◾️はじめに
先日(8/22)IBMの新製品 watsonx BI が IBM Cloud で一般提供を開始されました。
・GA記事(製品ブログ)
・公式サイト
実はオンプレ利用なども可能なIBM Software Hubでは25年6月に既に出ていたのですが、なかなか手を出しづらく指をくわえて見ていました(笑)
少し名前は変わってますが、去年から紹介を続けてきた人間としては感慨深いです🎉
今回IBM Cloudで使えるようになったとともに、無料トライアルも使えるようになったので、少し触ってみたので簡単に紹介しようと思います。
◾️IBM watsonx BI とは
製品概要を一言で表すと 生成AIを活用した BIツール(Business Intelligence)です。
チャット形式でAIと対話しながら、複雑なデータを直感的に分析、ビジネスの意思決定をサポートが可能になるわけです。特徴的なのは…
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自然言語でのデータ分析、可視化
自然言語での質問・応答が可能 + グラフやダッシュボードなどのデータの可視化を自動で生成する事によって、簡単に素早くデータから洞察が得られます。 -
データの意味づけ・社内用語との関連付け
また、自然言語でテーブルデータを扱うので、データの表や列の意味づけや、データ内で使われるビジネス用語などの関連付けをしなければならないのですが、これも一部自動化による補助機能により前処理の負担軽減になるわけです。こうした「セマンティック・オートメーション」はIBM watsonx.data intelligenceと連携しながら処理がなされているようです。
他にもあるようですが、watsonx BI登場の背景や、その他の特徴については以下を参照すると良いかと思います。
UI・機能の概要
1.チャット画面 (Conversation)
ここでデータについてAIと会話して、示唆を得たり可視化して指標を観察することができます。ログイン後、最初にこのページが開きます。
2.データと指標 (Data and Metrics)
分析に使うデータを準備する出発地点。ここでプロジェクトを作成し、売上や利益などの指標(メトリクス)を定義します。指標は意味づけされたデータモデルで管理され、関係づけや計算を加えて、会話型AIが理解しやすい形に整えられます。
3.メトリクス・カタログ (Metrics Catalog)
自分が作成した or 誰か(分析担当とか)が作成・共有したメトリクス(指標)の一覧を確認できます。また、それに関連するグラフなども見ることができ、気になるものを「チャット画面」にピン留めができます。
※以下参考リンク
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-user_interface
価格・プラン
25年11月現在では、「Premium(インスタンス費用+ユーザー利用料/10人)プラン」と「Cognosアドオンプラン」がある他、Premium 機能が 30 日間限定で体験できるTrialプランが無料で提供されています。※以下参照
2025年11月現在、まだ日本語対応されておりません。
◾️IBM watsonx BI をためすには?
当記事ではIBM Technology Zoneで環境を借りて、実際に触ってみたいと思います。※IBM id(登録無料)が必要です。
無料のTrialプランでも同様のことが可能です。Trialプランを使用する方はIBM Cloud のアカウントが必要なので、もし初見の方はこのあたりを参考に作成するとよいです。
また、IBCloud作成後はwatsonx BIへのアクセスまでについては、以下のクイックスタートガイドを参考にするとよいかと思います。
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-initializing_wxbi_nonadmin
watsonx BIにログインすると、すぐに利用できる2つのサンプルデータが用意されています。まずはこれらを使って、実際にAIとのチャットでデータ分析やグラフ作成を体験してみましょう。
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GoSales:架空のグローバル小売企業の3年分の売上データ(※以下詳細)
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-go_sales -
CustomerExperience:架空の携帯電話サービスプロバイダーの代表的なコールセンターデータ(※以下詳細)
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-cust_exp
AIとチャットしながらグラフを作成するには、データの「接続」「エンリッチメント(意味付け)」「メトリクス(指標)の作成」といった準備が必要ですが、これらのサンプルデータはすでにその前処理が完了しているため、ログイン後すぐにAIとのチャットでグラフを作り始めることができます。
今回は GoSales の方を使って色々操作していきたいと思います。
■ IBM watsonx BI で会話をしてみる
・チャット画面の概要
👇左上のメニューからConversationを選ぶと以下の様な画面が出てきます。入力ボックスに質問を入れると、内容に応じてデータを参照したり、グラフを作成したりしてくれます。
推奨質問候補も会話の流れに応じて出てくるので、とりあえず会話を初めて、AIとのやり取りの中でインサイトを得たい時には楽ですね!
また他のプロジェクトやメトリクスに切り替えたりと参照元データを変更可能なほか、ファイルをアップロード して質問できます。
※以下チャット画面(Conversation)機能の参考リンク
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-conv_overview
さて、早速サンプルデータを使って会話をしてみましょう。以下会話のガイドを参考にしてAIに質問をしてみたいと思います。
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-ask
①利用可能なデータについて聞いてみる
👇まずは使えるデータについて質問します。するとSales Metrics が使えると返ってきました。
※Sales MetricsはGoSalesのデータを前処理したもので、中身は [Data and metrics] → [GoSales_Semantic_Model] → [Advanced mode] から確認できます。
続いてSales Metrics について聞いてみましょう。質問例の候補から「虫刺され用のかゆみ止め製品は2021年に何個売れた?」を入力してみると、AIは 103,565 個と回答してくれました。
このやり取りから、watsonx BI が自然言語をどのように理解し、どんな仕組みで正しい値を返しているのか、特徴が見えてきます。
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ユーザーが社内データについて会話をするとき、同じ概念を指す言葉はいくつか存在する。(例えば「Product」は「Line」「Item」と言う人もいる。)これに対して、AIが実際に扱うデータは統一されている。
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ユーザーが「販売数の合計」と言っても、計算ルールが明確になっていないとハルシネーションのもとになる。こうしたビジネスの指標に対して、AIが一貫した数値を回答できる。(例:Total Units Sold=SUM("quantity") )
1.のような社内用語の関連性については ビジネス用語(Business terms) 。2.のようなビジネス指標については メトリクス(Metrics) で定義していく事で実現するのですが、それはまた別の記事に書きたいと思います。
因みに上の画像の様にShow AI stepsという部分を押すと、画面右側に、回答までの推論ステップが出てきます。
※回答生成までのプロセスについて
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-answering_questions
②グラフを生成してもらう
👇続いて Sales Metrics について「各年の計画収益と実績収益はいくらですか?」という質問を投げてみます。
今度はAIが「グラフが見やすい」と判断し折れ線グラフを作成してくれました。これを見ると一発で計画に沿ってに実績が進捗しているのが分かりますね!
