルを再生するサウンドプレイヤー。 |
fluid.mfcc~ |
音を MFCC(音色特徴量)に変換。13個の係数を出力。 |
fluid.loudness~ |
音量(ラウドネス/トゥルーピーク)を dBFS で測定。無音判定に使う。 |
multislider |
複数の数値を棒グラフ状に表示。MFCCの可視化。 |
buffer~ |
数値データを貯めるメモリ領域。MFCCの保存先。 |
fluid.list2buf |
リストをシグナルに変換して buffer~ に書き込む。 |
fluid.dataset~ |
MFCCの分析データをID付きで格納。 |
fluid.labelset~ |
各データの正解ラベル(trombone / oboe)を格納。 |
counter |
Bangのたびに番号を進める。IDの通し番号。 |
combine |
要素を1つの単語に結合。example-〈番号〉 を作る。 |
join |
複数入力を1つのリストにまとめる。 |
fluid.mlpclassifier~ |
多層パーセプトロン分類器。学習(fit)と判別(predict)の本体。 |
qmetro |
一定間隔でBangを出す。予測の自動化(50ms)。 |
fluid.onsetslice~ |
(応用)打撃の頭を検出して音を1発ずつ切り出す。 |
fluid.bufnmf~ / fluid.hpss~
|
(応用)音源分離。混ざった音を成分へ分解する。 |
付録B:登場した演算記号・記法
| 記号 | 意味 |
|---|---|
> |
大なり(比較)。> -30 は「-30dBFS以上なら1」。 |
!- |
逆順の引き算。! を付けると「引数 − 入力」に。!- 1 は 0↔1 の反転。 |
$1 $2
|
メッセージに入ってきた値を順番に差し込む。 |
@startcoeff 1 |
fluid.mfcc~:0番目(音量)を除き1番目以降を使う。 |
@samps 13 |
buffer~:保存サンプル数を13に固定。 |
@autosize 0 |
fluid.list2buf:サイズ自動変更を無効化し処理を軽く。 |
@triggers 1 |
combine:右インレットの入力でも出力する。 |
@activation @learnrate @maxiter
|
fluid.mlpclassifier~:学習パラメータ。 |
FluCoMaは、「音楽をやる人が、音楽の言葉のまま機械学習に触れられる」稀有なツールでした。トロンボーンとオーボエで掴んだ感覚を、次はドラムに。完成したら、また報告します。
- 公式サイト: https://www.flucoma.org/
-
fluid.mfcc~リファレンス: https://learn.flucoma.org/reference/mfcc/






