株式会社AI Orchestraのみやっち🧑💻です。2007年に会計士試験に合格し、監査法人で上場企業の監査をしていました。監査クライアントが米国にも上場していたので、SECに出す英文の年次報告書(20-F)も監査の対象でした。
2026年10月26日、AnthropicがSECに上場申請書類のS-1を提出しました。添付資料を除く本体だけで421ページあります。私はこれをAIを使いながら読み解き、YouTubeで「7つの秘密」として話しました。
この記事は、動画で話した7つの数字を、自分で原本を開いて確かめたい人のための地図です。S-1のどの章に何が書いてあるか、7つの数字がどのページに載っているか、ブラウザのページ内検索で何と打てば飛べるかをまとめました。
7つの秘密を図解とS-1の実画面つきで見たい方は動画をどうぞ: Anthropicが上場申請!監査法人出身のみやっち🧑💻がS-1を読み解くと意外な事実が判明した…(YouTube・16分ほど)
先に3つお断りしておきます。
- S-1の公開情報をもとにした解説で、投資助言ではありません。株を買うべきかどうかの話はしません
- 動画では「AIを使いながら読み解いた」とだけ話しました。AIにどう頼んだかの手順やプロンプトは、この記事では書きません。どの道具で読むにしても、最後に数字を原本のページで確かめるための地図、という位置づけです
- 円の金額は1ドル=157円で計算しています
原本の開き方とページ番号の読み方
原本はSECのEDGARで公開されています。HTMLなので、ブラウザでそのまま開けます。
この記事のページ番号は、各ページの下部に印字された番号です。表紙・目次はローマ数字、財務諸表は「F-7」のような番号になっています。ブラウザのページ内検索(Macは command + F、Windowsは Ctrl + F)で英語の見出しを打つと、目的の場所へ飛べます。
ハマりどころが1つあります。目次に書かれた開始ページと、実際に章が始まるページが、1ページずれている章があります。 私が原本で確かめた範囲では、要約・リスク要因・MD&A・事業・ガバナンスの5つは、目次の数字のページが章の扉(画像だけのページ)で、見出しの文字は1ページ後ろから始まっていました。目次の数字でページを探すより、章の見出しで検索するほうが確実です。
S-1の章立て
421ページは、次の順番で並んでいます。左の数字は目次の開始ページです(括弧内は、扉の次の、見出しの文字が出てくるページ)。
| 目次のページ | 章(英語の見出し) | 何が書いてあるか | 動画の秘密 |
|---|---|---|---|
| 1 | 用語の定義(Select Defined Terms) | NRRなど、会社独自の指標の定義 | 7 |
| 4(5) | 要約(Prospectus Summary) | 事業・財務・上場の条件の全体像 | 4・7 |
| 26(27) | リスク要因(Risk Factors) | 会社自身が挙げるリスク。販売経路の比率や顧客の集中もここに出てくる | 1・2・3・5・7 |
| 132(133) | MD&A(Management's Discussion and Analysis) | 経営者による財務の説明。収益モデル、四半期の推移、資金繰り、契約上の義務 | 1・3・4・5・6 |
| 178(179) | 事業(Business) | 研究・製品・販売戦略、顧客事例、競争 | エンディング |
| 242(243) | ガバナンス(Our Governance Structure and Its Goals) | 公益目的の会社形態、信託(LTBT)と創業者の権限 | 冒頭 |
| 288 | 主要・売出株主(Principal and Selling Stockholders) | 創業者や5%超の株主の保有株数 | 2 |
| 292 | 株式の権利(Description of Capital Stock) | 株式の種類ごとの権利。議決権の有無 | 2 |
| F-1 | 財務諸表(Index to Consolidated Financial Statements) | P/L・B/S・キャッシュフローと注記 | 3・4・6・7 |
ほかに、資金使途・資本構成・経営陣・役員報酬・引受などの章が間にあります。動画の7つで使ったのは、上の表の章です。
7つの秘密を、原本でたどる
各項目の「どこに」は、原本のページと、ページ内検索に打つ英語の見出しや語句です。
1. 従量課金とサブスクの比率(動画 02:44)
動画で話したこと: 2026年上期の売上は、従量課金が約131億ドルで80%、サブスクが約32億ドルで20%。クラウドマーケットプレイス(AWS・Google Cloud・Azure)経由の売上が48%。
| 数字 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 従量課金80%・サブスク20% | MD&A p.138 | How We Generate Revenue |
| マーケットプレイス経由48% | リスク要因 p.56 | through CSP marketplaces represented |
48%は販売経路の比率です。AWSなどのサーバーで処理した割合ではありません。2023年からの推移もこの段落にあります。
