どうもこんにちは、Tadash です。ここまで IBM Bob(Bob Shell) の話を続けてきました。モードだの承認だのセッション記録だの、けっこう細かいところまで踏み込んできたのですが、今日はいったんぐっと引いて、そもそも論をやります。
「AI エージェント」という言葉、よく聞くようになりました。でも、いざ「チャットの AI と何が違うの?」と訊かれると、意外と説明しづらい。ここを一度、地に足をつけて整理しておきます。
AI エージェントとは、「自分で手を動かす AI」
ざっくり言うと、こうです。
目標を渡すと、自分でやることを分解し、道具を使って、何ステップも動いて、結果まで持っていく AI。
ポイントは4つ。
- 目標で動く … 「バグを直して」「この CSV を集計して」のように、手順ではなくゴールを渡す。
- 自分で段取る … 次に何をするかを、AI が自分で決める。
- 道具を使う … ファイルを読み書きする、コマンドを走らせる、Web を見る、API を叩く。テキストを返すだけではない。
- 回す … 実行 → 結果を見る → 次の手、を繰り返す。うまくいかなければ、やり直す。
この「道具を使って、自分でループを回す」ところが、ふつうのチャットとの決定的な違いです。
チャットとの違いは、「教える」か「やる」か
同じ「このバグを直して」でも、返ってくるものが違います。
| チャット(対話型 AI) | AI エージェント | |
|---|---|---|
| 返ってくるもの | 直し方の説明(テキスト) | 実際に直したコードと結果 |
| 誰が手を動かすか | あなた(コピペ・実行は人間) | AI(ファイル編集・コマンド実行まで) |
| やり取りの形 | 1問1答 | ゴールを渡して、あとは経過を監督 |
| 道具 | 基本は文章の生成 | ファイル・シェル・Web・API を操作 |
| 人間の役割 | 質問する・判断する | 承認する・監督する |
チャットは「教えてくれる」。エージェントは「やってくれる」。この一線です。
そして——ここまで本連載で触ってきた Bob Shell も、まさにこのエージェントです。だからこそ、「勝手に実行させない承認」や「どのモードで動くか」や「何をやったか残るセッション記録」の話をしてきたわけです。手を動かす相手だから、手綱と記録がいる。逆に言えば、ただのチャットにこれらは要りません。
できること — 「コーディング系」でも、やることは広い
エージェントにはいろんな畑があります。PC を操作する computer use、企業の業務を回すもの、なんでも屋の汎用型……。ただ、いま一番数が多く、進化も速いのは開発向け=コーディング系です。この記事では、そこにしぼって見ていきます。
そして「コーディング系」といっても、コードを打つだけではありません。ゴールをひとつ渡すと、開発まわりをまるごと動きます。
- コードを書く・直す … 複数ファイルの修正、リファクタ、テスト生成、バグ調査
- 調べる … コードベースを読んで把握する、Web やドキュメントを横断して調べる
-
コマンドを走らせる … ビルド・テスト・
git・パッケージ導入 - 環境を触る … CI の失敗を直す、依存を解決する、ブラウザで動作を確かめる
「コード生成ツール」というより、開発という仕事のかなりの部分を任せられる相手、と捉えるほうが実態に近い。根っこはどれも「目標 → 自律 → 道具 → ループ」です。
コーディングエージェント一覧
いま名前を聞くコーディング系を、できるだけ挙げます。アルファベット順。米国勢だけでなく、中国勢とオープンソース(OSS)も入れました。
表の「形」は、ざっくりの使われ方です。
- CLI … ターミナルで動く
- IDE … それ自体がエディタ(統合開発環境)
- 拡張 … VS Code などのエディタに入れて使う
- クラウド … 非同期でクラウド側が実行する
1つの製品が複数の形を持つこともあります(例:拡張でも CLI でも使える)。
| No. | 名前 | 形 | 概要 | ベンダー |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Aider | CLI | ターミナルの AI ペアプロ。git ネイティブな編集が持ち味 |
オープンソース |
| 2 | Amazon Q Developer | IDE/CLI | AWS 開発向け。補完からエージェントまで | Amazon(AWS) |
| 3 | Antigravity CLI | CLI | Google の CLI エージェント(旧 Gemini CLI、2026/6 に移行) | |
| 4 | Bob | CLI/IDE | エンタープライズ向け AI コーディング(本連載の主役) | IBM |
| 5 | Claude Code | CLI | ターミナル常駐のコーディングエージェント | Anthropic |
| 6 | Cline | 拡張/CLI | VS Code 拡張が出発点。CLI 版も成熟 | オープンソース |
| 7 | CodeBuddy | IDE/拡張 | Hunyuan+DeepSeek。200 以上の言語 | Tencent(腾讯) |
| 8 | CodeGeeX | 拡張 | 完全無料・OSS。300 以上の言語 | Zhipu AI(智谱・清華系) |
| 9 | Codex | CLI/クラウド | CLI・クラウドで動くコーディングエージェント | OpenAI |
| 10 | Comate(文心快码) | 拡張 | 文心(ERNIE)ベースの AI コーディング | Baidu(百度) |
| 11 | Continue | 拡張/CLI | OSS。ローカルモデルに強い。CLI は cn
|
オープンソース |
