先日、OpenAIが 「What makes a great ChatGPT app(素晴らしいChatGPTアプリの条件)」 という非常に示唆に富んだ記事を公開しました。
正直に言うと、最初は「これは ChatGPT アプリ開発者向けの記事かな?」 という軽い気持ちで読み始めました。
ところが読み進めていくうちに、これは単なるアプリ開発Tipsの技術記事ではなく、AI時代における業務ツールの設計思想そのものを言語化した記事だと感じました。
特に、日々デジタル広告の分析・運用に関わっている立場から見ると、
- どこまでを人が考えるべきか
- どこからをAIに委ねるべきか
- 「便利なだけ」で終わらないAIツールとは何か
を考えるためのヒントが、かなり具体的に詰まっています。
以下は、この記事を読んだあとに自分用のメモとして整理しつつ、広告業務にどう結びつきそうかを考えた記録です。
*今後、実装編も書けたらいいなと思っています。
1. OpenAIの記事の要点まとめ
ChatGPTアプリ開発というと、
「今ある管理画面をそのままチャット画面に置き換えるだけ」
「これまでのレポートを文章で返せるようにするだけ」
...そんなイメージを思い浮かべてしまいがちではないでしょうか。
しかし、OpenAIの記事は、その発想自体がズレているとはっきり指摘しています。
重要なのは機能移植ではなく、
ChatGPTという「会話の文脈」の中で、どんな価値を提供できるか
という視点です。
1-1. ChatGPTアプリの本質
「製品の移植」ではなく「能力(Capability)の提供」
ユーザーは「あなたのアプリを起動しに来る」わけではありません。
ChatGPTとの会話の途中で、必要に応じて呼び出される存在です。
つまり、ChatGPTアプリは目的地(Destination)ではなく、必要なときに使われる能力(Capability) であるべき、という考え方です。
OpenAIの記事では次のように定義されています。
ChatGPTアプリとは、タスクを実行したり、
データにアクセスしたりできる、明確に定義されたツールセットである
広告業務に置き換えて考えると、「何でもできる巨大なダッシュボード」を用意することよりも、「今のCPAを知る」「次に試すコピー案を出す」といった、目的がはっきりした単機能のほうがしっくりきます。
鋭く切り出された機能のほうが、AIにとっても、人にとっても扱いやすい!そんな示唆だと感じました。
1-2. 価値提供の3要素:Know / Do / Show
OpenAIは、優れたChatGPTアプリが提供する価値を次の3つに整理しています。
-
Know(知る): ChatGPTが単体ではアクセスできない新しいコンテキストやデータを提供すること。例えば:
- リアルタイムの広告配信状況
- 社内のBIツールが持つ指標
- ユーザー個人のアカウントに紐づく過去のパフォーマンスデータ など
→ アプリがモデルの「目や耳」となり、より正確で権威ある情報を提供します。
-
Do(実行する): ユーザーに代わって、外部システムで具体的なアクションを実行すること。例えば:
- 分析結果に基づいて特定の広告クリエイティブを停止
- 予算変更の申請チケットを作成
- 特定のワークフローをトリガー
→ アプリがモデルの「手足」となり、会話から生まれたインサイトを具体的な行動に繋げます。
-
Show(見せる): 情報を単なるテキストの羅列ではなく、より分かりやすく、実用的なUIで提示すること。例えば:
- 複数のキャンペーン成果を比較する表(テーブル)
- パフォーマンスの推移を示す時系列グラフ
- クリエイティブごとの評価をまとめたリスト など
→ ユーザーはより迅速な意思決定が可能になります。
優れたアプリは、この3つのうち、少なくとも1つで明確な価値を出している、とされています。
1-3. 設計原則
-
Job to be Done から考える
機能リストから考えるのではなく、ユーザーが本当に達成したいことは何かから逆算します。
「広告レポートを作る」のではなく、「どのクリエイティブが最も成果に貢献したかを特定し、次のアクションに繋げたい」といった本質的なタスクから考えることが重要です。
-
会話前提の設計
ユーザーの意図は常に明確とは限りません。「キャンペーンの調子どう?」といった曖昧な問いにも、「AキャンペーンのCPAをBキャンペーンと比較して」という具体的な問いにも対応できる柔軟性が必要です。
また、ユーザーがあなたのアプリを知らない前提で、自己紹介と価値提供を同時に行う設計が求められます。
-
モデルのための設計
人間だけでなく、AIモデルにとっても分かりやすい設計を心がける必要があります。
アクション名(例:get_campaign_performance)やパラメータを明確に定義し、構造化されたデータを入出力することで、モデルはあなたのアプリをより正確に、適切なタイミングで呼び出せるようになります。
-
エコシステムのための設計
あなたのアプリは、他の無数のアプリと連携して使われる可能性があります。
そのため、アクションを小さく保ち、出力を他のアプリが再利用しやすい形式(例:安定したIDや明確なフィールド名を持つJSON)にすることで、エコシステム全体の中で価値を発揮しやすくなります。
これらの基本原則は、単なる技術的なベストプラクティスではありません。日々の広告業務のあり方そのものを見直し、場合によっては大きく変えてしまうほどの、実践的な思想でもあると感じています。
2. ブログをヒントに考えてみた業務活用案
ここからは、上記整理した良いChatGPTアプリの設計原則を踏まえつつ、まだ実装には至っていないものの、業務にうまくハマりそうだと感じているアイデアを、メモ書きとして整理してみます。
案1:指定商品の最新価格を横断比較するAIアシスタント
想定する業務シーン
- EC商材の広告運用前に競合価格帯を把握したい
- セール中に競合が価格変更したか即知りたい
- インフルエンサー施策で紹介価格が市場とズレていないか確認したい
これらの業務では、手動での巡回が必要だったり、Bot対策によってスクレイピングが難しかったり、動的描画のためにHTMLを取得できなかったりといった制約があり、結果として人力作業に頼らざるを得ないケースが多くなりがちです。
考案したアプリの能力
指定した商品について、複数ECサイトの最新価格を取得し、比較表示する
例:ユーザーは、ChatGPTにこう聞くだけ: iPhone 15 Pro 256GB を Amazon / 楽天 / Yahoo で比較して
- Know:Bright Data MCPによる価格取得
Bright Data MCPとは?
