AI Engineering Summit Tokyo 2026 Summer 参加レポート
2026年6月8日〜9日に浜松町コンベンションホールで開催された「AI Engineering Summit Tokyo 2026 Summer」に参加してきました。主催はファインディ株式会社、テーマは「AIエージェントを使う・創る・推進する」。
AIE2026参加者統計:申込者数4,700名(会場1,570名・オンライン2,490名)
AIE2026参加者の従業員規模分布:500人以上の企業割合がちょうど半分くらい
とにかく熱量が凄まじかったのが印象的でした。セッション会場はいつのどの会場でもほぼ満席で、参加者全員がスライドに集中している光景は、これまで参加したどのイベントでも見たことがないレベルでした。
本記事では参加したセッションの要点と学び、出展ブースを可能な限り回って得た知見をまとめます。
ちなみにスケジュールはめちゃくちゃハードでした。。。一日中セッションを行っていて間の時間にブースを回るのはめちゃくちゃ疲れました笑
とっても長いので30秒で読みたい方は
https://qiita.com/Kitasan_White/items/c3d87ea0bca882b56965#%E5%85%A8%E4%BD%93%E3%81%AE%E6%89%80%E6%84%9F
ここから読んでください。
あとこれはおまけです
https://qiita.com/Kitasan_White/items/dcd2939760fc445ce64e
> 5階の会場エントランス
> 受付エリア 全自動でQRから参加証印刷
> セッション間のセッション会場はこんな感じ
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DAY 1 (6/8)
SPONSOR午前① — オーティファイ / オリックス生命「AI時代のソフトウェアテストにどう備えるか」
登壇者: 松井 康浩(オリックス生命)/ 中新井 恒人(オーティファイ)
開発工程の約50%がテストという「50%の壁」に着目し、外部サービスを使って効率化に着手しているという話。
印象に残った点:
- 開発工数の約50%がテストという「50%の壁」
- 2020年よりAutify NoCode導入、段階的に自動化を拡大
- リグレッションテスト自動化が「当たり前」になるまでのマインド変革
感想・学び:
テスト工数の割合という定量的な課題に正面から向き合い、段階的に自動化を進めてきた6年間の積み重ねに説得力がありました。ブースで自動テスト実行に関する情報交換のつながりも得られ、後日社外MTGを開催しました。
📷 スライド写真(7枚)
本日のストーリーライン - セッション全体マップ(ビジョン→取組み→成果→チャレンジ→まとめ)
直面した課題:スピードを阻害する「50%の壁」- 開発工数の約50%がテスト
テスト自動化の取組み - 2020年よりAutify NoCode導入、マルチブラウザテスト自動化
テスト自動化の取組み - E2Eテスト対象としてマルチブラウザ/リグレッションを自動化、Autify NoCodeとNexusの使い分け
チームのマインド変革 - リグレッションテスト自動化が当たり前になったBEFORE/AFTER
現在チャレンジしている領域 - テスト設計は人間のまま、自動化シナリオ保守の必要性
SPONSOR午前② — ENSAPIA「新規ゲーム開発におけるAI駆動開発のリアル」
登壇者: 趙 訓濟 / 倉 秀一(ENSAPIA Engineering)
発表概要
スライド: https://speakerdeck.com/202409e2/xin-gui-gemukai-fa-niokeruaiqu-dong-kai-fa-noriaru
2部構成です。前半はMCPからUnity CLIへの意思決定の裏側、後半はAIを組織のスタンダードにする取り組みでした。
印象に残った点:
- MCPがないから自製、3ヶ月で退役しても価値は十分という判断基準
- コミットごとにAI利用度を3択で選ぶ「AX-Tag」の仕組み
- 評価制度の根本転換:必須スキルがプロンプトエンジニアリングに
