シリーズ概要:コンテキストエンジニアリング完全マスター
本記事は「コンテキストエンジニアリング完全マスター」シリーズの第1回です。
シリーズ構成
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第1回(本記事):AIが迷わない情報設計術 - ファイル名を一括変更する魔法のコマンド
- AIと人間の両方が理解しやすいファイル名への自動変換
- Deep Research結果の効率的な管理手法
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第2回:DeepResearchから永久ノートへ
- 複数AIのDeepResearch結果を統合・分析
- 永久ノート作成プロンプトの公開
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第3回:知識が芋づる式につながるMOC戦略
- Map of Contents(MOC)で断片的な情報を体系的な知識に変換
- MOC整理用プロンプトの公開
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第4回:プロンプトをファイル管理する最強メソッド
- マークダウン形式でプロンプトを保存・管理
- 生産性を劇的に向上させる管理体系
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第5回:Claude Codeの限界を突破
- MCP×Geminiでマルチエージェント体制構築
- 設定ファイルと連携プロンプト公開
エグゼクティブサマリー
Claude CodeやCodex CLI、Gemini CLIなどのAIツールは、ファイル名を手がかりにコンテンツを探索することが多い印象です。「report_final.pdf」や「エグゼクティブサマリー.md」のような抽象的な名前では、AIはそもそもファイルを確認してくれない、もしくは内容を把握するために全ファイルを開く必要があり、処理時間とトークンを浪費することになります。
本記事では、AIと人間の両方が理解しやすいファイル名に自動変換するプロンプトを公開します。特にDeep Research結果など、AIが生成したファイルの改名に効果的で、Obsidianの既存リンクを破壊しない手順を構築することにより、知識管理システムを維持しながら検索性を劇的に向上させます。
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はじめに
なぜファイル名がAI活用の鍵なのか
生成AIを業務で活用する際、基本的でありながら見落とされがちなのが「ファイル名」です。Claude Codeを使って気づいたのは、AIも人間と同じように、まずファイル名から内容を推測しようとする傾向があることです。
適切なファイル名は、AIにとっての「地図」となると私は考えています。この地図が不正確だと、AIは目的地にたどり着くために、多くのファイルを確認する必要が生じることがあります。結果として、検索時間の増大、トークンの浪費、そして最悪の場合は必要な情報を見逃すことになります。
本記事で紹介するプロンプトは、この問題を根本から解決します。
背景と課題設定
現状の課題:AIがファイルを見つけられない
技術的な制約
AIツールがファイルを探索する際の挙動を観察すると、以下のようなパターンが見られることがあります。
- ファイル名による一次スクリーニング:AIはまずファイル名から関連性を判断することがある
- 内容確認の優先順位付け:関連しそうなファイル名から順に内容を確認する傾向がある
- 一部のファイルが未確認:何らかの理由で、すべてのファイルを確認しないケースがある
つまり、不適切なファイル名は「AIから見つけにくい情報」を生み出している可能性があります。
ビジネスへの影響
この問題は、技術的な非効率にとどまらない可能性があります。
- 生産性の低下:情報検索に多くの時間が消費される
- 知識資産の埋没:作成した文書が再利用されない
- AIツール活用の非効率:導入したAIツールの性能を十分に引き出せない
理想の状態:AIと人間が共に理解できる命名体系
理想的な状態では、ファイル名を見ただけで以下のような効果が期待できます。
- AIが内容の大部分を把握しやすくなる
- 人間も直感的に内容を理解できる
- 検索精度の向上が期待できる
- 処理時間とトークン消費の削減が見込める
ソリューション設計
全体アーキテクチャ
本ソリューションの核心は「日付+自然言語による構造化命名」です。
例えば、Deep Researchで生成された「エグゼクティブサマリー.md」や「report_final.pdf」といった抽象的なファイル名が、以下のように変換されます。
変換前
- エグゼクティブサマリー.md
- report_final.md
- 調査結果.md
変換後
- 2025-08-31_生成AIを活用した業務自動化の実践ガイド.md
- 2025-08-31_Claude APIによるRAGシステムの構築手法.md