Bright Data MCPでは、Google、LinkedIn、Amazon、Instagram、X、TikTokなどに対応した豊富なツール群が用意されており、AIから外部ツールを安全かつ柔軟に呼び出せるようになります。
これにより、これまで人手に頼らざるを得なかった作業も、実用的な形で自動化が可能になります。具体的には、次のような操作が行えます。
- 検索エンジンのSERP(検索結果ページ)の取得
- URL移動、クリック、フォーム入力などのブラウザ操作
- Webページ本文のテキスト抽出
- Amazon、Instagram、LinkedInなど主要プラットフォーム向けの構造化データAPIの利用 など
- Show:比較しやすく整形
| サイト | 価格 | 送料 | 備考 |
|------|------|------|------|
| Amazon | ¥159,800 | 込 | 在庫あり |
| 楽天 | ¥162,000 | 込 | ポイント還元あり |
| Yahoo | ¥158,500 | 別 | 残りわずか |
価格情報が比較可能な構造に整理されることで、広告担当者の思考が「分析」から「企画」に一気にジャンプできるようになります。
案2:インフルエンサー投稿を横断分析するAIアシスタント
想定する業務シーン
- 投稿は多いが、どこが刺さったか分からない
- 良い表現を人が目視で探している
- 広告転用までに時間がかかる
考案したアプリの能力
指定ブランドに関するSNS投稿を収集し、反応が良い表現を要約・抽出する
例:ユーザーは、ChatGPTに質問: 「〇〇ブランドについて、直近1ヶ月で反応が良かった投稿の特徴をまとめて」
-
Know:Bright Data MCP × SNSスクレイピング
- Instagram / TikTok / X 投稿取得
- ハッシュタグ検索
- いいね数・コメント数
→ 複数の公式APIを個別に使い分けるよりも、Bright Data MCPを使えば、複数媒体に散らばった投稿の「生の表現」をまとめて一気に取得できるのが大きな利点です。
-
Show:広告向き表現へ再構成
- 投稿をクラスタリング
- 共通フレーズ抽出
- 広告コピー向きに言い換え
例:
- 「意外と〇〇だった」
- 「正直期待してなかったけど」
- 「△△な人に刺さる」
を、要点リスト+短文サンプルとして提示。
こうすると、役割分担は明確ですね。AIは集めて、まとめて、言語化します。人は使うかどうかを判断します。
案3:広告パフォーマンス異常の原因候補を整理するAIアシスタント
想定する業務シーン
- 数値が急に悪化したが、理由が分からない
- 媒体・オーディエンス・外部要因を横断して見たい
- 仮説はあるが、確証が持てない
- 「で、何が起きてるの?」と聞かれる
原因が一つとは限らないのに、全部を一気に見に行く手段がない。
考案したアプリの能力
広告パフォーマンス異常時に、考えられる原因候補を横断的に洗い出す
例:ユーザーは、ChatGPTに質問: このキャンペーン、先週からCPAが悪化している理由を整理して
-
Know:AdCPで広告領域のデータ・文脈・アクションをAI向けに標準化するプロトコル。
媒体横断パフォーマンス、オーディエンス反応、期間比較、外部シグナルなどを、「同じ広告文脈」としてまとめて渡せる。 -
Show:原因候補を仮説リストで提示
ChatGPTの推論力を活用して数値の変化を検知し、影響がありそうな要因を洗い出したうえで、仮説として言語化します。例えば、- CTR低下(特定オーディエンスで反応が鈍っている可能性)
- 外部需要の低下(検索トレンド減少)
- 競合出稿が増えている可能性
- クリエイティブの疲弊
単に要因を並べるだけでなく、「次に何を確認すべきか」まで含めて返すイメージです。
まとめ
OpenAIの記事を読んで強く感じたのは、ChatGPTアプリは業務そのものを置き換える存在ではなく、思考のボトルネックを外すための能力の集合体だという点です。
広告業務は、本質的に情報収集 → 仮説立案 → 判断というプロセスの繰り返しで成り立っています。だからこそ、その流れの中でKnow / Do / ShowのどこをAIに任せるのか を意識するだけで、アプリの設計も、業務の設計も、驚くほど整理されていくように感じています。