- 「AIは個人でなく組織の問題、推奨でなく当たり前にする」
感想・学び:
自作のツールが3ヶ月で退役になった場合、どう感じますか?自分はせっかく作ったのに感を抱いてしまうと思います。しかしENSAPIAでは、その3ヶ月の恩恵をとても高く評価しており、運用の長さよりもその期間の価値提供に着目している点が新鮮で良かったです。変化の早いAIエージェント時代にふさわしい判断基準として認識を改めなければと思いました。
📷 スライド写真(7枚)
本セッションは2部構成 - 前半:MCPからUnity CLIへの意思決定の裏側、後半:AIを組織のスタンダードに
人間の役割はこう変わった - agency(判断・実装)は残りprocess(レビュー・承認)は消える
まとめ - AI駆動開発で一番効くテコは「ボトルネックを感じた当事者が解決の裁量を持っている組織」
評価制度の根本転換 - 必須スキルがプロンプトエンジニアリングに、評価の核がAI生成結果の批評・解釈・調整能力に
トップダウン×ボトムアップ - AX Division設立から成功事例の爆発へ
AX-Tagの導入 - コミットごとにAI利用度を3択でエンジニアが選ぶ仕組み。自動化に課題は残るが、エンジニアに意識させる効果がある
この半年で組織はこう変わった - AIは個人でなく組織の問題、推奨でなく当たり前にする、制度と数字が文化を本物にする
SPONSOR昼 — Helpfeel「正気を疑う技術 - bugのないvibe codingを目指して」
登壇者: 橋本 翔(Helpfeel)
AI生成コードの信頼性確保をテーマに、開発者・エージェント・レビュアーの3者間に存在する不透明さへの取り組みです。
印象に残った点:
- AI生成コードで開発者・エージェント・レビュアーの3者間に不透明さが生じる
- PRの数は増えずサイズが大きくなった
- 「やらないこと・その理由」はコードに残らないが、検討結果をPRに残すことが重要
感想・学び:
PRの数は増えないところに強く共感しました。「やらないことの記録」は意識しないと絶対に残りません。チャットログの整理をPRに反映する運用は即座に取り入れたいと思います。
📷 スライド写真(4枚)
vibe codingを目指して - AI生成コードの信頼性確保
開発の過程で開発者・エージェント・レビュアーの3者間に理解したい不透明なことが多い
2025年からAIで開発するようになった - PRの数は増えずサイズが大きくなった
チャットログを整理しよう - 重要なのはやらない事とその理由、コードレビューで見たい
SPONSOR午後② — カカクコム「価格.comをAI駆動で全面刷新する」
登壇者: 京和 崇行(カカクコム CTO)
発表概要
スライド: https://speakerdeck.com/tkyowa/kakaku-com-ai-driven-system-renewal-0fc7e978-0e39-4bba-93eb-17cd56ecd1c1
既存システムのリプレイスを、既存システムを仕様としてAIワークフローのループによって実現するアプローチです。
印象に残った点:
- 既存システムを仕様としてAIワークフローのループでリプレイスを実現
- 保険カテゴリを134時間・$6,921で自力構築
- 実際に動かしての検証をAIが自律的に行い、観測して自己改善する
- 経営課題から技術要件を導出、AIを中心に考え部分最適しない
- 説得ではなく結果で示す
感想・学び:
全体的にとても本質をとらえた発表であり、組織自体が魅力的に見えるとても良い発表でした。「説得ではなく結果で示す」は変化を推進する際の鉄則として心に刻みたいです。
📷 スライド写真(17枚)
AIワークフローの成果(2026/5時点) - 保険カテゴリを134時間・$6,921で自力構築
新旧コードの規模比較と考察 - 3カテゴリ比較で保険が最大43.4%削減
各フェーズごとの解説 - P1現行分析からP5受入テストまでの5段階AI開発工程
長時間止まらず動き続ける仕組み - Anthropicの5つの失敗パターンへの対応設計
同じ挙動をどう保証するか - 実際に動かしての検証をAIが自律的に行うことが重要
