シリーズ概要:2回で構築するAI時代の知識管理システム
本記事は「生成AI時代における最強のパーソナルナレッジマネジメント環境」シリーズの第2回です。
シリーズ構成:
-
第1回:Zettelkasten × Obsidianで知識基盤を構築
- 知識を体系的に蓄積・整理する仕組みづくり
- あなたの思考を拡張する「第二の脳」を構築
-
第2回(本記事):Claude Code × Obsidianでコンテキストエンジニアリングを実現
- AIのコンテキスト喪失問題を根本的に解決
- 文書作成時間を大幅に削減する実践的ワークフロー
前回からの接続:
第1回で構築したフォルダ構造(10_Daily/
、20_Inbox/
、40_Permanent/
、50_MOC/
等)を、Claude Codeが直接操作し、あなたの「第二の脳」をAIエージェントが拡張します。
エグゼクティブサマリー
経営視点:文書作成時間を大幅に削減し、知識の再利用率を向上。Claude Pro月額20ドル(約3,000円)で試用可能、本格導入ならClaude Max月額200ドル(約30,000円)の投資で、ナレッジワーカーの生産性を変革。
技術視点:コンテキストエンジニアリングにより、AIのコンテキスト喪失問題を根本的に解決。フォルダ構造、MOCファイル、CLAUDE.mdファイルを中心としたファイル管理ルールで知識ベース全体のコンテキストを永続化。
投資判断:初期環境構築に半日〜1日(Claude Codeインストール、Obsidian設定、フォルダ構造作成、CLAUDE.md作成)。ただし第1回で構築済みの場合は1-2時間で統合可能。
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1. はじめに:コンテキストエンジニアリングが解決する問題
「AIに毎回同じプロジェクトの説明をしている」「ChatGPTのスレッドを変えるたびにコンテキストを失う」「過去の知識資産がAIに活用されない」―これらはすべてAIに永続的なコンテキストを与えられなかったことが原因です。
ChatGPTやClaudeなどのWeb型AIツールは優秀ですが、基本的にスレッドごとに独立した状態です。スレッドが変わるたびにコンテキストを失い、ファイル操作は手動、文書管理とは完全に分断されています。
本記事では、ターミナル型AIエージェントであるClaude Codeの登場により可能になったコンテキストエンジニアリングという新しいアプローチで、これらの問題を根本的に解決する方法を解説します。
読了後、あなたは以下が実現できるようになります:
- AIのコンテキストを永続化し、スレッド間で継続的な作業を実現
- 過去の知識資産を自動的に活用する仕組みを構築
- 文書作成時間を大幅に削減する実践的ワークフローを導入
2. コンテキストエンジニアリングとは何か?
定義と重要性
コンテキストエンジニアリングとは、生成AIに対して適切な背景情報や必要情報を設計・提供・管理することで、より効果的な応答と継続的な作業を可能にする技術的アプローチです。
従来のプロンプトエンジニアリングが「質問や指示の仕方」に焦点を当てるのに対し、コンテキストエンジニアリングは「質問や指示の仕方」に加え、より広範な「背景知識の管理」にも焦点を当てます。
なぜ今、コンテキストエンジニアリングが必要なのか
ターミナル型AIエージェントの登場:
- Claude Codeのようなターミナル型AIエージェントがローカルファイルを直接操作可能に
- AIが実際の作業環境にアクセスできるようになった
- AIにも分かりやすいようにフォルダや文書管理を行う必要が出てきた
人間とAIのペアワークで求められる要件:
- 人間もAIも理解できる統一されたフォルダ構造
- スレッドを跨いだ継続的な作業の実現
- 過去の知識を両者が活用できる仕組み
コンテキストエンジニアリングの3つの要素
-
コンテキストの設計(Context Design)
- フォルダ構造による情報整理
- 知識の体系化(MOCシステム)
- Claude Code利用時の共通の指示書(CLAUDE.md)
-
コンテキストの永続化(Context Persistence)
- ローカルファイルシステムでの保存
- 人間とAIが共に理解できるフォルダ構造
- 上記によるスレッド間での継続性確保
-
コンテキストの活用(Context Utilization)
- AIによる能動的な情報参照
- 関連知識の動的な抽出
- コンテキストに応じた適応的な応答
3. Claude Codeによるコンテキストエンジニアリングの実装
Claude Codeとは何か?