- 2025-08-31_競合他社のAI活用事例と導入戦略の分析.md
命名規則の構成
YYYY-MM-DD_[内容を表す自然な日本語文].[拡張子]
- 日付部分:ファイル作成日(プロンプト実行日)を自動的に付与
- アンダースコア:日付と内容の区切り文字(1つのみ)
- 内容部分:ファイルの中身を分析して生成された、意味の通る日本語文章
- 拡張子:元のファイルの拡張子をそのまま維持
この命名規則により、ファイル名だけで「いつ作成され、何について書かれているか」が一目瞭然になります。
設計原則
- 日付の先頭配置:時系列での並び替えを可能に
- 自然言語での説明:キーワード羅列ではなく、意味の通る文章
- 既存ファイルの保護:すでに本プロンプトで変更済みのファイル(YYYY-MM-DD形式で始まる)は自動除外し、二重変更を防止
- 内容の不変性:ファイルの中身は一切変更しない
対象範囲の戦略的限定
重要なのは、すべてのファイルを対象にしないことです。
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推奨対象:
30_Literature/配下のDeep Research結果 - 非推奨対象:自作文書、手動管理されているファイル
- 自動除外:YYYY-MM-DD形式で始まるファイル(すでに本プロンプトで変更済みのため、二重変更を防止)
🚨 重要:フォルダ分離による安全運用
自分が作成している文書とDeep Researchの結果は、必ず別のフォルダで管理することを強く推奨します。 同じフォルダに混在させると、このプロンプトを実行した際に思わぬ事故を招く可能性があります。
推奨するフォルダ構成(一部抜粋)
ObsidianNotes/
├── 30_Literature/ # 外部情報源(プロンプト対象)
│ ├── 10_ClaudeResearch/
│ ├── 20_GeminiDeepResearch/ ← ここが対象
│ ├── 30_ChatGPTDeepResearch/
│ ├── 40_PerplexityResearch/
│ └── 50_Web/ # Web記事・参考文献
│
└── 60_Projects/ # 自作文書用(プロンプト対象外)
└── [各プロジェクト]/
├── 10_Temp/ # 作業メモ
├── 20_Draft/ # 下書き
└── 30_Contents/ # 最終成果物
なぜこの分離が重要か
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30_Literature/:AI生成結果、Web記事、参考文献など外部から収集した情報を集約。ファイル名の一括変更が安全 -
60_Projects/:自分が執筆・編集する文書を管理。個人的な命名規則を保護
この分離により、誤って作業中の大切なファイルを改名してしまうリスクをゼロにできます。
📝 詳細なフォルダ構成については、以下の記事で解説しています
Claude Code × Obsidianで実現するコンテキストエンジニアリング ― AI駆動文書作成環境の構築
実行手順:3ステップで完了
適切なファイル名管理を実現するために、以下の手順で進めることを推奨します。
Step 1: Deep Researchのローカル保存
- Gemini、ChatGPT、Claude等でDeep Researchを実施
-
30_Literature/20_GeminiDeepResearch/等の適切なフォルダに保存- この時点ではファイル名は「エグゼクティブサマリー.md」等でもOK
Step 2: プロンプトを実行してファイル名変更
- Claude Codeで新しいセッションを開始
- 本記事のプロンプトをコピー&ペースト
- 実行を確認し、ファイル名の一括変更を実施
- 変更内容を確認しながら進めることを推奨
Step 3: ObsidianリンクとMOC整理
- ファイル名変更が完了してから、Obsidianでファイルを開く
- 必要に応じて他のノートから[[リンク]]を作成
- 関連するMOC(Map of Contents)に追加
- 重要:リンク作成は必ずファイル名変更後に実施
この順番を守ることで、Obsidianのリンク切れを防ぎ、効率的な知識管理が実現できます。
実装詳細:完全版プロンプト
メインプロンプト(コピー&ペースト可能)
あなたは、ドキュメント分析とファイル命名の専門家です。
指定フォルダ内のファイル名を、内容を正確に反映した検索性と可読性の高い名前に変更します。
<important_rules>
- ファイルの内容は一切変更しない(ファイル名のみ変更)
- 対象フォルダ:「30_Literature/20_GeminiDeepResearch」
- ファイル内容を完全に読み込んでから命名する
- 除外対象:ファイル名冒頭がYYYY-MM-DD形式の日付で始まるファイル(既に命名変更済みのため)
</important_rules>
<task>
以下の手順で各ファイルを処理してください。
<steps>