AIワークフロー自体の観測と改善 - 観測して自己改善するところが特に良い
今後の課題と目指すもの - コスト・品質・評価・実行基盤・組織の課題と横展開
技術選定の要諦 - 経営課題から技術要件を導出することが重要
Vertical Slices Architecture(VSA)の採用 - カテゴリ独立性とAI相性の良さ
なぜ大規模なシステム改革は難しいのか - リーダーシップとマネジメントの両立マトリクス
推進者が持つべきマインドセット - 楽観的に構想し悲観的に計画し楽観的に実行する
ビジョンを掲げる - 価格.comの次の30年を支える新しい土台をつくる(DODAIプロジェクト)
協業体制をつくる PoC期 - 価格.comエンジニア組織とCTO直下の疎な連携体制
協業体制をつくる キックオフ後 - 開発チーム・移行チーム・推進チームの統合体制
立場を越えて共有する行動原則 - AIを中心に考える・部分最適しないが重要
変化への抵抗と向き合う - 説得ではなく結果で示すが超重要
キックオフで動き出す - 組織全体に対してもっともレバレッジが効く起点
SPECIAL③ — Arize AI「From Monitoring to Self-Improving AI Agents」
登壇者: Sangyoul Jin(Arize AI)
なぜプロダクトでAIを使うのが難しいのか。エージェントの可視性・性能定量化・本番イテレーションの困難さを整理し、Observability+Evaluationで自己改善エージェントへ至る道筋を示す発表でした。エージェントが本番で失敗する理由としてHallucination・Wrong tool calls・Compounding errors・Silent failuresが挙げられていました。
なぜプロダクトでAIを使うのが難しいのか。良い出力と悪い出力を定義して評価する仕組みが先決(右側に同時通訳表示)
感想・学び:
評価の仕組みなしにエージェントを本番投入しても改善サイクルは回りません。評価の仕組みがしっかり設計できているプロダクトはまだまだ少ないと思うので、今後注力しなければならない領域だと再認識しました。
KEYNOTE — Microsoft / Scott Hanselman「What do you build when you can build anything?」
登壇者: Scott Hanselman(Microsoft VP, CoreAI/GitHub)
Keynoteにふさわしく本質的で素晴らしい内容でした。
印象に残った点:
- AIは4th ERA(Assembly→IDEs→Stack Overflow→AI)
- 「このコード怪しいな」という感覚は人間ならでは
- AIは無限エネルギーのジュニア、忍耐力のあるシニア
- シニアには強力なブーストだがジュニアには麻薬(脳波研究の裏付け)
- ボトルネックは要件定義・CI・評価に移る
感想・学び:
私は現在web開発に携わっていますが、大学院ではコンピュータサイエンスを学んでいました。入社直後はあまり背景を活かせず学ぶことばかりだったのですが、直近大学時代に学んだ内容が生きているのを、AIが進歩するほど痛感してきていました。コンピュータサイエンスが重要という主張はうなづくばかりです。
1日目の最後のセッションはKeynoteであり、参加者は他のセッションの2倍以上でした。「ジュニアには麻薬」という表現は強烈ですが、脳波の研究結果を見ると否定できません。シニアが育たない問題はうすうす認識しているものの、本格的に着手されるのはもう少し先の話になりそうだと危機感を感じています。
📷 スライド写真(10枚)
歴史の紹介:Assembly→IDEs→Stack Overflow→AI、AIは4th ERAである
ツールはものづくりを殺さない。「このコード怪しいな」という感覚は人間ならではの重要な感覚
AIにないもの:賢くない、クリエイティブでもない、思考の代わりになるものではない
AIとは何か:無限エネルギーのジュニアであり、忍耐力のあるシニアである
「あなたの仕事は、動くと証明したコードを届けることだ」— Simon Willison