Claude Codeは、Anthropic社が提供するターミナル型AIエージェントです。従来のチャットボット型AIと異なり、あなたのPC上で直接ファイルを操作できます。
Claude Codeの3つの革新的特徴
1. ターミナル型インターフェース
- 対話履歴がローカルに保存:過去の会話や作業内容が手元に残る
- AIが能動的に情報探索:必要なファイルを自分で見つけ出す(Web型はアップロードファイルのみ)
- サービス障害に強い:実行結果はローカルに保存されているため、サービスが利用不可でも確認可能
2. ローカルファイルの直接操作
- Read:既存ファイルの内容を読み取り
- Write/Edit:ファイルの作成・編集を自動実行
- Grep/Glob:プロジェクト全体から必要な情報を検索
- すべて自動実行され、手動コピペは不要
3. CLAUDE.mdによるコンテキスト保持
- ルートフォルダのCLAUDE.mdファイルを自動参照
- 固有のルールや指示を永続的に保持
- 新しいセッションでも一貫した作業方針で動作
この3つの特徴により、Claude Codeは単なるAIアシスタントではなく、あなたと知識を共有する作業パートナーとして機能します。
4. コンテキストエンジニアリングを支える私のフォルダ構造
実際のObsidianフォルダ構造
コンテキストエンジニアリングを実現するため、構築・改良を重ねて以下のフォルダ構造に辿り着きました:
ObsidianNotes/
├── 00_Rules/ # Obsidian運用ルール・基準
├── 10_Daily/ # 日次ノート(YYYY-MM-DD.md形式)
├── 20_Inbox/ # 一時的な情報キャプチャ
├── 30_Literature/ # AI別リサーチ結果の体系的保存
│ ├── 10_ClaudeResearch/
│ ├── 20_GeminiDeepResearch/
│ ├── 30_ChatGPTDeepResearch/
│ ├── 40_PerplexityResearch/
│ └── 50_WebResearch/
├── 40_Permanent/ # 永久ノート(Zettelkasten)
├── 50_MOC/ # Maps of Content(知識の地図)
├── 60_Projects/ # プロジェクトワークスペース
│ └── [各プロジェクト]/
│ ├── 10_Temp/ # 作業メモ・プロンプト
│ ├── 20_Draft/ # 下書き・分析レポート
│ └── 30_Contents/ # 最終成果物
├── 70_Claude Code/ # 再利用可能なプロンプト集
├── 90_Templates/ # 文書テンプレート
├── 99_Archive/ # アーカイブ
└── CLAUDE.md # Claude Code用永続的指示書
フォルダ構造の設計思想
番号プレフィックスによる情報の流れ:
番号により、情報の流れ(収集→整理→活用)が一目で分かる設計になっています。
プロジェクトフォルダの標準化:
60_Projects/内の各プロジェクトは統一構造を持つことで、Claude Codeが自動的に適切な場所にファイルを配置できる。
この構造により、人間とAIの両方が直感的に理解でき、コンテキストが自然に蓄積される環境を実現しています。
5. MOCによる知識の体系化とコンテキスト管理
MOC(Map of Contents)のコンテキストエンジニアリング的価値
MOC(Map of Contents:コンテンツの地図)は単なる目次ではなく、AIが知識をナビゲートするためのコンテキストマップとして機能します。
コンテキストハブとしてのMOC
# 生成AI市場動向レポートMOC
## 調査の背景と目的
- [[調査要件定義書]]
## リサーチ結果(同じテーマで並列調査)
### 市場規模と成長予測
- [[2025-01-20_市場規模と成長予測_Claude]]
- [[2025-01-20_市場規模と成長予測_Gemini]]
- [[2025-01-20_市場規模と成長予測_ChatGPT]]
- [[2025-01-20_市場規模と成長予測_Perplexity]]
### 技術トレンド分析
- [[2025-01-20_技術トレンド分析_Claude]]
- [[2025-01-20_技術トレンド分析_Gemini]]
- [[2025-01-20_技術トレンド分析_ChatGPT]]
- [[2025-01-20_技術トレンド分析_Perplexity]]
## レポート
- [[2025-01-25_レポート構成]]
- [[2025-01-25_生成AI市場動向レポート_最終版]]
## 参考資料
- [[生成AI汎用ナレッジMOC]]
Claude CodeがMOCを活用する流れ
- コンテキストの把握:レポートMOCから全体像を理解
- 知識の探索:参考資料に記載されているMOCを辿って詳細情報を取得
- 能動的な情報収集:必要に応じて関連MOCやファイルを自ら探索・統合
6. CLAUDE.mdによるコンテキストの設計と永続化
CLAUDE.mdの役割と構造
CLAUDE.mdは、Claude Codeに対して知識ベース全体で共通のコンテキストを提供する永続的な指示書です。これにより、どのプロジェクトでも一貫した作業方法を実現します。
効果的なCLAUDE.mdの構成要素:
# Core Identity & Mission
あなたの役割とこの知識ベースでの目的
# High-Level Architecture
- フォルダ構造と各フォルダの役割
- 知識管理システム(Zettelkasten、MOC)
- 重要なMOCファイルへのパス
# Critical Operating Rules
- ワークフロー(理解→実行→検証→完了)
- ファイル命名規則(YYYY-MM-DD_[Topic]_[Keywords].md)
- 品質基準(日付検証、既存ファイルの編集を優先)
# Common Patterns & Workflows
よく使うコマンドや作業パターン
7. 実践例:コンテキストエンジニアリングを活用したレポート作成
実際の調査・レポート作成フロー
新しいトピックについて調査し、レポートを作成する実際のワークフローを紹介します。
Phase 1:Deep Research(並列調査)
同じプロンプトを複数AIに投げて多角的な視点を獲得:
共通プロンプト:「生成AIの市場動向について、
技術進化と市場規模の観点から分析してください」
→ ChatGPT、Gemini、Claude、Perplexityで同時実行
Phase 2:Obsidianへの保存(体系的整理)
各AIの調査結果を自動的に整理:
30_Literature/
├── 10_ClaudeResearch/
│ └── 2025-01-20_生成AI市場動向分析_Claude.md
├── 20_GeminiDeepResearch/
│ └── 2025-01-20_生成AI市場動向分析_Gemini.md
├── 30_ChatGPTDeepResearch/
│ └── 2025-01-20_生成AI市場動向分析_ChatGPT.md
└── 40_PerplexityResearch/
└── 2025-01-20_生成AI市場動向分析_Perplexity.md
Phase 3:Claude Codeでの統合分析
異なる視点を統合して深い洞察を獲得:
あなた:「今日作成した市場動向の4つのリサーチ結果を読んで、
共通点と相違点を整理してください」
Claude Code:「4つのファイルを分析しました。
共通見解:2025年が転換点、企業導入が加速
相違点:市場規模の予測に幅(10兆円~30兆円)
異なる視点を統合することで、偏りのない包括的な分析結果に」
あなた:「関連する過去の調査結果もあれば参照してください」
Claude Code:「生成AI汎用ナレッジMOCを確認します...