1. フォルダ内の全ファイルをリストアップ
2. ファイル名が「YYYY-MM-DD」形式の日付で始まるものを除外(例:2024-12-16_で始まるファイル)
3. 残りの各ファイルの内容を完全に読み込む(長い場合は分割読み込み)
4. 内容を分析し、重要キーワードを抽出
5. 新しいファイル名を生成
6. ファイル名を変更(内容は変更しない)
</steps>
<naming_convention>
形式:[日付]_[内容を表す自然な日本語文].[拡張子]
命名ルール
- 日付:今日の日付をYYYY-MM-DD形式で必ず先頭に付加
- 日付の後は1つのアンダースコアのみ使用
- その後は自然な日本語の文章として内容を表現
- キーワードの羅列ではなく、文書の内容を端的に説明する文章にする
- 助詞(の、における、に関する、による、のための等)を適切に使用
- 長さは50文字程度を目安(拡張子除く)
良い例
✅ 2025-08-31_Claude CodeによるPython開発の実践ガイド.pdf
✅ 2025-08-31_生成AI時代における教育心理学の新たな展開.docx
✅ 2025-08-31_ObsidianとClaudeを連携させたナレッジ管理手法.md
悪い例
❌ 2025-08-31_Claude_Code_Python_開発_ガイド.pdf(キーワードの羅列)
❌ 2025-08-31_生成AI_教育心理学_展開.docx(文章になっていない)
❌ 2025-08-31_Obsidian_Claude_連携_ナレッジ.md(断片的)
文章構成のパターン
1. [主題]に関する[観点/手法]
2. [主題]のための[目的/用途]
3. [主題]における[特徴/側面]
4. [主題]による[成果/影響]
5. [対象]向けの[主題]
</naming_convention>
<keyword_extraction>
以下の種類のキーワードを優先的に抽出
- サービス名・製品名(Claude、ChatGPT、Obsidian等)
- 専門用語・概念(生成AI、プロンプトエンジニアリング等)
- 学問分野(教育心理学、データサイエンス等)
- 技術・手法(RAG、Fine-tuning、Chain-of-Thought等)
- 時代・文脈(生成AI時代、DX推進等)
</keyword_extraction>
<exclusion_rules>
以下のファイルは処理対象から除外
- ファイル名が「YYYY-MM-DD」形式で始まるもの(正規表現:^\d{4}-\d{2}-\d{2}_)
- 例:2025-08-31_Claude_研究.pdf → スキップ(既に命名規則適用済み)
- 例:report_2024.pdf → 処理対象(日付が先頭にない)
- 例:20250831_report.pdf → 処理対象(YYYY-MM-DD形式ではない)
</exclusion_rules>
<file_reading_strategy>
- 通常のファイル:全内容を一度に読み込み
- 長大なファイル:以下の方法で分割読み込み
1. 最初の1000行を読んで概要把握
2. 中間部分をサンプリング(500行ずつ3箇所)
3. 最後の500行で結論確認
4. 必要に応じて追加箇所を読み込み
- 読み取り不可ファイル:スキップして次へ(ログに記録)
</file_reading_strategy>
<duplicate_handling>
同名ファイルが生成される場合
1. 両ファイルの内容を詳細に比較
2. 差異を特定(バージョン、詳細度、観点等)
3. 差異を反映した異なる文章表現で命名
例
- 2025-08-31_Claude Code初心者のための基本ガイド.pdf
- 2025-08-31_Claude Codeの上級テクニックと実装例.pdf
</duplicate_handling>
<output_format>
処理結果を以下の形式で出力
## 処理サマリー
- 処理対象ファイル数:X件
- 正常処理:Y件
- 除外(既に命名済み):W件
- スキップ(読み取り不可):Z件
## ファイル名変更リスト
<file_rename>
番号:1
元ファイル名:[original_name]
新ファイル名:[new_name]
抽出キーワード:[keyword1, keyword2, keyword3...]
内容要約(50字以内):[summary]
</file_rename>
## 除外ファイル(既に命名規則適用済み)
- 2025-08-30_Claude APIを活用した実装ガイド.pdf
- 2025-08-29_Obsidianプラグイン開発の実践.md
(その他、YYYY-MM-DD形式で始まる全ファイル)
## スキップファイル(読み取り不可)
- ファイル名:[理由]
## 実行コマンド
以下のコマンドで名前変更を実行します。
mv "元ファイル名" "新ファイル名"
</output_format>
<thinking>
各ファイルについて、命名前に以下を考慮
- このファイルを3ヶ月後に探す時、どんなキーワードで検索するか?
