この記事は、新谷が共著として参画した査読付き原著論文の紹介です。
対象論文:Seiichi Tsukamoto, Teruyuki Fujii, Kotaro Oyama, Seine A. Shintani, Togo Shimozawa, Fuyu Kobirumaki‑Shimozawa, Shin’ichi Ishiwata, Norio Fukuda (2016) Journal of General Physiology 148(4):341‑355.
DOI: https://doi.org/10.1085/jgp.201611604
概要(TL;DR)
- Z線局在FRET Ca²⁺センサー(YC‑Nano)をα‑アクチニンに融合し、ラット新生仔心筋細胞内で局所Ca²⁺濃度と単一サルコメア長(SL)を同時にリアルタイム観察。
- 4種のYC‑Nanoを比較し、α‑actinin–YC‑Nano140(Kd ≈ 140 nM)がダイナミックレンジと信号強度の両立に優れ、33 fpsでSL 17 nm精度のナノメトリーを実現。
- Ca²⁺トランジェントはミオフィブリル全長で同期する一方、隣接サルコメアの伸縮タイミングは微妙にずれるため、平均SL解析は変位を約半分まで過小評価しうることを実証。
- 5 Hz電気刺激・37 °Cでも安定動作。β刺激(イソプレナリン)でCa²⁺動態が加速し、サルコメア伸張速度は約2倍に。
- Omecamtiv Mecarbilや局所Ca²⁺ウェーブの条件で、単一サルコメアECカップリングの薬理応答・脱同調を可視化。
研究の狙いと位置づけ
心筋の興奮収縮連関(EC coupling)をミクロに理解するには、同一座標系で“Ca²⁺局所”と“サルコメア運動”を同時に測る必要があります。
2014年のSL‑nanometry(α‑actinin–AcGFP)では、単一サルコメアの動態可視化に成功しましたが、局所Ca²⁺の高精細な同時計測が課題でした。本研究はZ線局在FRETセンサーを用いて、そのギャップを埋めたものです。
方法のキモ(測定系のポイント)
- プローブ設計:α‑actinin–YC‑Nano(15/50/65/140の4種)をZ線に局在させ、**Fyellow/Fcyan(R比)で局所Ca²をラショメトリック(比率測定)に取得。
- 光学系:二分岐(デュアルビュー)でYellow/Cyanを同時取得、33 fpsで記録。
- SL算出:Z線(Yellow)のピーク間距離でSLを決定。空間精度は17 nm。
- 条件:自発拍動/電気刺激(5 Hz)/温度条件(22 °C/37 °C)/薬理(ISO, OM)で評価。
主要結果(要点ダイジェスト)
1) センサー選抜:YC‑Nano140が最適
- ΔR/R₀(相対変化)と信号強度のバランスが最良。
- Cyan/Yellow両チャネルとも十分なS/Nを確保し、SLとCa²⁺を同時に高精度追跡。
2) Ca²⁺は同期、SLは“少しずれる”
- R比(局所Ca²⁺)はミオフィブリル全長で同期。
- しかし各サルコメアの短縮/伸張のタイミングに位相差があり、平均SLでの解析は変位量を大きく過小評価(~50%)しうる。
- ⇒ 単一サルコメア解像度の必要性を再確認。
3) 温度依存:37 °Cで加速
- 22 °C→37 °CでCaTの立ち上がり・減衰が短縮。
- SLの時間応答はさらに強く短縮(ATPase駆動の機械応答が温度に高感受)。
- SLピークとR比ピークの時間差は37 °Cで大きく(msオーダー)、指示薬の速度論の影響も示唆。
4) 5 Hz電気刺激でも安定
- SL変化とR比のFFTがともに5 Hz単峰となり、単一サルコメア局所でEC結合が律動。
5) β刺激(ISO 50 nM)の効果
- 収縮期/拡張期ともR比上昇(局所Ca²⁺上昇)。
- ΔR/R₀は低下(持続的リーク・拡張期上昇の影響)。
- 短縮・伸張速度がともに上昇、時間到達・減衰時間が短縮。
- 伸張速度は約2倍に増加し、弛緩促進を単一サルコメアレベルで定量。
6) OMと局所Ca²⁺ウェーブ
- OM条件下で、Ca²⁺とは位相が合わないサルコメア振動が生じ、アクトミオシン負荷主導のリズムを示唆。
- β刺激下の局所Ca²⁺ウェーブに伴い、ΔR/R₀とΔSLが相関:Ca²⁺起因の局所収縮を定量化。
意義と応用(何ができるようになったか)
- “Ca²⁺×SL”の同時ナノ計測というECカップリングの直交座標を確立。
- 平均化が隠す“非一様性・位相差”を、単一サルコメアで暴くプラットフォーム。
- 温度・周波数・薬理の影響を局所Ca²⁺—機械応答の結合/脱結合として読み解ける。
- 胎生〜新生仔〜成獣、病態初期(不整脈/心不全の前駆)可視化への足場。
- アデノウイルス導入→in vivo展開の見通し(“ナノイメージング心電図”の構想)を提示。
限界と注意
-
遺伝子コード型Ca²⁺指示薬は速度論が遅め(FRET・CaM構造変化を経るため)。
- 温度依存のkon/koffを踏まえた補正・較正が有用。
このシリーズでの位置づけ
- Day 01(SL‑nanometry, 2014)で単一サルコメア運動の土台を構築。
- 本稿(Day 02)は“Ca²⁺×SL”の同時化の方法の選択肢を拡張。
論文情報・DOI
Tsukamoto S., Fujii T., Oyama K., Shintani S.A., Shimozawa T., Kobirumaki‑Shimozawa F., Ishiwata S., Fukuda N.
Simultaneous imaging of local calcium and single sarcomere length in rat neonatal cardiomyocytes using yellow Cameleon‑Nano140.
Journal of General Physiology 148(4):341‑355 (2016).
DOI: https://doi.org/10.1085/jgp.201611604
推奨引用形式(BibTeX)
@article{Tsukamoto2016YCNano140,
author = {Seiichi Tsukamoto and Teruyuki Fujii and Kotaro Oyama and Seine A. Shintani
and Togo Shimozawa and Fuyu Kobirumaki-Shimozawa and Shin’ichi Ishiwata and Norio Fukuda},
title = {Simultaneous imaging of local calcium and single sarcomere length in rat neonatal cardiomyocytes using yellow Cameleon-Nano140},
journal = {Journal of General Physiology},
year = {2016},
volume = {148},
number = {4},
pages = {341--355},
doi = {10.1085/jgp.201611604}
}