シニアには強力なブーストとなるが、ジュニアには麻薬である
エンジニアの再定義:組織は次世代エンジニアがいない未来に直面することになる
LLMを使うと脳がほとんど働いていない — EEG脳波分析による証拠
「自分は何もできない」と感じさせるAIの使い方は良くない。勇敢で、力強く、有能だと感じられるAIの使い方をしよう
Looking forward:エージェントの範囲と信頼性は向上し続ける/ボトルネックは要件定義・CI・評価、そして最終的には消費に移る/生産性は開発者の注意帯域に比例する/試行コストはゼロに向かう/CS教育は変わらず重要である
DAY 2 (6/9)
SPONSOR午前① — みずほFG「〈みずほ〉が進めるAIトランスフォーメーション」
登壇者: 藤井 達人(みずほフィナンシャルグループ)
金融系特有の制約に加え、とにかく組織が大きく対象従業員数が多いのが特徴です。
印象に残った点:
- 各組織にDX Lead(旗振り役)を配置
- AIエージェント階層モデル(LV0〜LV3)で数多くの課題を体系的に解決
- エージェントファクトリーによる標準テンプレート化
感想・学び:
1スライドの情報量やプレゼンから金融系感をひしひしと感じました。制約が多くエンジニアにとって不自由なイメージを持っていましたが、その制約を満たしつつ自由に開発できる環境づくりを根本から目指しており、興味深いアプローチでありイメージがかなり向上しました。
他の発表企業の多くは商品を売るためのプレゼンが主ですが、金融系はいかに信頼できるかをプレゼンするため、このような文化の違いになっているのではと思いました。
📷 スライド写真(6枚)
デジタル戦略部の職種一覧 - 金融系特有の制約に加え、とにかく組織が大きく対象従業員数が多いのが特徴
DXタスクフォース運用モデル - 各組織にDX Lead(DXの旗振り)を配置しているのが良い点
AIエージェント管理の考え方:品質・コスト・在庫・アクセス権限の4本柱
AIエージェント階層モデル(LV0オーケストレーター〜LV3サブタスク) - 階層モデル思想が新鮮
AIエージェント量産の課題と目指す世界観:エージェントファクトリーによる標準テンプレート化
エージェントファクトリーの構成:ノーコード+コード開発、Amazon Bedrock AgentCore・Dify活用
SPONSOR昼 — ビズリーチ「AI駆動開発が変える、大規模開発の前提」
登壇者: 外山 英幸(ビズリーチ CTO)
発表概要
スライド: https://speakerdeck.com/visional_engineering_and_design/aie2026
印象に残った点:
- Codexトークン使用量:ユーザー当たり平均も総使用量もトップ
- HOTL型組織はPR数の観点で桁違いの成果
- AI駆動開発の統治構造「三権分立」モデル(立法AI・司法AI・行政AI)
感想・学び:
CTOの発表で、とても本質をとらえた内容でした。組織自体が魅力的に映る発表です。三権分立モデルはAI駆動開発のガバナンスとして秀逸な抽象化だと感じました。ハーネスエンジニアリングに挑戦する姿勢が足りなかったと痛感したので、今後は優先度を上げて私どもも検証することを決定しました。
📷 スライド写真(4枚)
Codexトークン使用量:ユーザー当たり平均も総使用量もトップ。両方トップはすごい
HOTL型組織はPR数の観点で桁違いの成果を出している
AI駆動開発の統治構造「三権分立」:立法AI・司法AI・行政AIによる権力分立モデル
三権の中身:憲法に基づく立法(ルール)・司法(チェック)・行政(ワークフロー/スキル)
SPECIAL① — グーグル合同会社「Google検索/マップ/ベクトル検索を統合したリアルタイムAIエージェント」
登壇者: 佐藤 一憲(グーグル合同会社)
LLMには学習期間があり構造的にデータの限界があります。だからこそ今の知識を注入するグラウンディング(Grounding)が重要という話です。Google検索・Googleマップ・ベクトル検索を統合したリアルタイムAIエージェントの実演がありました。
