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【総集編】AIでデータ分析・市場縮小の犯人を探したら、顧客の優先順位が変わっていた

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シリーズ: 公開データだけで市場の通説を検証する(総集編)
第1弾: 「暑すぎて秋物が売れない」は本当か? 気温・検索・購買データで17年を検証した
第2弾: 「暑すぎて秋物が売れない」を検証したら、犯人は気温ではなく家計だった
第3弾: 「節約している」は本当か? 家計調査17年分で見えた削られる消費、守られる消費


秋になると業界紙に同じ言葉が流れる。「今年も暑くて秋物が動かない」。

これを公開データで検証しようとした。気温と家計調査とGoogle Trendsを使えば、確かめられるはずだった。

ところが分析を進めるにつれ、問いがどんどん変わっていった。最初に想定していた「気温の話」は第1弾で終わり、「家計の話」になり、最後は「日本人が何にお金を使うようになったか」という話になっていた。

3弾分の発見をまとめると、こうなる。


第1の発見:気温は犯人ではなかった

東京の7〜12月、各月の平均気温とQ4秋冬アパレル支出の相関を計算した(n=17, 2008〜2024年)。

結果は全月で非有意(p>0.30)。最大でも r = -0.264 にとどまった。

2変数モデルで見ると、気温の説明力はR²=0.02(2%)。一方、年トレンドはR²=0.58(58%)で高度に有意(p=0.0005)。「暑いから売れない」よりも、気温に関係なく毎年-134円ずつ減り続ける構造変化の方が圧倒的に強く検出された。

「暑さ犯人説」をデータは積極的に支持しなかった。では、何が原因なのか。

→ 詳細は第1弾


第2の発見:家計の優先順位が変わっていた

秋冬アパレル支出が減った本当の理由を探るため、消費支出の構成比(2000→2024年)を追った。

費目 変化
食料 +5.02pp
保健医療 +1.51pp
交通・通信 +2.39pp
教養娯楽 -0.40pp
被服及び履物 -1.89pp

食料・医療・通信の3費目で合計+8.9pp増加した一方で、被服費は-1.89pp低下していた。

エンゲル係数(食費比率)と被服費比率の相関を取ると、r = -0.889(p<0.0001)。食費比率が上がる年ほど、被服費比率が下がる。強い負の相関だ。

「暖冬で売れなかった」のではなく、家計の中で被服費が他の支出に押し出されていた可能性が浮かんだ。

→ 詳細は第2弾


第3の発見:財布の「優先席」を持つ消費が見えてきた

では、被服費を押し出したものの先に何があるのか。家計調査の品目分類(2007〜2024年)で教養娯楽の内訳まで掘った。

fig02_delta_bar.png

▲ 何が増え、何が減ったか。赤が増加(固定費化)、青が減少。食料+5.02ppが圧倒的に大きい。

見えてきたのは、消えた消費と伸びた消費の非対称だった。

消えた消費:
秋物衣料(-134円/年)、雑誌(縮小)、CD・DVD(縮小)、ゲーム機(縮小)

財布の「優先席」を持つ消費:
インターネット接続料(+25,297円)、ペット合計(+255%)、スポーツ月謝(+171%)、中食・調理食品(+4.1pp)

消えた消費の共通点は「単発購入・所有型・買わなくても困らない」こと。伸びた消費の共通点は「生活に組み込まれている・毎月自然に発生する・やめる理由が見つかりにくい」ことだ。

教養娯楽の中でさえ、最大増加品目はネット回線代だった

教養娯楽カテゴリの品目別増加額1位はインターネット接続料(+25,297円)。旅行でも映画でもなく、ネット回線代だ。

2007年当時は「あると便利なサービス」だったものが、2024年には電気代・水道代と同じ止められないインフラになっている。娯楽にお金をかけたのではなく、娯楽の前提インフラが固定費化した。

旅行よりも伸びた消費:ペット

最も意外な発見がペットだ。

ペット支出は2007年の8,454円から2024年の30,024円へ**+255%**。今や宿泊料(34,349円)に迫る規模であり、映画・演劇(7,059円)の4倍以上だ。

特徴的なのは、動物病院代の伸び(+267%)がペットフード(+209%)を上回ること。2007年には「フードの0.81倍しか病院に使わない」だったが、2017年に逆転し、今はほぼ並んでいる。「飼う」から「医療で守る」に変わった。

そしてコロナ禍でも唯一増加した体験消費がペットだった(コロナ禍: +10%。旅行: -66%)。フード・病院・保険・トリミングで毎月継続支出が発生し、感情的な解約障壁が極めて高い。ペット産業は「財布の優先席」の最強形態かもしれない。

