※本記事は4回に分けて投稿する連載記事の2本目です。
第1回:https://qiita.com/akio_asano/items/839a68214274ee6d3617
第2回:https://qiita.com/akio_asano/items/a8709a98af9752775a79 ※本記事
第1回では、空き家と少子化という一見無関係な課題が、実は「循環の断絶」という同じ構造から発生していることを見ました。
今回は、その断絶をどうすれば「循環」に設計し直せるのか。
社会を一つのシステムとして再構築する、設計の視点から考えます。
1. 直列構造から循環構造へ
社会課題を「原因→対策→成果」という直列構造で扱う限り、断絶は常に“片方だけの修正”として現れます。
しかし循環構造では、行動・関係・成果が互いを更新し合うように設計します。
・直列構造:入力を処理して結果を出す(一方向)
・循環構造:処理の結果が次の入力として戻る(双方向)
この考え方は、コンピュータのイベントループやフィードバック制御と似ています。
社会の中で発生する行動や支援を、“再入力されるデータ”として設計するのです。
2. 社会を「同期システム」として見る
循環設計の第一歩は、「社会の同期単位」を定義することです。
行政なら部門単位、企業なら部署単位、地域なら世帯単位。
それぞれが独立スレッドのように動いていると仮定します。
問題は、それぞれのスレッドが異なるクロックで動いていること。
情報の更新周期、予算サイクル、ライフサイクルが噛み合わないために、本来つながるはずの流れがズレてしまうのです。
同期がずれたシステムでは、どんな正しい計算も結果が合わない。
社会でも同じで、構造の正確さより、周期の同期が先に必要なのです。
3. ご近所OSのアーキテクチャ ― 層で設計する
ここで登場するのが「ご近所OS」のアーキテクチャです。
この構想は、社会の各スレッドを層構造で同期させる設計思想に基づいています。
| 層 | 役割 | 主担当 |
|---|---|---|
| ハード層 | 空き家再生・住宅整備 | 都市計画課 |
| ソフト層 | 家族支援・子育て支援 | 少子化対策課 |
| OS層 | データ・関係・制度の同期 | ご近所OS構想(提案層) |
この三層構造により、“家を直す”ことと“人を支える”ことが同一循環上の処理として動きます。
結果、両部門のKPIが自然に同期し、行政全体が「一つのシステムとして回る」状態を作り出せます。
4. 同期の鍵は「データ」ではなく「関係」
ITの世界では、同期といえばタイムスタンプやデータベースが思い浮かびます。
しかし社会構造では、同期の単位は関係性です。
- 住まいを整備する → 新しい人の流れが生まれる
- 家族を支援する → 地域の関係が再接続される
データではなく、「人と人がつながる瞬間」に循環が生じる。
この“関係の同期”を支えるために、行政の制度・民間の仕組み・地域のネットワークをAPI的に接続する。
それが「ご近所OS」の根幹設計です。
5. 循環設計の原則
循環設計には、次の三原則があります。
-
非直列化(Decoupling)
- 各部門を完全分離ではなく、疎結合にして相互更新を可能にする。
-
再帰的更新(Recursion)
- 成果が次の入力となる仕組みを設計段階で組み込む。
-
周期同期(Synchronization)
- 部門・家庭・地域それぞれの活動周期を合わせる。
この3点を守るだけで、行政・企業・地域どの層でも“循環するシステム”が生まれます。
6. 次回予告:「矛盾を動力に変える」
次回は、「循環の設計」をさらに進めて、矛盾そのものをエネルギー源に変える社会エンジンとしての仕組みを解説します。
「循環を設計した」第2回。
次回は「矛盾を動力に変える」第3回です。
矛盾を排除するのではなく、動かす力にする――
ご近所OS構想の心臓部を解き明かします。