概要
指数(index number)は、時点間で物価や数量がどれくらい変動したかを1つの数値で表す指標です。複数の品目をまとめて扱う場合、単純平均ではなく 加重平均的な指数 を使います。
代表的な価格指数・量指数の構成法として、
- ラスパレイス指数(Laspeyres index)
- パーシェ指数(Paasche index)
- フィッシャー指数(Fisher index)(ラスパレイスとパーシェの幾何平均)
があり、それぞれに特徴(バイアス、重みの取り方)があります。
基本記号・前提
次の記号を使うことが一般的です:
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $p_{0i}$ | 基準時点 (時点0) における品目 $i$ の価格 |
| $q_{0i}$ | 基準時点における品目 $i$ の数量(消費量・取引量など) |
| $p_{ti}$ | 比較時点 (時点 t) における品目 $i$ の価格 |
| $q_{ti}$ | 比較時点における品目 $i$ の数量 |
価格指数(どれだけ価格が変わったか)や数量指数(どれだけ量が変わったか)でこれらの記号を使って定式化します。ここでは主に 価格指数 の形式で説明します。
また、指数は通常 基準時点=100 として表現されます。
1. ラスパレイス指数(Laspeyres index)
定義・数式
ラスパレイス指数は、基準時点の数量を重みとして使い、価格変動を評価します。
(基準時の数量を比較時の価格で買うとしたら、基準時の何倍のお金が必要なのか?)
$$
P_L = \frac{\sum_{i=1}^n p_{ti} , q_{0i}}{\sum_{i=1}^n p_{0i} , q_{0i}} \times 100
$$
- 分子:比較時価格 × 基準時数量(=比較時の価格で基準バスケットを買った場合の支出)
- 分母:基準時価格 × 基準時数量(=基準バスケットを基準時に買った場合の支出)
2. パーシェ指数(Paasche index)
定義・数式
パーシェ指数は、比較時点の数量を重みとして使い、価格変動を評価します。
(比較時の数量を基準時の価格で買うとしたら、比較時の何倍のお金が必要なのか?)
$$
P_P = \frac{\sum_{i=1}^n p_{ti} , q_{ti}}{\sum_{i=1}^n p_{0i} , q_{ti}} \times 100
$$
- 分子:比較時価格 × 比較時数量(=比較時バスケットを比較時に買った場合の支出)
- 分母:基準時価格 × 比較時数量(=比較時バスケットを基準時に買った場合の支出)
3. フィッシャー指数(Fisher index)
定義・数式
フィッシャー指数は、ラスパレイス指数とパーシェ指数の 幾何平均 を取る方式で、「理想指数 (ideal index)」とも呼ばれます。([bellcurve.jp][1])
$$
P_F = \sqrt{P_L \cdot P_P}
$$
つまり、
$$
P_F = \sqrt{ \left( \frac{\sum p_{ti} q_{0i}}{\sum p_{0i} q_{0i}} \right) \cdot \left( \frac{\sum p_{ti} q_{ti}}{\sum p_{0i} q_{ti}} \right) } \times 100
$$
比較まとめとバイアス傾向
| 指数 | 重みの基準 | 傾向/バイアス方向 | 利点・欠点 |
|---|---|---|---|
| ラスパレイス (Laspeyres) | 基準時点の数量(固定) | 価格上昇を過大評価しやすい(上方バイアス) | データ収集が容易、歴史的に標準 |
| パーシェ (Paasche) | 比較時点の数量(可変) | 価格上昇を過小評価しやすい(下方バイアス) | 消費者行動を反映しやすいが煩雑 |
| フィッシャー (Fisher) | ラスパレイスとパーシェの幾何平均 | 両バイアスを相殺、中間的 | 理論的には優れるが実務で使いづらいことも |
なお、一般的には次の不等式関係が成り立ちやすいです:
$$
P_P \le P_F \le P_L
$$
(パーシェ指数 ≤ フィッシャー指数 ≤ ラスパレイス指数) ([statssa.gov.za][3])
例題
ある3品目(A, B, C)がある。基準年 (時点0) と 比較年 (時点 t) の価格・数量データが次の通り:
| 品目 $i$ | $p_{0i}$ | $q_{0i}$ | $p_{ti}$ | $q_{ti}$ |
|---|---|---|---|---|
| A | 100 | 50 | 120 | 60 |
| B | 200 | 20 | 190 | 10 |
| C | 400 | 100 | 500 | 150 |
ラスパレイス指数 $P_L$
$$
P_L = \frac{120 \cdot 50 + 190 \cdot 20 + 500 \cdot 100}{100 \cdot 50 + 200 \cdot 20 + 400 \cdot 100} \times 100 = 122.04 \quad (\text{例として BellCurve の例と一致)}:contentReference[oaicite:8]{index=8}
$$
パーシェ指数 $P_P$
$$
P_P = \frac{120 \cdot 60 + 190 \cdot 10 + 500 \cdot 150}{100 \cdot 60 + 200 \cdot 10 + 400 \cdot 150} \times 100 = 123.68 \quad (\text{例として BellCurve の例)}:contentReference[oaicite:9]{index=9}
$$
フィッシャー指数 $P_F$
$$
P_F = \sqrt{122.04 \times 123.68} \approx 122.86
$$
この例では、$P_P < P_F < P_L$ の関係が成り立っています。