はじめに
法改正により、2023/4/1から一定台数以上の自動車を使用する事業所において「運転前のアルコールチェック(確認と記録)」が義務化されましたが、皆さんの会社ではどのように実施されていますか?
当時、会社から降りてきた紙とExcelを使った作業指示を見て「あ、これはマズいことになる」と直感した私が、Power Appsを使ってデジタル化し、トントン拍子でDXまで進めた際の話をご紹介します。
アドベントカレンダー
本記事は 【Excel業務をDX化したい。あなたならどうする? by MESCIUS Advent Calendar 2025】 シーズン3の15日目の記事です。
この企画の趣旨は以下のようになっています。今回はこれに合わせて、少し前の思い出話を書いてみました。
皆さんの職場で【Excel】はどのように使われていますか?
「神エクセル」や、長年の改修で解読不能になった「大量のマクロでできた秘伝のエクセルファイル」など、どの職場にも一つは存在するのではないでしょうか。
Excelは、優秀かつ万能であるがゆえに酷使され、時に私たちを悩ませます。そんなExcel業務を「DX化して!」と言われたら、あなたならどう実現しますか?
このAdvent Calendarでは、皆さんの自由な発想やリアルな体験談を募集します。思い切って「脱Excel」? それとも、良さを活かして「活Excel」?
どんなサービスやツールを選びますか?
「実際にこんな取り組みで脱Excelしました!」といった体験談
技術選定の決め手や、開発の苦労話、その乗り越え方
さまざまな視点から自由な発想や具体的なエピソードをお待ちしています。
背景:アルコールチェック義務化の概要
警察庁 - 安全運転管理者の業務の拡充等 によると以下のような内容が規定されています。
府令第9条の10第5号においては、安全運転管理者の業務として、
① 運転しようとする運転者に対して点呼を行う等により、当該運転者による自動車の点検の実施(以下「自動車点検」という。)及び過労、病気その他の理由により正常な運転をすることができないおそれ(以下「正常運転をできないおそれ」という。)の有無を確認すること(以下「点呼による確認」という。)
② 安全な運転を確保するための必要な指示を与えること(以下、単に「必要な指示」という。)
これを踏まえて、安全運転管理者は会社で1名立てることになっているのですが、チェックを受ける人が同じところにいて対面で確認できれば簡単なのですが、現実には事務所がたくさんあって対面で確認するのは難しかったり、1人で100人もチェックするのは物理的に不可能であることから、通話で確認したり、承認を補助者が行うこともできるような補足があります。
Before
当初、会社から説明のあった運用フローは、まさに 「THE アナログ」 なものでした。
- 運転手:朝礼などで確認を受け、結果を紙またはExcelに入力して提出
- 管理者:提出されたExcelやPDFをフォルダに格納。必要に応じて手作業でExcelに入力し直して集計(予定)
これを聞いた瞬間、私の脳裏にはバッドエンドしか浮かびませんでした。
近い将来、「提出物を自動集計するマクロを作ってくれ」という依頼が来るのは確実。さらにその先には……
- 「手書き文字をOCRで読み取りたい」
- 「大量のExcelファイルを開て閉じて読み込むのが遅い」
- 「そもそも集計が面倒だから、やっといて」
と言われる未来が見えてしまったのです。これは非常にマズい。
After
そこで私は、会社支給のスマホと Microsoft 365 を活用したアプリ運用を提案・構築しました。
- 運転手:スマホで専用アプリを開き、その場で記入して提出
- 管理者:Teamsに申請通知が届くので、ワンクリックで承認
- データ:記録は全て SharePoint リストに蓄積。必要な時に Power Apps や Excel で抽出・集計が可能
使用した技術
会社で Microsoft 365 を全社契約していたため、追加課金なしで使える Power Platform で内製しました。
- 記録/集計UI:Power Apps
- バックグラウンド処理:Power Automate
- 通知&承認UI:Teamsのアダプティブカード投稿
- データベース:SharePoint リスト
- 報告・印刷:Power Apps および TSV出力
実践したこと
1. 企画~設計~運用
企画・設計・提案
指示を聞いてすぐに安全運転管理者へヒアリングを行いました。「現状のExcel/紙運用案では継続が困難になる」という懸念を伝え、大まかな設計をして「提案するアプリの仕様で要件は満たせる」ことを確認・合意しました。
リリース
企画から半月ほどでプロトタイプをほぼ完成させ、翌月からのアプリ移行を告知しました。ユーザーが旧運用に慣れきってしまう前だったこともあり、大きな反発もなくスムーズに移行できました。
修正
運用開始後、管理者から「管理画面をもっと増やしたい」等の要望が出ましたが、事前にデータを構造化(データベース化)していたため、ダッシュボードの追加や修正も迅速に対応できました。
2. UI/UXの工夫
入力負荷の低減
「毎日同じことを書く」のはユーザーにとって苦痛です。
- ログイン情報から自動入力できる項目は自動化
- 定型文はマスタから選択式に
といった工夫で、入力の手間を最小限に抑えました。
レスポンシブ対応
- 記録画面:スマホの小さな画面でも操作しやすい入力フォーム
-
集計画面:パソコンの大きな画面で情報を網羅的に確認できるダッシュボード
というように、デバイスに応じた画面設計を行いました。
画面構成
- メニュー画面
- 各種マスタ管理(社有車、従業員)
- 運転手用:記録入力画面
- 承認者用:承認状況確認画面
- 管理者用:全社集計ダッシュボード
3. データ設計
データの正規化
そもそも「社有車マスタ」が存在しなかったため、車を管理する部署からExcelのリストをもらい、正規化して SharePoint リストに登録しました。
リレーション
ログインユーザー情報をキーに、所属部署や承認ルートを紐づける「従業員テーブル」を作成し、承認フローの自動化を実現しました。
その後の話
今回のアプリ化をきっかけに、車両管理業務の多くが完全にアナログのままであることが浮き彫りになりました。そこで担当部署と協議し、業務全体のデジタル化へ着手することにしました。
- 車検・修理・メンテナンス記録
- 給油記録、高速道路利用記録
- 車両の使用予約、事故報告
これら業務の見直しを行い、現在では一通りのデジタル化が完了しています。
定形外の作業で資料作成が必要な場合を除いて、Excelを必要としない状態になりました。
これで「当該業務のDXは完了した」 と言えるのではないでしょうか!
まとめ
今回の勝因は、「Excel運用が定着する前」の早い段階で企画し、リリースまで持ち込めたことに尽きます。
「本当はもっと作り込んでから……」と思う部分もありましたが、管理者が「紙・Excel運用には限界がある」と理解しており、「最初は不完全でも構わないからアプリにしたい」と前向きな姿勢を見せてくれたおかげで、スピード優先でリリースできました。
また、一つの業務をデジタル化して見せたことで、「じゃあ他の機能も……」とDXに向けた流れが生まれたのも良い経験でした。
DXは小さなところから一歩一歩の積み重ねが大切ですね!
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普段は - Excel・VBA総合コミュニティ - という無料のDiscordサーバーで、ExcelやVBAを楽しく学ぶための活動を行っています。
DXのためには脱Excelも辞さない私ですが、Excelの良さを知ることでExcelが向いている作業もあることを知ってもらいたいと思って発信をしています。もしご興味のある方はご参加頂けると幸いです。