Why Grounding? - LLMをリアルタイムデータソースに接続しGoogle検索で検証可能な回答を生成
感想・学び:
グラウンディングの必要性を「構造的な限界への対応」として明確に位置づけている点が分かりやすかったです。検索とMapの組み合わせによる実演は説得力がありました。
SPECIAL② — エーアイ・アンド「エージェント時代における推論構造、OSSモデルからDCまで」
登壇者: 原 信平(エーアイ・アンド)
AIのパフォーマンス向上をハードウェアからアプローチする企業の話です。
印象に残った点:
- PrefillとDecodeで求められる物理的制約が異なる(並列数 vs メモリ)
- 異なるGPUベンダーを役割分担させるHeterogenous Clusters
- 1人100エージェント×1.2億人 → 1日10京トークン・1TW電力が必要
感想・学び:
AIの処理によって求められる物理的制約が異なるという話がとても面白かったです。例えば読む部分(Prefill)は並列数がボトルネックになり、書く部分(Decode)はメモリがボトルネックになります。1つのGPUでは各過程がそれぞれボトルネックになりますが、複数のGPUを並列に使って役割分担させることで効率化できます。さらにGPU自体に注目しても既存の組み合わせが最適でないことに着目し、シリコンレベルでも改善が見えていることを示していました。
そもそも来るだろうと言われている未来が実現した時に電力が全然足りないという指摘は、聞いてみれば納得ですがソフトウェアエンジニアとしては完全に盲点でした。ハードウェアの話を聞く機会はなかなかないので、非常に収穫の大きいセッションでした。
📷 スライド写真(6枚)
Layer 1 - Model Quantization:量子化によるメモリ削減とスループット向上(16/8/4bit比較)
Layer 2 Engine - PD Disaggregation:PrefillとDecodeを分離するDisaggregated Serving
Layer 3 - Silicon:H100/H200/MI300Xスペック比較、ボトルネックに合わせたシリコン選択
Layer 3 Silicon - Heterogenous Clusters:PrefillとDecodeで異なるGPUベンダーを使い分け
Co-Design / Bounding Box:DC・Silicon・Engine・Modelの4層それぞれが定義する制約
日本で1人100エージェント×1.2億人=1,200億エージェント、1日10京トークン・10億B300サーバー・1TW電力が必要
SPONSOR午後② — Legalscape「業界特化AIで真似できない強みをどう作るか?」
登壇者: 富田 晃弘(Legalscape)
法律関係のデータを扱う企業。AI Agent時代の「価値」についての再考がテーマ。
印象に残った点:
- 「Claudeでよくない?」になる日が近い — AI Agent時代のMoatとは
- ドメイン知識 = 人間の中にある言語化されていない暗黙知ではないか
感想・学び:
暫定定義に従って推論を進めるも、本当は人間の中にある言語化できていない暗黙知こそがドメイン知識ではないかという考察が非常に興味深かったです。「Claudeでよくない?」問題に対する本質的な回答を模索している姿勢が良いと感じました。
📷 スライド写真(5枚)
技術革新の不都合な側面:「Claudeでよくない?」になる日が近い、AI Agent時代のMoat
AIサービスの価値の整理:アプリ(UI/UX)・AI・データの3層構造
Moatをたらしめる:ドメインに適合する形で実現・改善していく必要
「ドメイン知識」とは:RAGで外側から与えられる業界特有のデータ、RAG精度評価パイプライン
本当に重要なドメイン知識は暗黙知ではないか:形式知から専門家の判断にある言語化されていない知へ
KEYNOTE — OpenAI Japan「Forward Deployed Engineering at OpenAI」
登壇者: Ryan Cain / Sean Saito(OpenAI Japan)