- 同じフォルダ内の他ファイルとどう差別化するか?
- ファイル名だけで内容の8割が推測できるか?
- 重要な固有名詞(特にサービス名)は漏れていないか?
- 日本語として自然な文章になっているか?
- キーワードの羅列ではなく、意味の通る文になっているか?
</thinking>
処理を開始してよろしいですか?確認後、フォルダ内のファイル処理を始めます。
カスタマイズ方法
フォルダパスの変更(2箇所のみ)
-
<important_rules>内の対象フォルダ指定 - 処理開始時の確認メッセージ内のフォルダパス
例:ChatGPT Deep Researchフォルダを対象にする場合
- 対象フォルダ:「30_Literature/30_ChatGPTDeepResearch」
使用時の注意事項
安全な運用のために
1. 段階的な実行
- まず1-2ファイルでテスト
- 結果を確認してから全体に適用
2. Claude Codeの設定
- 不安な場合は自動承認を無効化
- 各変更を確認してから承認
3. 日付の取得について
- 日付が正しく取得されない場合は「システム日付を取得してファイル名に反映してください」と入力してみてください
- これにより、Claude Codeが明示的にシステム日付を確認して使用します
実践的なTips
成功のポイント
1. リンク作成のタイミング
Obsidianでリンクを作成する際は、必ずファイル名変更後に行います。これにより、
- リンク切れを防止
- MOC体系を維持
- 後からの変更リスクを回避
2. 定期的な実行
Deep Researchを実施するたびに、このプロンプトを実行することで、
- 命名規則の一貫性を維持
- 知識ベースの品質を保証
- 検索性を常に最適化
トラブルシューティング
ファイルが読み込めない場合
- 文字エンコーディングを確認(UTF-8推奨)
- ファイル権限を確認
同名ファイルが生成される場合
プロンプトは差異を特定し、異なる文章表現で命名するよう設計されています。
ビジネスインパクト
投資対効果(ROI)
本ソリューションの特徴は、投資がほぼゼロであることです。
- 初期投資:最小限(プロンプト実行のみ)
- 必要スキル:Claude Codeの基本操作のみ
- 実装期間:即日適用可能
一方で、得られる効果は、
- 情報検索時間の大幅削減
- AI活用効率の向上
- 知識資産の再利用率向上
組織への波及効果
個人の生産性向上を超えて、組織全体に以下の効果が波及します。
- 知識共有の活性化:ファイル名から内容が推測可能に
- 新人立ち上がりの短縮:必要な情報にすぐアクセス
- AI活用文化の醸成:成功体験による普及促進
まとめと次のアクション
今すぐできる3つのステップ
- プロンプトをコピーして、Claude Codeで実行
- 1つのフォルダで効果を体験
- 効果測定して、チームに共有
終わりに
ファイル名という、一見些細な要素が、AI活用の効率に大きな影響を与える可能性があります。本記事で紹介したプロンプトは、この課題に対する実践的な解答です。
重要なのは、完璧を求めず、まず始めることです。Deep Researchフォルダから始めて、効果を実感したら徐々に範囲を広げていく。この段階的アプローチが、持続可能な改善につながります。
AIと人間が共に働く時代において、両者が理解できる「共通言語」としてのファイル名。その重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
⚠️ 重要な注意事項:プロンプトの実行の際は、ファイル名が大きく変わるため、また、生成AIが予期しない挙動をする可能性があるため、必ずバックアップなどを取得して試してみてください。
参考情報
本記事で紹介したプロンプトは、筆者の実環境で日々使用しているものです。フィードバックや改善提案は、ぜひコメント欄でお聞かせください。
更新履歴
- 2025-09-01 - 初版公開
著者について
コンサルティングファームで生成AI・システム導入などのプロジェクトマネジメント支援に従事。「ナレッジワーカーを幸せにする」をミッションに、知識管理と生産性向上の実践手法を発信中。
関連リンク
- Claude Code公式ドキュメント
- Obsidian公式サイト
- Zettelkasten × Obsidianで実現する創発的パーソナルナレッジマネジメント
- Claude Code × Obsidianで実現するコンテキストエンジニアリング
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