背景と目的
一般的な地図は、"地"の対象を物理空間としている。
"地"の対象を色々変えたものを整理してみる。
1. 社会の地図
マズローの欲求段階説と対比し、下の段階から考えてみる。
下図は、STUDY HACKER:マズローの欲求5段階説とは?より
1.1. 生理的欲求
"生理的欲求"は、基本的な欲求(食、睡眠、排泄、空気)である。
物質的で、身体的な欲求になる。
必要な食べるものを調達するための地図。
寝るための地図。排泄のための地図。空気のための地図が求められる。
グーグルマップなどでは、これらの提供している機能ごとに探すことができる。
オフィスやホテルでは、トイレ、外へのアクセスの位置が必ず明記される。
1.2. 安全の欲求
"安全の欲求"は、外界と自身の関係の欲求である。
安全な食、安全な睡眠、安全な空気、安全な身体、安全な関係が求められる。
日本の場合、日本国憲法 第25条で明記される内容となる。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
"法令検索:日本国憲法"より
"健康で文化的な最低限度の生活"を衣食住の切り口で、地図と接続してみる。
制度で規定できるのは、既存にある悪いものである。
a 衣
"衣(ころも)"は身体の外側にまとう膜ともいえる。
また、身体に触れるものでもある。
基本的な法律として、"家庭用品品質表示法"や"消費生活用製品安全法"がある。
子ども服の規格に"JIS L4129(子ども用衣料の安全性)"がある。
幼児や小学生ぐらいまでの衣服という独自の規格である。
これらはマップや図にはなりにくい。
用途に応じた危険があり、その回避するための基準が明記される。
b 食
日本では、安全な食品について、"内閣府:食品安全情報マップ"がある。
消費側の取り入れてはいけないもの、
生産側の含めてはいけないものや明記するものを示す。
だだ、明確なマップや図にはなっていない。
c 住
人の周りに、家具があり、建物があり、土地がある。
L0:自身
L1:直接ふれるもの(衣服、空気)
L2:直接支えるもの(家具、建具)
L3:間接的に支えるもの-1(建物)
L4:間接的に支えるもの-2(土地)
L5:間接的に支えるもの-3(土地の構造)
L1:直接ふれるもの(衣服、空気など)
多くは、"衣"や"食"に含まれている。
全てのものが、安全であることが求められる。
食べるときは、食器、鍋など、料理。
寝るときは、布団やシーツ、枕。
お風呂では、水、浴槽、シャンプーなどの洗剤。
L2:直接支えるもの(家具、建具)
直接ふれるものもあるが、椅子、机、ベッド、床、壁など。
安全という面では、
人の力で壊れない、ケガをしないという対人の観点と、
他の家具や建物を損害を与えないという観点がある。
例えば、人にはやさしいが、他の家具には害があるもの。
(他の家具が変形したり、傷がついたりするもの。)
L3:間接的に支えるもの-1(建物)
建築家が考えるのは、L3がメイン領域で、L2とL4がサブ領域だろう。
L3の建物をL4の変化に対して、安全に対応できるようにする。
例えば、雨、風、雪、台風、日光、音、揺れ、ゆがみなど。
ここで"建築基準法"が登場する。
L4:間接的に支えるもの-2(土地)
土地が安全かを判断するために"ハザードマップ"がある。
縮尺を大きくすると、日本列島は太平洋プレートの上に乗っている。
太平洋プレートは地球上にあり、地球は太陽系の中にある。
戦争では、土地というレイヤーの安全が欠けてしまう。
人災は、戦争、公害(音、振動がうるさい。空気、水、土が汚れる)などがある。
天災は、地震、津波、集中豪雨、土砂災害の4パターンが大きなものとなる。
ある程度の天災に耐えられる土地を選ぶことが求められる。
1.3. 社会的欲求
"社会的欲求"は、自身と組織や家族などとの所属したいという欲求になる。
観点 | 充足手段 | 内容 | 象徴・制度 |
---|---|---|---|
身体的接触 | スキンシップ・共同作業 | 触れる・並ぶ・支える | 介護・育児・スポーツ・祭り |
境界的接触 | 他者との違いを知る | 異文化・他者性・摩擦 | 国境・言語・宗教・服装 |
空間的共有 | 同じ場所にいる | 同席・同居・同窓・同郷 | 家族・地域・学校・職場 |
