7倍壁時代の柱脚めり込み検討を、HTML1枚×根拠の連鎖で通すための計算ツールを作りました
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この記事で言いたい結論(先に)
- 審査で本当に詰まるのは「めり込み式」ではなく「長期軸力(LN)の出処」です。
- 「多め多め」で通すと、過剰設計→コスト増になりやすい(物価高の今、ダメージが大きい)。
- だから今回は、“合理的に説明できる範囲で”根拠をつなげて、
「審査が進む」「現場が過剰仕様になりにくい」 形に寄せたHTMLツールを作りました。 - さらに、過去に自作した 柱の負担面積(DXF)ツールをLN根拠側に流用でき、一本の線でつながります。
- 既存ツール:柱負担面積解析(DXF)
https://qiita.com/architectJapan/items/ee437f6a3cd0ac99a1d4
- 既存ツール:柱負担面積解析(DXF)
背景:2025年改正で「審査が図書を見る」世界になった
2025年4月施行の「4号特例見直し(新2号・新3号)」で、従来“省略されがちだった領域”が見直され、確認申請の審査対象・提出図書が拡大しました。
- 公式の制度説明(国交省資料):
https://www.mlit.go.jp/common/001744375.pdf - 制度説明資料(改正背景・要点):
https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf
これにより現場で起きたことは単純で、
「これまで黙認されていた“入力値の根拠不足”が、普通に指摘される」 ようになりました。
7倍壁時代の“めり込み”が、なぜ炎上しやすいか
壁倍率が大きい(例:7.0超)耐力壁は、壁端部柱脚に圧縮力が集中しやすく、
土台の繊維直交圧縮(めり込み) が支配的になりがちです。
そして、ここで登場するのが「HTML1枚で計算できるめり込みツール」ですが――
問題:HTMLツールが“ブラックボックスLN”を生む
めり込みの式(右辺)が合っていても、審査で聞かれるのは結局これです。
「この柱の LN(長期軸力)はどこから来ましたか?」
つまり、
計算の自動化が進むほど「入力値(LN)の正当性」が狙われる構図になります。
さらに現場では、ありがちな“事故”が起きます。
- 引抜き(N値)側では「軽い方が危険」→ LNを小さく見たくなる
- めり込み側では「重い方が危険」→ LNを大きく見たくなる
- 結果:同じ柱でLNが二重基準になり、整合性で詰む
ここが、審査のチェックメイトポイントです。
そこで今回:LN根拠を“提出できる形”でつなぐツールにした
今回作った merikomi_calc.html は、めり込み判定そのものだけでなく、
LNを合理的に説明できる範囲で作る導線を内蔵しました。
目指したのは「根拠の連鎖」
- 負担面積(A):DXF柱負担面積ツールで算定(既存Qiita記事のソフト)
- 上部構造荷重(w):根拠のある表(指針等)から選ぶ(ツール内で選択肢化)
-
LN算定:
LN = A × wを明示(単位つき) - めり込み検討:LNをそのまま使う(転記ミス防止)
- 提出:印刷(PDF保存)で「柱めり込み検討書」を出す
LNの作り方(最小で“審査に耐える”形)
1) 基本式(ツール内の計算)
- 負担面積:
A (m²) - 上部構造荷重:
w (kN/m²) - 長期軸力:
LN = A × w (kN)
ツールでは、
Aとwを入れるとLNを自動計算し、計算書に根拠として残せます。
2) w(kN/m²)の扱い:P=1.3 を足した実務形
本ツールでは、上部構造荷重 w を「P=1.3(柱・基礎計算用)加算済」の選択肢として持たせています。
(この整理は、実務の“迷いポイント”を潰すためです)
- 5.3(=4.0+P1.3):一般地域の平屋
- 8.3(=7.0+P1.3):一般地域の2階建/多雪区域(積雪100cm)の平屋
- 11.3(=10.0+P1.3):一般地域の3階建/多雪区域の2階建
- 13.8(=12.5+P1.3):多雪区域の3階建
出典として、上部構造荷重の考え方は「小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)」等に基づく整理です(詳細は同梱 manual.html にまとめています)。
よくある論点:「1階床の重さ」は1階柱脚LNに入る?