また、AI Stepを見てみると ①回答に必要なデータを特定 ②SQLで必要な列を取出し、年毎にまとめて並び替え ③グラフにまとめる という、工程を踏んでいることが分かります。
このように、ただグラフを作るだけでなく、AIがデータ選定 → 整形 → 可視化という一連の流れを自律的に実行しており、ビジネスユーザーとしては「聞きたいこと」を自然言語で投げるだけで、意図したグラフが直で得られるという大きな利点があります。
②生成したグラフを加工する
👇最後に生成されたグラフに対して色々操作してみましょう。
グラフの右上のボタンをいじるとグラフの種類を変更したり、Key Metrics(画像の上の部分)に追加してダッシュボートの様に並べてみたりできるほか、View insightsを押すとAIがデータの特徴や傾向を要約した洞察をまとめてくれます。
Insightsを見ると計画が実績より4.15%高いことが分かりますね。こうしたグラフからわかりにくい具体的な数字を把握するのにとても役立ちます。
この様に可視化した後も、データの比較や深掘り、さらには結果の整理までスムーズに進められる点は大きな魅力ですよね。
こうした可視化の場面でありがちな「軸やラベルを整える」「カラー/フォントの使い方を工夫する」といったデザインについてもAIとの会話の中でカスタマイズが可能です。※以下詳細
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-visualizations
※サポートされているグラフの種類は以下から確認できます。
https://cloud.ibm.com/docs/watsonx-bi?topic=watsonx-bi-add_viz_metrics#supported_viz
■良かった点 と 気になる点
ひとしきり試してみたので、気づいた点をまとめていきたいと思います。
良かった点
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エンドユーザー視点では、前処理を意識しなくてよいのは圧倒的に楽
Conversation機能だけをメインで触る前提だと、普段ならデータのクリーニングや関連付けで頭を悩ませる部分が楽になります。その分、“インサイトを見つけること・施策につなげること”に集中できるのは大きなメリットです。 -
アウトプット作成までの手間が一気に減る
会話しながら自然にグラフや表が生成されるので、レポートに入れる素材づくりの時間も削減できます。 -
メトリクスやビジネス用語の定義で、チーム内の“解釈違い”が減る
数字の定義や用語の意味が統一されていると、誰が質問しても同じ答えが返ってくる。つまり、分析の再現性とチーム横断の連携がぐっと高まるわけです。
気になった点
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前処理が大変なのでは?
今回はサンプルデータを使ったため触れませんでしたが、データをセットする段階で自然言語で扱えるようにするための準備(データ関連付け・メタデータのエンリッチメント)をする必要はあるようです。ここに関してはエンドユーザーだけで何とかするのは難しいので、システム設計側で、ある程度用意する必要がありそうです。特に複雑なテーブルを扱う場合、ここの作業負担は大きいかと思います。 -
社内のビジネス用語やメトリクス設計の“質”が回答精度を左右する?
誤った定義や曖昧な関係付けをしてしまうと、AIもそのまま解釈してしまうため、回答の精度は“データガバナンスの成熟度”に依存すると感じました。 -
テーブル数の増大で応答速度や精度が変わる?
あくまでチャットボットの中身はGraniteやllama4などのLLMが動いています。扱うテーブルが多くなるとコンテキストウィンドウを圧迫して精度が落ちそうではあります。扱うメトリクスはチャット画面で切り替えられるので、ユーザー側の運用を考える必要もありそうだと感じました。
このあたりは今回あまり触れなかった Data and Metrics 周り(意味付けやメトリクス設計)が深く関わります。ここはかなり重要な領域なので、また改めて別記事で詳しく紹介したいと思います。
■ まとめ
今回watsonxBIを使ってみてBIツールもAIと共に操作する時代に入ったんだなと実感しました。自然言語で聞けば、必要なデータ選定から可視化までを一気通貫でやってくれる。これはとても魅力的ですが、通常のチャットボット以上にプロンプトの工夫だけではなく、LLMに渡す“コンテキスト(参照情報の全体設計)”をどう作るかがカギになると感じました。
その意味で、watsonxBIにおけるコンテキストエンジニアリングは、一般的なチャットボットのそれよりも複雑です。単に辞書を整えるだけでなく、ビジネス用語(Business Terms)の定義・分類・関連付けや、メトリクス(指標)の計算ロジックまで含めて“意味づけ”を行い、AIが誤解しない土台を作る必要があるからです。
そういった意味でこれからは、よりデータを把握し、分析の土台を設計できるような力が必要になってくるなと感じました。
■ 参考情報
・GA記事(製品ブログ)
・公式サイト
・IBM Cloud ドキュメント
・IBM Software Hub ドキュメント