関連する調査を3件発見しました:
- 2024-12-15_生成AI活用事例集
- 2024-11-20_生成AI企業導入の成功要因分析
- 2024-10-10_生成AI市場予測レポート
これらも参考に統合分析を行います」
あなた:「これらを統合して、経営層向けのレポートを作成してください」
Claude Code:「過去の調査結果と今回の4つの調査を統合します。
レポートを作成しました:
60_Projects/市場調査/20_Draft/
└── 2025-01-25_生成AI市場動向レポート.md」
8. コンテキストエンジニアリングがもたらす本質的価値
1. コンテキストの永続性による継続的な知的生産
従来の問題:
- スレッドごとにコンテキストがリセット
- 毎回同じ説明の繰り返し
- 過去の決定事項の喪失
コンテキストエンジニアリングによる解決:
- CLAUDE.mdで知識ベース全体の共通ルールを定義
- 直感的なフォルダ構造で人間とAIが共に理解
- MOCで知識をナビゲート可能に
2. 知識の累積と複利効果
コンテキストが蓄積されることで実現する価値:
- 文書作成やプロジェクトが進むほどコンテキストが豊かに
- 過去の知識が自動的に活用される
- 類似プロジェクトからコンテキストを転用
3. 認知負荷の劇的な削減
人間が管理すべきコンテキストの最小化:
- 共通ルールはCLAUDE.mdに集約
- Claude Codeが能動的に情報を探索・参照
- 人間は基本的に指示を出すだけで良い
4. 人間とAIの真のペアワーク
Human-in-the-Loop(HITL)の実現:
- 人間が知識を整理、AIが能動的に活用
- お互いの強みを活かした役割分担(人間:判断・創造、AI:探索・統合)
- 継続的な作業で両者の理解が深まる相互学習
これがHITL(Human-in-the-Loop)です。AIシステムに人間が積極的に関与し、判断や修正を行うことで、より高品質な成果を生み出すアプローチであり、コンテキストエンジニアリングはまさにこのHITLを体現しています。
9. 導入効果の実例と測定指標
実際の成果
実感している効果:
- 文書作成時間を大幅に削減(感覚として従来の1/2〜1/3程度)
- コンテキストの喪失によるストレスが解消
- 知識が累積的に成長する実感
- AIとのペアワークが自然な作業フローに
10. まとめと次のアクション
コンテキストエンジニアリングの本質
コンテキストエンジニアリングは、AIの能力を最大限に引き出すための新しいアプローチです。体系的なフォルダ構造、MOC(Maps of Content)、そしてCLAUDE.mdを中心としたコンテキスト管理により、AIは単なるツールから知的パートナーへと進化します。
最後に:第二の脳にAIエンジンを搭載する
第1回で構築したZettelkasten × Obsidianの知識基盤。そこにClaude Codeのコンテキストエンジニアリングを加えることで、知識の複利効果が現実のものとなります。
私たちはもう、コンテキストを失うことはありません。過去の知識が埋もれることもありません。
Obsidianのローカルファイルシステムと Claude CodeのAI処理能力が融合し、コンテキストエンジニアリングによってコンテキストが永続化されることで、知識は累積的に成長し、必要な瞬間に最適な形で活用されます。
コンテキストエンジニアリングにより、生成AIが真の意味であなたの第二の脳となるのです。
この記事があなたの業務効率向上のお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025-08-24 - 初版公開
著者について
コンサルティングファームで生成AI・システム導入などのプロジェクトマネジメント支援に従事。「ナレッジワーカーを幸せにする」をミッションに、知識管理と生産性向上の実践手法を発信中。
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