2. 最重要パートナーAmazon(動画 03:38)
動画で話したこと: Amazonは株主・計算資源の提供者・販売パートナーの3役。AmazonやGoogleのような戦略投資家が転換後に持つのは、原則として議決権のないClass N。2026年5月からの10年間で、AWSへ最低1,100億ドル(約17兆円)の支出を約束している。
| 数字・記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 5%超の株主の一覧 | 主要・売出株主 p.289 | Greater than 5% Stockholders |
| Class Nは原則として議決権なし | 株式の権利 p.293 | Holders of our Class N common stock |
| AWSへの最低支出の約束 | MD&A p.171 | at least $110.0 billion |
| クラウド大手への依存のリスク | リスク要因 p.73〜74 | We rely on a limited number of CSPs |
主要株主の表は、保有比率の欄が空欄の箇所があります。空欄を推測で埋めないのが原則です。
3. クラウド経由はグロス計上(動画 05:07)
動画で話したこと: クラウド経由の売上もAnthropicが総額で計上し、クラウド事業者への手数料は費用。顧客とは直接契約し、価格は自分で決める。一方で、購入経路や代金回収はクラウドに依存する。
| 記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 共同販売・直接契約・価格設定 | MD&A p.140 | Cloud Partnerships |
| 総額で計上する理由 | 財務諸表の注記 F-21 | gross basis |
| 代金の回収・送金への依存 | リスク要因 p.56〜57 | collect payments on our behalf |
総額で計上する理由は、収益認識の注記に「主たる責任を負い、価格を決めている」という趣旨で書かれています。
4. 高い粗利と重い研究開発費(動画 06:16)
動画で話したこと: 売上は2023年約64億円→2024年約610億円→2025年約7,200億円(2年で約112倍)、2026年1〜6月は約2.6兆円。2026年上期の粗利率は約85.4%、研究開発費は売上の約60%で、上期の営業損益は約1,090億円の赤字。2026年4〜6月期単独では約1,530億円の営業黒字。従業員1人当たりの直近12か月の売上は660万ドル超。
| 数字 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 売上・営業損益・純損益(3期+上期) | 財務諸表 F-7 | Consolidated Statements of Operations |
| 売上原価・研究開発費などの機能別の費用 | 財務諸表の注記 F-39 | Supplemental Operating Expense Information |
| 四半期ごとの営業損益 | MD&A p.157 | Quarterly Results of Operations |
| 従業員1人当たりの売上 | 要約 p.10、MD&A p.136 | revenue per employee |
ハマりどころが2つあります。
- F-7のP/L本表には「売上原価」「研究開発費」の行がありません。 2025年から費用を性質別(計算資源・人件費など)に表示する形に変わっているためです。粗利率85.4%や研究開発費の約60%は、F-39の注記にある機能別の費用から計算します
- 上期の列は「unaudited」(未監査)です。 通期の3期と、上期の数字を同じ重さで扱わないようにします
5. 売上8割が半年以内のモデル(動画 09:01)
動画で話したこと: 2026年7〜9月の売上の8割以上が、直近6か月にリリースされたモデルからの売上。私が一番驚いた数字です。
| 記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 8割以上が直近6か月のモデル | MD&A p.143 | model versions released in the six months |
| 安価なモデルで十分と判断されるリスク | リスク要因 p.43 | lower-cost models |
MD&Aの「Customer Usage Patterns」という小見出しの中にあります。
6. 顧客の支出と設備の約束(動画 09:40)
動画で話したこと: 顧客は使う量を毎月変えられるのに、Anthropicは計算資源を使えるようになる12〜18か月前から複数年契約で確保している。2026年6月末の現金・現金同等物・短期投資は約20.7兆円。まだ使い始めていない設備のリースの将来の支払額が約50兆円、購入契約の固定・最低保証額が約42兆円。
| 数字・記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 12〜18か月前に複数年契約で確保 | MD&A p.134 | 12 to 18 months |
| 顧客は利用を減らせる・やめられる | リスク要因 p.42 | reduce usage or terminate |