言語的交流 | 会話・手紙・SNS | 話す・聞く・書く・読む | 教育・メディア・詩・対話 |
感情的共鳴 | 共感・慰め・喜びの共有 | 「わかる」「泣ける」「嬉しい」 | 友人・恋人・カウンセリング |
周期的再会 | 定期的な接触・儀礼 | 季節・記念日・巡礼 | 同窓会・祭り・年賀状 |
制度的所属 | 組織・役割・肩書き | 所属・役割・責任 | 学籍・社員証・住民票・宗教 |
記憶的継承 | 伝承・儀礼・祭り | 過去を共有する | 年中行事・家系・地域史 |
象徴的表現 | 衣服・言葉・振る舞い | 「らしさ」「スタイル」 | 制服・方言・ジェスチャー |
社会的欲求を整理してみると、3つの分類に分けられると仮定する。
01 接触と空間
02 交流と時間
03 集団と関係
現在の社会制度では、この欲求領域を満たすための術が少なくなっている。
"認知症予防のための10か条"の中に答えに近いものが含まれている。
「認知症予防のための10か条」:認知症予防財団
01 塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を
02 適度に運動を行い足腰を丈夫に
03 深酒とタバコはやめて規則正しい生活を
04 生活習慣病(高血圧・肥満など)の予防・早期発見・治療を
05 転倒に気を付けよう 頭の打撲は認知症招く
06 興味と好奇心を持つように
07 考えをまとめて表現する習慣を
08 こまやかな気配りをしたよい付き合いを
09 いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに
10 くよくよしないで明るい気分で生活を
認知症を進行させない!認知症ケアより
06~09は、社会的欲求の最低レベルを言いかえたものといえる。
他の項目は、06~09を行う条件を満たすため、その期間を長くするための項目ともいえる。
"社会的欲求"は、
個々が"社会と接地"しているかが満たされるかだろう。
2. 個人の地図
2.1. 承認欲求
承認欲求は、他者からの評価・尊重・自己価値の確認を求める欲求になる。
"承認"という言葉は難しい。
承認とは?
しょう‐にん【承認】[名](スル)
1 そのことが正当または事実であると認めること。「相手の所有権を承認する」
2 よしとして、認め許すこと。聞き入れること。「知事の承認を得て認可される」
3 国家・政府・交戦団体などの国際法上の地位を認めること。「国連に承認された国」
コトバンク:承認より
英語で承認の言いかえをしてみる。
日本語 | 英語 |
---|---|
認可、賛成 | approval |
公認、認定 | authorization |
認定、認証 | certification |
証明 | validation |
賞賛、賛美 | praise |
賞賛、称賛 | acclaim |
感謝 | appreciation |
受け入れ | acceptance |
包括、包摂 | inclusion |
了承、同意 | acknowledgment |
肯定 | affirmation |
認識 | recognition |
信用 | credit |
尊敬 | respect |
寛容 | tolerance |
広い意味としては、
存在や行為が世界から受け入れられる、認められること。といえる。
承認の分類
観点 | 承認の手段 | 内容 | 象徴・制度 |
---|---|---|---|
身体的承認 | 視線・接触・並ぶこと | 見られる・触れられる・共にいる | 握手・ハグ・並列行動・服装選択 |
境界的承認 | 他者との違いの尊重 | 「あなたはあなた」「違っていい」 | 異文化理解・ジェンダー表現・服装自由 |
空間的承認 | 同席・招待・居場所の共有 | 「ここにいていい」「呼ばれる」 | 会議・祭り・住居・席順・招待状 |
創造的承認 | 表現・制作・発信 | 「あなたにしかできない」 | 芸術・文章・設計・発明・詩作 |
感情的承認 | 共感・賞賛・感謝 | 「わかる」「すごい」「ありがとう」 | SNSのいいね・拍手・手紙・会話 |
周期的承認 | 定期的な再会・儀礼 | 「また会えた」「毎年祝う」 | 誕生日・記念日・年中行事・巡礼 |
制度的承認 | 資格・肩書・役職 | 所属・能力・役割の認定 | 学歴・免許・職位・表彰制度 |