2日間の締めのKeynoteにふさわしい良い講演でした。モデルを作っている企業が今何を考えているかを知れて良かったです。
次世代エンジニアに求められる4工程(課題選定→顧客理解→仕組み作り→学びの還元)— コードを書く・読むではなく、この動きこそが役割になる
セッション後に少しお話を伺ったところ、モデルの性能は十分良くなってきているので、今後はエージェント等を通じてどう価値につなげるかに力を入れていきたいという印象を受けました。FBループの構築が鍵になりそうだなと感じました。
感想・学び:
「モデルの改善」と「モデルを使った価値創造」のどちらに注力するかという問いに対して、後者の方向性を肌で感じ取れたことは、現場のエンジニアとして方向性を決める上で非常に参考になりました。まずはFBループの構築に挑戦したいと考えています。
スポンサーブース
出展ブースを可能な限り回りました。各企業の概要と印象をまとめます。
スポンサーブース一覧マップ。以下クリックで開きます。
💎 Diamond — アシュアード / Google Cloud / みずほ / ちゅらデータ / オーティファイ
Diamond
アシュアード
yamoryという脆弱性管理サービスを押し出していました。経営層に「リスク管理できていますか」からアプローチして導入につなげるケースが多いとのこと。技術者だけでなく経営層への訴求が刺さる領域です。
グーグル・クラウド・ジャパン
セッションで詳述(SPECIAL①参照)。
みずほFG
セッションで詳述(SPONSOR午前①参照)。
ちゅらデータ
沖縄のデータを中心に扱う企業。顧客の課題解決に寄り添う過程で、最近はAIエージェント提供機会が多いとのこと。エージェントを作って納品するよりも、低コストでAIエージェントが作れる環境自体を提供する方が好感触という話が印象的でした。データに関しては顧客次第でツールが変わるので、結局全般詳しくなるそうです。
📄 スライド
オーティファイ
セッションで詳述(SPONSOR午前①参照)。
🥇 Platinum — Greptile / ClickHouse / アリババクラウド / Glean
Platinum
Greptile
GitHub連携でレビューやテスト実行を行ってくれるサービスです。弊社は内製化できているので恩恵を感じつつ、サービスとしては導入しやすく需要がありそうに感じました。
ClickHouse
データを扱う企業で、AI時代のデータ処理に取り組んでいます。「ClickHouseさんが取り組んでいる内容が今後業界スタンダードになると見ている」と他の出展企業の方が話していたのが一番印象的でした。業界内での評価が高いです。
アリババクラウド・ジャパンサービス
AmazonにおけるAWS的な立ち位置のアリババの企業。中国国内は他の国とかなり違うところが多く、シンガポールにも本拠地を置いてその日本版とのこと。AIエージェントに注力しており、テキストだけでなく動画・画像・音声など様々なmodelを切り替えられるのが売り。
ただmodelが中国製のみ選択可能で、日本市場だとネック。中国国内で使えるmodelが少ないのが要因で、逆もまたしかり。一方で性能面ではアジアのデータが学習データの中心のため、日本語処理は中国製の方がより自然という分析もあり、コスト・性能面でメリットも感じました。国内ではまだ情報が少ないので近いうちに試してみたいです。
Glean Technologies
エージェントを作成するプラットフォームを展開。セキュリティ面と社内の分散した情報の結合に強みがあると感じました。
🥈 Gold — JAPAN AI / estie / Belong / kickflow / MNTSQ / カカクコム / ENSAPIA
Gold
JAPAN AI
日本にフォーカスしたAIがコンセプト。同じ文脈は去年NICTのイベントに参加したときにも聞いた話で(参考)、日本という国にローカライズすることは国としての重要な要素だと思います。
estie
不動産情報、特に事業用不動産を商材として扱い、デベロッパーの意思決定に需要があります。AI時代においてはデータが重要であり、事業用のデータはかなり希少なので、足で集めるデータ自体にそもそも大きな価値があります。