| 現金・現金同等物・短期投資 | 財務諸表 F-5 | Consolidated Balance Sheets |
| 営業・財務キャッシュフロー | 財務諸表 F-12 | Consolidated Statements of Cash Flows |
| 未開始のリースの将来の支払額 | 財務諸表の注記 F-35 | Leases Not Yet Commenced |
| 購入契約の固定・最低保証額 | 財務諸表の注記 F-58 | minimum guaranteed commitments |
リースや購入契約の金額は、今期の費用でも支出でもない、将来の支払いの約束です。契約の数字を足して手元資金と比べ、「資金が足りない」と読むことはできません。期間・条件・重なりがそろっていないためです。
7. 転換証券の公正価値変動(動画 11:09)
動画で話したこと: 2026年上期の純損失は約12.7兆円。そのうち約11.4兆円は転換証券等の公正価値変動費用で、同じ金額の現金が出ていったわけではない。NRR(売上継続率)は約900%。2026年1〜9月の売上の約25%を上位5顧客が占める。
| 数字・記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| 純損失と公正価値変動の行 | 財務諸表 F-7 | Change in fair value of |
| NRRの定義 | 用語の定義 p.2〜3 | Net Revenue Retention |
| NRR約900% | 要約 p.10、MD&A p.135 | approximately 900% |
| 上位5顧客で約25% | リスク要因 p.56 | approximately 25% |
NRRは会社独自の指標です。先に用語の定義(p.2〜3)で計算方法を読んでから、900%の数字を見ると、何と何を比べた数字なのかを取り違えません。
エンディング: 「できること」と「使われていること」のギャップ(動画 12:39)
動画で話したこと: Anthropicは、「Claudeができること」と「実際にどこまで仕事で使われているか」の間にあるギャップを、モデルの能力を進化させることと並ぶ、最大級の成長機会の一つとしている。
| 記述 | どこに | 検索語 |
|---|---|---|
| ギャップを成長機会とする説明 | 要約 p.11、事業 p.179 | the gap between what Claude can do |
ドル建ての表を円に直す
財務諸表の表は、見出しに (In millions ...) とあり、単位は百万ドルです。1ドル=157円で円に直すときは、百万ドルの数字に157をかけると百万円になります。
python3 -c "
rate = 157 # 1ドルあたりの円
rows = {'2026年上期の売上': 16286, '2026年上期の営業損失': 693, '2026年上期の純損失': 80748}
for name, musd in rows.items():
oku = musd * rate / 100 # 百万円 → 億円
print(f'{name}: {musd:,}百万ドル → 約{oku:,.0f}億円')
"
2026年上期の売上: 16,286百万ドル → 約25,569億円
2026年上期の営業損失: 693百万ドル → 約1,088億円
2026年上期の純損失: 80,748百万ドル → 約126,774億円
動画では、これを丸めて「約2.6兆円」「約1,090億円の赤字」「約12.7兆円」と話しています。為替のレートを変えるときは、円の数字を全部計算し直します。
読むときに気をつけたこと
監査の仕事で身についた読み方のうち、S-1でも効いたものを書いておきます。
- 会社が開示した事実と、自分の解釈を分ける。 動画でも「〜だと読んでいます」「〜なんだと思います」と言った所は、私の解釈です
- 空欄・黒塗りを推測で埋めない。 初回のS-1は、公開価格・募集株数・正確な保有比率などが空欄です。添付の契約書にも、公開版では黒塗りの条項があります
- 営業損益と純損益を分けて読む。 純損失12.7兆円の大部分は公正価値変動で、2026年4〜6月期の本業は黒字です。同じ「赤字」でも、意味が違います
- 主語を取り違えない。 S-1の数字はAnthropic全社のものです。Claude Codeなど製品単独の売上や損益が開示されているわけではありません
まとめ
- 原本はSECのEDGARにあるHTML。ページ番号は各ページ下部の印字番号で、目次の開始ページとは1ページずれる章がある。章の見出しで検索するのが確実
- 7つの数字の多くは、MD&A(p.133〜)・リスク要因(p.27〜)・財務諸表(F-1〜)に散らばっている。数字はMD&Aの説明と、財務諸表の表・注記の両方で確かめる
- 粗利率や研究開発費の比率は、P/L本表(F-7)ではなく機能別費用の注記(F-39)から計算する
- 単位は百万ドル。円に直すときはレートを1つに決めて、全部同じレートで計算する
7つの秘密を、S-1の実画面と図解つきで順番に見たい方はこちら: Anthropicが上場申請!監査法人出身のみやっち🧑💻がS-1を読み解くと意外な事実が判明した…(YouTube)