→ 詳細は第3弾


3弾を通じて見えたこと

今回の分析は「節約している日本人」という通説から始まった。

しかしデータが示したのは、それよりも複雑な姿だった。

消えた消費(秋物・雑誌・CD)と守られた消費(ペット・ネット・スポーツ)の分岐は、節約の話ではない。財布の中で優先順位の付け直しが起きている。

「日本人はモノを買わなくなった」は半分しか正しくない。買わなくなったのは「単発で終わる消費」であり、「生活に組み込まれた消費」には引き続きお金が流れている。


経営者への示唆

今回の分析は「何を売れば成功するか」を示したものではない。しかしデータから言えることが、いくつかある。

「景気のせい」と「市場が変わった」は全く別の話

売上が落ちた原因が景気なら、景気回復を待てばいい。しかし顧客の優先順位が変わったなら、待っても戻らない。

今回の分析が正しければ、秋物市場は「一時的に落ち込んでいる市場」ではなく、「構造的に縮小している市場」である可能性がある。この違いは経営判断を根本から変える。「商品投入時期を変える(暖冬対策)」と「縮小市場でシェアを取る(構造変化対策)」は、全く異なる意思決定だ。

競合相手の定義が変わっている

アパレルの競合は他のアパレルブランドだ、という前提が揺らいでいるかもしれない。

顧客は他社商品と比較しているのではなく、家計の中で「その月に何を優先するか」を比較している。ペット保険・ネットフリックス・スポーツジム・宅配サービス——これらすべてが、服を買う前に財布の席を確保しようとしている。

これはアパレルだけの話ではない。書店の競合は書店ではなく、ゲームの競合はゲームではなく、外食の競合は外食ではないかもしれない。顧客の可処分所得の取り合いとして競争地図を描き直すと、見えていなかった脅威が浮かび上がる。

問題設定を誤ると、正しい努力も外れる

暖冬が原因だと思えば、秋物の投入時期変更・在庫調整を頑張る。しかし原因が家計構造なら、その努力は的を外す。資源が限られる中小企業ほど、診断の誤りが痛い。

「優先席」を持てる商品、持てない商品

今回伸びていた消費には共通点があった。

ネット回線・ペット・スポーツ月謝・中食——いずれも一度利用を始めると、生活の中に組み込まれる。毎回ゼロから購入を判断されるのではなく、「使い続ける前提」で予算が確保される。

一方で縮小していた消費——秋物衣料・雑誌・CD/DVD——は、購入のたびに「本当に必要か」を問われる。

もしそうなら、商品の品質や価格を改善するだけではなく、「どうすれば顧客の日常に組み込まれるか」 が重要な問いになる。会員制度・サブスク・習慣化設計・コミュニティ——成功するかどうかは別として、方向性としては「継続接点を作ること」になる。


「答え」ではなく「問いの再定義」を持ち帰ってほしい

今回の分析は「こうすれば売れる」を示したものではない。そういう記事ではない。

ただ、データを掘り進めた結果として、経営者が問い直すべき問いが見えてきた。

① 自社の商品は「優先席」を持っているか、それとも「余り物」で買われているか
(毎回ゼロから購入判断されるか、生活に組み込まれているか)

② 自社の競合は本当に同業他社か
(顧客の財布を先に埋めている支出は何か)

③ 市場の縮小は「一時的な落ち込み」か「構造的な縮小」か
(景気回復で戻る市場なのか、待っても戻らない市場なのか)

④ 顧客の「支出優先順位」を測る指標を持っているか
(売上データだけでなく、家計構造の変化を見ているか)

これらは「答え」ではなく「問い」だ。

しかし問いが変わると、対策も変わる。「暖冬対策」と「縮小市場でのシェア争い」は、全く異なる意思決定を要求する。


顧客の財布の中では、優先順位の再編が起きている。

市場が縮小したのではなく、自社の商品が優先順位を下げられた結果かもしれない。もしそうなら、競争相手は同業他社ではない。顧客の財布の中で先に席を確保している、あらゆる支出である。


このシリーズで使ったデータ・手法

すべて無料の公開データのみで分析している。

データ 出典 用途
秋冬アパレル支出 総務省「家計調査」品目分類 四半期(0003348233 第1・3弾
月別平均気温 気象庁 第1弾
検索トレンド Google Trends(pytrends) 第1弾
消費支出構成比 総務省「家計調査」用途分類 月次(0002070001 第2・3弾
教養娯楽品目別 同品目分類(0003348233 第3弾

同じ設計は食品・住宅・観光・自動車など他業界にも転用できる。

「なぜ売れないのか」を通説で説明するのは簡単だ。しかし今回の3つの分析が示したように、データを掘り進めると、原因はしばしば最初に想定した場所には存在しない。


シリーズ: 公開データだけで市場の通説を検証する

第1弾: 「暑すぎて秋物が売れない」は本当か? 気温・検索・購買データで17年を検証した
第2弾: 「暑すぎて秋物が売れない」を検証したら、犯人は気温ではなく家計だった
第3弾: 「節約している」は本当か? 家計調査17年分で見えた削られる消費、守られる消費

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