| 12 | Cursor | IDE | AI エディタ。エージェント機能を内蔵 | Anysphere |
| 13 | Devin | クラウド | 非同期で長時間タスクを任せる自律型 | Cognition |
| 14 | GitHub Copilot | IDE/CLI/クラウド | 補完から自律的な PR 作成まで | GitHub(Microsoft) |
| 15 | Goose | CLI | OSS の汎用コーディングエージェント | Block(Linux Foundation 傘下へ) |
| 16 | Jules | クラウド | 非同期にクラウドで Issue を処理 | |
| 17 | OpenCode | CLI | 2026 に台頭した OSS ターミナルエージェント。多数のモデルに対応 | オープンソース(Anomaly/旧 SST) |
| 18 | OpenHands | クラウド/CLI | 計画 → 実行を回す自律型(旧 OpenDevin) | All Hands AI(OSS) |
| 19 | Qoder CN(旧 通义灵码 / Tongyi Lingma) | IDE/拡張 | 中国の代表格。Qwen ベース | Alibaba(阿里) |
| 20 | Qwen Code | CLI | 中国発のターミナル CLI。Qwen ベース | Alibaba(阿里) |
| 21 | Replit Agent | クラウド | プロンプトからフルスタック生成・デプロイ | Replit |
| 22 | Trae | IDE | AI IDE。SOLO モードで一気通貫に作る | ByteDance(字节跳动) |
| 23 | Windsurf(現 Devin Desktop) | IDE | AI エディタ(旧 Codeium) | Cognition |
全部は網羅しきれません(毎月増えるし、消えもします)。それでも並べると、いくつか見えてきます。米国勢・中国勢・OSS の三つ巴であること。中国勢は価格と現地最適化で攻めていること。OSS は「特定のモデルに縛られない」身軽さで伸びていること。もう一社の独占ではありません。
ひとつ注意:入れ替わりが激しい
この手の一覧は、書いたそばから古くなります。実際、2026 年前半だけでも、Google が Gemini CLI を終了して別物(Antigravity CLI)へ切り替え、Windsurf は Cognition 傘下(Devin Desktop へ改称)に、といった動きがありました。だから「最新の正解」は各社の公式で確かめてください。この表は、いまの見取り図として。
今後の展望
コーディング系にしぼると、方向はこのあたりです。
- もっと自律・非同期に … 「その場で一緒に書く」から、「Issue を渡して、クラウドで走らせて、PR で受け取る」へ。Devin や Jules のような非同期型が増えています。
- 複数エージェントの分担 … 設計役・実装役・レビュー役、と役割を分けて協調させる「マルチエージェント」へ。
- 標準でつなぐ … ツールや別のエージェントとやり取りするための共通規格が広がっています。MCP(道具の接続)、AGENTS.md(振る舞いの指示書)——ツールをまたいで同じ作法が効くようになりつつあります。
- 価格とモデルの自由化 … 中国勢の低価格攻勢と、OSS の「モデル非依存」。特定ベンダーの囲い込みが崩れつつあります。
一方で、任せる範囲が広がるほど、手綱と説明責任が問われます。勝手に実行させない・機密を渡さない・誰が何をやったか後から辿れる——本連載で Bob Shell を題材に見てきた「地味だけど大事なところ」は、コーディングエージェント全体の宿題そのものです。派手な自動化より、使う側の作法がものを言う。そう見ています。
まとめ
- AI エージェントは「自分で手を動かす AI」。目標 → 自律 → 道具 → ループ、が骨格。
- チャットは「教える」、エージェントは「やる」。だから承認と記録がいる。
- コーディング系だけでも、米国勢・中国勢・OSS の三つ巴。しかも入れ替わりが速い。
- これからは、もっと自律・非同期に。そのぶん手綱と説明責任が主役になる。
——というわけで、本連載で触ってきた Bob Shell も、この「コーディングエージェント」の一つです。
※投稿内容は個人の見解であり、必ずしも私の所属団体・企業における立場、戦略、意見を代表するものではありません。製品名・ベンダー・数値は 2026-07-14 時点で確認したものです。この分野は動きが速いので、最新は各社の公式情報でご確認ください。
出典
- Best AI Coding Agents for 2026(Faros AI) — コーディングエージェントの現況
- Best Open Source CLI Coding Agents in 2026(DEV Community) — OSS/CLI(OpenCode・Continue・Goose 等)
- Top Chinese AI Coding Assistants in 2026(Second Talent) — 中国勢(Tongyi Lingma/CodeGeeX/Trae/CodeBuddy 等)
- Jules: Google's autonomous AI coding agent(Google) — Jules(非同期コーディング)
- Google retires Gemini CLI; Antigravity CLI arrives(The Register) — Gemini CLI の終了と後継
- Cognition's acquisition of Windsurf(Cognition) — Windsurf は Cognition 傘下(現 Devin Desktop)