記憶的承認 | 過去の共有・語り継ぎ | 「あの時のあなた」「忘れない」 | 写真・年賀状・卒業アルバム・祭り |
象徴的承認 | 衣服・言葉・表情・贈り物 | 「らしさ」の尊重・表現の許可 | 制服・詩・贈答・スタイルの肯定 |
承認欲求とは、
自身が"自身であることと接地"しているかが満たされているかどうかだろう。
承認と自立
承認には2つの方向がある。
a 他者から自身への承認(外的、身体的)
b 自己から自己への承認(内的、精神的)
生まれたころは、他者からの承認がほぼすべてとなっていて、徐々に自己を形成していく。
自己からの承認の比率が半数を超えたときに、自立ができるようになったと言える。
マズローの欲求段階説の5段目の自己実現欲求がある人は、Level2以上の人になる。
自立していないと"接地した自己"を実現ができないからである。
2.2. 自己実現欲求
"自己実現欲求"は、自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたい欲求となる。行為や行動自体で欲求をみたすことができる状態になる。
観点 | 充足のかたち | 具体例・象徴 |
---|---|---|
創造 | 自分だけの表現を生む | 詩・絵・設計・発明・料理 |
探究 | 知の深みを掘り下げる | 哲学・科学・歴史・構造化 |
貢献 | 他者や社会に還元する | 教育・介護・制度設計・祭り |
成長 | 自己の限界を超える | 修行・旅・挑戦・変容 |
統合 | 自己と世界をつなぐ | 縁・境界・周期・記憶の再構成 |
3. 関係の地図
集団(社会)と個人の要求と応答を関係図にした。
集団の要求は、社会の挑戦であり、過去の整理"挑戦と応答の条件"を参照。
スキルの発揮は、過去の整理"スキル(技能/能力)マップの整理"を参照。
集団からの要求と個人の要求を統合し、状況に合わせて対応を決めていく。
スキルの発揮は、集団全体で考えても個人で考えてもよい。
応答により、いくらかは充足していく。
情報が多くなり多様性は増えていく、要求の種類は多くなっていくだろう。
9. リンク
Qiita
【時間を考える②】社会と周期
スキル(技能/能力)マップの整理
URL
wikipedia:マズローの欲求段階説
STUDY HACKER:マズローの欲求5段階説とは?
wikipedia:日本国憲法第25条
カケンテストセンター:JIS L4129(子ども用衣料の安全性)
ウェザーニューズ:服装予想
wikipedia:ハザードマップ
wikipedia:プレートテクトニクス
wikipedia:フレデリック・ハーズバーグ
コトバンク:承認
法令・官公
国土地理院:古地図コレクション
法令検索:日本国憲法
消費者庁:家庭用品品質表示法
経済産業省:消費生活用製品安全法
内閣府:食品安全情報マップ
ハザードマップポータルサイト
気象庁:防災情報
法令検索:建築基準法
内閣府:災害の基礎知識
地震の基礎知識 -大規模地震発生のしくみ-
総務省:「公害」とは?
国立精神・神経医療研究センター:認知症を進行させない!認知症ケア
論文
山本 潤(2023).行為・動作機構,空間認知機構からみた着衣障害.神経心理学,39巻,2023 2号.
今村 律子, 北又 寿美, 赤松 純子(2008)..衣生活における「安全・安心」の概念と具体化の視点.日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集/第51回大会.
羽岡 邦男(2004).労働者のメンタルヘルスに関する一考察-ピーター・ウォールの理論を中心に-.政治学研究論集,巻20,2004-09-30.
ローター・ヴィガー,藤井 佳世,野平 慎二,池田 全之,山名 淳(通訳).承認と人間形成.Forum on Modern Education,No21,2012.
書籍
ローター・ヴィガー,藤井 佳世,野平 慎二,池田 全之,山名 淳(通訳)(2014).人間形成と承認: 教育哲学の新たな展開.北大路書房.
橋本 努(2024).「人生の地図」のつくり方 ――悔いなく賢く生きるための38の方法.筑摩書房.
変更履歴
2025/09/21 新規作成
2025/09/21 2.1./2.2.追記
2025/09/23 3.追記