ここ、現場で一番“多め多め”が発動しやすいところです。
-
一般的な荷重経路の整理としては、
1階床の自重・積載は、床梁→土台→基礎に流れるため、
「1階柱脚の軸力LN」に“機械的に足す”とは限りません。 -
ただし、納まり・梁受け・荷重の集約条件によっては、
柱が梁反力を受ける(=柱軸力に乗る) ケースもあり得ます。 -
✅ 「荷重経路として、柱に乗る鉛直荷重のみをLNに採用する」
-
✅ 「柱に乗る/乗らないが曖昧な部分は、納まり図・梁受け条件で説明する」
-
✅ 「“多め多め”ではなく、説明できる範囲で合理化する」
ここを整理すると、過剰設計を減らしつつ、審査にも説明が通りやすくなります。
ツールの中身(merikomi_calc.html)— できること
✅ 入力(共通条件)
- 物件名(計算書に出力)
- 階数(見出し出力用)
- 柱・土台断面(mm)
- 欠損(ほぞ穴相当:幅×深さ mm)
- 土台材(樹種グループ)
- Fcv(N/mm²)
- 許容めり込み応力度 係数(短期/長期/任意)
✅ ケース入力(最大5ケース)
- 壁倍率
r - 壁長さ
L(m)(モジュール一括設定あり:1.00 / 0.91) - 柱位置係数
B(出隅/中柱/任意) - 階高さ
H(m) - 長期軸力
LN(kN)(直接入力 or A×wで算定) - 負担面積
A(m²)と上部構造荷重w(kN/m²)→ LN自動計算
✅ 出力・運用
- 印刷(PDF保存):右側の「柱めり込み検討書」だけを印刷
- 保存(JSON)/ 読込(JSON):案件ごとに履歴化
- オフライン前提(入力値を外部送信しない)
計算の骨格(ツール内に明示)
- 壁由来せん断力(短期):
Q = 1.96 × r × L (kN) - 軸力成分:
N = Q × B × H (kN) - 合成:
S_N = N + L_N (kN) - めり込み応力度:
σ = (S_N × 1000) / A_e (N/mm²) - 許容:
σ_allow = 係数 × Fcv
「1.96(kN/m)」の扱いは、国交省資料(壁量基準見直し関連)で整理されている考え方に寄せています。
- 国交省資料(壁量基準見直し関連):
https://www.mlit.go.jp/common/001746202.pdf
“人材不足×工数増”の時代に、なぜ「部分自動化」が効くのか
正直、理想は「全棟、一貫ソフトで許容応力度計算」です。
でも現実には、
- 法改正後、確認申請で見られる範囲が増え、設計・審査の工数が増大しやすい
- 作業難易度・工数が大きい領域(構造)に、常に十分なリソースを割ける会社ばかりではない
- その中で「多め多め」で逃げると、過剰設計→コスト増になりやすい
という“詰み構造”が出ます。
だから私は、説明できる範囲で合理化し、審査が進む形に整えるためにこのツールを作りました。
提出セット(審査の追加質問を潰す最小構成)
- 柱めり込み検討書(PDF):本ツール出力
-
LN根拠資料:負担面積図+
A×wの算定表(最小でOK) -
整合性メモ:
「本検討で用いたLNは、引抜き検討(N値)と同一モデルに基づく」
(“二重基準”疑いを先回りで潰す)
注意:このツールが「やらない」こと(重要)
-
鋼板(座金・プレート)の曲げ検討は、本ツールの主目的ではありません
→ 必要なら別途、鋼板曲げの検討を添付してください - 本ツールは、構造計算全体の代替ではなく、
「柱脚めり込み」+「LN根拠の連鎖」を提出できる形にするための実務ツールです - 最終判断・適用は設計者責任でお願いします
参考資料(URL / 公表・更新日 / 用途)
-
国交省:4号特例見直し(新2号・新3号)制度説明(PDF)
https://www.mlit.go.jp/common/001744375.pdf
用途:制度変更の一次情報(審査対象・図書の増え方) -
国交省:制度説明資料(令和6年9月版)
https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf
用途:改正の背景・要点整理 -
国交省:壁量基準見直し関連(1.96kN/m 等の整理)
https://www.mlit.go.jp/common/001746202.pdf
用途:1.96の扱い・壁量整理の根拠寄せ -
既存Qiita(柱負担面積解析:DXF)
https://qiita.com/architectJapan/items/ee437f6a3cd0ac99a1d4
用途:A(負担面積)の根拠 -
構造システム(House-ST1)サポート(めり込み関連)
https://support.kozo.co.jp/
用途:審査トレンドが機能追加に反映される(間接証拠として)
最後に
「多め多め」で通す時代は、コスト的にもしんどい。
だからこそ、“合理的に説明できる範囲で”根拠をつなぎ、審査が進む形にする。
この一点に振り切って、HTML1枚に落としました。
必要な人に刺されば嬉しいです。
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