Belong
スマホを買い取って再販する事業。海外に流すパイプが強く、どこの国かは企業秘密とのこと。聞いている以上にiPhoneは国内で人気で、思った以上に海外では売れないそうです。
📄 スライド
kickflow
ワークフローのシステムを提供する企業。AIや外部提携など改善が進められており、かなり需要がありそうなイケているシステムだと感じました。
📄 スライド
MNTSQ
社内にジムがあり、マッスル推しの異色なブース。法務に特化したシステムを提供しており、属人化を軽減するアプローチはかなり納得感がありました。
カカクコム
セッションで詳述(SPONSOR午後②参照)。
📄 スライド
ENSAPIA
セッションで詳述(SPONSOR午前②参照)。
📄 スライド
🥉 Silver — LITALICO / リチェルカ / HERP / Fivetran / Legalscape
Silver
LITALICO
事業所を経営しているのが元の企業なので、ソフトウェア開発なのに現場がとても近いのが特徴です。現場のニーズを反映して開発したソフトウェアを、ニーズが合うクライアントに提供しており、改善サイクルが非常に理にかなっています。
リチェルカ
自分の事業で大変なことを解決したくて作ったソフトウェアから始まった会社。強みが背景由来で、OCRの精度がかなり高水準とのこと。最近個人的にOCRを試してその精度を上げる難しさを痛感したので、自分の負を解消するサービスに個人の強みを加える成長の仕方はとても好印象で理想的だと感じました。
📄 スライド
HERP
人事業務に焦点をあてた企業。特に競合サービスがいないプロダクトが印象的でした。領域を絞り、さらに既存に存在しないサービスを見つけることができれば、まだまだ価値を世に出す余地は広いと感じました。
📄 スライド
Fivetran
データ関連の連携に特化したサービス。自分もデータに関わることが多いので煩雑さは理解していますが、それだけに他人に説明するのが難しいなと思いました。さまざまなデータフォーマットやサービスが存在するので、網羅するサービス開発は更新も大変そうです。
Legalscape
セッションで詳述(SPONSOR午後②参照)。
🏢 Exhibition・その他 — ハンディ / renue / PAY / HHKB / Flitto
Exhibition
ハンディ
高校の就労管理システムを手がける成長中の企業。高校の現状は少し知っているだけに課題感にとても共感しました。ビジネスモデルが広告収入中心と聞いて、ずいぶん良心的だなと感じました。就労斡旋が関係しているそうです。大変ですがメスを入れていきたい領域です。事業自体好調とのことでなによりです。
renue
FDEモデルの王道を行く企業で、直近とても成長率が高いです。人材がとにかくほしいフェーズで採用のために出展とのこと。業務内容を聞いて絶対需要過多だろうと思ったら、案の定お客様を常に待たせている状態だそうです。上場していたら絶対投資したいと思いました。
PAY
開発者向けに設計された決済代行サービスです。AIの発展で個人事業主としてのサービス展開の敷居がかなり低くなっている中、決済領域はまだハードルとして残ります。まさに渡りに舟となるサービスです。近い未来使う側になるかもしれません。
その他
HHKB by PFU
キーボードを展開して今年30周年ということで記念キーボードも紹介していました。こだわりやユニークな入力機能の説明もあり、最近分割キーボードを使い始めたので共感も多かったです。
Flitto
同時翻訳をサービスにしている韓国発の企業で、当日の英語セッションでも使用されていました。翻訳精度が高く、話を聞いてみたところmodel自体が内製とのこと。汎用モデルよりも歴史がある分精度が高いのかもしれません。
現在は聞き取りに自製モデルを使い、それを自然言語に変換するところを汎用LLMで処理しています。サービスとしてはリアルイベントでの提供が売りで、人も派遣して自動リアルタイム翻訳を都度より自然な言語に修正するところまで提供しています。人を使う分コストはかかりますが精度も高くなり、通訳を雇うよりもコストカットできる現場も少なくないとのことです。
全体の所感
横断的トレンド
- もはや誰一人コードを書いていない: 登壇者全員がAIによるコード生成を前提とした開発を実践しており、手書きコードの時代は終わったと実感
- FDE(Forward Deployed Engineering)の浸透: OpenAI、renue、ビズリーチなど、顧客の課題に深く入り込んで価値を届けるモデルが主流に
- エージェントの「本番運用」フェーズ: 作って終わりではなく、評価・観測・自己改善のループが必須
- 評価(Eval)が先決: Arize AI、カカクコムなど、良い出力と悪い出力を定義する仕組みがなければ始まらない
- 組織変革とAI前提設計: ENSAPIA(評価制度転換)、カカクコム(行動原則)、ビズリーチ(三権分立)など
感じたこと
2日間のセッションで語られたのは、評価・組織設計・フィードバックループといったコーディングの上位にある話ばかりで、誰もコードを書く話をしていませんでした。日頃感じていた「コードを書いている場合ではない」という肌感覚が社外でも共有されていることを確認できたのは、一つの収穫です。まずはFBループの機構設計から着手しようと思いました。
一方で、LLMを使うと脳がほとんど働いていないという脳波研究の結果は衝撃的でした。コードを書かない時代に、ジュニアエンジニアはどう育つのか。うすうす感じていた問題が科学的に裏付けられつつあり、危機感を覚えます。大学院でコンピュータサイエンスを学んだ身としては基礎の重要性は身をもって感じていますが、業界全体として本格的な対策はもう少し先になりそうです。
組織で変化を推進する上では、「説得ではなく結果で示す」 が刺さりました。「3ヶ月で退役しても、その期間の価値は十分ある」 という評価軸も、変化の早いAIエージェント時代にふさわしい判断基準です。ハーネスエンジニアリングへの取り組みを見て、自分たちも優先度を上げて検証することを決定しました。
技術面では、「1人100エージェント×1.2億人の世界では電力が全然足りない」という指摘がソフトウェアエンジニアとしては盲点でした。普段はモデルの性能やアプリケーションの設計ばかり考えていますが、その土台となるシリコンや電力の制約はソフトウェアだけでは解決できません。大学院ではコンピュータサイエンスの中でもアナログとデジタルの変換部分、トランジスタや電子回路を研究していたので、これもコンピュータサイエンスだよなと感じつつ、ハードウェアレイヤーの動向にもアンテナを張る必要があると感じました。確かに製品というパッケージで物事を考えがちですが、分解するともっと最適化できる余地はたくさんあります。
また、**「人間の中にある言語化されていない判断こそが本当のドメイン知識ではないか」**という問いは本質的です。形式知はいずれ誰でもRAGで扱えるようになります。そうなったとき、差別化の源泉は暗黙知にしかありません。自分の負を解消するところから始まったサービスも多く、こういった当事者意識はAIに代えがたい重要な要素であることを体感しました。
また、ブースでの情報交換から後日社外MTGを開催するに至りました。イベント参加の価値はこういう具体的な行動につながるところにあります。
これまであまり関心がなかった中国製モデルについても、アリババクラウドの話を聞いてみると、アジアのデータが学習の中心にあるため日本語処理が自然だという分析もあり、食わず嫌いせず一度試してみようと思いました。
おわりに
このイベントは、エンジニアのイベントを頻繁に開催しているFindyとして最大規模となったとのこと。それだけ興味をそそる内容でしたし、タイミングも良かったのだろうと思います。あんなに満席で、あんなにスライドに集中している人が多いイベントはこれまで見たことがありませんでした。
AI活用の成熟度が上がるほど、関心は「ツール導入」から「組織・プロセス変革」へ、さらに「事業成果への接続」へと段階的に移行する(Findy調査 2026年3月、n=157)
このパネルを見て改めて思います。AI活用度によって組織が注力すべきテーマは異なりますが、どのフェーズにいても「次の一手」はあります。あなたの企業は今、どのテーマに向き合っていますか?